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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉総理大臣年頭記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2004年1月5日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 新年、明けましておめでとうございます。

 昨年、大変外交、内政厳しい年でございましたけれども、今年はよい年であるように、皆さんとともにお祈り申し上げたいと思います。お正月ではありますが、自衛隊の諸君は既に、イラクの人道支援、復興支援のために準備を進めております。

 それに加えまして、インド洋におきましては、テロ対策支援活動、また東ティモールなどのPKO活動では、国づくりの活動に活躍をされておられます。更にイランで大地震が発生し、その被災者に対する救援活動も民間の方々と一緒に、救援活動にあたってきたわけでございます。

 日本の国の経済社会情勢は厳しい状況でありますが、日本としては、日本の国にふさわしい、外国で困難に陥っている国々、あるいは災害によって被災を受けて窮乏している被災民の方々に対して、できるだけの支援活動をしていきたいと思っております。

 正月早々でありますが、そういう厳しい状況にあっても、日本国民を代表して活躍している自衛隊の諸君、あるいは民間人、NGOの方々、政府職員の方々、そういう方々に心から敬意を表したいと思っております。内政、外交、今年もなかなか厳しい状況が続いてくると思います。特にイラクの復興支援につきましては、世界各国が6月にイラク人の政府をつくるよう全力で努力している最中でございます。早くイラク人が自らの国を再建すると、復興すると、希望を持って自らの国を安定した民主的政権をつくるために努力して、これを日本としても支援をして、この中東の安定なしに世界の平和と安定はないという観点から、支援を続けていかなければならないと思っております。

 北朝鮮に対しましては、日朝平壌宣言に基づきまして、拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題、これらを総合的、包括的に解決して、将来、日朝国交正常化を実現したいという基本方針は一貫しております。今後もこの方針に沿って、北朝鮮側に対して誠意ある対応を求めていきたいと思います。

 昨年、北朝鮮とアメリカ、韓国、中国、ロシア、そして日本の六者会合が行われましたが、今年もできるだけ早くこの六者会合が開かれまして、懸案の問題解決に向かって日本としても引き続き粘り強い努力を続けていきたいと思います。

 内政におきましては、この2年余にわたる、私が総理に就任して以来の構造改革路線、改革なくして成長なし路線、これがようやく軌道に乗ってきたなと。いろいろ改革の種をまいてまいりました。この種に芽が出てきたと、この芽を大きな木に育てていくために、改革の手綱を緩めることなく推進していきたいと思います。

 特に、民間にできることは民間に、地方にできることは地方にという今までの方針に、ようやく具体化されて、これから国会で御審議をいただくわけです。

 道路公団民営化の問題につきましても、民間の推進委員会の皆さんに御協力を得て、この委員会の意見を基本的に尊重して具体案をまとめることができました。

 今後、国会におきまして、この民営化の法案を審議していただきまして、17年度中には民営化を実現させる準備を進めていきたいと思います。

 また、今年はいよいよ官僚機構、財政投融資制度、特殊法人、この一段の官僚の分野の改革の本丸と言われる、郵政三事業民営化の問題が本格的に動き出します。今まで何年かにわたって、民営化是か非か、民営がいいのか、国営がいいのかという議論が全くまとまりませんでした。賛否両論。特に政界におきましては、民営化論に圧倒的に反対論が多かったわけですが、ようやく昨年の衆議院選挙におきまして、民営化是か非はもう決着しております。民営化するという前提で、どのような民営化案がいいかということを今年の秋ごろぐらいまでに、いろんな方々の意見を聞きながら案をまとめて結論を出していきたいと思います。

 そして、来年の国会に民営化の法案が出せるように、今年は準備していきたい。行財政改革、民間にできることは民間に、地方にできることは地方に、官僚機構の徹底的な無駄、これを排除する意味のいよいよ本丸改革に迫ってきたわけであります。

 民営化の案、国民に不安を与えないように、今までの国営の郵便局よりもはるかにサービスのよい、国民から安心して今までの郵便局サービスを享受できるような、発展性の可能性の富んだ、そういう民営化案を多くの識者の意見、各界の意見を聞きながらまとめていきたいと思います。

 景気の問題、これは多くの国民が一番関心を持っている問題であります。なかなか景気が厳しい状況が続いてまいりましたが、ようやく昨年から明るい兆しも見えてまいりました。

 実質経済成長率においても、名目成長率においても、政府の見通しを上回って、プラスに転じてきております。倒産件数も12か月、13か月連続して減少しております。

 また、民間側の意欲も、ここのところ盛んに出てきておりまして、企業業績の回復も改善もなされ、将来の設備投資に向かって意欲的な動きが随所に見られております。

 また、会社を立ち上げようという意欲のある人、こういう方々の支援をしようということで、今まで1,000万円以上ないと会社を立ち上げることができなかった。それを昨年、1円の資本金があれば、会社をつくることができますよと、そういうことが可能になる形にしたところ、昨年既に7,000件以上もの会社が新しく誕生しております。やはり意欲のある人はいるんだなと、こういう国民一人ひとりの、企業一つひとつの意欲を支援する改革を断行していきたい。

 長年景気の足を引っ張っていた不良債権処理、これも額においても割合においても着実に減少に向かって進んでおります。

 雇用の面においては、依然として失業率が5.2%と厳しい状況が続いておりますが、ここに来て求人数は増えております。求人はあるんだけれども、なかなかその求人のところに向かっていかないと、いわゆるミスマッチ、このミスマッチ解消のために、もうひと工夫、必要ではないかと思って、今後とも雇用対策、特にミスマッチ、若年者が自立できるような対策をわかるように進めていかなければいけないと思っております。

 いずれにしましても、今までだめだと多くの方から、この改革路線の批判を受けてまいりましたけれども、実態の面で見ますと、このところ補正も国債を増発しないで補正予算を組むことができた。公共投資が減少する中で経済に明るい兆しが出てきたと、まさに改革の成果が徐々に表れてきていると思います。

 今後とも、この路線を堅持して、金融財政は極めて厳しい状況でありますが、改革の芽を大きな木に育てていきたいと思います。日本には、大きな潜在力があります。底力もあります。あまりだめだ、だめだと言って悲観しないで、将来に向かって、この時代にやればできるんだと、悲観論に陥ってくじけてはいけない、やる気を多くの国民が持ってもらうような改革路線を推進して、新しい挑戦に向かって、多くの国民や企業が立ち向かえることができるような改革を進めていきたいと思います。

 今年もよろしくお願い申し上げます。

【質疑応答】

【質問】 総理、明けましておめでとうございます。

 まず、経済の問題についてお伺いしたいんですが、今、総理もおっしゃられたように、昨年辺りから景気に明るい兆しが見えてきたのは事実だと思うんですが、その一方で、年末の年金改革や税制改革などによって、かえって景気に悪影響を与えるのではないかという心配が出ています。そういう点を踏まえて、今年一年の景気の展望といいますか、日本経済が本当に本格的な回復軌道に乗ることができるのか、その辺をどのように見通していらっしゃるのかということ。

 それと、その回復軌道に着実に乗せるために、具体的に何をなさっていきたいと考えていらっしゃるのか、その2点をお伺いします。

【小泉総理】 景気対策をしなさいということ、それを言われる方々の意見というのは、今の小泉内閣のとっている路線が緊縮路線だという批判があるんですね。

 それは、昨年も私は申し上げました。80兆円の一般会計の予算の中で、税収が40兆円程度しかないんです。この状況で増税はできない。しかし、国債発行は40%を超えている。一体どこの国で国債依存率が40%を超えている国があるでしょうかということを私は言ったんです。

 突き詰めて言えば、景気対策をもっとしなさいということは、今以上に国債を増発して、公共事業をもっとしなさい、公共事業を削減すると景気に水を差すということの批判であります。

 一方では、これほど国債を増発して、GDPを上回る国債残高がどんどん増えている。今までの借金の未払いがずんずん増えていって、福祉予算なり、一般政策予算に回らない。これ以上国債を増発して、今までのように公共事業を拡大して、本当に景気回復になるんですか。むしろ財政破綻、将来につけを回す。これを恐れる。言わば、もっとプライマリー・バランスと言いますか、財政的な基礎収支、財政に規律を持たせなさいと。

 ということは、この論者の言うことを聞くと、国債を増発してはいかぬということなんですね。もっと歳出削減に切り込みなさいと。民営化するのか、民営化にも批判的である。地方に任せる、これに対しても、いざ改革を進めるとこれも批判的だと。国債を増発し過ぎるという批判というものは、結局、増税しなさいということになるんですね。私は消費税は、私の任期中には上げない。私の任務の大きなものは、今の徹底した官の分野の無駄を省く、行財政改革。だからこそ、民間にできることは民間にと言って、就任前には、だれにも予想し得なかった道路公団民営化、郵政民営化は現実の政治課題に取り上げることが、ようやくできたんです。

 私は、そういう面において、緊縮予算だと言っている批判は、もっと国債を増発せよということになってくるんだということを、国民にわかってもらいたい。その人たちは今、国債を今よりも増発して、金利が上がった場合には、また景気の足を引っ張ることになります。それでは、これは国債を増発し過ぎだという批判に聞きますと、増税しなさいというふうになっていきます。増税で景気が回復するでしょうか。どっちからも批判が来る。一方だけの批判だったら、その批判に対しては私も判断します。どっちの立場かわからないで、目に見えないところから批判だけすればいい、揚げ足取りだけすればいいという状況というのは、皆さんもよく考えていただきたい。ちゃんと顔を出して、その論者はどうして一貫の立場に立って私を批判しているのか、小泉内閣を批判しているのか、現在の財政、経済を批判しているのか。

 そういうことをはっきりさせて、両者からの顔を合わせた批判なら大いに歓迎します。しかし、今の路線は景気に即効薬がありません。万能薬はありません。金融改革、不良債権処理を含めた金融改革、税制改革、単年度で収支を合わせるというのは税制改革ではない。複数年度で減税先行の税制改革をしています。

 規制改革、これは国として、今まで認められなかった、いろんな分野における株式会社の参入も認めてきた。歳出も今年度は一般会計においては、前年度以下になっているにもかかわらず、メリハリを付けた。警察官の増員をする中で、公務員は全体で減らす。

 防衛予算においても、将来のミサイル防衛をしながら、防衛予算はマイナス1%。今までにない、予算を減らす中で重点的にメリハリを付けて、必要な科学技術関係予算には増やしていく。増えている部分は、社会保障分野と科学技術予算だけ。あとは減らす中で、増やすべきは増やすということをやっているわけでありまして、メリハリの効いた予算でありますので、今後ともそのような今まで続けてきた改革路線を着実に進めていくということは、ひいては日本の経済回復につながっていくのではないかと思っております。

【質問】 イラクへの自衛隊派遣についてお伺いしたいと思います。

 防衛庁は、昨年末の空自の先遣隊に続いて、陸上自衛隊の派遣についての準備も進めているわけですけれども、その一方でイラク国内で治安の改善は見られていない状況ですし、国内の世論調査を見ても、なお慎重論が多数を占めていると。やはり現状のイラクに非戦闘地域を見い出して自衛隊を派遣するということが、国民にとって非常にわかりづらいことだと思うんですけれども、その点についてどうお考えになるのか。

 また、派遣部隊が現地でテロと見られる武力攻撃を受けた場合、その攻撃性や組織性が判断できなくても撤退させることになるのかどうか。その点についてのお考えをお聞かせください。

【小泉総理】 今、イラクの復興支援、人道支援のために、多くの国々が協力しながら、早くイラク人の政府を立ち上げて、イラク人が希望を持って自らの国の再建に取り組むことができるような支援を講じております。その際に、テロの活動、あるいはフセイン政権の残党グループがイラクにおいて治安を乱したり、あるいはテロ活動を続けて非常に危険な地域もあるということは承知しております。しかし、そういう状況の中で、日本が手をこまねいていて、イラク人の中にも多くのイラク人は自分たちの力で早くイラクを再建させたいという方々もたくさんおられるわけであります。イラク統治評議会等。

 アメリカ、イギリス始め国際社会も国連も、早くイラク人のイラク政府をつくろうと努力している。そういうことで、国連も国連の加盟国に対して、できるだけの支援をイラクにしてほしいと要請をしております。日本はその要請に応えて、自衛隊を派遣する場合にも武力行使はしないと、戦闘行為には参加しないという法律にのっとって、イラクの復興支援活動にどう当たるかということを検討した結果派遣を決めて、今、先遣隊が準備を進めております。

 確かに、今の状況を考えますと、奥外交官、井ノ上外交官、貴重な2人の優秀な日本の外交官がテロリストに殺害されて、極めて残念であります。そういう状況を踏まえながらも、一民間人、一政府職員がイラクに赴いて、復興支援活動ができるかというと、かなり危険を避けるような準備も個人個人では無理であろうと。また、危険を防止するための装備も持って行けないだろうと。同時にそのような訓練をしていないだろうということで、もし人的な支援策を考えるんだったらば、今の時点においては自衛隊の諸君に行ってもらうのが妥当であろうと。一般の民間人が行かない。そういう中で、危険なところだから民間人行けということもできないということで、私は日ごろから組織的な厳しい訓練に耐えて、自分で宿泊施設もつくることができる、自分で食料を調達することができる、自分で水があればきれいにして、水を飲むことができる、利用することができる。自己完結性を持った組織である自衛隊が、復興支援活動、人道支援活動に取り組む余地はイラク国内においても十分あると思って、自衛隊の諸君に国民に代わって、決して安全とは言えない、危険を伴う困難な仕事であろうけれども、この日本のイラクに対する復興支援のために行っていただく、この自衛隊員の安全配慮の面につきましては、政府として万全の措置を講じております。

 もしということではなくて、もしということを考えたくない事案を想定するよりも、危険な目に遭わないように、最悪の事態が起こらないような準備をしていくのが、今の政府の責任だと思っております。そして、自衛隊の諸君が立派に任務を果たせれば、いずれ民間人の方々もイラクに赴いて復興支援活動ができる環境ができればいいなと。そのために、政府としては資金的援助、物的援助、人的援助を含めて、国際社会の一員としての責任を果たしていきたいと思っております。

【質問】 拉致問題ですが、六者協議の開催を優先するとの理由から、徐々に国際的な関心が薄れている観がある拉致問題なんですけれども、被害者家族の状況は以前として変わっていません。先ほど総理は拉致、核、ミサイル、包括的に取り組んでいかれるというふうにおっしゃいましたが、日本政府として今年この拉致問題の解決に向けて膠着状況の打破に向けた具体的な方策、何か念頭にあるもの、これから取り組んでいきたいものとかございますでしょうか。

【小泉総理】 昨年も年内に六者協議が行われる可能性を追求しておりましたけれども、結局年を越しました。拉致問題につきましては、今までも表面に出ない部分で日本独自の働きかけ、また日本以外の各国に対して拉致問題に対する理解と協力を求めてまいりました。かねてより、日本政府、私が主張しておりますように、拉致は拉致、核は核、別問題だという方法は取っておりません。拉致も核も一緒に解決していくべき問題であると。

 核の問題につきましては、昨年リビアが核放棄を全面的に表明いたしました。国際社会の核の問題に関する査察を、即時、無条件で受け入れました。これは、私は朗報だと受け止めております。やはり国際社会から孤立したら、その国の発展はないんだなということにリビア政府は気づいたんだと思います。

 このようなリビア政府の決断が、今後も核を持とうとしている国に対して、いい影響を与えるということを期待しております。北朝鮮に対しましても、国際社会から孤立する道を選ぶのではなくて、国際社会の責任ある一員になることが北朝鮮国民にとって、平和と安定、繁栄への道を進むことだということを、今までも申し上げてまいりましたけれども、今年はそういう核放棄、核査察を受け入れ、そして国際社会への責任ある一員になるように日本としても、北朝鮮側に対して粘り強く働きかけていきたい。また、北朝鮮側もそのような働きかけに対して、誠意ある対応を示すことが北朝鮮にとって最も利益になるんだということを伝えていきたいと思います。

【質問】 総理は、元日に靖国神社を訪問しましたが、これに対して、中国、韓国から反発が出ていますが、これをどう受け止めますか。

 もう一つ、総理は元日の靖国神社参拝につきましても初詣の意味合いを持たせておりましたけれども、当初の公約であります8月15日の靖国神社訪問との意味合いの整合性をどのように考えられているのかと、この2点をお聞かせください。

【小泉総理】 靖国神社に参拝いたしましたのは、現在の日本の平和と繁栄のありがたさをかみしめると。日本の今日があるのは、現在、生きている方だけの努力によって成り立っているものではないんだと。我々の先輩、そして戦争の時代に生きて、心ならずも戦場に赴かなければならなかった、命を落とさなければならなかった方々の尊い犠牲の上に、今日の日本があるんだということを忘れてはいけないと。

 そういうことから、過去の戦没者に対する敬意と感謝を捧げると同時に、日本も今後、二度と戦争を起こしてはいけない、平和と繁栄のうちに、これからいろいろな改革を進めることができるようにという思いを込めて参拝いたしました。

 余り私の靖国神社の参拝を騒ぎ立てるようなことは、私は望みませんでした。静かに参拝できたらいいなと思っておりまして、そういうことから皆さんにも事前にお知らせすることはなかったんですが、お正月ということで参拝するにはいい時期ではないかなと思って元旦に参拝しました。天気も穏やかで、すがすがしい気分になることができ、これから1年、また一生懸命頑張りましょうという気持ちを込めて参拝することができたと思いました。

 また、近隣諸国からの批判に対しましては、これはそれぞれの国が、それぞれの歴史や伝統、慣習、文化を持っているわけであります。そういうことに対して日本としては、戦没者に対する考え方、神社にお参りする意義等、それぞれ日本には独自の文化があると、外国にはないかもしれないけれども、こういう点については、これからも率直に理解を求めていく努力が必要だと思っております。

 これから、日中関係、日韓関係、日本の隣国として大事なパートナーですから、今後も日韓、日中両国との交流進展については、これまでどおりいろんな分野において拡大を進めていきたいと思っております。