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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見(イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画の変更について)

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年12月8日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 本日、政府はイラク人道復興支援のための自衛隊の派遣期間を1年間延長することを決定いたしました。これまでの自衛隊による人道復興支援活動は、イラク政府並びに現地のイラク人住民の皆さんから高く評価されておりまして、今週の月曜日、イラクの首相が日本を訪問されたときに、私も首相と会談いたしましたけれども、自衛隊の活動を高く評価して、支援継続を直接要請されました。

 今、イラクにおきましては、今月15日に国民議会選挙が行われる予定になっております。イラク人自身が自らの力によって安定的な民主的な政府をつくろうと努力している。この努力を支援していくことが必要だと判断いたしました。

 また、国連の安全保障理事会で、イラク政府の要請によりまして、多国籍軍の駐留継続決議が全会一致で採択されました。

 こういう情勢を判断いたしまして、日本政府としては独自に日本として何ができるかということを考えながら、今回の自衛隊の活動の継続、延長を決定いたした次第であります。国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

【質疑応答】

【質問】 今ほど総理の方から御説明がありましたが、改めてイラク情勢が依然として不透明な中で、自衛隊の派遣延長を決めた理由をお聞かせください。

 また、今回の基本計画の中では、撤収条件として英豪軍の活動状況が明記されましたけれども、撤収時期について総理は今どのようにお考えなのかお聞かせください。

【小泉総理】 まず、なぜ活動延長を決定したのかという主な理由ということでありますけれども、それは先ほど申し上げましたが、まず第1に、イラク人自身が自らの国をつくり上げようとして、今、懸命に努力している。安定した民主的な政権をつくるために、今まで憲法草案等、選挙も行われていましたけれども、今月15日にはイラク人の議会をつくるための選挙が行われる予定でありますけれども、今までの選挙におきましても、テロリストが選挙に行くなと、あるいは選挙妨害・混乱させるような脅迫に屈せず、イラク人自身は投票に赴き、自らの国を自らの力で立ち上げようという努力を国際社会に示してまいりました。

 私は、イラクの首相、大統領、あるいはイラクの要人の皆さんと会談するたびに、イラクに安定した民主的な政権をもたらすのは、国連でもない、アメリカでもない、多国籍軍でもない、日本でもない、イラク人自身だと、イラク人自身が自らの国は自らの力で立ち上げる、つくるんだという意欲を示さない限り、どの国が支援しても無理だということをたびたび申し上げてまいりました。

 そういう中で、イラク人自身がイラク人の手によって今、移行政府をつくっている。そしてたび重なるテロリストの選挙妨害に屈せず、むしろ日本人の投票率よりも高い投票をもってイラクに民主的な政権をつくろうとしている。自分たちの国を自分たちで立ち上げるんだという意欲を見せている。そういう中でイラクの首相直々に今週の月曜日に自衛隊の支援活動に対して高い評価を下し、是非とも引き続き自衛隊諸君の活動を継続してほしいという要請を直接受けた。なおかつ国連におきましては、イラク政府の要請により全会一致で多国籍軍の駐留、支援活動継続を採択した。

 こういう中にあって、日本が今、手を引いていいのかどうか。私は国際社会の一員としての責任を果たすのが日本の利益につながる。また、イラク人自身の自らの力で立ち上げようとする努力を支援するということは、将来のイラクと日本の友好関係にもプラスになると。そういうことから、私は延長を決定した次第であります。

 なお、この延長期間内に撤退の可能性があるかどうかという質問だと思うんですが、これはイギリス軍、オーストラリア軍がムサンナ県、サマーワを含めた治安活動を行っております。イギリス、オーストラリア両政府と緊密な連携を取って、また現地サマーワの治安状況を十分考え、そして活動している自衛隊員の防護体制も万全を期す中で、適切に判断していきたいと考えております。

 もとより、できるだけ早くイラク人自身が、他の国の力を借りないでも、イラク人自身の活動によって自らの国をつくり上げる、その支援は何かということを常に念頭に置きながら、日本としても支援活動をよく考えていきたいと思っております。

【質問】 今の撤退時期に関する質問と絡むんですけれども、現在のサマーワで活動している陸自について、そのほかの地域で活動を期待する声が米国内から上がっております。

 それから、航空自衛隊の活動について、これも輸送の範囲をバクダッドであるとか、カタールであるとか広げてはどうかという期待の声が上がっておりますけれども、日本政府として、そういうことは今、御検討になっているんでしょうか。

【小泉総理】 そのような話は、まだ承知しておりませんが、日本としてはイラク特措法に基づいて何ができるかということを考えていきたい。

 今、どの地域でやるかどうか、今の活動以外にどういう活動があるかどうかということにつきましては、日本で独自に判断していきたいと思っております。

【質問】 総理、発言の中でイラク人自身の努力を支援していくということになりますと、基本的には自衛隊という部隊によらない支援の方ができれば望ましいというのが総理の考えなんでしょうか。そして、日本の得意な分野もあると思うんですが、自衛隊の活動も給水から、どちらかというと公共施設の普及なんかに重点が移ってきていますけれども、具体的に自衛隊によらない支援としてどのような分野が可能だと、今の段階でお考えでしょうか。

【小泉総理】 私は、自衛隊の活動よりもイラクの治安情勢が更に改善されれば、日本の企業の活動、あるいは民間のボランティアの活動、現在の自衛隊員の活動以上にさまざまな支援活動ができると思っております。

 そういうことを今般来日されたイラクの首相にもお伝えいたしました。イラク人自身が自らの手で治安の改善にも努力し、実際そのような状況になれば、今の自衛隊諸君が活動している以上の日本はODAを始め支援ができますと。今は自衛隊員しか自らの安全を守るすべを知らないと、民間人ではなかなか現在の状況では運営が困難な情勢だろうと。そういう状況を改善して、自衛隊員でなくても日本人が活動できるような状況にすれば、日本としては更により多くの支援活動をしていくし、また、していく用意があるということを伝えました。できるだけ早くイラク人が自らの力で安全面、治安面についても改善されるような状況をつくり出してほしいということを強く期待しております。

【質問】 イラクの治安情勢は、まだまだ不安定であると指摘されております。そうした中で、自衛隊員の皆さん、大変な御努力をされているわけですが、考えたくもないことではありますけれども、不幸にして自衛隊員の中から犠牲者が出た場合の対応は何か想定されておられますでしょうか、お考えをお聞かせください。

【小泉総理】 自衛隊員自身の身の安全について、仮に安全が保てなくなったらどうかという質問だと思いますが、そういうことにならないように、今までも安全確保の面につきましては、十分な配慮をしてまいりました。

これからも自衛隊員の活動、安全確保策あるいは防護策については万全の配慮をしていきながら自衛隊の身の安全を確保していきたい。それが日本政府の、また私の責任だと思っております。

【質問】 アメリカでは、ブッシュ大統領が、そもそもイラク戦争の開戦の根拠とした大量破壊兵器の存在や、同時多発テロとの関係に関して既に証拠がなかったという結論が出ております。

 それで、今回自衛隊の復興支援活動を延長される契機とそもそもなっているイラク戦争の意義について、この際改めて総理の御認識をお伺いできますでしょうか。

【小泉総理】 現在、28か国においてイラクの民主的な政府づくりに協力している。そして、この多国籍軍の駐留継続が国連の安全保障理事会において全会一致で採択されたという状況を見れば、ここで手を引くということはテロリストの思惑といいますか、イラクに安定した民主的な政府をつくらせないというテロリストに味方するようなものだと思います。そういうことを許してはならない。イラクをテロリストの温床にしてはならないと、そういう観点から私はこの自衛隊のイラクにおける支援活動継続、延長が必要だと判断しておりますし、この民主化に向ける努力というのは正当化されると思っております。

【質問】 イギリス、それからオーストラリアという言葉が基本計画の中に入ったんですが、この2か国の場合は、治安維持と地元の警察なり軍の教育というものが目標になっているわけですね。それと同じように、それを入れることで、今、言われているのは、両軍が撤退した場合に日本も同時に撤収するのではないかというようなことを言われているんですが、もともと目標の違う両軍を比較の対象にするということは無理があるような気がするんですが、今の総理のお話を伺っていると、日本の目的は何だったのかというところがよくわからなくなるような気がするんですが。

【小泉総理】 日本の目的は、はっきりしております。イラクに対して人道支援、復興支援をすることであります。そういう面から、イギリス軍、オーストラリア軍が現地で治安活動を行っておりますが、そういう多国籍軍とも協力していくことが日本の自衛隊諸君の人道支援、復興支援を円滑にしていくために必要だと思っております。

勿論、イギリス軍、オーストラリア軍と日本の活動は違います。そういう中で、日本は何ができるかということをやっているのであって、私はイギリスと同じ、オーストラリアと同じという考えには立っておりません。

【質問】 これまでもたびたびお尋ねしていることでありますが、総理の任期中に現地へ行かれる予定を考えていらっしゃるのか。特に、来年1月早々、中東訪問を予定されていますが、その時期をとらえていくという考えはありますでしょうか。

【小泉総理】 これは、来年の1月の私のイスラエル、パレスチナ訪問に関連してよく聞かれますが、私は、その予定をしておりません。これは長い将来、先を見て、イラクの訪問があるかないかと言われれば、今の時点では答えることはできませんけれども、少なくとも来年1月、私がパレスチナ、イスラエル訪問する中で、その途次、イラクを訪問する予定はありません。

【質問】 今のイラクの治安についての基本認識と、あとこの2年間、いまだに民間人が入れないという状況を予期していたのかどうか。そこら辺、いかがでしょうか。

【小泉総理】 サマーワの地域においては、イラクの他の地域に比べれば比較的安定していると思っております。こういう中で、自衛隊の諸君が懸命に汗を流して努力し、そしてイラクの政府並びに住民から高い評価を下されるような活動をしておられることに対しまして、深く敬意を持っております。

 今後、できるだけ早く一般の企業も民間人も行けるような状況になればいいなと思っておりますし、早くそういう状況をつくっていきたいなと。また、イラクの政府もそのような努力を更にしてもらいたいなと期待しております。