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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア欧州会合第7回首脳会合出席内外記者会見

[場所] 北京
[年月日] 2008年10月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【麻生総理冒頭発言】

 第7回ASEM、アジア・欧州首脳会合に出席をさせて頂いた。非常によく整理がしてある、また、組織が作ってあって、こういったことにこれまでいろいろ中国外務省をはじめ努力をしてこられたんだと思うが、オリンピックが終わった直後のこととはいえ、こういった形できちんとした整理ができていることに、心から敬意を表すると同時に、感謝を申し上げる次第である。

 また、同様に、日中平和友好条約締結30周年ということでも、いろいろこれまで関係者の方々にご案内いただく等々、いろいろしていて頂いたんだと思うが、改めて感謝を申し上げる次第である。

 今回はアジアと欧州から43カ国、出てこられた大統領、国王はじめ37カ国のリーダーと意見交換を行った。話題は何といっても最近の国際金融、それが与える国際経済への影響ということで、多くの時間を割いた。また、環境を含む気候変動問題、そして北朝鮮やアフガニスタンなどの地域情勢についても、活発な議論が行われた。

 また、ASEAN+3の他、個別に中国、韓国、ドイツ、フランス等々の首脳と会談も行った。

 ASEMについて、今回の主要テーマは、先ほど申し上げたように何といっても国際金融。その金融、これは決済という意味だが、金融決済システムということになるが、アジア・欧州の実物経済に与える影響にかなりつっこんだ議論が行われた。

 私の方からは、先般発表されたG7の行動計画の重要性を語り、IMF等々の国際機関の役割を言い、アジアにおける地域協力の必要性を訴え、賛同を得たところである。日本を含むアジアは1997年にアジアの金融危機というものを経ているので、そういった意味では、各国が協調して、この問題に取り組む姿勢というものを示せた、と考えている。

 中国の胡錦濤主席とも、来月ワシントンD.C.で行われる首脳会議、いわゆる緊急首脳会議をはじめ、今後の国際的な取り組みに関し協力していくことで一致した。

 地域情勢に関しては、私の方から、北朝鮮の核問題や拉致問題の解決の重要性を強調し、各国から理解も得ている。ヨーロッパの場合はイラン、アジアの場合は北朝鮮、地域性があるのは当然のことと思うが、当然、ヨーロッパ側からはイランの問題が提出されている。

 また、アフガニスタンの復興支援、テロとの闘いに引き続き積極的に参加していく考えを伝えた。

 気候変動問題では、すべての主要排出国が参加できる、そういった枠組み作りが大事で、産業など部門別の積上げ方式による削減目標、また、途上国への協力、などを呼びかけた。

 日中については、今回は、総理として初めての中国訪問であった。これまで総務大臣等で訪問したことはあったが、そういった意味では、胡錦濤国家主席、温家宝総理とそれぞれ会談し、日中間の戦略的互恵関係の推進を確認したところである。

 何かあれば、すぐに電話で話ができるように信頼関係を構築しておく必要があるのではないかということで、その点も一致した。

 「日中平和友好条約締結30周年」記念行事に胡錦濤国家主席とともに出席し、日中関係について、私の所信を申し述べ、記念すべき節目を祝福させていただいたところである。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領とも、非常に有意義な会談を行った。北朝鮮の問題についても、日韓、さらには、日米韓3カ国で一層緊密に連携していくことを確認したところである。

 いずれにせよ、中国政府、並びに多くの中国の国民の方々、北京市民の方々、交通規制や何やらいろいろあったと思うが、いろいろ歓迎とおもてなしを頂いたことに対して、心より御礼を申し上げて冒頭の発言とさせていただく。

【質疑応答】

(問)

 金融危機が世界経済に与える影響が非常に深刻化していると思う。今回のASEM首脳会合でこうした危機に対処するため、有効なメッセージを発することができたと総理はお考えか。また、それについて、日本が果たした役割についてもお聞かせいただきたい。そして、11月15日にワシントンで緊急の金融サミットが開かれるが、今回の成果をこの場でどう活かしていこうとお考えか。

【麻生総理】

 メッセージは打ち出せたか(ということであるが)、45カ国から参加しているわけであるが、これは各国によって国内に与えられている影響は違う。ヨーロッパの方が傷が深いと思っている。アジアはそれに比べて、97年の経験があったせいもあると思うが、傷はヨーロッパに比べて深くないという状況にあると思う。少なくともアジアと欧州の両首脳が少なくとも金融危機というものに対して深い懸念を持っているということで、「国際金融情勢に関する宣言」としては、かなり明確なメッセージが出せたと思っている。

 日本として何を言ったかということであるが、これは97年、98年、貴方(注:質問した記者を指す)もご記憶かと思うが、これは三洋証券にはじまって山一証券、その間に北海道拓殖銀行、その翌年には日債銀、長銀とバタバタといかれた、その前には住専の話もあったし、そういった経験というのがあったので、どういうことを我々があの時行い、結果としてそれをおさめたかという経験というのがあるので、そういった意味であの時は日本だけで片付けているが、しかし、今回は各国当局による協調をしないとこれだけ広がっているので、難しいと。そしてこれを解決するためには各国は景気対策や経済対策をきちんと行わないとなかなか対応できないと。そのために外需主導ではなかなかできないので、そういったことを考えたとき、各国は自分の国内のための内需拡大等々を行わなければならないと。そして、IMFというものを97年の時と違って、今回はIMFの役割については、きちんともう一回役割を認識して、このところを大いに使うべきではないかと、結果的にそれは宣言となっていると思う。

 また、中、韓、仏、独、伊との二国間会談でも金融危機への対応ということに関しては、圧倒的に日本の方が経験、いい意味でも悪い意味でもこの問題では経験があるので、アメリカにおける首脳会議でも緊密に協議をしていくことで一致している。少なくとも我々としては、こういったものを単発で、その場でわんわん言うのではなく、ある程度意見をきちんと一致させていかないと、少なくともこれまでやったことのないことが起きているので、この経験を持っているという国は、こんな大きな規模のものをもった経験は1920年代以来ないとグリーンスパンの言葉を借りればそういうことになる。そういった点も考えてきちんとした対応していくべきだという点で、いずれももうちょっとなかなかまとまりにくいかなと思っていたが、金融危機が深刻という意識が皆あるんだと思うが、かなりまとまったものができたと思っている。

(問)

 自分は中国のインターネット・メディアの記者であるが、中国では多くの若者がインターネットを活用している。この機会に、総理は中国の若者に対して何かメッセージはあるか。今年は、日中青少年友好交流年であるが、日中関係において、若者はどのような役割を果たしていくべきと総理はお考えか。

【麻生総理】

 中国の未来をつくるのは若者、日本の未来をつくるのも若者、そしてたぶん、世界の未来をつくるのも若者、だと私自身は思っている。若者というのは、自分の息子がその世代、娘もその世代にいるせいもあるのかもしれないが、若者の力というのはあるんだと思う。「近頃の若い者は」という言葉はいつの時代でも必ず出る。エジプトのピラミッドの中にも「近頃の若い者は」と書いてあるそうだから、5000年前から皆同じことを言っているんだと思っている。そういった意味で、しかし、現状というものを改革して、新しい未来というものをつくっていくのは、これはどう考えても常に若者だったと思っている。若者の定義もいろいろあろうが、少なくとも若い人が行っていた。したがって築いていくのは若者なんだと思っているが、今、「青少年交流年」という話であったが、約3300人が相互訪問することになっている。是非、若い人には、中国の若い人には生(なま)の日本を、同じく、日本の若い人には生(なま)の中国を、見てもらうのが一番いいことだと思っている。胡錦濤国家主席も、このプロジェクト、この活動に大変興味を持っておられるというか、ご自身が1985年にそれを率いて日本に来ておられるし、その前の年に確か3000人日本から第一回目に訪中したと思うので、この話も主席と話をしたが、これは是非積極的に進めていくべき、今後ともこの交流は進める方向で日本としては考えている。

(問)

 衆議院の解散・総選挙について伺いたい。総理は、この問題について「政策よりも政局という時代ではない」、あるいは「一番いい時期に」という風におっしゃっている。世界的な金融危機、あるいは株価や為替の急激な変動ということを踏まえると、少なくとも経済に関しては一番いい時期とはいえないと思う。総理はどのように認識されているか。また、国会戦術についても、野党は早期の解散を念頭に国会対応をしているが、解散が先に伸びると言うことになると国会の戦術も変わって国会運営も難しくなるかもしれない。そうしたことをふまえて、総理はどのように考えていかれるか。

【麻生総理】

 解散・総選挙の時期というのは、様々な要素を勘案して決めなければならないのは当然のことである。今言われたように、グリーンスパンという人の言葉を借りれば100年に一度の国際的な経済危機だという表現を使っておられるが、これは非常に大事なところである。日本の場合は、アメリカ、欧州に比べて傷は浅い、今のところは、と思っているが、少なくとも過去8年間、日本は外需一本で、輸出に頼ってやってきた部分があるので、この部分は明らかに伸びがなくなるので、そういった意味では国内の景気対策、内需、国内需要を喚起する必要がある。その意味では、いわゆる「国内的な政局」という政治の話より昨日、今日各国から伺っているところをみていると、どう考えても「国際的な役割」を優先する必要性の大きさというのは、今回ここに来て改めて感じさせられたところでもある。

 今、国会審議への影響という質問があった。国内で永田町周辺にいればそういった意識が出てくるのは当然なので、それも十分に考慮しなければならない重要な点であると思うが、今申し上げたように、まだまだいろいろなことを考えなければならぬ問題、今この段階でするとかしないとか決めているわけではないので、これ以上、ちょっと答えようがない。

(問)

 金融市場は、来月15日にワシントンで開催される金融危機サミットにおいて、より多くの行動計画が表明されることを期待し始めている。90年代の金融危機を克服した経験を持つ日本として、このサミットを言葉だけではなく行動を伴ったものとして成功に導くために、どのような貢献を行えるのか。そして、アジアの経済構造を外部要因により依存しないものとするために、日本とアジア各国はどのような政策をとるべきか。

【麻生総理】

 すぐ、これが答だというものを持っているわけではない。ただ、先般G7で発出した行動計画に基づいて、主要国が今断固たる行動を取るということで、日本としても、日銀の流動性の確保を行ってみたり、補正予算が今週成立したり、また新たな対策というものを来週には出さなければならいと思って、迅速な手を打っているところである。

 サミットに臨んでは、大事なことは、短期的には、今の差し迫った金融危機の解決、株だとかいろんな問題があると思うが、中長期的には、やっぱり国際金融システム、正確には国際金融の決済のシステムというべきなのであろうが、そういったものを首脳間でもう少し議論する必要があるのではないかと思っている。簡単に言えば、今回は金融業界が開発したデリバティブと称する金融派生商品というが、金融派生商品という新たな商品の内容について、例えばそういったものの格付けや何やらをやるところ、もしくは政府が新しい商品というものをきっちり監視できていなかった、またもしくはその商品の透明性に問題があったのではないか等々、今いろいろな反省、もしくはそれに対していろいろな意見というのが出されているのは貴方(注:記者を指す)のご存知のとおりである。したがって、この問題をどういう具合にするかというのは、各国いろいろ意見が出てくるところだと思うので、是非この部分に関してもう少し規制をすべきであるという意見と、いや、規制をすると自由なイマジネーションというか、いろいろなイノベーションというかそういったものができなくなるとか、いろいろ分かれるのだと思うが、問題はやっぱり被害が出たということである。ここが一番問題。それがだまされたのではないか、といって買わされて損をした人は何となく納得していないというところが、こういったものを監督する側の行政としては問題。商品はインターナショナルにどんどん回るが、それを監督する方は一国で行っているので、国単位で行っても国際商品がぱっと回ったら監督できない、そういったものをどういう具合に行うべきか等々、考えなければならぬ問題がいっぱいあると私にはそう見える。したがって、この問題について各国が11月半ばまでにいろいろ案を考えると思うので、そういったものに日本としても積極的に参加をして、少なくとも当面はまず危機を乗り越えて、その後の中長期的なものをきちんとつくっていくという、二段階必要なのかなという感じがする。