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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見[衆議院解散を受けて]

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年8月8日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 本日、衆議院を解散いたしました。それは、私が改革の本丸と位置づけてきました、郵政民営化法案が参議院で否決されました。言わば、国会は郵政民営化は必要ないという判断を下したわけであります。

 私は、今年の通常国会冒頭におきましても、施政方針演説で郵政民営化の必要性を説いてまいりました。そして、今国会でこの郵政民営化法案を成立させると言ってまいりました。しかし、残念ながらこの法案は否決され廃案となりました。国会の結論が、郵政民営化は必要ないという判断を下された。私は本当に国民の皆さんが、この郵政民営化は必要ないのか、国民の皆さんに聞いてみたいと思います。言わば、今回の解散は郵政解散であります。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、これをはっきりと国民の皆様に問いたいと思います。

 私は、4年前の自民党総裁選挙において、自民党を変える、変わらなければぶっ壊すと言ったんです。その変えるという趣旨は、今まで全政党が郵政民営化に反対してまいりました。なぜ民間にできることは民間にと言いながら、この郵政三事業だけは民営化してはならないと、私はこれが不思議でなりませんでした。郵便局の仕事は本当に公務員でなければできないのか、役人でなければできないのか、私はそうは思いませんでした。郵便局の仕事は、民間の経営者に任せても十分できると。むしろ民間人によってこの郵便局のサービスを展開していただければ、今よりももっと多様なサービスが展開できる。国民の利便を向上させる。国民の必要とする商品なりサービスを展開してくれると思っております。いまだにその主張、考え方に変わりはありません。

 だれでも民間にできることは民間にと主張していながら、なぜこの郵政三事業だけは公務員でなければだめだと、大事な仕事だから公務員でなければだめだというんでしょうか。私は改革を推進しようという民主党は、民営化の対案ぐらいは出してくれるのかと思っていました。残念ながら民主党までが民営化反対、民営化の対案も出してくれない。そして自民党の郵政民営化反対、抵抗勢力と一緒になってこの法案を廃案にした。本当にこのままで行政改革できるのか、財政改革できるのか、理解に苦しんでおります。

 私は、この郵政民営化よりももっと大事なことがあると言う人がたくさんいるのも知っています。しかし、この郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるんですか。役人でなければできない、公務員でなければ公共的な大事なサービスは維持できない、それこそまさに官尊民卑の思想です。私は民間人に失礼だと思います。民間の企業、民間の経営者は国がこうやりなさい、こういう商品を出しなさい、こういうサービスをやりなさいと義務づけなくても、国民に必要な商品やサービスを展開してくれております。なぜ今までの自民党も含めて、野党の皆さんも含めて、この郵政三事業だけは国家公務員でなければだめだというんでしょうか。これは率直に言って、選挙のときに確かに自民党も民主党も、この郵政三事業に携わる国家公務員の支援を受けている、大事な選挙支援者だと、応援してくれる人の言うことを聞かなければいけないという気持ちはわかります。しかし、これは一部の特定団体の言うことを聞くのも大事でありますけれども、国民全体のことを考えれば、民間にできることは民間に、官業は民間の補完であると。役所の仕事は民間にできないことをやるべきだということから、今は公共的な仕事でも民間人にできるものは民間人に任せなさいという時代ではないでしょうか。民間人は公共的な仕事はできない。大事な仕事は公務員がやるんだと、そういう考えはもう古いと思います。

 だから、私は前々から言っているんです。郵政三事業の民営化に反対するということは、手足を縛って泳げというようなものだと。本当に行政改革、財政改革をやるんだったらば、この民営化に賛成するべきだと言っていたんですけれども、これは暴論と言われておりました。しかし、私は4年前の自民党の総裁選挙に出たときからこの民営化の主張を展開して、自民党の嫌がる、野党の嫌がるこの民営化の必要性を訴えて自民党の総裁になり、総理大臣になり、総理大臣になってからも郵政民営化が嫌だったらば私を替えてくれと言っていながら、なおかつ自由民主党は私を総裁選で総裁に選出したんです。

 総理になって、衆議院選挙においても、参議院選挙においても、この郵政民営化は自民党の公約だと言って闘ったんです。にもかかわらず、いまだにそもそも民営化に反対だと。民間にできることは民間にと言った民主党までが公社のままがいいと言い出した。公務員じゃなければ、この大事な公共的な仕事はできないと言い出した。おかしいじゃないですか。

 私は、そういう意味において、本当に行財政改革をやるんだったらば、公務員を減らしなさいということはみんな賛成でしょう。郵政事業に携わる国家公務員、約二十六万人、短時間の公務員を入れると約十二万人、併せて約三十八万人が郵政事業に携わっている。郵便局の仕事に携わっている。これは本当に公務員じゃなければできないんでしょうか。私は民間人に開放するべきだと思って民営化を主張してまいりました。なぜ、三十八万人の公務員じゃなければ、この郵便局のサービスは展開できないんでしょうか。私は郵便局は国民の資産だと思っている、過疎地でもなくなりませんよと、今の三事業のサービスは過疎地においても、地方においても維持されつつ、民間人に任せても十分できますよということを言っているんです。そういうことから、今回、私は本当に国民に聞いてみたいと思います。本当に郵政民営化は必要ないのかと。公務員の方が民間人よりも公共的な大事な仕事をするのかと。私はそうじゃないと思います。民間人でもどんどん公共的な仕事をできるものならやってもらいたいと思っております。

 今、確かに残念ながら、参議院で今日この法案が否決され、廃案になりました。言わば国会は郵政民営化は必要はないという結論を下したわけですが、私はいまだに郵政民営化は、本当に行財政改革をするんだったらば、将来、簡素で効率的な、余り政府が関与しない、役所の仕事を民間に開放しようという主張を展開するならば、この郵政民営化はしなければならないものだと思っております。

 約四百年前、ガリレオ・ガリレイは、天動説の中で地球は動くという地動説を発表して有罪判決を受けました。そのときガリレオは、それでも地球は動くと言ったそうです。

 私は、今、国会で、郵政民営化は必要ないという結論を出されましたけれども、もう一度国民に聞いてみたいと思います。本当に郵便局の仕事は国家公務員でなければできないのかと。民間人ではやってはいけないのか。これができないで、どんな公務員削減ができるんでしょうか。どういう行政改革ができるんでしょうか。

 これができなくて、もっと大事なこと、最も大事なこと、公務員の特権を守ろうとしているんじゃないですか、国家公務員の身分を守ろうとしているんじゃないですか、反対勢力は。そういう既得権を守る、現状維持がいい、そういう勢力と闘って、本当に改革政党になる、自民党はなったんだということから、この選挙で国民に聞いてみたいと思います。自由民主党は郵政民営化に賛成する候補者しか公認しません。

 言わば、はっきりと改革政党になった自民党が、民営化に反対の民主党と闘って、国民はどういう審判を下すか聞いてみたいと思います。だから解散をしました。

 そして、この郵政民営化に賛成する、自由民主党、公明党が国民の支持を得て、過半数の勢力を得ることができれば、再度、選挙終了後国会を開いて、これを成立させるよう努力していきたいと思います。

 以上であります。

【質疑応答】

【質問】 今回、郵政法案が参院で17票差という大差で否決廃案されたことの総理の率直な感想等をお聞かせください。

 それと、法案が参院で否決されたことを受けて、衆院を解散することに対して、与党内からも筋が通らないという批判が出ているようですけれども、総理はどう説明されるか併せてお聞かせください。

【小泉総理】 昨日まで、この郵政民営化が参議院で可決されるという状況は厳しいということは多くの方々から、その状況を聞いて承知しておりました。

 しかし、まだ可能性はあるということで、今日あの参議院での採決をかたずをのんで見守っていましたけれども、残念ながら否決されました。

 衆議院で通過して、参議院で否決されて解散するのはおかしいのではないかというお尋ねだと思いますけれども、私は前から申し上げていますとおり、これは小泉内閣が発足してから、構造改革の本丸と位置づけていたんです。私にとっては、郵政民営化は当たり前だと思っているんです。なぜこれだけ反対するのか理解できないんです。民間にできることは民間にと言いながら、この郵便局の仕事は国家公務員でなければできないという理由がわからないんです。

 そういうことから、この郵政民営化法案の否決は、小泉不信任である、小泉内閣の進めていた構造改革に対する不信任だと受け止めるということをはっきり申し上げておりました。

 せっかく今まで賛否両論ある中、特に反対論が強い中、改革を進めて、ようやく芽が出てきていました。その矢先にこれからできるだけ役所の仕事の無駄を省いて、行政改革へも財政改革へも寄与する民営化の法案が否決されたということは、小泉内閣の構造改革、それを否定されたものと受け止めております。

 言わば、国会がそう判断されたわけです。しかし、いまだに信じられません。本当に私の進めてきた、小泉内閣の進めてきた今までの改革路線。国民はノーと言うのかイエスと言うのか。これを聞いてみたいと思いまして、衆議院を解散いたしました。

【質問】 総理は衆議院の本会議で、反対した議員については公認をしないというお考えですけれども、実際それで自民党は本当に選挙になるんだろうかという疑問があります。そして、その場合、自民党は分裂選挙と事実上なると思うんですけれども、その結果によっては小泉政権だけではなくて、郵政民営化も含めて、あるいは自民党そのものが政権を失うという可能性もあると思うんですけれども、総理は選挙を打って出て勝つ自信がおありなんでしょうか。

【小泉総理】 それは多くの自民党の皆さんから、よく言われたことであります。自民党が分裂して選挙に勝てるわけがないじゃないかと。だから、否決されても解散するなと。そこでもう一回継続審議にして臨時国会を開いて成立させればいいじゃないかという話も伺っておりました。

 しかし、私は今国会で成立させると。衆議院に100時間、参議院で80時間、しかも整然と委員会で可決され、本会議で上程されて、円滑に審議が行われてきたんです。でも、結果は廃案になりましたけれども、これで自民党が分裂して選挙に勝てるかどうか。それは勝てないと思っている方もいるでしょう。私も率直に言って、選挙はやってみなければわからないと思います。

 しかし、この選挙を、私は郵政民営化賛成の勢力と協力していかなければならないと思っています。郵政民営化反対の勢力と協力することはありません。だからこそ、この郵政民営化に賛成の自民党と公明党が衆議院の議席で過半数を得ることができるように全力を尽くします。

 自民党、公明党、両議席を併せても過半数を取ることができなかった、と言って、郵政民営化に反対の勢力と協力することはありません。自民党と公明党が国民の審判によって過半数の議席を獲得することができなったら、私は退陣します。

【質問】 総理、衆議院を解散されて、仮に政権を維持したとしても、参議院の構成あるいは顔ぶれというのは変わらないわけです。そうした中で郵政民営化法案を出し直して、どうやって参議院を通すおつもりなんですか。

【小泉総理】 その話も、たびたび自民党の多くの議員からお話を伺いましたけれども、これは国民の皆さんが郵政民営化は必要だという、この私の主張に支持を与えてくれれば、今、反対なり棄権した参議院の方々も必ず応えてくれると思います。協力してくれると思います。

 国民は、郵政民営化を支持していないと思っている方が、今、反対しているわけです。そこが私と全く違います。郵便局をつぶすと、反対派は言っています。私はつぶさない、郵便局は国民の資産だ、このネットワークを守っていく、今の郵便局の仕事は、国家公務員が経営するよりも民間人に任せた方がよりよいサービスが国民に提供できるということを言っているんです。しかし、反対論者と私の考え方は変わらなかった。どっちが正しいのか。だから、国民に聞いてみる。国民の皆さんが、やはり郵政民営化は必要だと。自民党、公明党、両勢力に過半数の議席を与えてくれれば、参議院の皆さん、気を変えて、考え方を変えて協力してくれると確信しております。

【質問】 民主党の中にも、本来であれば郵政民営化に賛成する勢力があったはずですが、選挙後、そういった勢力と連携する可能性はありますでしょうか。

【小泉総理】 私は選挙後、自由民主党、公明党が過半数の議席を得ることができれば、どの政党であれ、郵政民営化に賛成である勢力とは喜んで協力していきたいと思っております。

【質問】 総理、郵政を争点にされたいというのはわかったんですが、もう一つ靖国神社についてお伺いしたいんですけれども、今回8月15日もめぐってまいりますし、投票日までの間に参拝をされるお考えがあるかということと、靖国の参拝問題を争点とされるお考えはあるかどうか。この点についてお尋ねします。

【小泉総理】 まず靖国参拝を争点にする気は全くありません。

 これは本来、私がかねがね申し上げていますように、戦没者に追悼の念を持って、敬意と感謝の誠をささげる。今の日本の平和と繁栄というのは、現在生きている人だけで成り立っているものではないんだと。心ならずも、戦場に行って、家族や多くの愛する人たちと別れなくてはならなかった。命を落さなければならなかった。そういう人たちの尊い犠牲の上に、今日の平和と繁栄があるんだと。そういう方々に対して、心からなる敬意と感謝をささげたいという気持ちで参拝しております。

 そういうことから、これは人間の自然な感情だと思っております。よく中国との関係がありますが、私は日中友好論者です。今、いまだかつてなく、経済においても、文化においても、スポーツにおいても交流は深まっております。中国の観光ビザも全国に広げました。草の根の交流は、かつてないほど高まっております。

 そういう意味において、私は一靖国の問題が日本と中国との全体の関係であるとは思っておりません。これからも日中、日韓友好関係を維持、発展させることは、極めて重要だと認識しております。

 靖国参拝を争点にする気は全くありません。

【質問】 選挙はやってみないとわからないと今おっしゃいましたけれども、内外に多くの懸案を抱える中で、言わば一か八かで政治的空白をつくるということに対する批判には、どのようにお答えするのでしょうか。

【小泉総理】 これは、私は空白をつくるかどうか。政治に小休止なしです。休み中でも国務大臣として、総理大臣として、やるべき仕事は山積しております。内政外交。それに遅滞なく全力を投球してやっていかなければならない。

 今、多くの方々は夏休みをとっておられると思います。解散がなければ政治家の皆さんも夏休みだったでしょう。記者の皆さんも夏休みだったと思います。しかしながら、この夏休み期間中、候補者にとっては大変な重労働ですけれども、できるだけ早く、選挙を9月11日に終えて、混乱のないような政局を収拾していかなければならないと思っております。

【質問】 欠席された議員の方は、公認されないんですか。

【小泉総理】 欠席の方、棄権の方はよく聞いて、郵政民営化に賛成すると言えば、公認も考えられます。