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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小泉内閣総理大臣記者会見(第2次内閣改造後)

[場所] 首相官邸
[年月日] 2003年9月22日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 今回、自由民主党総裁選挙を契機に再選を果たすことができました。今後、総裁選挙でいろいろ議論が交わされましたが、その主要な論点は今まで進めてきた小泉内閣の構造改革路線、これを変えろという議論、私は変えないと。2年数か月続けてきた厳しい経済情勢の下でのもろもろの改革、ようやくその芽が出てきた。これを大きな木に育てていかなければならない。言わば改革路線是か非かというのが大きな争点だったと思います。

 結果を見ますと、多くの方々の、党員並びに議員の御支援を得たということは、今までの改革路線を支持し、推進しろという声だと私は受け止めています。そういう観点から、今回、これまでの民間にできることは民間に、地方にできることは地方に、民間のやる気と地方の特色を生かしたような改革が必要ではないか。改革なくして成長なしという基本方針を更に推進していかなければならない。そのためには、今まで顔ぶれを変えろという党内の意見もありましたけれども、むしろより鮮明にこの構造改革路線を邁進するという時期に来たと判断いたしまして、今回の内閣改造に踏み切りました。今までの閣僚もよくやっていただきました。

 そういう中で、新たな時代の転換期に対応できるための顔ぶれもそろえなければいけないなと。熟練した年輩の方々の経験も大事ですが、同時に新しい時代のための人材も育成していかなければならない、若がえりも図らなければならない。そして、将来は若い人のためにある、経験ある方々の支え、若い方々のやる気を反映して、今までの改革路線を進めていこうということで、内閣改造、党役員の人事に取り組んだわけであります。

 この顔ぶれを見れば、小泉内閣の改革推進路線は微動だにしないということがおわかりいただけたと思います。今後とも多くの国民の御理解と御協力を得て、だめだだめだと、日本経済ますますだめになると、小泉改革路線は日本経済を破綻させると、小泉変われば景気がよくなるという悲観論から、ようやく明るい兆しも見えてきたなと、よく国民はこの2年数か月厳しい状況に耐えてくれた、そういう耐えた中で明るい兆しが見えてきた。この路線を堅持して、明るい兆しを本物の、民間主導の持続的な経済成長につなげるように、改革路線を進めていきたいと。そういう意味での意義ある私は内閣改造だったと思っております。国民各位の今後とも小泉内閣に寄せます支援と期待に応えるように、精一杯努力を続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【質疑応答】

【質問】総理、まずお聞きします。今回の第二次改造内閣、総理はまずどのように命名されるのか、端的にお答えいただきたいと思います。

【小泉総理】一言で言えば、改革推進内閣だと思います。政策転換をしない、今まで進めてきた改革を推進していく、そのための体制を整えた、そう御理解いただければありがたいと思います。

【質問】続けて、人事の具体的な中身についてお聞きしたいんですけれども、特に自民党の方から竹中さんについて交代を求める声が強かったわけですが、総理は結局、経済財政担当、金融担当そろって兼任のまま留任ということを決断されたわけですけれども、この辺についてどういうお考えだったのか、更に党側からは人心一新という声が多かったですけれども、結局6人の閣僚が留任されていますけれども、この点についてもお答えいただきたいと思います。

【小泉総理】竹中大臣を変えろ、また、民間人よりも国会議員を起用しろという声が確かに自民党内には強かったわけです。

 しかし、小泉内閣発足以来、私は、竹中大臣の経済政策に対する考え方を支援してまいりました。また、その方向性、路線は正しいと思っております。

 もとより、私が就任したときには、2〜3年の低成長、ゼロ成長は我慢していただきたいと、歯を食いしばって野放図な国債発行による公共事業拡大路線で今の景気状況がよくなるわけではないと、そういうことから私は竹中大臣のもろもろの施策、提言、これは正しいと思っておりましたから進めてきたわけであります。

 そういう中で、なかなか景気が回復しない、株価も下がる、経済指標も思わしくない、失業率も改善しないという中で、多くの批判が出てまいりましたけれども、私は、今、ようやくここに来て、厳しい状況には変わりありませんが、失業率も5.3%で高い状況でございますが、最近ようやく就業者数についても増加傾向が見えてきた。倒産件数も前年に比べて12か月連続減少してきております。

 更に、株価も4月に8,000円を切ったときには、まだまだ下がるという見方が大勢でありましたけれども、ようやくここに来て、もうあのときが底だったんではないかと、1万円を超えて、やはりあのときが底だったのではないかと。企業の収益も改善しています。また、公的資本形成、税金を投入しなくても、民間主導の設備投資が増えてきている、それが1つの明るい兆しになっている。やる気が出てきたなと。今まで1,000万円以上ないと会社を立ち上げることができなかった。しかし、1円でも会社をつくることができますよと。それを可能にした結果、既に4,000社という新しいベンチャー企業が出てきた。地方も稚内から石垣までという都市再生事業、構造改革特区構想、地方の意欲が出てまいりました。

 私は、この厳しい二年数か月耐えてくれて、ようやくもう余り政府に依存してはいかんなと、税金使えば、公共事業を増やせば景気がよくなるという時代は終わったと、企業においても、地方においても、自らの知恵と努力で、何とかこの苦境を脱却していかなければならないという意欲が出てきたと思います。この民間なり、地方の意欲を支援する、そういう環境を整えるのが、政治の大きな役割だと思います。

 そういう点から、私は竹中大臣を代える必要はないと、むしろ景気対策にしろ、竹中路線は不景気にするという声とは逆に、いや竹中路線、これを小泉内閣として継続していくのは正しいと、あえて批判の中、代えろという大合唱の中、全く代えないでやるということは、小泉内閣の改革路線は全く変更ないという意思表示を国民に示すという意味において、私は意味があったと思い、あえて留任を要請したわけであります。

【質問】基本政策についてお伺いします。消費税率について、総理はかねて在任中は上げないとおっしゃっていたわけですけれども、この内閣が変わったのを機にもう一回聞きたいんですが、この内閣でも消費税率を上げる考えはないんでしょうか。

【小泉総理】はっきり申し上げますが、私は長くてもあと3年間です。3年間の間に消費税を上げる環境にはないと思っております。消費税を上げないというのは、先送りだとか、無責任だという声がありますが、私はそれだったら、そういう批判をされる方に聞きたい。はっきり上げるという立場で私を批判してくれと。恐らく、マスメディアの皆さんは、上げるか上げないかはっきりしない立場で私を批判しているんじゃないでしょうか。少なくとも消費税を上げる環境が3年以内に整うかどうか、これはもう政治家の見通しの問題です、今、税金の無駄遣い構造を徹底に見直すという、行政改革、財政改革をやっている。この最中に、今までの3%の消費税導入は、物品税を廃止するとか、所得税減税のための財源だったんです。3%から5%に引き上げるときも、まだ日本の所得税の累進税率が高いということで、もう一段の所得税の減税をしようということで、減税の財源として3%から5%に引き上げたんです。

 今回の消費税を上げろという論者は、財源が足りないから上げろというんでしょう。せっかくここまで歯を食いしばって頑張ってきた。無駄な予算を削ろう、不必要な事業を見直そう、削減しようと。そういう中にあって、財源が足りないから先に消費税を上げれば、これは責任ある態度だと、とても私にはそうは思えない。まだまだ削るべき無駄な予算というのはあります。その改革が先だと、3年間かかる、3年見て消費税を上げようという方が、私が総理を辞めた後に出てくれば、それを縛ることはかえって無責任だから、後の方が考えてくださいと。どうしてこれが無責任というんでしょうか。見通しです。3年間に消費税を上げる環境になると言ったんなら、そういう立場から私を批判してくるなら。

 しかも道路公団の民営化、既に民営化は決定してます。来年には法案も出します。特殊法人等に一兆数千億円の税金を昨年からもう投入してないんです。道路公団にも税金は投入してません。

 郵政民営化、19年から郵政民営化しようと答申を出しています。中身はこれから議論します。将来郵政民営化すれば、株式会社になれば恐らく数兆円規模の株式売却利益が出るでしょう。官の分野の構造改革を徹底的にやった後、もうこれ以上予算を削減するのはやめてくれというときに、初めて財源がないから消費税を上げるならわかります。

 そういう段階でなくて、わずか3年間で消費税を上げないのは作為的だとか無責任だという、その批判の方が私は無責任だと思っております。

【質問】続けて、基本政策について、もう一点憲法問題について総理はかねて憲法9条の自衛隊の位置づけなどで問題提起されています。この内閣で、それを議論して、つまり政治課題とするお考えはないんでしょうか。

【小泉総理】私は、はっきり申し上げておりますように、2005年、自由民主党結党50周年。再来年、まだ1年以上ありますので、その間に50周年を一つの節目として、自民党自身が自主憲法とはどういうものか、今の憲法、どこを改正したらいいかということを党の案をまとめてほしいと指示しております。

 政党として、党の案がまとまれば、当然野党も対案を出してくるでしょう。既に新聞社の中でも憲法改正案を出している新聞社もあります。言わば、自由民主党がそういう案を出してくれれば、国民的な議論が巻き上がると思います。そういう中で、どういう点を改正すべきかという議論が高まってきますし、1政党だけで憲法改正できるものではありません。各党が対案を出し合って、お互い国民に理解と協力を求めながらなされるのが憲法改正だと思います。そういう点から、私は2年後に自民党としての素案なり、憲法改正案をまとめるということは、国民的議論を喚起する意味において、有意義なことだと思いますので、そういう方向でいま自民党に指示しているところでありますが、たとえ2年後にまとまったとしても、すぐ自民党の案が政府の案として、あるいは国会議員の中で3分の2以上の支持を得て出せる案になるとは限らない。できれば、憲法改正というのは、第一党と第二党、次の野党でも将来政権を担当しようとする政党と協調できれば望ましいということを考えますと、私がこの3年の間で具体的な政治課題として持ち上がるかどうかというのは、極めて疑問に思います。そういう点において、私の長くても3年間というこの任期を考えますと、政治課題山積している中に、憲法改正を具体的な現実の政治課題として乗せるには短か過ぎるのではないかと思っております。しかし、党としての改正案をまとめることにおいて、国民的な議論、各政党の議論、国民総参加の下で憲法改正の議論が高まってくれば、それはそれで有意義なことだと思っております。

【質問】外交についてお伺いいたします。今回川口大臣を留任させる一方で、拉致問題を担当してきた安倍副長官が、党の幹事長として党に移りました。

 拉致問題の解決に関して、5人の被害者の家族の帰国がなければ、国交正常化交渉はしないという基本方針に変わりがないのかどうか、お聞かせください。

【小泉総理】基本方針は変わりありません。できるだけ早く家族の方々を日本に返してほしいと、これは今までも進めてまいりましたけれども、これからも進めてまいります。

 6か国協議も始まりましたけれども、なかなか進展していないということで、家族の方々は勿論、多くの国民の方々も憤りの気持ちを持っておられるということは承知しております。政府としても、この拉致の問題、核の問題、ミサイルの問題、総合的に包括的に解決していかなければならないと思っておりますが、まず、拉致家族の皆さんを早く日本に返すと、これが前提だということを北朝鮮側にもたびたび伝えているわけであります。

 今回、安倍副長官が党の幹事長に就任されましたけれども、政府にいようが、党の要職にいようが、この立場は変わりありません。今後とも政府・与党一体となって、北朝鮮に対しまして、かねての懸案、早く北朝鮮側が誠意ある対応を見せるように、そして将来国交正常化につながるような努力をあらゆる手段を尽くして、今後も展開していきたいと思っております。

【質問】総理は、総裁再任されたときの記者会見の席で、解散・総選挙について、次の臨時国会で解散・総選挙の声はまだやんでいないと、臨時国会に当たっては緊張感を持って望まなければならないというような言い方をされましたけれども、今日正式に26日の臨時国会の招集が閣議決定されました。それで、ここでは、テロ特措法の改正案などが審議されるかと思うんですが、この解散の時期というのは、テロ特措法改正案が成立した段階では速やかに行われるのかどうか、また、解散に当たっての争点というのはどのようなものを想定されているんでしょうか。

【小泉総理】このテロ特措法の法案を成立させなければならないということは大前提なんですが、解散の時期はいつかということでありますが、これは国会の状況によりますが、野党の対応、出方を見る。同時に、議員心理として、もう3年以上任期が過ぎて、遅くとも来年6月までにあるということを考えれば、いつあってもおかしくないなという、そういう心積もりは、与野党の議員を通じてあると思います。

 それと、7月に閉会した国会でも、野党は解散を要求してきたわけです。小泉内閣不信任案を出してきたわけです。その解散を要求した野党の対応が、ここに来て解散しなくていいという状況になるとは私は思っていません。

 そういうことを考えると、私はそれなりの緊張感を持って、国民に信を問う時期はそろそろ来たのかなあという感じも率直に言って持っております。

 それはもとより、国会の状況を見なければわかりませんが、そういう緊張感を持って自由民主党は、公明党、保守新党とも協力を得て今日まで難問に取り組んでまいりましたけれども、これからも国民の信任を得ることができるように、心して体制を整えていかなければならないと思っております。

【質問】党改革についてお伺いしたいんですけれども、総裁選の過程で、総理は党の政策責任者を入閣させるという動きに対して、非常に慎重な姿勢を示されたというふうに理解しております。

 今、党の政調は、部会、政審、総務会というふうなボトムアップの方式を取っているんですけれども、政策決定のスピード等を考えた上で、こういった党の政策決定の在り方というのを変えていくお考えはあるんでしょうか。

【小泉総理】これは、今まで二年数か月随分変えてきたと思いますね。部会から上がってくる、あるいはその了承を得られなかった法案も出して、結果的に最後は協力してくれていると。

 私は、今後も自由民主党というのは、一部支持団体のための政党ではないと、一部会の意見というのは、自民党全体の意見なのかと、それをよく見極めないといかんということから、自民党が真に国民全体のための支持から成り立っている政党だと、そういう国民政党になるためには、たとえ今までの自民党の支持団体の要求でも、あるときは全体を考えてその要求を受け入れられない場合があると、そういう機能を果たせるように、よく自民党の幹部は考えなければいかんということで、これからも対応していかなければならないと思います。

 これからも、私は党の政策責任者を内閣に起用しろという声も一部の指揮者の中にありますが、政治の運営の現実を見ると、それはかえって効果が出るかどうかは疑わしいと思います。やはり内閣は内閣、与党は調整がいろいろあります。自民党、公明党、保守新党、更には野党対応がある。役割分担というのがありますので、党は党として内閣の方針をはっきりと基本方針に掲げているわけですから、それに協力して執行部も就任してくれと、閣僚も就任してくれと。そういう全体の基本方針というものをよく理解して、今回就任していただいているわけでありますので、方針は中身を詰める場合には、いろんな議論が出てきます。

 しかし、大枠方針は決まっているわけでありますので、その方針に向かって、私は協力を得られるような議論をしなければならないと。時間も必要でしょう、私が独裁者とか、独断的と言いますけれども、決してそういうことはない。万機公論に決すべしということもありますので、方針は方針として中身を詰めるためには、党内のいろんな意見を聞き、各党の協力を得ることができるように、また国民の理解を得ることができるように、十分な準備をして、この目的実現のために向かっていきたいと思います。