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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉総理大臣年頭記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年1月4日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 新年、おめでとうございます。昨年は、日本におきましても、台風、地震、集中豪雨等、大きな被害を受け、皆様方も大変御苦労の多い年だったと思います。被災者の皆さん方も、今、復旧・復興活動に勤しんでおられると思いますが、是非ともこの困難から立ち上がって、新たな新年を迎えまして、希望を持って地域の振興に取り組んでいただきたいと思います。政府といたしましても、全力を挙げて皆様方の復旧支援活動、支援をしていきたいと思っております。

 また、年末にインドネシア沖で発生しました地震による津波は、未曾有の多くの国々に対して被害を与えております。我が国における地震、台風等における被害に対しましても、日本は多くの国から支援、援助を受けております。この際、インドネシア、スリランカ、タイ、インド等、関係諸国の被害に対しまして、日本政府として、アジアの一員として、できるだけ最大限の復興支援活動、支援をしていきたいと思っております。改めて、日本人を含めて、多くの国民が犠牲になりましたけれども、お見舞い申し上げるとともに、被災者の救援、復興活動に日本としても国際社会の一員としての責任を果たしていきたいと思っております。

 年頭に当たりまして、今年1年も大変厳しい年だと認識しております。我々としましては、ようやく景気も回復基調に乗ってまいりましたけれども、まだまだ厳しい状況は続くと思います。この景気回復の軌道を本格的なものにするためにも、今年1年精一杯改革に邁進したいと思います。

 特に1月下旬から再開されるであろう通常国会におきましては、まず昨年の地震、台風等の被害に遭われました、いわゆる災害対策、復旧活動、この補正予算を年末編成いたしましたので、冒頭に災害復旧のための補正予算をできるだけ早期に成立させまして、この復興事業が順調に、円滑に行われるよう政府としても全力を挙げてまいりたいと思います。

 続いて本予算、これも今、大事な経済の局面に来ております。年度内成立を期すために、是非とも各党会派の御協力をお願いして、本予算も年度内成立を図り、経済の順調な民間主導の持続的な成長が可能となるような体制をつくっていきたいと思っております。

 今年は、3月から愛知県で万博が開催されます。テーマは、自然の叡智であります、自然との共生、環境保護と経済発展をいかに両立させるか、このような万博が愛知県で開催されます。多くの日本人のみならず、外国人も日本を訪問されると思います。日本としては、年間500万人ぐらいしか外国人がまだ訪れておりませんが、これを2010年には倍増しようという、1,000万人ぐらいの外国人が日本を訪れて、魅力ある日本を紹介していかなければならないと。それがまた地域の発展につながっていくのではないかという観点から、観光振興も大事な年になると思います。

 日本国民が外国人に友好的に接していただきまして、各地域における日本の魅力を存分に外国人にも理解してもらうような取り組みが必要だと思っております。

 また、内政におきまして今年の最大の課題は、今まで全政党が反対していた、郵政三事業の民営化であります、「民間にできることは民間に」、「行財政改革を断行せよ」、「公務員を減らせ」ということについては、ほとんどすべての党が賛成しております。しかしながら、この郵政三事業だけは、国家公務員でなければできないのかと。そうではないと私は思っております。既に郵便にしても、あるいは小包みにしても、貯金にしても、保険にしても、民間でやっている事業であります。民間人で十分できる事業であります。そういう観点から、私は行財政改革を断行しなさいと、公務員を減らしなさいと、民間にできることは民間にと言うんだったらば、この郵政民営化は不可欠だと思っております。これに政府を挙げて取り組んでいきたいと思っております。

 外交も難問が山積しております。イラクの復興、また北朝鮮との交渉、この問題につきましても、日米同盟と国際協調の重要性をよく認識して、もろもろの外交問題に取り組んでまいりたいと思います。

 今年1年、大変難しい、厳しい1年であるということをよく肝に銘じて、私も与えられた任務を遂行できるように全力を尽くして改革に邁進したいと思いますので、国民の皆様方の御理解、御協力を心からお願い申し上げます。

【質疑応答】

【質問】 まず、郵政民営化に関してですが、総理もおっしゃいましたとおり、今月から自民党が法案策定に向けた調整が始まります。

 その中で、政府は昨年9月に基本方針をまとめられたりしておりますが、交渉の中で、自民党側との調整の際に譲歩する余地を残していらっしゃるのか、その基本方針についてお伺いしたいと思います。

【小泉総理】 基本方針は、郵政事業といいますか、この事業を4社に分割すると。そして各事業民営化するんですから、民間と同じような自由度を発揮するように、そしてサービス展開ができるような事業として発展させていこうと。国民の皆さんの利便というものを考えると、現在の公社の形態よりも民間人に経営を任せた方が、より国民のサービス向上につながるのではないかと。

 また、今まで郵便貯金等の資金が、いわゆる官業的な事業に回っていたのを、民間の成長分野の事業に回していけるような構造にしていくことも必要であると。

 同時に、行政改革、いわゆる官の分野の改革、こういう点につきましても私はできるだけ「民間にできることは民間に」任せていくということを考えますと、去年の9月10日に政府決定いたしました基本方針、この基本方針どおりと言いますか、基本方針に沿って民営化の法案を作成していく、この方針を今後とも与党にも御理解をいただきまして、法案の提案に向けて、これから努力していきたいと。提案されましたならば、与党との協力も得て、今年の通常国会の期間内に成立させるよう全力を挙げていきたいと思っております。

【質問】 北朝鮮問題についてお聞きします。

 安否不明者の調査問題をめぐって、北朝鮮側は日朝実務者協議の打ち切りの可能性について言及していますが、どう対処するのか。経済制裁発動のタイミングも含めて、日本政府の対処方針についてお願いします。

 それと、任期中に掲げられた日朝国交正常化実現の方針について、現時点での見解についてもお願いします。

【小泉総理】 北朝鮮との交渉に際しましては、今までも申し上げましたとおり、対話と圧力、そして日朝平壌宣言にのっとって、お互いが誠意ある対応をしていこうと。

 この日朝平壌宣言を誠実に履行した段階において国交正常化を図っていこうということでありますから、この方針に全く変化はございません。安否不明者の調査の問題につきましても、今までの調査においては日本としては納得できないと。

 今後、北朝鮮側が日本側の疑問点、再調査の報告等、疑問点を提示しておりますので、これに対して誠意ある対応をしてくるよう、今、求めております。その対応を見極めていきたいと思っております。

 また、北朝鮮側は、表面的には打ち切り等いろいろなことを言っておりますが、私どもといたしましては、表面的な発言ぶりと、実際の真意というものがどういうものかよく見極める必要があると思います。今までの過去の発言、それから実際の行動、そういう事情もよく承知しておりますので、表面的な発言ぶりと本音はどこにあるか。いずれにいたしましても、対話と圧力の両面から交渉をしていかなければならない問題だと思っております。

 また同時に、北朝鮮との交渉は拉致の問題のみならず、核の問題、ミサイルの問題、これを総合的、包括的に解決をしていかなければならない問題でもあります。

 国交正常化の問題につきまして、これは別に期限が区切っているわけではございませんが、北朝鮮がその気ならば、日朝平壌宣言を誠実に履行した暁には、国交正常化が望めることになりますから、期限を区切るわけではありません。私は、今の北朝鮮と日本との敵対関係を友好関係にすることが、日本と北朝鮮のみならず、朝鮮半島、世界の平和のために必要だと思っている観点から、できれば北朝鮮と日本との今の不正常な関係を正常化していきたいと、いつでも思っております。別に期限を区切っているわけではございません。

【質問】 総理、今年は自民党が憲法改正草案をまとめるなど、憲法改正に向けた動きが活発化する年だとも言えると思うんですが、総理は民主党との協議も含めて憲法改正問題、自分の任期中にどこまで進めたいとお考えになっていますか。

【小泉総理】 この憲法改正の問題というのは、もう長年の懸案でございますが、これは国会議員の3分の2の発議で、国民の過半数の支持なくしては改正はできません。そういうことを考えますと、十分国民的な議論を喚起して、各政党の協力を得ないとこの問題はなかなか成就しないと思っておりますので、まず、結党50周年という自由民主党にとっては大きな節目を迎えます今年秋ごろまでに、この憲法改正についての草案と言いますか、具体案を示していくよう、これから精力的に準備作業を進めていきたいと思っております。

 同時に、衆議院、参議院、両院に設けられました憲法調査会において、今年4月か5月には今まで議論した結果の論点整理がなされると思っております。そういう点も参考にしながら、自民党としては秋に向けて草案を示していかなければならないと思っておりますし、これは自由民主党一党だけでできるものではありません。与党であります公明党との協力も得る必要がありますし、同時に、与党だけでも、自民党、公明党だけでも、この改正がなされるものとは思えません。野党第一党である民主党との協力も得なければならないと思っております。民主党も、今年か来年には憲法改正案を提示するよう準備を進めていると聞いております。

 こういうことを考えますと、この憲法改正というのは、今年、来年中にできるとは、今、考えておりません。十分時間を取って、まず、自民党、与党との考え方の調整、そして、野党第一党の民主党との協力も得るような形を考えますと、今年、来年は十分、お互いの改正案に対する考え方と協議、調整が今年と来年は必要ではないか。その状況を見て、国会にどのように上程するかという問題が浮かび上がってくると思います。そのような期間を置いて、私は進めていきたいと思っております。

【質問】 総理、今年は戦後60年に当たるわけですけれども、いろんな意味で将来の問題、過去の問題が問われる1年になると思いますが、その中で中国や韓国を始めとして、近隣諸国との外交をどのように展開されるおつもりか。

 その関連で、総理の靖国参拝の問題というのは避けて通れないと思うんですけれども、総理は今後、適切に対処するというふうにおっしゃっていますが、これは参拝するしない、あるいはその意義、形式、そういうすべてを含めて適切に対処するという解釈でよろしいのか。その2点をお聞きします。

【小泉総理】 日本としては、隣国であります韓国、中国との関係は、大変重要な隣国でありますので、日韓友好、日中友好の方針には変わりありません。

 そういう中で、日本が現在直面しております北朝鮮との問題におきましても、韓国や中国との協力を得ながら進めていく必要がありますし、北朝鮮との六者協議におきましても、韓国、中国のみならず、アメリカ、ロシア等も含むわけであります。この枠組みということを考えますと、近隣諸国であります韓国、中国、そして、同盟国であるアメリカ、更に、六者協議のメンバーでありますロシア、国際社会との協調というのは大変重要なものであると思います。

 私は、中国との関係におきましても、これは就任早々、中国の目覚ましい経済発展というのは日本にとって脅威と受け止めるべきではないと。これは、日本にとっても好機である、チャンスであると。お互い、中国の輸入を阻止するということばかり考えないで、むしろ、日本も中国に輸出できるんだという前向きのとらえ方が必要だと。中国脅威論は取らない。むしろ、中国の発展は日本にとってチャンスと受け止めるべきだという演説を各国でしてまいりました。

 現在、そのとおりになっております。日本と中国との関係、輸入も輸出も飛躍的に伸びております。お互いの経済にとって相互依存関係、相互互恵の関係を、私は経済界も国民も十分理解しているのではないかと思っております。

 そういう観点から、過去の一時期の不幸な関係ばかりではありません。友好関係の歴史の方が長いわけであります。そういうことも十分考えながら、歴史を参考にしながら、将来の発展にお互いに何ができるか。将来の友好関係を維持、発展させていくためには、どのような考慮が必要かということを、あらゆる分野において考えていかなければならないと思っております。

 私は、靖国参拝だけが日中間の大きな問題とは思っておりません。そういう観点から、こういう問題については粘り強く、中国側の理解を得られるように努力していきたいし、私の靖国参拝につきましては適切に私自身が判断していきたいと思っております。

 今年もよろしくお願い申し上げます。