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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見[平成17年度予算成立を受けて]

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年3月23日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 お陰様で平成17年度予算は、本日成立いたしました。この間、年度内成立のために、自由民主党、公明党一致結束して協力していただきました。心から厚く御礼を申し上げます。

 今まで、この4年間の予算審議を振り返りますと、当初、「構造改革なくして成長なし」か、あるいは「成長なくして改革なし」か、この議論が盛んに国会で行われました。

 その中でもとりわけ印象的なのは、私の就任前には、今の日本の経済を活性化するためには、主要金融機関の不良債権を早く処理しないとだめだという議論が経済の専門家、評論家、与野党共通した認識だったと思います。

 しかし、いざ私が総理大臣に就任して、当時主要金融機関の不良債権比率は8%台でした。これを4年間で半減しようと、4%台にしていこうという目標を立てました。結果的には、その目標どおり進んできたわけでありますが、その過程で不良債権処理の仕方に反対論者からも賛成論者からも私は厳しく批判を受けました。

 賛成論者から見れば、不良債権の処理の仕方が遅過ぎるという批判でした。小泉は、痛みに耐えて改革するといったじゃないかと、なぜ痛みを恐れているのかと、改革の速度が遅いという批判です。

 もう一方は、この小泉内閣の不良債権処理を、このデフレの状況、景気の悪い状況で進めていくならば、企業の倒産はますます増える、失業率はますます高くなると、デフレはますます加速すると、そういう賛成論、反対論の両者から厳しい批判を受けましたが、結果的には目標どおり、8%台から4%台に実現の見通しが立ってまいりました。

 それでは、批判した方々の企業倒産は増えているか。逆です。30か月連続して前年同月に比べて企業倒産件数は減少しております。失業率は増えているか、当初5.5%、6.0%でありましたけれども、今年は4.5%に減ってまいりました。企業の業績も回復してまいりました。予算の面を見ましても、来年度予算におきましては、国債の発行も抑制することができましたし、毎年毎年景気が悪い状況ですと出ていた景気対策のための補正予算を組めという声が一言も聞かれないようになりました。

 そして、景気対策のためには、公共事業を増やしなさい、そのための国債増発はやむを得ないという論も盛んに行われましたけれども、昨年も今年も補正予算なしで、景気対策予算なしで、むしろ景気の上向きが見られます。

 現に来年度予算におきましては、公共事業は4年連続マイナスです。防衛費も3年連続マイナスです。増やしたのは、社会保障関係予算と科学技術振興分野だけです。そして全体的に一般歳出を減らしていく、将来の税負担をできるだけ少なくするという配慮もしていながら、最近景気にもようやく、全体ではありませんが、明るい兆しも見えてまいりました。

 先ほど言った雇用情勢についてもそうでありますが、最近の企業の努力によって、賃金もボーナスも出す企業も増えてまいりました。会社も新規採用を増やしております。こういうことから見ますと、やはりだめだ、だめだという悲観論よりも、この改革を痛みに耐えて進めていこうという「改革なくして成長なし」という路線は、私は正しかったんではないかと思っております。まだまだ気を緩める段階に至っておりません。この上向いた情勢を今後とも全国的に浸透させていかなければならないのが、これからの小泉内閣の課題でございます。主に、大企業を中心として、業績は向上しておりますが、これを中小企業、更には地域に浸透させていくのが、これからの大事な課題だと思っております。課題は内外山積しております。これから年金、医療、介護を含めた社会保障全体を見通した改革につきましても、与野党の立場を超えて率直に協議を進めていきたいと思っております。

 更に、地震、防災対策、昨年は台風や集中豪雨、地震等災害に見舞われましたけれども、今年も福岡で比較的地震が少ないだろうといわれた地域において、つい先日地震が発生しました。多くの方々が、今、苦しんでおられますが、こういう防災対策もこれからしっかり手を打っていきたい。治安対策、食の安全対策、そして外交の問題、北朝鮮との問題、イラクの問題、こういう問題が、まだまだ課題が山積しておりますし、常に気を緩めずにこれからの内外の国政の難問に誤りなきよう対処していきたいと思います。今後とも、国民の皆様方の格段の御指導、御協力を心からお願い申し上げます。

 そして、明後日からはいよいよ「愛・地球博」が開催されます。明日は開会式が行われますので、私も出席する予定でおります。

 この「愛・地球博」は、自然と人間との共生、環境保護と経済発展を両立させる、このかぎを握るのは科学技術であると。このかけがえのない地球を世界の国民の方々と、各国の政府、機関とともに協力して、地球温暖化対策を始め、環境保護と経済発展を両立させる対策を日本といたしましても先頭に立って進めていきたいと思います。

 同時に、この「愛・地球博」には、120か国以上の政府、機関が参加していただきます。日本国民の方々は勿論、世界各国の方々が日本にお越しになります。「愛・地球博」だけ見るのではなくて、日本全国各地、観光振興の面においても各地域が頑張って、日本全体が、ああ日本という国はいい国だなと、また外国の方々も、もう一度日本に訪れてみたいなと、そういう魅力ある国にしていきたいと思います。

 皆さん、どうかよろしく御協力をお願いしたいと思います。ありがとうございました。

【質疑応答】

【質問】 総理が、構造改革の本丸と位置づける郵政民営化が今後最大の課題になってくると思われますが、この郵政民営化関連法案をいつ国会に提出するのか、また提出しても廃案となった場合、国民に信を問う考えをお持ちかどうか、総理の率直な見解をお聞かせください。

【小泉総理】 現在、政府、自由民主党並びに公明党と精力的にこの法案の内容を詰める作業が行われております。できるだけ早く国会に法案を提出したいと思いますが、でき得れば4月中には提出したいと思っております。ということになりますと、来週というのはかなり大事な週になるのではないか。まだ詰め切っていない問題もあります。そして、与党との合意を得るように政府も努力しておりますので、その詰めが、予算が成立しましたので、今週後半から来週には大きな山場を迎えると思いますが、できるだけ与党の合意が得られる形で国会に提案をしたいと思っております。

 そして、今、廃案になった場合という質問でありますが、私は現時点で廃案になることを想定しておりません。必ず成立に向けて与党からも御協力をいただけると思っております。そのためにも、協議を精力的に進めて、4月中には提案したいと思っております。

【質問】 今国会の会期延長についてお伺いいたします。与党との調整が続いている郵政民営化関連法案の成立に向けて、審議時間を確保するために今国会の会期延長が必要だという声が与党内にありますけれども、総理は会期延長についてどのようにお考えかお聞かせください。

【小泉総理】 150日間の会期内で、まだ後半になってないんですね。4、5、6の3か月あります。まだ2か月ちょっと過ぎただけでありますから、今の時点で会期延長ということを考えるのは時期尚早ではないでしょうか。会期内に法案を成立させる、これに全力を尽くすのが私どもの責任だと思っております。

 また、国会対策関係、執行部もまだ十分会期が残っておりますので、その会期内に全法案を成立するよう全力投球しておりますから、私は今の時点で会期延長は考えておりません。会期内に成立させることに全力投球したいと思います。

【質問】 続けてお伺いします。現在の第2次小泉改造内閣は、昨年9月に郵政民営化実現内閣として発足しました。郵政民営化法案が今国会で成立した場合に、9月の自民党役員改選に合わせて内閣改造を断行される考えはお持ちでしょうか。お聞かせください。

【小泉総理】 これも随分気の早い話で、まだ問題山積ですよ。一息つくどころじゃないでしょう。最重要である予算が成立しただけで、これからまだまだ郵政民営化法案始め大事な法案はたくさんあるわけです。その成立のために、今、全力投球している最中に、終わった後のことを考える、そんなことはしません。もう毎日毎日全力投球。終わった後というのは、まだ先の話ですから、郵政民営化法案が成立してもまだ課題はたくさんあります。まずは、会期内に成立させる、これに全精力を集中して、後のことは後のことであります。今、考える必要はないと思います。

【質問】 北朝鮮問題について2問伺います。よろしくお願いいたします。まず、北朝鮮の核開発、拉致問題が目途が立たない状態となっていますけれども、事態の打開に向けて、協議の場として国連の安全保障理事会などへの付託を選択肢としてお考えでしょうか。

【小泉総理】 これは、選択肢として考えるかどうかと言われれば、考えないわけではありませんけれども、それを今の時点で考えていいかどうかという問題とは別問題だと思います。可能性としては、どうしても六者協議に北朝鮮が応じて来ないということであれば、そういう選択肢も視野に入れていかなければなりませんけれども、今はそういう状況ではないと。

 私は、北朝鮮は六者協議に乗ってくると思っています。それは、北朝鮮にとって六者協議で今の核の問題等を協議するのが、一番利益になると思っております。アメリカも入っていますし、中国も韓国もロシアも日本も入っているわけですから、この場を利用しないでどういうプラスがあるのかということを冷静に考えれば、北朝鮮はこの六者協議を無視するようなことはないと思っています。ただ、時間がかかっています。これは、それぞれ外交にはかけ引きがあります。公式的な発言ぶりと真意というのをよく見極めていかなければならない。六者協議の場というのは、北朝鮮の将来の安全を保障する場においても、国際社会の責任ある一員になるためにも、今の状況で北朝鮮にとっては最も自分たちの利益になる協議の場ではないかと思っておりますので、これに応じて来ない、国連の安保理に持ち込むということを、今、考える必要はないのではないかと。できるだけ早くこの六者協議の場に北朝鮮が応じてくるような働きかけが必要だと思っております。

【質問】 関連して、経済制裁に関してなんですが、総理は制裁発動にはずっと慎重な姿勢を続けておられますけれども、膠着状態がこのように長引く中、現状における制裁発動に対する、今の状況に対する総理のお考えを改めてお聞かせください。

【小泉総理】 私は、対話と圧力を通じて、この北朝鮮の問題、でき得れば平和的に解決して国交正常化を期したいという方針に変わりありません。そして、何がそのために有効な手段か。多くの皆さんは制裁すべしと言う声が強いのも承知しておりますが、私はアメリカのブッシュ大統領との間においても、この北朝鮮の問題は平和的、外交的解決を追求していくということで一致しておりますし、それは韓国も中国もロシアも同様であります。こういう中にあって、この正常化に進む、あるいは核廃棄に結び付く、更に拉致問題の解決に結び付けていくためには、対話と圧力でどういう方法が一番有効かということを考えますと、今の時点でまず経済制裁ありきという考えは取っておりません。対話と圧力、これに沿って粘り強く働きかけていかなければならないと。できるだけ早く懸案を解決しなければならないですが、私は別に焦ってもおりませんし、この外交にはある程度時間がかかることも承知しております。焦らず、諦めず、粘り強く、この困難な問題を平和的に、外交的に解決していきたいと思っております。

【質問】 外交問題についてお聞きします。ロシアとの間にはプーチン大統領の来日の目途が立っていないと。また、韓国では竹島問題を巡って日韓関係が悪化しつつあると。更に、中国とは首脳同士の相互訪問が途絶えていると。外交政策に非常に八方ふさがりの観が否めないと思うんですけれども、総理はこの事態をどのように認識されて、また事態打開のために何か方策は考えられていますか。

【小泉総理】 私は、八方ふさがりとは全然思っていません。日韓関係においても、日中関係においても、日ロ関係においても前進しております。交流はあらゆる分野において進んでおります。

 ですから、別に行き詰まっているとかいう感じは持っておりません。それぞれの国とは友好関係を増進していこうということで一致しておりますし、時に意見の相違があっても、対立の問題が生じても、それを乗り越えていく今までの実績と知恵が日本国国民、また今までの実績を考えて相手国はよく承知しているはずであります。一時的な対立とか、意見の相違に目をとらわれて、行き詰まっている感じなんか全く持っておりません。未来志向で友好協力関係を発展させていこうということには、お互い全く揺ぎはないと確信しております。

【質問】 気の早い話を再度恐縮ですけれども、総理の自民党総裁としての任期が来年9月ですけれども、それをにらんで党役員人事改造は、小泉内閣を総仕上げする意味で必要ととらえるかどうか。更に、ポスト小泉総理を考える観点から、この人事は必要か。特に今日、連立のパートナーである神崎代表が郵政法案処理後に総理は改造人事を考えられるだろうという見通しを示されているんですけれども、その発言も踏まえてもう一度お願いいたします。

【小泉総理】 総仕上げというのは気が早いね。郵政民営化法案がまだ成立してないのに、成立しても私の任期は来年9月でしょう。私は任期ある限り、総理大臣の職責を投げ出すことなく、全力で尽くすと。これに尽きていますから、改造とか、ポスト小泉とか、いろいろ話題になっていることは承知しておりますが、それはそれとして、私の総理大臣としての職責を、任期ある限り一日一日全力投球で果たしていくこと、これに尽きます。