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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福田内閣総理大臣記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2007年9月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【福田総理冒頭発言】

 私は、このたび内閣総理大臣を拝命いたしました、福田康夫でございます。公明党との連立により政権を担当いたすことになりました。目下、内外ともになかなか厳しい状況がございます。そういう中で、この重責を担ってまいるわけでございますが、全力を挙げてこの難局に取り組んでいこうという決意をいたしておるところでございます。

 今回、このような自由民主党の総裁選挙がございましたけれども、この総裁選挙をすることによりまして、国会中ということもございますけれども、2週間国会を止めてしまったということがございました。このことについては、私も大変国民及び議員の皆さん方に申し訳ないことをしたと思っております。それだけに、これから私がその重責をいかに果たしていくかということについて、いろいろ考えておりますけれども、何はともあれ、まずはこれまでの政治不信の解消、このことに全力を傾けていかなければいけないと思います。

 政治不信の解消なくして、私どもが幾らよい政策を説いても、国民の方々は信用してくださらないと思いますと、まず政治の信用を取り戻すことが大切だと思っております。そういう中でも、年金の問題は極めて大きな問題であったと思っております。これは、一年金の問題というよりは、政府に対する信頼を失ったこと、それは国家への信頼を失ったことにもつながるというようにも思っております。私どもはこのことに大きな責任を感じ、そしてこの解決のために全力を挙げてまいりたいと思います。

 解決の方法は、名案というものはございません。ただ、一つ一つの事案を着実に解決する。その積み重ねによって、国民の信頼を取り戻すことができる。そのように思っております。多少の時間はかかるかもしれないけれども、一生懸命この問題の解決に当たってまいりたいと思います。

 そして、私どもはこういう問題を国民の皆様方にどのように説明していくかということが大事だと思っております。説明責任を十分に果たすということを、これからやってまいりたいと思っております。

 また、いわゆる政治とカネという問題がございました。このことも国民の皆さんの不信を買った大きな問題だと思っております。このことにつきましては、今までの政治資金規正法に基づく収支報告が、かなりずさんであった部分があったのではないかというように思います。やはり政治家一人ひとりがこの問題の重要さを感じ取って、そして間違いない報告を常に示すことができるようにしなければいけないと思います。

 私は、自民党の総裁に就任して直後に、この改善について提案を一ついたしております。収支の一切について完全に説明できるようにするという仕組みでございますけれども、このことについては、具体的な提案を与党の間で話し合い、そしてまた野党各党とも相談をさせていただきたいと思っております。

 今、私どもは非常に困難な国会運営を強いられる可能性があると思っております。勿論、このことは参議院で与党が過半数を取っていないということに起因するものであります。したがいまして、これからの国会運営は野党とよく協議をしていかないと円滑な国会運営ができない。野党とどのような協議をしていくかということが、大きな課題になろうかと思います。

 私どもは、野党の皆さんと十分話し合いをする可能性もしくは話し合いをしていただける余地は十分にあると思っています。それは、野党の皆様もやはり国民生活もしくは国家の利益、そういうことを中心に考えていらっしゃると思うからであります。

 私は、その観点から与党・野党が一緒にいろいろな問題について協議していくことができる。そのように思っております。これから、野党に対しても、丁寧にいろいろな課題について説明をして賛同を得る努力を今まで以上にしてまいる予定でございます。

 現今の情勢というものは、極めて困難な状況もあります。それは、今、我が国が直面している課題の中で、社会情勢が変わってきているということがございます。

 一つは、少子高齢化、そして人口減少という新しい時代に入ったということであります。そして、また、そのことにより経済がどのように変化していくかということもよく考えていかなければいけない大きな課題になっております。

 外に目を転ずれば、国際情勢も変化しております。近隣諸国が経済成長が著しいということもございます。また、中長期的には環境の問題がございます。環境の問題にどのように対処すべきかということも十分考えていかなければいけない。そのような将来の課題を考えた場合に、今、我が国が成すべきことは何かということであります。そのような時代を目指して、また、その時代の環境を見据えた上で、今、我が国が成すべきことは何かということを考える、そういう時代になったということであります。今までのように、過去の延長線で物事を考えるということは許されなくなったということであります。

 そういう現在の状況の中で、政治に課せられた課題は極めて大きいと思います。いろいろなことを考えていかなければいけない。そして、その中で、未来に対して確信が持てるようなことをしていかなければいけない。それは、希望につながります。今の若い人たちが将来に対して希望を持てるように、そして、また、働く人、年をとった方々が安心して生活できるような社会をつくっていかなければいけない。これが私たちの当面、するというだけでない、これから先、将来長い期間に達成していく課題であるというように思います。

 しかし、そのためには、今からその第一歩を踏み出さなければいけないということが、現在、私どもに求められている問題であると思います。

 そういうことを考えながら、私の内閣ではそういう課題に果敢に挑戦していきたいと考えております。そういう課題はすべて改革だと思います。現状を打破する、その中から新しい未来を築き上げる、それをやらせていただきたい。それが私の希望であります。どうか皆様方の御協力をよろしくお願いいたしまして、最初のごあいさつにさせていただきたいと思います。

【質疑応答】

(質問)

 今回の組閣のことでお伺いいたします。今回、ほとんど再任か横滑りという形になったわけですけれども、どういう御判断で人選をされたのか。また、その一つとして、麻生前幹事長にはどのようなポストを示して入閣を要請されたのか。また、福田色を出していくために、次の国会の前にでも内閣改造ということを踏み切られるお考えはあるか。お聞かせいただけますか。

(福田総理)

 今回の組閣につきましては、前内閣を基本的には踏襲するという考え方を取りました。いろいろ考えてみましたけれども、今、国会中でございます。そして、また、改造の幅を広げるということは、それだけ混乱を招く可能性があるかもしれないということをもちまして、私は必要最小限にとどめようというように考えたわけであります。そのことが、円滑な国会運営ということの上に極めて重要なことであるというように思っておりますし、また、少数でありますけれども、新任というんですか、また、横滑りもございましたけれども、そういう方々も適材適所という形を取ることができたわけでございまして、当初の目的どおりというように思っております。

 また、麻生先生にも協力をしてほしいという希望はいたしましたけれども、麻生先生の御事情もございまして、今回、入閣をされない。しかし、今の自民党は全員一致でやらないと、この難局は乗り切れないという御趣旨で私どものいたしますことについては、御協力を願えるというふうに考えております。

(質問)

 国会の焦点になります自衛隊の給油活動の継続問題についてお伺いします。総理は就任前に改正法ではなく、新法を臨時国会に提出して成立を図る意向を示されました。

 一方で、民主党との賛同を得る努力も強調されています。この新法に関しましては、臨時国会の会期を延長してでも、また、3分の2以上の再議決をしてでも成立を図るというお考えなのか、それとも民主党との話し合いを重視して、場合によっては通常国会での成立もあり得るというふうにお考えなのか、その点はいかがでしょうか。

(福田総理)

 このことにつきましては、私どもは、この活動というものは国際社会の中で極めて有益な活動であるというように感じておりますので、国際社会の期待もありますので、活動を継続するということを考えております。

 その場合に、どのようにすれば継続できるのかということでございますけれども、新法をつくって、そしてお諮りをするということ、これも一つの方法として考えております。どちらかというと、そういう方向に、今、なりつつありますけれども、そういうことになりますれば、また、野党ともよく御協議をさせていただきたいと思います。事前にその内容を説明して、そして御理解を賜るということも必要かもしれませんけれども、場合によっては国会論戦の中でいろいろと御説明をさせていただく。そういう状況の中で、また御理解を深めていただくというようなことも考えておるところでございます。いずれにしても、できるだけ早く、この継続が決定するように努力をしてまいりたいと考えております。

(質問)

 総理、官邸のリーダーシップということについて1点お伺いします。

 小泉総理のときは、国民の高い支持を背景に、非常に強い官邸ができたと思うんですけれども、また、安倍総理のときは官邸主導というものを目指すために補佐官制度を充実させたり、各種会議を立ち上げたりしました。

 福田総理は、与党や霞が関との協調というものを重視するというふうに見られておられますけれども、強力な総理のリーダーシップというものをこれから発揮されていくのか、それとも、竹下元総理のように、つかさに任せるというふうなスタイルを取られるのか、どちらでしょうか。

 あともう一点、政治とカネについてですけれども、今後、閣僚に政治とカネにまつわる疑惑が指摘された場合、安倍総理は説明できない閣僚は内閣を去ってもらうとおっしゃっていました。この方針は福田内閣でも継続されるのでしょうか。

(福田総理)

 まず、官邸のリーダーシップについてでありますけれども、2001年の1月でしたか、今までと制度を変えまして、組織の変更もございましたけれども、官邸が主導しやすいような体制ができたんです。ですから、竹下内閣のころとは官邸は違っているんです。その仕組みはこれからも十分に使えるということです。ですから、私もそういう仕組みはフルに使わせていただこうと考えております。

 官邸主導、すなわち政治主導というふうにも言われておったんですけれども、日本の議院内閣制は、それまではそういうことがなかなか取りにくい体制であった。皆様はよく御承知だと思いますけれども、閣議があって、下から積み上がってくる、それを閣議で決定するという手続を踏んでおりましたけれども、今は首相のリーダーシップで、首相が上から指示をするということができるようになりました。そのために官邸を中心としていろいろな会議ができたわけです。今、数が増えまして、総理が出席する会議だけでも50〜60あるのではないでしょうか。官房長官が出席する会議が70〜80あるというような、非常に会議の数も増えてきた。

 なぜ、そういうことになったかといいますと、やはり機敏に、果断に、臨機応変にいろんな政策を打ち出すということも必要だし、また、各省間にまたがるような案件が非常に多くなってきたというようなことがございまして、そういうような官邸機能というのは非常に機能しているというふうには思います。

 ただ、官邸が扱えるものは限りがあるというように思いますので、それは多過ぎても困る。ですから、やはり本当に重要なこと、官邸で扱わなければいけないようなことを効果的に行うというのが、今、一番求められていることではないかと思います。ですから、そういうところを勘案しながら、官邸機能の強化ということもありますので、そういう機能強化も使いながら、できるだけ今の時代に即応する。

 また、私が先ほど申しましたような案件というのは、各省にまたがる問題が多いんです。ですから、官邸の方でリーダーシップを取るという機会は多いと思います。今後もそういうことは変わらないというように考えております。

 それから、カネの問題ですね。

(質問)

 安倍前総理は、疑惑が指摘された場合に説明できない閣僚は内閣を去ってもらうとおっしゃいましたけれども、継続されるんでしょうか。

(福田総理)

 この問題については、政治家の方は皆さん、この問題の意味というものはよくわかったと思います。今までが、この問題の重要性というものを意識していなかった。もしくは軽視していたということだったと思います。今、皆さん、そういうことは極めて重要なことだということを認識して、そして、それをきちんと報告するということで、今、やっておられると思います。

 今後、そういうようなことが起こったときには、その起こった事情というものを勘案しながら対処していくということになりますけれども、故意にやるようなことについては、やはり問題があるというように思っております。見過ごしとか、思い違いとか、それから、ルールが必ずしも明確でない部分がありますので、そういうルールを明確にするということも必要なのかもしれませんけれども、それは程度によるのではないでしょうか。その事情、事情で考えていく必要があると思っております。

(質問)

 北朝鮮による拉致問題についてお伺いします。総理は総裁選のさなかに、私の手でこの問題を解決したいとお述べになりましたけれども、解決に向けての道筋をどのようにお考えになっていますでしょうか。

(福田総理)

 私は、総裁選挙中に申し上げたのは、これは解決をしたいという意欲を申し上げたんです。私も、この交渉の細かい話は聞いておりません。ですから、そういうことをよく承知した上でどういう方法があるかということを考えていきたいと思っております。

(質問)

 先ほど、野党とよく議論していかないと円滑な国会運営ができないと発言されましたが、年金の制度改革の問題とか、消費税の問題など、いろいろ課題がありますけれども、民主党とどのように協議の糸口をつかんでいくか。例えば、新たな協議の枠組みみたいなものの設置を提案するようなお考えがあるのか。それを聞かせていただきたいのと、御自分の福田内閣をどのように名づけるかということについては何かお考えはありますか。

(福田総理)

 福田内閣をどういう位置づけをするかという意味ですか。

(質問)

 名づけるかです。

(福田総理)

 まず野党、特に野党第一党の民主党とはいろいろと協議をしたいという気持ちを十分に持っております。その課題は、やはり重要な案件、テロ法も安全保障の中に入るかどうかは別として、この問題について議論することは大変大事だというふうに思っております。安全保障の範ちゅうに入るかどうか、国際平和協力というような観点から考えてもいいのではないかというふうに思っております。

 それから、国民生活に直結するような、多くの国民が関係するような問題、例えば年金もそうですね。それから、社会保障全般はそういうことが言えると思います。その他、国民生活に関係するもの、また、重要なことについて民主党と協議をしたいと思っております。

 それから、私の内閣はどういう内閣かということになるんですけれども、これは私は冗談で「背水の陣内閣」というふうに言っております。一歩でも間違えれば、それは自民党が政権を失う。そういう可能性のある内閣だ。こう思っておりますので、それだけに私どもは緊張した日々を送らなければいけない。そういう自覚を持っております。

(質問)

 解散総選挙についてお伺いします。一昨年の郵政選挙以降、衆院選を経ない形で2人の総理が交替するという事態になりました。総理、先ほど政治の信頼回復とおっしゃいましたけれども、政治の信頼回復・安定のためには、やはり早期の民意の洗礼を受けるのが筋であるという指摘もございますが、世論調査では7割近くが半年以内の解散総選挙を求めていることを踏まえまして、そのタイミングも含めた総理の現段階でのお考えをお聞かせください。

(福田総理)

 今すぐ解散の時期ということを申し上げる時期ではないと思います。二代民意を問うてないというお話でございますけれども、安倍内閣では参議院選挙は民意を問う一つの大きなきっかけであったと思います。ですから、私の政権になりまして、いつかはするわけです。2年以内ということでありますけれども、その2年以内のいつするかということについては、今、申し上げる立場にはない。今は国会の最中でございますので、まずは国会を無事に運営することが中心でございますので、ひとつその時期等について今、申し上げることは勘弁願いたいと思います。

 一つ基本的な問題を言えば、国民生活に悪い影響を与えるようなことはあってはならない。また、景気の動向とか、いろんな情勢があると思います。どういう情勢が起こるか、今は予断できませんけれども、そういうことも考えながら解散の時期を探ることになろうかと思っております。