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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 菅内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2010年8月10日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【菅総理冒頭発言】

 私にとっては、総理大臣就任後初めての予算委員会を含む臨時国会が終了いたしました。この臨時国会の終了を機会に、改めてこれからの私の政権運営の考え方について、国民の皆さんにお伝えしたいと思いまして、この記者会見を開かせていただきました。

 私は今回のこの臨時国会で、新しい民主主義あるいは新しい議会制民主主義の可能性を感じております。つまり従来の長い間の55年体制というのは、官僚任せであったり、あるいは族議員中心の政治であったわけですけれども、これからは議会の場で闊達に議論する中から結論を得ていく、そしてその背景には、国民のいろいろな意見を反映したこの民主主義制度、私の言葉で言えば参加型の民主主義というものが、ある意味でこのねじれ国会という天の配剤の中で誕生しつつあるのではないか。そういう期待を感じることができました。そういった意味で、私たちは国民の生活が第一、そして元気な日本を復活させるという目標を、この国会の議論を通して国民的な議論の中からその方向性を定めていきたいと改めて感じたところであります。

 また、国会終了とほぼ同時に、広島・長崎の原爆投下から65年の式典に出席をいたしました。それぞれ潘基文国連事務総長やアメリカのルース大使など、多くの国々から、核保有国を含む国々から代表が参加をいただきました。このことも私は大変、ある意味での世界の核廃絶に向けての大きな動きが、この広島・長崎を通して更に前進したと感じたところであります。

 また本日は、日韓併合から100年という年を迎えて、私の談話を発表いたしました。李明博大統領とも電話会談をする中で、真心のこもった談話だということで大変評価もいただきました。これから100年の日韓関係がしっかりと未来に向かって発展するように、そしてそのことがこの東北アジアの安定、更には世界の平和につながるようにという思いを一致することができたと思っております。そういった形で、これからの政権運営については、本当に国民の皆さんの声を議会の場で大いに議論し、また国際社会の中でもそうした核廃絶という大きな目標に向かって、お互いに行動を共にしていく仲間を増やしていく、そういう方向に向けて頑張ってまいりたい。このことをこの会見の冒頭に国民の皆さんにお伝えしたいと思いました。

 よろしくお願い申し上げます。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、質問を受けたいと思います。質問者は私の方から指名いたしますので、指名をされた方は、まず所属とお名前を名乗っていただいてから質問を行ってください。質問は、簡潔にお願いしたいと思います。

 それでは、質問のある方、挙手を願います。では、松山さん。

(記者)

 時事通信の松山です。よろしくお願いします。国会対応についてお伺いしたいんですが、先ほど総理のおっしゃった先の臨時国会、参院選で与党が敗北しまして、ねじれ国会になって、初めての国会になりましたが、野党との論戦の中で、重要法案の成立に向けた野党との協力について、その可能性について、どのような感触を得られたのかというのが1点。

 それから、先の記者会見で、総理は98年の金融国会のときに、自民党の小渕総理が民主党提出の法案を丸のみすることによって成立させたと、その意味を強調されましたが、総理御自身、例えば子ども手当の支給継続などの重要政策を実現するために、野党の案を丸のみするという可能性も視野に入れていらっしゃるのでしょうか。

(菅総理)

 まず、この衆参それぞれ2日間の予算委員会を通しまして、野党の皆さんのいろいろな質疑については、私は全体としては非常に建設的な議論が多かったと思っております。

 勿論、参議院選挙後初めての国会でありますから、参議院選挙での主張などを含めて、いろいろと論戦があったわけですけれども、その中でも既に与野党が合意をして病院の問題などでは法案が成立いたしましたし、また、いわゆる歳費の返納の法案なども成立いたしました。短い国会ではありましたけれども、しっかり議論をして、合意をすれば、物事がきちんと決まっていくという1つの事例が既に進み始めたと、このように思っております。

 これから、次の臨時国会あるいは更には来年の通常国会ということを展望する中では、具体的な課題について、今からこの法案がどうとかいうのは少し早いと思いますけれども、私は必ずそうした丁寧な、しっかりした議論を与党もそうした姿勢で臨むことによって、国会での国民のための政策実現につながる法案は合意ができるという感触を強く受けました。

 今、1998年当時の金融国会についても御質問がありましたけれども、それは私が経験した1つの出来事を申し上げたわけですけれども、そのことも含めて、私は十分に議論を通して建設的な結論が生まれてくると、また、こなければならないと、その責任を与野党を超えて国会議員が感じているという実感を持ったところです。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。では、藤田さん。

(記者)

 日本経済新聞の藤田です。先ほどお話がありました、本日閣議決定された日韓併合100年に際しての首相談話についてお聞きしたいと思います。

 野党からは日韓基本条約の際に既に法的に合意している請求権問題や個人補償問題の波及を懸念する声も出ていますが、そうした声に対して、総理はどのように御説明するお考えなのか。

 それから、先ほどお話になりました韓国の李明博大統領との電話会談の中身について、もう少し詳しく教えていただけませんか。

 もう一つ、戦略的な視点から、今回の談話をどのような政策課題や日韓関係あるいはアジア諸国に対して、こうした形で生かしていこうと、そういう戦略的なねらいがあれば、御説明をお願いします。

(菅総理)

 今回の談話については、日韓併合100年という節目であります。逆に言えば、これまでの100年の中で、反省すべきところはきちんと反省をする。そして、これからの100年に向かって、共に協力をして歩んでいこう。そういう気持ちを込めて談話を作成いたしました。

 それに対して、李明博大統領も、その真心を受け止めたいと評価をしていただきました。大統領からも、これからの日本と韓国の関係、私の方からも申し上げましたが、民主主義、自由、そして、市場経済という、同じ価値観を持った隣国が協力することによって、この東アジアの、更には世界の平和と安定に寄与することができる。こういう電話会談での話もいただいたところです。

 そういった意味で、戦略という言葉を使われましたけれども、今、世界の大きな激動期とも言える状況にあります。アジアの経済は大変な勢いで伸びている中で、この地域についてのより安定した形が日韓を軸に、更にはアメリカを加えて、日韓米の3か国によって形成される。このことは極めて大きな意味があると思っております。そういったことも展望しながら、今回の談話を発表させていただいたわけであります。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。こちらのサイドで、それでは、青山さん。

(記者)

 総理、来月の14日に民主党代表選が既に予定されておりますけれども、小沢前幹事長を含めた挙党態勢をつくるべきだという声が民主党内にあります。それを踏まえて、菅総理は小沢前幹事長に協力を要請するお考えがあるのか。また、その挙党態勢を求める声に応えるお気持ちが現段階であるのかどうか、お答えください。

(菅総理)

 今日の記者会見は、総理大臣として臨時国会が終わった中での会見ということであります。代表選については、また改めて、適当な場で私の考え方、あるいは党運営の考え方は申し上げたいと思いますので、今日は総理大臣としての会見ということで、そういった代表選についてはコメントを差し控えたいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を、向こうの奥の外国プレスのキムさん。

(記者)

 韓国中央日報のキムと申します。

 総理は談話で、植民地支配は当時の韓国の人々の意に反してという表現を使われましたけれども、先月、ちょうど韓国と日本の有識者1,000人の共同声明を見ますと、同じく併合条約は大韓国民の意思に反して強制されたものであって、根本的に無効であるという主張をしております。今回、談話で総理は、韓国国民の意に反してということを認めたわけなんですけれども、この条約は無効であるということについての認識はどうでしょうか。

 そして、文化財のことなんですけれども、今回、返還という表現ではなくて、あえてお渡しという表現を使った理由。そして、このお渡しの対象となるというものが、ただ朝鮮王室儀軌だけなのか。ほかに、今、宮内庁に所蔵されている朝鮮王朝の図書も含まれるのか。その辺を聞かせてください。

(菅総理)

 この日韓併合条約につきましては、1965年の日韓基本条約において、その考え方を確認いたしておりまして、その考え方を踏襲してまいったつもりであります。また、宮内庁に保存されていたいろいろな朝鮮王朝時代からの資料について、これをお渡しするということで韓国国民の皆さんの希望に応えることといたしました。

 先ほどの請求権等の言葉も出ましたけれども、そうした法律的な形のものは、もう既に完全に解決済みという立場の中で、お渡しをするという表現を使わせていただきました。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。そちら側の方。

 では、平田さん。

(記者)

 毎日新聞の平田と申します。今回、民主党政権になって最初の終戦記念日を迎えるということで、その前に日韓併合の談話を発表されて、閣僚の皆さんも全員靖国に参拝されないような話をされておられます。この辺について菅総理の思い、考え方というのを御説明いただけないでしょうか。

 併せて、長妻大臣が国立の追悼施設の検討が必要だという認識を今日示されていますが、この点について、歴史の問題に区切りを付けようというような思いを政権としてもお持ちなんでしょうか。

(菅総理)

 私は総理在任中に靖国神社にお参りをすることはしないということを就任のときにも申し上げたところです。戦後65年経つ中で、この問題での長い議論がありますけれども、それをこの場で繰り返すことはいたしません。私の姿勢として明確な姿勢を最初からお示しをしておりますし、そういう姿勢について御理解をいただけるものと思っております。

(内閣広報官)

 次の質問。では、そちらの山口さん。

(記者)

 NHKの山口です。代表選挙について今回言及はされないということなんですけれども、総理としていつぐらいに代表選挙に向けた姿勢を表明するのかということと、総理を支持している前原さんは総理に今一度ビジョンをつくって発表してもらいたいということを言っているんですけれども、そういうお考えというのはあるのでしょうか。

(菅総理)

 この記者会見それ自体がこれからどのような姿勢で政権運営に臨むか、そういったことについてもお答えし、国民の皆さんに伝える。そういうことにはつながっていると思います。

 ただ、先ほど申し上げましたように、代表選そのものについての考え方は、また時期を改めて申し上げたいので、直接それに関わることについては、今日はコメントを控えたいと思います。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。

 では、岩上さん。

(記者)

 フリーランスの岩上と申します。菅総理が就任された最初の記者会見で、官房機密費の使途に関して御質問させていただきました。そのとき総理は、この機密費は本来の目的から外れて、政治家あるいは報道機関等に流れていった、使われていったという問題については、調査、公表する気持ちはあるのかということに関して、仙谷官房長官に一任するとお答になりました。その後、この問題に関して取り立てて進展があるようには思われませんが、現時点での進捗具合についてお考えを改めてお聞かせいただきたいと同時に、仙谷官房長官の記者会見並びに閣僚の記者会見が今後オープン化される御予定はあるのかどうか、この点についても御見解をお示しいただきたいと思います。

(菅総理)

 その時点で申し上げた考えと特に変わってはおりません。官房機密費について官房長官の方にいろいろな判断を含めてお願いをいたしておりますので、そういう姿勢で臨んでまいりたいと思っております。

(内閣広報官)

 次の質問を受けたいと思います。

 どうぞ。

(記者)

 中国新聞の荒木と申します。総理は昨日、長崎市での平和祈念式典で、非核三原則の法制化について、私なりに検討したいとおっしゃいました。ただ、仙谷官房長官は6日の記者会見で、内外に既に十分周知徹底されており、法制化する必要はないとの考えを示しておられます。今後政府としては、法制化の可能性を検討していくと理解してよいのでしょうか。見解をお願いします。

(菅総理)

 長崎の会でも御質問をいただきましたので、私は必ずしもこの間のそうした議論の経緯を、細かいところまでは認識をしていないところもありますので、私なりにこれまでの議論を検討した中で、考えたいという趣旨のことを申し上げました。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。

 西山さん。

(記者)

 朝日新聞の西山です。よろしくお願いします。マニフェストに関してお伺いします。国会の議論の中でも野党から、民主党が09年の総選挙で掲げたマニフェストは、なかなか実行が不可能ではないかという声も出ていました。厳しい財政事情を考えれば、09年のマニフェストにこだわる必要はないのではないかという声も党内にあると思いますが、今後もこの09年のマニフェストは堅持されるのか。それとも厳しい財政事情を考慮すれば、一定の変更はやむを得ないとお考えなのか、その辺をお聞かせ願いたいと思います。

(菅総理)

 09年のマニフェストというのは、まさに政権交代を目指して戦った衆議院選挙のマニフェストでありまして、私は極めて重要な意味を、そのときは勿論、現在でも持っていると考えております。

 例えば官僚主導の政治からの脱却という考え方については、細々とは申し上げませんが、事務次官会議の廃止とか、政務三役のチームをつくって各省庁を指導するとか、非常に大きなこのマニフェストに沿っての政治の在り方が変わってきたということは、多分多くの皆さんにも認識といいましょうか、感じていただいていると思います。

 そういう中で、子ども手当の問題あるいは農家の戸別所得補償の問題などなど、初年度としてすべてとはいいませんけれども、マニフェストに盛り込んだ相当の政策課題を着手し、前進させたと認識をいたしております。

 今後について、その中で誠実に実行できるものは更に実行していきたい。しかし、今年度でも、例えばガソリン税の暫定税率などについては、必ずしもお約束どおり実行できなかった。今後についても、いろいろな制約の中で実行が難しいもの、修正が必要になるものについては、きちんと国民の皆さんにその理由を説明し、御理解をいただくという努力を含めて、誠実な対応を取っていきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けたいと思います。

 一番向こうの山下さん。

(記者)

 北海道新聞の山下です。世論動向についてお聞きします。報道各社の世論調査では、参院選後に内閣支持率が軒並みに下落しましたけれども、一方で、総理の続投を求める声が過半数を超えるというねじれ現象が起きています。こうした世論について、総理はどのように分析されていますでしょうか。また、9月の代表選に向けて、民主党内から総理の続投を支持する声が上がっていますけれども、支持理由としては総理を短期間に次々と代えるのはよくないというような消極的なものが多いようにも見受けられます。

 政権運営の立場から、こういう党内の空気をどう分析されて、どう対応されていくか、その辺をお聞かせください。

(菅総理)

 私が総理に就任したのは、6月8日でありまして、その意味では2か月がやっと経過をしたところであります。その中で、参議院選挙もありましたし、またサミットなどもありまして、そういうある意味で多忙な中でこの政権運営に当たってまいりました。

 ようやくにして、この臨時国会での予算委員会の質疑、更にはその前後に本格的な予算編成の作業などに着手をいたしました。

 私は国民の皆さんから、最初の段階でいろんな見方があったと思いますが、ようやく菅政権の運営の具体的な活動が見える形になってきたのではないかと、そういう国民の皆さんに見えてきた内閣、あるいは私の活動について、それぞれいろんな評価をいただいていると、このように認識しています。

(内閣広報官)

 それでは、質問をまた受けたいと思いますが、では、七尾さん。

(記者)

 ニコニコ動画の七尾です。視聴者の質問を代読いたします。内閣府が7日、国民生活に関する世論調査を発表いたしました。この中で、トップの社会保障整備に並びまして、景気対策を望む声が過去最高の69.3%に達しました。総理が進めようとされている、あるいは進められている政策の方向性と、この国民意識との関連性について、どのようにとらえていらっしゃいますでしょうか。

(菅総理)

 これは、この参議院選挙のときにも、強い経済、強い財政、強い社会保障という表現をし、予算委員会では少し表現を変えて、経済成長改革、そして財政健全化改革、そして社会保障改革、この3つの改革を一体的に前進させていくと、このことを申し上げました。

 そういう中で、景気対策というのは、短期的なものだけではなくて、中長期的に経済成長につなげていく、こういうまさに最大の課題の1つでありますので、そういう認識は、国民の皆さんの認識と、私たちの内閣の認識は一致をしていると思っています。

(内閣広報官)

 予定の時間が迫ってきておりますので、最後の質問を受けたいと思います。

 では、真ん中の松田さん。

(記者)

 毎日新聞の松田です。今回、発表された首相の談話を読みまして、日韓関係というのは大きく変わってきていると思うんです。一番遅れているのが政治であって、実は大衆文化、人的な交流、観光、こうしたものはすべて進んでいるのに政治がいつも遅れてきている。だから、もっと政治が遅れないためには、もう少し戦略的な日韓関係というのを政治レベルでつくってくる。そうすると、こういうふうな節目節目でこういう談話を出すだけではなくて、もっと前向きな話が出てくると思うんですけれども、その点はどういうふうにお考えですか。前向きに日韓関係を進めていくには、どうしたらいいとお考えですか。

(菅総理)

 私は、政治の関係においても、大きな変化が特にこの近年進んできていると認識しています。特に李明博大統領は、大変前向きな姿勢で日韓関係をずっと取組んでといいましょうか、一貫してそういう姿勢でおられますし、また我が国も今お話がありましたけれども、文化的な面あるいは人の交流などが確実に政治にも反映して、日本と韓国が協力をすることがより大きな、両国にとってプラスになるという認識は国民の皆さんが先だったかもしれませんが、政治においてもその認識は強まっていると思います。

 それに加えて、さきの韓国哨戒艦の沈没事件などでも、我が国として、私もG8の席あるいは国連の場でしっかりと韓国の立場について、私どもも同じ認識で対応したことも含めて、両国関係は政治の分野でも着実にいい形が積み上がってきている。今回の談話がそういうものをより確実にし、将来に向かっての、まさに新しい前進につなげていくことになってほしいと思っております。

(内閣広報官)

 予定の時間が参りました。それでは、これをもちまして記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました。