データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福田内閣総理大臣記者会見[第168回臨時国会終了を受けて]

[場所] 首相官邸
[年月日] 2008年1月15日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【福田総理冒頭発言】

 本日、国会が終了いたしましたけれども、128日間という長い長い国会で、臨時国会としては大変長い国会でございました。長い国会でございますので、いろいろな方に御迷惑もおかけしたことがあったかもしれませんけれども、そういう方々に御礼を申し上げたいと思います。

 これまでに例のないような国会状況の中において、こういう日数がかかったと言ってもいいのではないかと思いますけれども、そういうことによって国民生活とか外交に何らかの影響を与えてはいけないという思いがいたしまして、そういう中で私ども一生懸命取り組んでまいったということでございます。手探りの国会運営という言葉がぴったりするような状況でございましたけれども、しかし、最終的には、例の補給支援特措法も法案が通りましたし、それに基づきましてインド洋における給油活動ができるという運びになりました。そういう外交問題について、日本政府の意思が貫徹できない、それも国会の状況だと、また政治情勢によるものだということになりますと、やはり対外的には余りよろしくない影響を与えるんではないかと思いますと、そういうことが回避できたことは率直に喜んでおります。

 また、国民生活という観点からも、これは大変大事なことでございますけれども、振り返って見ますと、結構、法律は順調に成立させていただいたと思います。国民生活に関係するようなものも勿論ございました。例えば製品事故の未然防止を図る安全規制法などというものもございまして、内閣法、議員立法を含めまして、26本の法律が成立したということでございます。中には中国の残留邦人支援法とか、政治資金規正法の改正というものも含まれております。

 また、今日実は、先ほど薬害肝炎の被害者の皆さんとお会いいたしました。また、遺族の方もいらっしゃいましたけれども、このことに関して、薬害肝炎の訴訟がございましたけれども、その立法を議員立法でさせていただいたということで、これが成立した。そういう患者の方々に今日お会いしたわけでございます。今日お会いして、皆さん方、本当に明るい顔をされていらしたということで、私もうれしく思いました。しかし、これから肝炎についてはいろいろやらなければいけないことがありますので、そのことについてはこれからの国会でしっかりやっていきたいと思っております。

 そういうことで、割合と時間はかかったけれども、やるものはやれたという感じがいたします。それは、やはり国会運営の中で、野党の皆さんもこういうことではいかんという危機意識を持っていただいたんではないか、その結果こういう法案が成立したということではないかと思いますので、そういう意味においては野党の皆様にも大変御理解をいただいたことを感謝したいと思います。

 年明けの記者会見で、私は消費者、生活者が主役となる社会へ転換していくと申し上げました。そのために、とりわけ年金制度を始め、医療、介護、そして少子化対策というような、国民生活の基礎となるような諸制度について安心できるきめ細かな制度づくりをしていかなければいけないと思っております。そのために今月中には社会保障の在り方を検討する国民会議を開催することにいたしておりますけれども、この会議には国民の代表という観点から、経営者、労働団体、消費者、女性の各界各層の方にお集まりいただいて議論していただこうと思っておるところでございます。

 こういう議論に、できれば野党の方にも参加していただきたいと思います。しかし、それがかなわないのであれば、国会の議論を活発にやっていただく場も設けることができないかということも考えておりまして、こういう問題については、党利党略といったことではなくて議論していただきたいと思っております。

 あと3日後には通常国会が開催されることになります。2日間の休会でございますけれども、この通常国会というのは予算の編成、また予算関連法案の審議という国民生活に大事な内容の審議をしていただかなければいけないことになります。こういう問題について、まさに国民生活と直結する問題でございますので、今、株価の下落とか、それによって景気の先行きがどうなるかということもございますし、また原油の高騰という外的要因もございますので、そういうことも考えると、やはりこういう予算関連法案などの審議が遅れることは、間違いなく国民生活に打撃を与えることになるのではないかと思いますので、そういう点について野党の御理解と御協力を是非お願いしたいと思っております。

 また同時に、私たちもできるだけ丁寧な説明をこれからしていかなければいけないということを痛感いたしておるところでございます。

 着実に、一つ一つ問題を解決していくという姿勢で取り組んでいきたいと思っています。そういうことでございますので、国民の皆様にもそういう事情をよく御勘案の上、御理解賜り、また、御協力をお願いしたいと思っております。

 以上でございます。

【質疑応答】

(質問)

 総理は、先の民主党の小沢代表との党首討論で、国民の立場に立った政治という点について、小沢代表と同感であるとおっしゃいました。そこで、これから通常国会に入るわけですけれども、ガソリンにかかる揮発油の暫定税率の問題とか、あるいは自衛隊の海外派遣に関する恒久法、年金制度改革など、民主党との連携というのか、協力をどのように具体的に進めていくのか、それについてお答えください。

 特に暫定税率の問題は、一つ間違うと、ガソリンの買い付けや、株価の暴落を引き起こしかねないという識者の声も出ておりますので、その点をお願いいたします。

(福田総理)

 国会がこういう状況にあるわけですから、参議院において第一党の民主党の御意向というのは極めて重要であるわけです。ですから、民主党の同意が得られるような話し合いをしていくということは、これは基本的な問題ですね。

 国会で何か決められないということになれば、その結果、迷惑を被るのは国民ではないでしょうかということを、私は当然お考えになっていらっしゃると思います。ですから、話せばわかるということになるんではないかという期待を実は持っております。

 暫定税率のことでございますけれども、これは、もしこの暫定税率が廃止されて、そして4月からはないんだということになれば、それはガソリンが安くなっていいなということもございますよ。しかし、これも国民生活にはやはり影響がほかのところで出てくる可能性があるんです。そういうことをどういうふうに考えるかということであります。

 例えば具体的に申し上げれば、冬の除雪の費用をどうするかとか、橋の修繕、道路の維持費といったようなこともございますけれども、学童の通学路の整備とか、いろんなものに使っているんです。開かずの踏み切り対策だとか。

 そして、歳入が不足する。自治体なんかでも不足してくるということになれば、その結果、いろいろな自治体における施策はできないということになりますし、また、国も社会保障とか、教育予算とか、そういったようなものにしわ寄せが来るということも当然考えられるわけでございます。

 また、日本のガソリンは、アメリカは安いんだけれども、ほかの先進国に比べると、かなり安いんですね。今現在、そういう状況にございます。

 環境問題ということを考えた場合に、果たして、ガソリンは安い方がいいんだ、下げた方がいいんだということで簡単に済むかどうか。環境対策ということも考えていかなければいけないということもございます。

 今年は、洞爺湖のサミットがございますけれども、日本はガソリンが安いなということで、果たして済むものかどうかといったことも私どもは考えている。

 また、将来のガソリンが、今、高いのは一時的である。ですからその間安くしましょうというだけでは、おそらく済まないでしょう。これから原油不足とか、原油の高騰という状況がしばらく続く、もしくはずっと続いていくかもしれないということになれば、こういうことはずっと続いていくんだということをお考えいただかなければいけないと思っています。

 いずれにしても、国会においていろいろとお考えをいただくということになりますけれども、その間、政府としては年内成立ということに向けて、できるだけの説明をしてまいりたいと考えております。

(質問)

 先ほど冒頭でもありました、肝炎対策、薬害肝炎の問題についてお聞きしたいんですけれども、今日の面会の中で原告団の方からは、薬害はもうこれで終わりにしてほしいというような訴えもあったと思いますけれども、総理も先日談話で、薬事行政、医薬品行政について見直しに取り組みたいというふうに、再発防止に向けた決意を述べられております。

 具体的に、薬害の再発防止について、どのような取組みを考えていらっしゃるのか、その辺を具体的にお伺いしたいと思います。

(福田総理)

 薬害を根絶するということができれば、これに越したことはありません。しかし、いわゆる特効薬は何か副作用があるということも、これも現実です。ですから、そういうような薬、新薬なんかのときに、どれだけのリスクがあるのか、そしてどういうことが起こる可能性があるのかということは、これは情報開示ということが大事だと思いますね。そういう御理解をいただいた上で、その薬を使うということは、これはあってしかるべきだと思います。

 そういう薬に伴うリスクというものはどのぐらいあるか、もし起こったときに、ではどういう仕組みがあるのかということになりますけれども、これは厚労省で、今、やっていることもあると思います。よりよい方法があるかどうかということをこれから考える必要があると思います。

 しかし、薬害が発生しないようにというのは、これはやはりまず第一に考えなければいけないことですね。そういうような薬害が再発しないような取組みということは大変大事だと思いますので、そういうことは、これから一生懸命努力していかなければいけない問題だと思います。

 それから、そういうような問題が発生する医薬品行政ということについても、これもこれから考えていかなければいけない。少なくとも行政の立場にある人たちが、患者もしくは国民の立場というものを無視して、行政という立場だけで物事を判断するというようなことがあってはならない。それは根本的な、基本的な問題だと思いますので、そういうことは絶対にないようにするという努力をしなければいけないと思っております。

(質問)

 衆院の解散総選挙についてお伺いします。3年前の解散から総理が2人交替していることもありまして、世論調査などでは、やはり早期に真意を問うべきだという意見も根強いようなんですが、改めて解散の時期についての現段階の御見解をお聞かせください。

 それと、民主党は総理の参院での問責決議案の可決も視野に置きながら、この春にも衆院の総選挙に追い込みたいということを基本戦略に描いているようですが、問責決議案が可決された場合に必ずしも解散する必要はないとお考えなんでしょうか。併せてお答えください。

(福田総理)

 解散は、いずれはするんですよ。いつかという話ですね。だから、そのタイミングをやはり選んでいかなければいけないということでありまして、では、そのタイミングは果たしていつがいいのか。解散は、いずれはします。しかし、解散することによって、やはり今の景気だとか、国民生活とかといったようなものに影響を与えるようなことがあってはいけない。そういう時期は選ぶべきではないと思います。

 今、景気も非常に微妙な問題があると思いますし、また、今回の予算は、そういう景気の状況であれば、なおさら国民生活に打撃を与える可能性があるかもしれないということは、やはり私どもは重視していきたいと思っております。ですから、そう簡単に解散してはいけないのではないかという思いはあります。

 あとは、時期を選ぶということでございますけれども、今年は7月早々には洞爺湖のサミットもございますし、それから、その前にはアフリカの首脳を集めたTICADIVという会議もあります。これは両方とも大事な問題を議論するということになりますけれども、そういうふうなことも、今、予定されておりますので、それはいろいろ、全般を考えて判断をすべき問題だと思っております。

(質問)

 宙に浮いた年金記録の問題ですけれども、総理は年頭の会見で、私の内閣で解決の道筋をつけると決意表明をされました。政府与党の公約であります照合の期限を3月末に控えていますけれども、改めて、具体的にどのように取り組まれるか、お願いいたします。

(福田総理)

 これは間違いなく、この問題は解決しなければいけないんです。そうしなければ、年金制度は崩壊します。信頼の持てない年金制度に対して国民が、それでは、お金を払っていきますということをしますか、しないでしょう。そういうことがあってはならないのです。ですから、どうしても解決をしなければいけない。そして、出来るだけ本当に信頼に足る新しい制度をつくっていかなければいけない。そういうようなことも考えていかなければいけないと思います。

 3月末までにコンピュータで名寄せをする。これは昨年の7月5日に決めた方針ですけれども、これは全然変わっておりません。着々と進めております。3月末までに名寄せしてわかった分については「ねんきん特別便」を出すということをしまして、その確認作業をいたします。その確認作業をしている中において、また新しくわからない分がわかってくるというようなことがありますので、そういう作業を繰り返してやっていくということが必要だと思います。

 4月になりましたら、その他の加入者に対して、全員に「ねんきん特別便」を送りまして、それは10月までに完了いたします。そういう作業をすることによって、また新しい不明者が新しくわかってくるということがありますので、そういうことを繰り返してやっていくということになります。

 そういう作業をこつこつと一件ずつやるということでございますから、大変な作業です。しかし、大変だといっても、これはやらないわけにはいかないです。ある特定の1人の年金を無視するなどということはできないんですから、そういうことがあってはならないんですから、そういうことがないように懸命に取り組んでいくということになります。

 この間、私も社会保険事務所を訪問しまして、現場を見てまいりました。なかなか大変な作業をしています。一人ひとりについて何時間もかけていろいろと聞いたり、いろんな質問などをしたりして確認をする。そして、データを取り寄せるといったような作業をするので、根気の要る仕事だと思います。だけれども、それはやり抜かなければいけないというふうに思っております。

(質問)

 この国会では、半世紀ぶりに衆院での再可決という方法を取られて、新テロ対策特別措置法が成立しました。次の国会に向けて、このやり方が憲法に書かれているので当然のようにやっていいんだという考え方と、やはり異例のことなので、できれば控えた方がいいんだという考え方とがあって、具体的には予算関連法案のときに、いよいよ、これまた使わなければいけないということもあるかもしれませんが、その辺の、この規定を使う基準といいますか、考え方はどのように考えておられますか。

(福田総理)

 これは、そうめったに、今までやっていないことですね。ですから、原則的に言えば、そう多発していいという話ではないと思います。ですから、そういうことを私どもは今から想定して、そういうときにはこうするんだという方程式は持っておりません。

 その前に、やることがあるだろう。それは、やはりそういうことにならぬように説得をする、説明をする。そういう努力をしていくしかないというように思っております。どういうことになるかわかりませんけれども、それはそのときに考えることであって、今からそういうことについて、する、しないということを申し上げる時期ではないと思っております。

(質問)

 総理は冒頭で社会保障の国民会議について触れられておりましたけれども、この国民会議では社会保障全般の議論ということですので、消費税の問題も議論に入るのかどうか。あるいは、年頭に夏から秋にかけて結論を出されるとおっしゃいましたけれども、その点について、その消費税の問題もここで一定の結論を出すお考えがあるのかどうか。

(福田総理)

 まずは、どういう社会保障の中身が必要なのかということです。特に高齢化が進んでまいります。また、その中にはその原因をつくる少子化という問題もありますから、そういう問題を解決するための仕組みがどうあるべきかということもあります。

 それから、いろいろな制度がある中で、年金を重視するのか、それとも個々の対応についてしっかりやっていくのかということもありますし、その辺の議論を率直な形でやってもらいたいと思っています。

 当然サービスということですから、お金のかかる、コストのかかることです。それが、実際にどのぐらい負担したらいいのか、どのぐらいの負担に耐えられるかということは、そういう議論の中から生まれてくるのではないでしょうか。

 例えば、前にも御説明したかもしれませんけれども、低福祉・低負担なのか、中福祉・中負担の日本型なのか、しかし、スウェーデンのような高福祉・高負担の方がいいと考えている方が多いのかどうか、その辺もよく議論の中から選び出していただきたいと思います。

 ただ、高齢化が進みますと、負担は中で今までと同じだけれども、サービスの低下が果たして起こらないかどうか、そういったことも考えなければいけないという問題をはらんでいる議論になると思っております。

 そこで、その費用をどういう形で負担するか、消費税なのか、税金なのか、保険なのか、いろいろ考えていかなければいけないと思います。今、消費税というように断定的に申し上げているわけではない。しかし、ほかの先進国においては、アメリカ以外は消費税とか、そういうものでやっているケースが多い。それは、その方法がいいからやっているんではないかという感じは持っておりますけれども、特定して消費税というふうに今、私が申し上げているわけではありません。