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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 菅内閣総理大臣記者会見(2011年5月18日)

[場所] 
[年月日] 2011年5月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【菅総理冒頭発言】

 5月6日の記者会見の折に、浜岡原発について運転の停止を要請するということを申し上げ、その後、中部電力から受け入れていただきました。この間、国会でもいろいろ議論はありましたけれども、多くの国民の皆様が、国民の安全と安心ということで判断をしたこの要請に対して、御理解をいただいたことを心から感謝いたしたいと思っております。

 また、昨日、東電から、いわゆる工程表の改訂版が発表され、同時に政府としても今後の工程をまとめたものを発表いたしました。この中で、原発、特に1号機に関しては、従来は3分の2程度は燃料棒が水に浸されているという推測でありましたけれども、既に燃料が溶融し、落下しているという、より厳しい見方に変わった中での工程表でありました。

 こうした新しい見方の中で、例えば今後の冷却方法などは、従来考えていた形とは違った形を取らなければなりません。しかし、当初から予定していたステップⅡの完了の時期、4月17日から考えて6か月-9か月、つまりは遅くとも来年の1月中旬という日程は、その日程を守っていくことが可能であるという認識を東電も示されましたし、また政府としてもそうした、遅くとも来年の1月までには原子炉を低温停止させ、そして放射能の放出をほぼなくするということで安定化させていきたい。こうなれば、原子炉周辺の住民の皆さんに対しても、除染あるいはモニタリングをした上で、どの範囲が、どの時期に帰っていただけるかということを申し上げることができるようになると考えております。

 また、原子力行政全般に関して、長年の原子力行政の在り方を根本的に見直さなければなくなると思っております。例えばこの間、日本の原子力行政は、原子力を進めていく立場と、言わばそれをチェックする立場が安全・保安院という形でともに経産省に属しているチェック機関と行政的には原子力行政を進めていくという立場と両方が同じ役所の下に共存していた。こういった独立性の問題。更には、情報の共有あるいは発表の仕方などの問題。更には、省庁間を結ぶリスクマネージメント。こういったものについて、必ずしもしっかりした態勢が取られていなかったと思っております。

 そういった意味で、近くスタートする今回の事故の調査委員会においては、この長年の原子力行政の在り方そのものも十分に検討していただき、その根本的な改革の方向性を見出していきたいと考えております。

 また、昨日は、この大震災前から進めていた基本政策を進める再スタートのための政策推進指針を閣議決定いたしました。今回の大震災については、それ以前の20年近く、財政的にも、あるいは日本の社会全体がやや閉塞感に包まれていた。そういう危機の中で生じた危機という位置づけで、この危機を乗り越えることの中で、そうした20年間に及ぶ日本の低迷からも脱却していく、こういうことを目標としてきたところであります。

 そういった意味で、この間の議論を進めてきた、例えば社会保障と税の一体改革、あるいは新成長戦略、更には包括的経済連携、農業の再生、こういった問題については、昨年の11月に基本方針を決めたわけでありますけれども、その基本方針の考え方は維持しながら、改めて議論を再スタートすることといたしました。

 そして次に、今週末から来週にかけて、一連の外交日程が固まってまいりました。5月21日・22日には、日中韓の首脳が集まります。また、来週にはOECD、G8、あるいは日本とEUとの首脳会談が予定されております。日中韓の首脳の会合では、中国の温家宝首相、そして韓国の李明博大統領が、ともに今回の被災地に入ってお見舞いをしていただけるということになりました。大変にありがたいことだと、このように思っております。そうした中で、この一連の国際会議の中で、多くの国々あるいは国際機関が我が国に提供していただいた支援について、改めてお礼を申し上げなければならないと思っております。そして、そのお礼の気持ちは、一日も早く日本自身が復旧・復興して、改めて世界のリーダー国の一つとして、いろいろな形で国際貢献を通してお返しをすることができるようになることこそが重要だと、このように考えております。

 最後に、この国際会議においても、今後の日本のエネルギー政策について大変関心が高まっております。私は、従来の日本のエネルギー政策が化石燃料と原子力という2本の大きな柱で組み立てていたわけでありますけれども、それに加えて自然エネルギーと省エネルギーという2本の柱を加えていく必要があると、このように考えております。原子力エネルギーについては、今回の事故を踏まえて徹底的に安全性を高める。そのために何をなすべきかを検討していかなければなりません。同時に、新たに加わる自然エネルギーと省エネというのは、ある意味では世界をリードする、そういうイノベーションにもつながる分野でありまして、そのことを通して、我が国が環境エネルギーの先進国としての、リーダーとしての役割も果たせるようにしていきたいと考えております。

 この国会には、再生可能エネルギーの、いわゆる太陽エネルギーや風力エネルギーを全量固定価格で買い取る全量固定価格買取法案が提出をされております。是非とも、この法律案の成立を一つの、この自然エネルギーに国としても全力を挙げて支援していく大きな役割を期待したいと、このように考えているところであります。こうした形で、我が国を環境エネルギーの先進国のまさにリーダーとして活躍できるように、復旧や復興とも連動する形で進めてまいりたいと、このように思っております。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、質疑に移ります。質問者は私の方から指名させていただきますが、まず所属とお名前をおっしゃってからお願いいたします。

 それでは、山口さん、どうぞ。

(記者)

 NHKの山口です。

 総理からエネルギー政策の話がありましたが、前回の会見で、白紙でエネルギー政策を見直すという言葉がありましたが、原発推進国の中にはその真意をいぶかる声もあると思います。そのエネルギー政策をどういう時間軸で、どうやってミックスしてやっていこうというふうにお考えになっているのか。G8でどういう考えを表明なされるのか、お聞かせください。

(菅総理)

 私が申し上げたのは、現在3年おきに決められているエネルギー基本計画、現在のものは昨年決められているわけですが、このエネルギー基本計画の白紙からの見直しが必要であるということを国会でも申し上げてまいりました。

 現在のエネルギー基本計画では、2020年までに原子力エネルギーを電力の中で53%程度、再生エネルギーを20%程度という方向性が出されております。こういった形が今回の事故を通して可能であるか、ないか。あるいはそういう方向に進むべきか。もっと、例えば自然エネルギーなどは力を注ぐべきか。そういうことを含めて、エネルギー基本計画を白紙から見直す必要があるだろうということを申し上げてまいりました。

 その方向性については、今、私自身がお話をしたところでありますけれども、風力や太陽、あるいはバイオマス、こういったものを中心とした自然エネルギーを推進する。更には化石燃料などの利用の仕方においても、省エネという形でCO2を削減することも多くの技術があります。そういうものを積極的に進めていく。

 そして、勿論、そのプロセスの中では化石燃料も相当程度のウェートになりますし、原子力については安全性を一層高める中での活用を考えていく必要があるだろうと、このように考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 相本さん、どうぞ。

(記者)

 西日本新聞の相本です。

 先ほど述べられました原子力行政の根本的見直しに関連してお尋ねします。

 総理が言われたとおり、浜岡停止の決断については世論は好意的に見ておりますが、一方で原発事故対応全体の評価というのは依然厳しいものがあると思います。背景にあるものとして、政府が計画を立てて、民間企業が経営するという国策民営の原発の形態が責任の所在をあいまいにしているのではないかという指摘もあると思います。

 また、最近では、東京電力の発電、送電の分離論、かつて電力自由化の議論のときに出ましたが、そういった発言も閣僚から出ておりますが、今後、エネルギー政策の見直しを進める中で、こうした原発のような在り方とか、全国の電力会社の経営形態についてどの程度切り込む、あるいは総理が現時点でどういう問題意識をお持ちなのかという点をお聞かせください。

(菅総理)

 まずは現在の原発事故の収束を図る中で、事故の徹底的な調査、そしてその原因の解明を図らなければなりません。その場合に、先ほども申し上げましたように、あるいは従来から申し上げておりますように、狭い意味での技術的な問題だけではなくて、ある意味での原子力行政全体の在り方、あるいは今も御指摘のあったいろいろな電力供給の在り方、国によっていろいろな形態があります。日本でも通信事業でも似たような議論がある中で、いわゆる地域独占ではない形の通信事業が現在、生まれております。そういった在り方も含めて、議論する段階は来るであろうと思っております。

 そういった意味では、今いろいろな御指摘がありましたけれども、まずは調査委員会における検討を行う中で、今後のことについてその中から議論すべきことはしっかりと議論していきたいと思っております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 田中さん、どうぞ。

(記者)

 毎日新聞の田中です。

 原子力政策について2点伺います。まず、総理は昨日、共産党の志位委員長とお会いになられて、核燃料サイクルの見直しについて御説明されたようですけれども、現在、総理は核燃料サイクルについてどういう見解をお持ちかお聞かせいただきたいということ。それと、定期検査中の原発について、今、数十機が定期検査中で停止中です。再稼働はなかなかできない、再稼働は延期されている原発もかなりある状況です。これから更に定期検査に入っていく原発もありますけれども、総理としては再稼働を促進するのか、あるいは再稼働は慎重にするべきと考えてらっしゃるか、以上2点、お願いします。

(菅総理)

 まず、昨日の志位共産党委員長との会談において私が申し上げたのは、エネルギー基本計画を白紙から見直すという国会でも申し上げていることについて同じ趣旨のことを申し上げたところであります。

 志位委員長もそういう認識でおられると思います。赤旗などを見るとそういう趣旨で書かれておりますので。何か私が使用済み燃料のことを併せて言ったことで、個別の核燃料サイクルについて白紙で見直すというような一部報道もありますけれども、それは間違っております。私が申し上げたのは、あくまでエネルギー基本計画。これには勿論、御承知のように、化石エネルギー、原子力エネルギー、自然エネルギー含めた、そのトータルの計画の見直しということを申し上げたというのが趣旨であります。

 それから、定期点検などで止まっている原子力発電所についての問いでありますけれども、現在、各電力会社に対して、緊急の安全措置をしっかりと準備するように申し上げております。そういったものがきちんとなされたものについて、今後は多少時間が経った中では新たな基準などの問題も生じるかもしれませんが、少なくとも現時点で申し上げられることは、そうした緊急的な安全措置もしっかりと講じられたものについては、従来の方針に沿って安全性が確認されれば稼働を認めていくことになると考えております。

(内閣広報官)

 それでは、外国のプレスの方。

 それでは李さん、どうぞ。

(記者)

 香港フェニックステレビの李と申します。

 日中韓サミットに関してお聞きします。日中関係は昨年以降冷え込んでいるように見受けられますけれども、今回のサミットを通して日中関係に日本側としてどのような成果を期待されているのか、そして温家宝総理が福島に訪問するといった御意向があるようなんですけれども、日本側の提案だったというふうに報道されておりますが、日本側が今回の訪問でどのようなメッセージを国際社会にお伝えしたいのか教えてください。

(菅総理)

 日中韓の3か国の首脳会談が行われるわけですけれども、日中について昨年、やや難しい場面もありました。しかし、今回の大震災においては、中国からいち早くお見舞いや支援の要請、更には胡錦濤主席御本人が北京の日本大使館に来て記帳をいただくなど、本当に心のこもった対応をしていただきました。そして、今回の温家宝首相の訪日においても、そうした被災地に入ってお見舞いをしていただけると、私は本当にこの日中間、日韓間も勿論ですが、絆が深まった、あるいはもっと絆が深まる。本当にそういう形につながっていくだろうと思っております。そういった意味で感謝を申し上げると同時に、これからの日中関係がよりよいものになっていく大きなステップであると認識いたしております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 岩上さん、どうぞ。

(記者)

 フリーの岩上です。

 原子力政策について2点お聞きしたいと思います。原子力を見直すということを触れられましたけれども、これを維持するのか、縮小するのか、それとも根本的に廃絶するのか、大変大きな岐路になるのではないかと思います。総理の真意はどこにあるのか、その点をお聞かせいただきたいと思います。

 また、総理は先ほど全量買取制度について触れられましたけれども、これを生かしていくためには、送電網をやはり分離することがどうしても必要になるのではないか。送電網というものはニュートラルなものにするべきではないのか。東電の賠償責任を問うためにも資産を保全し、送電網は担保としてとるということも考えられると思います。発送電の分離についてもお伺いしたいと思います。

 以上2点、よろしくお願いします。

(菅総理)

 原子力に関して、今回の事故が勿論我が国にとってもある意味では非常に重大な事故であり、いわゆる想定を超えた事故であったということは、これは言うまでもありません。それだけに深刻な形で、どこにこれが止められなかったのかといった反省あるいは見直しは必要だと思っております。

 そういう中で原子力のより安全な活用の仕方を生み出して、そして、そういう方向性がきちんと見出せるならば、当然のことでありますけれども、原子力を更に活用していく。いずれにいたしましても、まずは徹底した検証が必要だ。そこからすべてがスタートをすると考えております。

 それから、全量買取制に関連して送電や発電の分離といった御指摘でありますが、これも今回の事故ということだけではなくて、自然エネルギーというのはどちらかと言えば大規模な発電所は難しい技術でありまして、いわゆる地域分散型の発電ということになるわけであります。

 その場合に従来は大きな発電所を持っている電力会社自身が、自分のそうした大きな発電所に合わせた形の配電システムをつくってこられたわけでありますけれども、そういう自然エネルギーを大きな割合を受け入れるときに、どういう態勢が必要になるのか、またはあるべきなのか。そういうことについては現時点、いわゆる事故の調査といった時点でそこまで踏み込むことは難しいわけですけれども、今後のエネルギーの在り方、まさにエネルギー基本計画などを考える中では、当然そういうことについても議論が及んでいくことになるだろう、またはそうすべきだと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の方。

 犬童さん、どうぞ。

(記者)

 日本経済新聞の犬童です。

 原発事故の損害賠償の枠組みが決まりましたけれども、これに関連する法案をどのように処理するのかということが、官房長官はかなり難しい法案になるということで、今国会の提出は難しいという認識を示されておりますが、総理としては今国会はどのようにこの法案を出すのか出さないのか、あるいは出した場合は会期延長してでも通さなければいけないと思っていらっしゃるのか、その辺の御見解を少しお伺いできればと思います。

(菅総理)

 まず賠償については法案が成立するしないにかかわらず、迅速かつ万全に賠償が進められるよう、政府としても責任を持っていかなければならない、いきたいと考えております。

 そういうことを前提として、どういう形の法案がいつまでに必要になるのか。また、それの成立の見通しなども含めて現在検討している状況です。

(記者)

 今国会にこだわるという話がありますけれども。

(菅総理)

 今、言いましたように、法律の成立いかんにかかわらず、賠償そのものはきちんと進めますが、勿論この法律の在り方については先日も参考人で来られた東電の社長も、早い成立を願うという見解を述べておられました。そういういろんな意見を含めて検討しているところです。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問。

 青山さん、どうぞ。

(記者)

 日本テレビの青山です。

 さきの国会答弁で菅総理は2次補正について拙速は避けるべきだと言って、8月下旬以降の提出を示唆されましたけれども、野党側は復旧費用もまだ不足しているとして2次補正の早期提出を求めています。この辺についてどのように考えているのか。

 それと併せて、この通常国会を会期で閉じること、もしくは少しの延長で閉じることについて、やはり野党側は批判を封じるためだということを言っておりますけれども、やはりこのような事態が続いている中で、通常国会を大幅延長する考えはどのように今考えてらっしゃるのか、その辺をお伺いしたいと思います。

(菅総理)

 まずは5月2日に成立した4兆円を超える第1次補正の中で、がれきの処理とか仮設住宅とか、あるいはライフラインの復旧などの事業をしっかりと迅速に進めていくことが、まず重要であると考えております。

 その上で、更にどういうことにさらなる費用がかかるのか、現在、復興構想会議でも本格的な復興の、ある意味での青写真を議論いただいております。私は、本当に急ぐものがいろいろと提案をされてきた場合には、それはそれで現在の第1次補正で、もし不十分だとすれば考えなければなりません。つまりは、その中身によって、今の1次補正でできるものか、あるいは予備費等で対応できるものか。いやいや、もうそれでは不十分だというものなのか。そういうことも含めて、しっかり検討してまいりたい。決して何か別の目的で、このことを考えているわけではありません。

 会期の問題についても、最終的には国会が決めていただくわけですけれども、私どもとして現時点で、まだ幾つかの重要な法案が残っておりますので、現時点で会期をどうするということの結論を出しているわけではありません。

(内閣広報官)

 それでは、時間が来ておりますので、最後の質問とさせていただきます。

 山下さん、どうぞ。

(記者)

 北海道新聞の山下です。

 総理、先ほど冒頭で、政策推進指針の閣議決定のことに触れられましたけれども、その中にTPPに6月に参加することの是非を判断するということを先送りすることが盛り込まれていると思います。そもそも6月にしたのは、その月までに判断しなければ間に合わないということがあったと思うんですけれども、震災を受けて、農業がこれだけ被害を受けている中で参加の判断ができるのかという状況にもあると思います。

 最終的には11月までに日本として判断すればいいんだと思うんですけれども、総理として震災前と現在とで、TPPへの参加問題にかける意欲とか可能性に変化があったのか、なかったのか、その辺をお聞かせください。

(菅総理)

 先ほども申し上げましたように、昨年11月に閣議決定した基本方針そのものは、その方向性を変えるということではありません。方向性は変えないで維持していくということであります。

 ただ、この大震災において、例えばその間、農林漁業の再生といった議論が一時中断していることも事実でありますし、また今回の大震災で特に被害を受けられた農業、漁業関係者も多い中で、そういう復旧・復興と、この大きな農業再生、農林漁業再生ということがきちっとつながる形になっていかなければならない。こういう要素もおっしゃるようにあります。

 そういう意味で、今回の改めて再スタートとした指針の中では、若干の留保を置きましたけれども、基本的な姿勢は変えないで進めていくということで考えているところであります。

(内閣広報官)

 それでは、これをもちまして、総理会見を終わります。どうも御協力ありがとうございました。