データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 菅内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2010年6月8日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【菅総理冒頭発言】

 今夕、天皇陛下の親任をいただいた後、正式に内閣総理大臣に就任することになりました、菅直人でございます。国民の皆さんに就任に当たって、私の基本的な考え方を申し上げたいと思います。

 私は、政治の役割というのは、国民が不幸になる要素、あるいは世界の人々が不幸になる要素をいかに少なくしていくのか、最小不幸の社会をつくることにあると考えております。勿論、大きな幸福を求めることが重要でありますが、それは、例えば恋愛とか、あるいは自分の好きな絵を描くとか、そういうところにはあまり政治が関与すべきではなくて、逆に貧困、あるいは戦争、そういったことをなくすることにこそ政治が力を尽くすべきだと、このように考えているからであります。

 そして、今、この日本という国の置かれた状況はどうでしょうか。私が育った昭和20年代、30年代は、ものはなかったけれども、新しいいろいろなものが生まれてきて、まさに希望に燃えた時代でありました。しかし、バブルが崩壊してからのこの20年間というのは、経済的にも低迷し、3万人を超える自殺者が毎年続くという、社会の閉塞感も強まって、そのことが今、日本の置かれた大きな、何か全体に押しつぶされるような、そういう時代を迎えているのではないでしょうか。

 私は、このような日本を根本から立て直して、もっと元気のいい国にしていきたい、世界に対してももっと多くの若者が羽ばたいていくような、そういう国にしていきたいと考えております。

 その一つは、まさに日本の経済の立て直し、財政の立て直し、社会保障の立て直し、つまりは強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現をすることであります。

 今、成長戦略の最終的なとりまとめを行っておりますけれども、日本という国は大きなチャンスを目の前にして、それにきちっとした対応ができなかった、このように思っております。

 例えば、鳩山前総理が提起された地球温暖化防止のための25%という目標は、まさに日本がこうした省エネ技術によって、世界の中に新しい技術や商品を提供して、大きな成長のチャンスであるにもかかわらず、立ち遅れてきております。

 また、アジアの中で、歴史の中で、最も大きな成長の時期を迎えているにもかかわらず、先日も中国に行ってみましたら、いろんな仕事があるけれども、日本の企業はヨーロッパの企業の下請けしかなかなか仕事が取れない、一体どんなことになったのか。つまりは、この20年間の政治のリーダーシップのなさが、こうしたことを生み出したと、このように思っております。

 成長戦略の中で、グリーンイノベーション、そしてライフイノベーション、そしてアジアの成長というものを、私たちはそれに技術や、あるいは資本や、いろいろな形で関与することで我が国の成長にもつなげていく、こういったことを柱にした新成長戦略、これに基づいて財政配分を行いたいと考えております。

 また、日本の財政状況がこれまで悪くなった原因は、端的に言えば、この20年間、税金が上げられないから、借金で賄おうとして、大きな借金を繰り返して、効果の薄い公共事業、例えば百に近い飛行場をつくりながら、まともなハブ空港が1つもない、これに象徴されるような効果の薄い公共事業にお金につぎ込み、また、一方で、社会保障の費用がだんだんと高まってきた、これが今の大きな財政赤字の蓄積の構造的な原因である。私は、財政が弱いということは、思い切った活動ができないわけでありますから、この財政の立て直しも、まさに経済を成長させる上の必須の要件だと考えております。

 そして、社会保障についても、従来は社会保障というと、何か負担、負担という形で、経済の成長の足を引っ張るんではないか、こういう考え方が主流でありました。しかし、そうでしょうか。スウェーデンなどの多くの国では、社会保障を充実させることの中に、雇用を生み出し、そして、若い人たちも安心して勉強や研究に励むことができる。まさに社会保障の多くの分野は、経済を成長させる分野でもある、こういう観点に立てば、この3つの経済成長と財政と、そして社会保障を一体として、強くしていくという道は必ず開けるものと考えております。

 国際的な問題についても触れたいと思います。日本は戦後60年間、日米同盟を基軸として外交を進めてまいりました。その原則は、今も原則としてしっかりとそうした姿勢を続けていく必要があると考えております。

 それと同時に、アジアにある日本として、アジアの諸国との関係をより深め、更にヨーロッパやあるいはアフリカやあるいは南米といった世界の国々とも連携を深めていく、このことが必要だと思っております。

 普天間の問題で、日米関係を含めて、いろいろと国内の問題も含めて、国民の皆さんに御心配をおかけいたしました。日米の間の合意はでき、それに基づいて進めなければならないと思っておりますが、同時に、閣議決定においても述べられました、沖縄の負担の軽減ということも真摯に全力を挙げて取り組んでいかなければならないと考えております。

 大変困難な課題でありますけれども、私もしっかりと1つの方向性を持って、この問題に取り組んでまいりたいと、このように思っているところであります。

 そして、私、総理大臣としての仕事は何なのか、この間、テレビなどを少し見ますと、私が任命をした閣僚や党の新しい役員がそれぞれマスコミの皆さんの取材を受けて、いろいろな発言をしているわけです。

 どうですか、皆さん。そういう私よりも10歳、20歳若い、そういう民主党の閣僚や党役員の顔を見て、声を聞いて、こんな若手が民主党にはいて、なかなかしっかりしたことを言うではないか、なかなかこれならやってくれそうではないか、そういうふうに思っていただけたんじゃないでしょうか。

私は鳩山さんとともに1996年に旧民主党をつくり、98年に新たな民主党初代の代表となりました。その後、小沢前幹事長の率いる自由党と合併をして、今の民主党になったわけでありますけれども、そこにそうした人材が集まってきたこと。私はそのことがうれしいと同時に、自信を持って、今申し上げたような日本の改革を推し進めることができる、このように思っております。

 そして、この多くの民主党に集ってきた皆さんは、私も普通のサラリーマンの息子でありますけれども、多くはサラリーマンやあるいは自営業者の息子で、まさにそうした普通の家庭に育った若者が志を持ち、そして、努力をし、そうすれば政治の世界でもしっかりと活躍できる。これこそが、まさに本来の民主主義の在り方ではないでしょうか。

 その皆さんとともに、このような課題を取り組んでいく上で、私の仕事は一つの方向性をきっちりと明示をし、そして、内閣あるいは党を、その方向で議論するところは徹底的に議論して、みんなが納得した上で、その方向にすべての人の力を結集していく。そのことが私の仕事だと考えております。

 総理になったからには、もうあまり個人的な時間は取れない。本当なら53番札所まで来ているお遍路も続けたいところでありますけれども、いましばらくはそれをまさに後に延ばしても、ある意味では官邸を中心に、これこそが修行の場だ、そういう覚悟で、日本という国のため、更には世界のために私のあらん限りの力を尽くして、よい日本をよい世界をつくるために全力を挙げることを国民の皆さんにお約束をいたしまして、私からの国民の皆さんへのメッセージとさせていただきます。

 よろしくお願い申し上げます。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、質疑に移ります。私の方から指名いたしますので、指名されたら、まず所属と名前を名乗ってから質問を行ってください。質問は簡潔にお願いいたします。

 それでは、挙手を願います。

 では、中村さん。

(記者)

 菅総理、よろしくお願いします。毎日新聞の中村と申します。

 総理は、首相指名後の記者会見で、今回の組閣について、官邸機能をしっかりして、内閣の一体性を確保すると指摘されています。総理も副総理として加わった鳩山政権は短命に終わりましたけれども、その背景には、どんな構造的な問題があったのでしょうか。

 今回の組閣では、その教訓を生かして、どこがどう変わるのか、具体的にお答えください。

(菅総理)

 鳩山内閣において、私も副総理という重要な役割をいただいていたわけでありますから、鳩山内閣が短命に終わってしまったことは、勿論残念でもありますし、私も大きな責任を感じております。

 その上で、新たな私の下の内閣は、やはり官房長官を軸にした一体性というものを考えて構成をいたしました。つまりは、総理の下の官房長官というのは、まさに内閣の番頭役であり、場合によっては、内閣総理大臣に対しても、ここはまずいですよということを言えるような人物でなければならない。よく中曽根政権の下の後藤田先生の名前が出ますけれども、まさにそうした力を持った方でなければならないと思っております。

 仙谷さんは、私とは長いつき合いでありますけれども、同時に、ある意味では、私にとっても煙たい存在でもあるわけであります。しかし、そういう煙たい存在であって、しかし力のある人に官房長官になっていただくことが、この政権の一体性をつくっていく上での、まず最初の一歩だと考えております。そして、その下に副長官、更には各大臣、そして副大臣という形を構成します。

 この間、政と官の問題でいろいろ言われましたけれども、決して官僚の皆さんを排除して、政治家だけで物を考え、決めればいいということでは全くありません。まさに官僚の皆さんこそが、政策やいろんな課題を長年取り組んできたプロフェッショナルであるわけですから、その皆さんのプロフェッショナルとしての知識や経験をどこまで生かして、その力を十分に生かしながら、一方で、国民に選ばれた国会議員、その国会議員によって選ばれた総理大臣が内閣をつくるわけです。国民の立場というものをすべてに優先する中で、そうした官僚の皆さんの力も使って政策を進めていく。

 このような政権を、内閣をつくっていきたいし、今日、全員の閣僚とそれぞれ10分程度ではありますけれども、時間をとって話をいたしました。それぞれに頑張ってほしいということと同時に、必要となれば、私がそれぞれの役所の在り方についても、場合によっては、官房長官を通してになるかもしれませんが、もうちょっとこうしたらいいんじゃないのと、こういったことも申し上げて、一体性と同時に、政と官のよりよい関係性を、力強い関係性をつくっていけるように努力をしていきたいと考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けます。

 緒方さん。

(記者)

 TBSの緒方です。間近に迫った参院選についてお聞きします。改選期の議員を中心に7月11日の投開票を求める声が出ていますけれども、総理は今国会の会期を延長し、投開票日を先送りする考えはありますか。また、参院選の争点と目標獲得議席数、それから勝敗ラインについてはどのようにお考えでしょうか。

(菅総理)

 国会の会期というのは、通常国会は150日と決まっております。本来はその期間の中で成立させるべき法案をすべて成立をさせたいわけでありますが、会期末を近くに控えて、まだそんな状況になっておりません。そういう中で、国民新党の間での合意、つまりは郵政の法案について、それの成立を期すという合意もあるわけであります。

 一方では、たとえ多少の延長をしても、必ずしもすべての法案を成立させることは難しい。それならば、また選挙の後に改めて取り組むこともあっていいんではないかという意見もいただいております。これから新しい幹事長あるいは国対委員長の下でそうした連立の他党の皆さんとも十分議論した上で、その方向性を定めていきたいと考えております。

 選挙における勝敗ラインということがよく言われますけれども、私は6年前、岡田代表の下で戦われた参議院選挙でいただいた議席がまずベースになる。そのベースをどこまで超えることができるか、あるいは超えることが本当にできるのか。これから私もすべての選挙区について、私なりに選挙区情勢を把握をしながら、近く発足する予定の参議院選挙対策本部の本部長として、陣頭指揮を取っていきたいと、このように考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けます。では、こちらの方で、松山さん。

(記者)

 時事通信の松山です。総理は先ほどの財政再建の必要性、重要性というものを非常に強調されましたが、参院選に向けて、消費税を含む税制の抜本改革というものをどういうふうに位置づけていくかということと、それから御自身で財政再建に関して、新規国債発行額を今年度の44.3兆円以下に抑えるということをおっしゃっていますが、これも参院選に向けて、公約に明記するお考えがあるのかお聞かせください。

(菅総理)

 確かに44.3兆円以下を目標にするということを申し上げました。ただ、これは誤解をいただきたくないのは、44兆3,000億の国債を出すことで財政再建ができるということではありません。これでも借金は増えるんです。この規模の財政出動を3年、4年続けていけば、GDP比で200%を超える公債残高が、数年のうちにそういう状況になってしまいます。そういった意味では、この問題は実はまさに国としてとらえなければならない最大の課題でもあります。

 これから所信表明演説もありますけれども、こういう問題こそある意味では一党一派という枠を超えた議論の中で、本当にどこまで財政再建のためにやらなければならないのか。それは規模においても時間においてもどうあるべきなのか。そのことをある意味では党派を超えた議論をする必要が、今この時点であるのではないかと思っております。そういうことも踏まえながら、最終的な政権としての公約も含めて、そういうものを考えていきたいと思っております。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けます。

 真ん中の一番後ろ、上杉さん。

(記者)

 96年の夏に旧民主党ができて、ここに至るまで14年間経って、菅首相がこうやってこの場に誕生したことにまず感慨深いものを思いますが、そこで振り返ってみて、当時旧民主党がディスクロージャーというのを掲げて、開かれた政治というのを打ち出しました。その精神が生きているとしたら、今回政権をとったこの時点で、例えば官房機密費、並びにこうやって開いていますが、全閣僚の政府会見、そして何と言っても菅さんが先ほどおっしゃいました官房長官の会見等を、国民のために完全に開くという御意気はあるのかどうか。鳩山前首相はそれについては約束をしてくださいましたが、菅総理はどうなのかお伺いします。

(菅総理)

 開くという意味が、具体的にどういう形が適切なのか、私も総理という立場でまだ検討ということまで至っておりません。率直に申し上げますと、私はオープンにすることは非常にいいと思うんですけれども、ややもすれば何か取材を受けることによって、そのこと自身が影響をして政権運営が行き詰まるという状況も、何となく私には感じられております。

 つまり、政治家がやらなければいけないのは、まさに私の立場で言えば内閣総理大臣として何をやるかであって、それをいかに伝えるかというのは、例えばアメリカなどでは報道官という制度がありますし、かつてのドゴール大統領などはあまりそう頻繁に記者会見をされてはいなかったようでありますけれども、しかしだからと言って国民に開かれていなかったかと言えば、必ずしもそういうふうに一概には言えないわけです。

 ですから回数が多ければいいとか、あるいは何かいつでも受けられるとか、そういうことが必ずしも開かれたことではなくて、やるべきことをやり、そしてそれに対してきちんと説明するべきときには説明する。それについてどういう形があり得るのか、これはまだ今日正式に就任するわけでありますから、関係者と十分議論したいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問。向こうの方の角田さん。

(記者)

 よろしくお願いします。NHKの角田です。

 参議院選挙に関連するんですけれども、政権が変わり総理大臣が変わったということで、例えば衆参同日で選挙を打つというお考えはおありなんでしょうか。

(菅総理)

 まず新しい政権になって、国民の皆さんから参議院の選挙で審判を受けることになります。衆議院の選挙ということについて時々いろんな方が言われるのは、わからないわけではありませんけれども、まず参議院の選挙で、今ここでも申し上げたような、ある意味では昨年の選挙で公約を申しましたし、また、大きな意味での方向性をだんだんと固めてきた問題も含めて、きちんとこの参議院選挙で議論をさせていただきますので、そのことに対しての国民の審判をまずいただくというのが、最初にやることというか、やらなければならないことだと思っております。

 その意味で現在のところ衆議院選挙について更にやるべきだという、必ずしもそうなるのかどうか、これは全く白紙ということで考えております。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けます。

 奥の七尾さん。

(記者)

 ニコニコ動画の七尾です。前政権では政治主導や友愛政治ということがよく言われたわけですが、菅政権を象徴します、あるいは目指す方向性を表すキーワードなどについて、もしございましたら、教えてください。

(菅総理)

 私自身は草の根から生まれた政治家でありますので、草の根の政治という表現も一つ頭に浮かぶのでありますが、もう少し元気のいいところで言えば、私の趣味で言えば、奇兵隊内閣とでも名づけたいと思います。今は坂本龍馬が非常に注目されておりますが、私は長州生まれでありますので、高杉晋作という人は逃げるときも早いし、攻めるときも早い。まさに果断な行動を取って、まさに明治維新を成し遂げる大きな力を発揮した人であります。

 今、日本の状況は、まさにこの停滞を打ち破るために、果断に行動することが必要だと。そして、奇兵隊というのは、必ずしもお殿様の息子たちがやった軍隊ではありません。まさに武士階級以外からもいろいろな人が参加をして、この奇兵隊をつくったわけでありますから、まさに幅広い国民の中から出てきた我が党の国会議員が奇兵隊のような志を持って、まさに勇猛果敢に闘ってもらいたい。期待を込めて、奇兵隊内閣とでも名づけてもらえれば、ありがたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、こちらの五十嵐さん。

(記者)

 読売新聞の五十嵐です。鳩山前総理は退陣の理由として、政治とカネの問題、それから普天間移設問題を挙げました。そして、政治とカネの問題ですけれども、昨日、枝野幹事長は小沢幹事長の衆院の政倫審への出席について、御本人の判断に任せるという考えを示しましたが、新総理としてはどういうふうにお考えでしょうか。

 また、普天間の問題では、日米間で8月末までに工法、詳細なことを決定するということでしたが、沖縄では依然として移設に反対する動きが止まっておりません。どういう判断をされるおつもりでしょうか。

(菅総理)

 鳩山総理が自らの辞任のあいさつの中で、今、御質問のありました政治とカネの問題と普天間の問題を挙げられて、言わばその問題でこの民主党政権が本来やらなければならないことがなかなか国民に理解をしてもらえなくなったということで、自ら身を引かれたわけであります。

 そういう意味では、この後を受けた私の政権は、ある意味ではこの鳩山前総理の思いをしっかりと受け止めて、引き継いでいかなければならないと思っております。政治とカネの問題については、鳩山総理の発言もあって、小沢幹事長も自ら幹事長を引いておられるわけです。ある意味でこれで十分と考えるかどうかということは、いろいろな立場がありますけれども、政治という場でそうした総理でもある代表を辞任し、また、最も党の中で重要な役職である幹事長を辞任するということは、一定のけじめではあると思っております。

 それを含めて、どうしたことが更に国会や他の場面で必要になるのか。特に国会の問題では、幹事長を中心に、そうしたことについては他党の主張もあるわけですから、しっかりと他党の主張も聞きながら、判断をしていただきたいし、いきたいと思っております。

 普天間については、日米合意を踏まえるという原則はしっかりと守っていかなければならないと思っております。ただ、だからと言って、沖縄の皆さんが現在の時点で賛成をしていただいているというふうには、まだまだ思える状況にないこともわかっております。ですから、8月の専門家による1つの方向性を出すということは、それは一つの日米間の日程上の約束になっているわけですけれども、そのことと沖縄の皆さんの理解を求めるということは、やはり並行的に進めていかなければならない。

 当然ではありますけれども、日米間で決めれば、すべて自動的に沖縄の皆さんが了解していただけるということでは、勿論ないわけでありますから、そういう意味では、沖縄の皆さんについて、先ほども申し上げましたが、沖縄の負担の軽減ということをしっかりと取り組んでいく、そのことを含めた話し合いをしていかなければならない。

 先の政権で、いろんな方が、いろんなアイデアや意見を持って、鳩山総理のところに来られたという経緯があったようでございますが、逆に言うと、いろんな意見を聞くことはいいけれども、いろんな人に担当してもらうことは、混乱を招きかねませんので、まずは官房長官のところで、どういう形でこの問題に取り組むべきなのか、勿論、外務省あるいは防衛省、場合によっては沖縄担当という大臣もおられますので、どういう形でこの問題に取り組むことが適切か、そう時間をかけるわけにもいきませんが、今日が正式のスタートでありますので、この間で、まずはどういうチームなり、どういう枠組みの中で、この問題の検討を行っていくかということの検討を、まずはしっかり行いたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問を受けます。向こう側前列、奥の、青山さん。

(記者)

 日本テレビの青山です。総理の今回の人事について、小沢カラーを払拭した人事という見方がされていまして、ただ、一方で、野党側は、これは参議院選挙に向けた小沢隠しであると批判しています。

 この前、菅総理は、しばらく静かにしていただきたいとおっしゃいましたけれども、そのしばらくというのは、参議院選挙までという意味なのか、今後、小沢前幹事長との距離感をどのように取っていくお考えをお持ちなのか、この辺りをお答えください。

(菅総理)

 よく皆さん、報道を見ていると、常に小沢さんに近いとか、遠いとか、あるいは小沢カラーということが言われますが、少なくとも私の今回の人事を考える上で、最大の要素は、どなたにどういう仕事を担当してもらうことが、より効果的に物事が進むかということで判断をいたしました。

 ですから、よく見ていただければわかるように、それぞれ自らの考え方を持ち、行動力を持った人が、私はそれぞれの所掌に就いてもらったと思っております。

 小沢前幹事長について、私が申し上げたのは、例えば私も2004年、最後は社会保険庁の間違いということがわかりましたけれども、いわゆる年金未納で代表を辞任したことがあります。やはり辞任をした後は、しばらくは本当に、おとなしくしていようと思いました、私自身も。

 あるいは岡田さんは、2005年の衆議院選挙、小泉政権の郵政選挙で大敗をされました。あの選挙も、今考えれば、小泉さん流の、ある意味酷いというと言葉が行き過ぎるかもしれませんが、まさに小泉劇場に踊らされた選挙であったわけですが、しかし、岡田さんは、責任を取って辞任した後、まさに全国の落選した仲間を一人ひとり訪ねるという形で、少なくとも表の場で言えば、静かにして、次につながった行動を取られたわけです。

 ですから、私は特別なことを言ったつもりはありません。総理が政治とカネの問題も含めて辞任し、また、幹事長も総理からの同じ問題で、やはりともに引こうではないかということで了解をされたというふうに、あの場で総理は言われたわけですから、やはりある意味で責任を感じて辞められたということであるならば、しばらくの間は、静かにされているのが御本人を含めて、みんなのためにもいいんではないかと、ごく自然なことを言ったつもりであります。

 しばらくというのは、まさに今、申し上げたことで、かれこれ言いませんが、何日ならいいとか、何年ならいいなんていう種類のものではなくて、1つの新しい段階が来た中では、それはそれとして、また判断があっていいんではないでしょうか。

(内閣広報官)

 それでは、次に外国プレスの方から受けます。モナハンさんどうぞ。

(記者)

 ダウ・ジョーンズ経済通信のアンドリュー・モナハンです。財政再建と経済成長策のバランスについてお伺いします。総理は、このバランスを達成するために、どのような手段があり得るとお考えでしょうか。また、円安は、この点において、貢献できることがありますでしょうか。

(菅総理)

 円安ですか。円安が何ですか。

(記者)

 バランスを達成することに何か貢献できることがありますでしょうか。

(菅総理)

 先ほど経済、財政、社会保障を一体でということを申し上げました。詳しいことを時間があれば申し上げてもいいんですけれども、あちらこちらで発言もしておりますし、また、近いうちに所信表明もありますので、そういう中では、もう少し詳しく申し上げたいと思っております。

 基本的には、財政というものを健全化するそのときに、ただ、極端に言えば、増税して借金返しに当てたらいいかといえば、これは明らかにデフレをより促進する政策になってしまいます。

 そういうことを含めて、財政の振り向ける方向性がしっかりと経済成長につながる分野でなければなりません。

 また、国民の貯蓄を国債という形で借り受けして、そうした経済成長に資するところに使っていくというのは、当然経済政策としてあり得る政策であるわけです。何が間違ったかと言えば、使い道が間違ったんです。九十幾つも飛行場をつくって、インチョンのようなハブ空港が1つもないような使い方をやったことが、借金は増えたけれども、成長はしなかったということであります。

 更に言えば、世界先進国の中でも最もGDPで高い水準まで借金が積み上がってありますので、マーケットというものは、なかなか難しい相手でありますから、そういうことを考えたときには、これ以上、たとえ適切な財政出動であっても、借金による財政出動でいいのか、それとも税制の構造を変えることによって、新たな財源を生み出して、そこの財源を使うことが望ましいのか、そういったことをまさに本格的に議論をする時期に来ている。できれば、それは、政府として一方的に考え方を申し上げるだけではなくて、自民党を含む野党の皆さんの中でも共通の危機感を持たれている方もかなりありますので、そういう中での議論に私はつなげていければいいなと思っております。

 円安のことは、一般的には、円安が輸出においてプラスになるし、輸出のかなりウエイトの高い今の日本経済では、円安が一般的に言えばプラスになるというふうに言われていることは、私もよく承知をしております。

 ただ、相場についてはあまり発言しないようにと財務大臣になったときも言われましたので、この程度にさせていただきます。

(内閣広報官)

 それでは、質問を受けます。前列、そこの藤田さん、どうぞ。

(記者)

 日本経済新聞の藤田です。先ほど出ましたが、米軍普天間基地の移設問題で改めてお聞きしたいことがあります。

 ぎくしゃくした日米関係を再構築する意味で、具体的に総理が日米関係を好転させるためにどのようなことを考えているのか。例えば、近くサミットがカナダでありますが、この前後を利用して自ら訪米したり、そういった形での日米関係好転などを考えていらっしゃるかどうか。その辺をお聞かせください。

(菅総理)

 カナダでサミットが、近く、今月の終わりごろにありますので、その場でオバマ大統領と会談ができればいいなと。まだ最終的な予定は決まっておりませんが、そう思っております。

 ただ、先日の電話会談では、カナダで会うことを楽しみにしているとオバマ大統領からもお話をいただいていますので、多分、その場での会談は実現できるのではないかと思っております。

 それより以前に訪米するということなども、いろいろ選択肢はあるわけですが、私も勿論、国会を抱えておりますし、アメリカ大統領は勿論、もっと世界のいろいろなお仕事があるわけで、今のところはサミットのときに総理大臣として初めてお目にかかってお話ができるのではないかと思っております。

 そういうことです。

(内閣広報官)

 それでは、真ん中、奥、畠山さん。

(記者)

 フリーランスの畠山と申します。菅総理の考える自由な言論についてお尋ねします。

 今回でフリーランスの記者が総理に質問できる会見は3回目となりますが、参加するためにはさまざまな細かい条件が課されています。また、3回連続して参加を申請し、断られたフリージャーナリストの一人は、交渉の過程で官邸報道室の調査官にこう言われたといいます。「私の権限であなたを記者会見に出席させないことができる。」このジャーナリストは、これまで警察庁キャリアの不正を追及したり、検事のスキャンダルを暴いたりしてきた人物なんですが、言わば権力側から見たら煙たい存在であると。総理は、過去の活動実績の内容や思想・信条によって、会見に出席させる、させないを決めてもいいという御判断なんでしょうか。伺えればと思います。

(菅総理)

 先ほど、この会見というのか、オープンということの質問にもありましたが、私は一般的にはできるだけオープンにするのが望ましいと思っております。ただ、何度も言いますように、オープンというのは具体的にどういう形が望ましいのかというのは、しっかりそれぞれ関係者の皆さんの意見も聞いて検討したいと思っております。

 例えば私などは、総理になったらいろいろ制約はあるかもしれませんが、街頭遊説などというものは多分、何百回ではきかないでしょう、何千回もやりました。それはいろんな場面がありますよ。隣に来て大きなスピーカーを鳴らして邪魔をする人もいたり、集団的に来て悪口を言う人もいたり、いろんなことがあります。だから、いろんな場面がありますので、できるだけオープンにすべきだという原則と、具体的にそれをどうオペレーションするかというのは、それはそれとして、きちんと何か必要なルールなり対応なりをすることが必要かなと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の質問。和田さん。

(記者)

 フジテレビの和田でございます。今回の閣僚の顔ぶれを拝見しますと、参院の方が多いわけですが、それは来るべき夏の参院選、それから9月の代表選後に改造というようなことも念頭に置いてのことなのか、それとも、逆に少なくとも次の総選挙まではこのメンバーでいくぞというような御決意で決められたのか、いかがですか。

(菅総理)

 一般的に言えば、まだ鳩山政権が誕生してから9か月弱で今回の辞任に至ったわけです。ですから、すべての閣僚も9か月弱のこれまでの就任期間だったわけです。私もそれこそ最初のイカルウィットのG7などに行って、この1年間で4人目の財務大臣の菅直人ですと言ったら、各国の財務大臣が苦笑していましたけれども、つまりはあまりにも、総理はもとよりですが、大臣も短期間で替わるということは、私はそういう意味での行政の質と言っていいのか、いろんな意味で望ましいことではないと思っています。

 ですから、今回については、勿論自ら少し休みたいと言われたりいろんな経緯の方がありますけれども、しっかりした仕事を大体の方がやっていただいていると私も同じ内閣にいて見ておりましたので、そういう皆さんには留任をしてもらったということであります。

 改造云々という話も言われましたけれども、どうも皆さんが好きなのは、改造とか新しく変わることが好きなんです。同じ人がしっかりした仕事をやっていてもなかなか報道してもらえないんです。ですから、私の頭の中にそういう改造とか何とかということは全くありません。是非、しっかり今やっている大臣が何をやっているかをよく見て、どういうことが実現できたかをよく見て、その上でそういう、こうするのか、ああするのかというのを聞いていただければと思います。

(記者)

 それについて私が申し上げたかったのは、次の総選挙までは変えないぞというぐらいの意気込みでいかれるのかどうかということをお伺いしたかったんです。

(菅総理)

 ですから、そのことも含めて、今、私の頭の中には改造とか何とかということはありませんし、一般的には、ある程度の期間を続けていただくことが望ましいと思っていますけれども、この間思いもかけない首相辞任もありましたので、あまりその先のことまで確定的に申し上げることは、ちょっと控えたいと思います。

(内閣広報官)

 では、こちら側。今川さん。

(記者)

 北海道新聞の今川です。北方領土問題について伺いたいんですが、鳩山前総理は、やり残した仕事の中で北方領土問題を挙げていました。メドベージェフ・ロシア大統領と6月のサミット、あと9月のロシアの国際会議、11月のAPECに3回首脳会談をやることで約束していました。

 菅総理としては、このメドベージェフ大統領と鳩山前総理の約束を踏襲されるのか、北方領土問題について具体的にどのような方針で対処されるのか、お伺いしたい。

(菅総理)

 そちらのところは、まだ私自身が、今指摘をされた鳩山総理がどういう約束をメドベージェフ大統領とされているのか、あるいはその流れがどうなっているのか、必ずしも詳細に状況をまだ把握しておりません。ですから、勿論この問題は大変重要な課題であると同時に、歴史的にも非常に長い間の問題で大きな課題であるだけに、どういう形で取り組むことが適切か、まずはこれまでの経緯あるいは鳩山総理とメドベージェフ大統領の約束の中身なども十分検討した上で判断したいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、時間も経過しております。最後の質問を受けたいと思います。  岩上さん、どうぞ。

(記者)

 フリーランスの岩上と申します。先ほど上杉さんの質問の中にありましたが、官房機密費の問題について、総理はお答えになっていなかったようですので、重ねて質問を申し上げます。

 野中元官房長官が、機密費を言論人あるいはマスメディアの人間に配って、言わば情報操作、言論操作を行ったという証言をいたしました。その後、私自身も上杉氏も取材を行い、この野中さんの発言だけでなく、はっきりと私は機密費を受け取ったと証言する人物も出ております。

 評論家の佐藤優さんは、かつて江田憲司さんから機密費を受け取ったと私にはっきりおっしゃいました。こうした「政治とカネ」ならぬ「報道とカネ」の問題。政治と報道とカネの問題と申しましょうか。こうした問題は大変ゆゆしき問題であろうと思います。この点について、きちんと調査をなされるか。そして、機密費の使途について、これまで使った分も、それから今後使用される分も含めて、公開されるお気持ちはあるかどうか。お考えをはっきりお述べいただきたいと思います。よろしくお願いします。

(菅総理)

 この機密費という問題は、なかなか根源的な問題も含んでいるわけです。物の本によれば、いつの時代でしたでしょうか、戦前でしたでしょうか、当時のソ連の動きを明石大佐がいろいろ調査をするときに、巨額のまさにそういう費用を使って、そういう意味での情報のオペレーションをやったということも、いろいろ歴史的には出ております。

 そういう意味で、確かに国民の皆さんの生活感覚の中で考えられることと、場合によっては、機密費という本質的な性格の中には、一般の生活感覚だけでは、計ることの場合によってはできない、もうちょっと異質なものもあり得ると思っております。

 今この問題は、官房長官の方で検討されていると思いますが、いろんな外交機密の問題も、ある意味で、ある期間を経た後にきちんと公開するということのルールも、必ずしも日本でははっきりしていないわけですけれども、この機密費の問題も、何らかのルールは、そういう意味で必要なのかなと思いますが、現在、その検討は、官房長官御自身に委ねているところです。

 報道の在り方については、これはあまり私の方から言うべきことというよりも、それは報道に携わる皆さん自身が考えられ、あるいはある種の自らのルールが必要であれば、自らの自主的なルールを考えられればいいのではないかと思います。私なども時折、ちょっと記事が違うではないか、一体だれから聞いたんだと言っても、それは取材元の秘匿はジャーナリストの言わば原点ですからと言われて、それはそれで1つの考え方でしょうが、政治とカネの問題についても、皆さん自身がどういうルールなり、倫理観を持って当たられるか、まずは皆さん自身が考え、あるいは必要であれば議論されることではないでしょうか。

(内閣広報官)

 時間がまいりました。この後、皇居で親任式等がございます。

 これをもちまして、記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました。

(菅総理)

 どうもありがとうございました。