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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2次森改造内閣発足後の森総理大臣記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2000年12月5日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

冒頭発言

【森総理】今年の4月に小渕前総理の後を受けまして内閣総理大臣に就任して以来、景気の1日も早い回復と九州・沖縄サミットの成功、そして我が国経済社会全体の構造改革であります日本新生を目指して全力を傾けてまいりました。

 先の臨時国会では、国民生活に直結する補正予算のほか、IT基本法の制定、少年法や警察法の改正、参議院選挙制度改革やあっせん利得処罰法の成立、健康保険法改正など、21世紀を目前にして多くの成果を上げることができました。これらは、国民生活に深くかかわるなど、国民の関心が高いテーマでありまして、政府・連立与党3党の協力の成果であると考えます。

 これまで、国民の皆様からいただきました御支援、御協力に対しまして、改めて心からお礼を申し上げる次第でございます。

 さて、間もなく21世紀を迎えます。来年1月6日から実施されます中央省庁改革は、21世紀の我が国にふさわしい行政システムを構築する歴史的な改革でもあります。こうした新しい時代の幕開けに備えまして、私は本日内閣改造を断行いたしました。改革後を見通した新たな体制で、来年度の予算編成作業を行って、十分準備期間をもって1月6日からの、正に新しい新生政府のスタート、そういったことに対しまして、万全の備えをいたしたい、このようなことが必要であると判断をいたしたからでございます。

 内閣改造に先立ちまして、公明党、保守党の党首会談を開きまして、共に政権を担う責任ある連立与党として、これまでの実績を踏まえまして、引き続き強い結束の下に政権を運営していくことを改めて確認いたしました。

 今回の内閣改造は、この内閣に与えられました重大な使命をしっかりと踏まえて、政策の継続性に留意をしつつ、閣僚一人一人が国民から求められる役割を十分に果たせるように適材適所を心掛けました。さらに、宮沢さん、橋本さんのお二人の総理大臣経験者に入閣をいただきますなど、21世紀という新しい時代を切り拓いていくために、十分に強力な布陣を整えるべく意を用いた次第であります。

 政府が直面する政策課題に成果を上げていくためには、中央省庁再編の改革による新しい組織に魂を入れることはもちろんのこと、政府が持てる力を政策の遂行に糾合していけるよう、行政の改革に不断に取り組んでいかなければなりません。そのため、行政改革担当大臣を設けることとし、その任を中央省庁再編に強力なリーダーシップを発揮されました橋本元総理大臣にお願いすることといたしました。国民本位の行政の確立を目指し、行政の減量・軽量化、効率化、情報公開、政策評価などの行政改革に内閣一丸となって取り組んでいく決意であります。

 また、内閣として沖縄が抱える諸課題の解決に向けて全力で取り組むため、橋本大臣には併せて沖縄開発庁長官及び沖縄担当大臣をお願いをいたしました。さらに、省庁再編後には、北方対策担当大臣もお願いすることといたしております。

 内閣の当面の最重要課題は、景気を1日も早く本格的な回復軌道に乗せることであります。我が国の経済は、これまでの迅速かつ大胆な政策によりまして、あともう一押しというところまできております。まず、先に決定いたしました、「日本新生のための新発展政策」を着実に実行に移すことが必要であります。この景気の自律的な回復に向けた正念場を乗り切って行くため、宮沢大蔵大臣に御留任をお願いするとともに、経済産業政策に通じておられます額賀さんに、省庁再編後の経済財政諮問会議を担当する大臣への就任を念頭に置きまして、経済企画庁長官をお願いすることといたしました。

 平成13年度予算編成につきましては、景気を確実な自律的回復軌道に乗せるという考え方を維持しつつ、これから編成作業に取り掛かることといたします。その際、当然のことながら、財政の効率化と質的改善を図るため、公共事業の抜本的な見直しに取り組むなど、中央省庁改革を好機といたしまして、施策の大胆な見直しと効率化を進め、新世紀のスタートにふさわしい予算となるように全力を尽くしたいと考えております。

 私は、我が国には大きな潜在力、潜在的な成長力があるというように考えております。自由闊達で、創意工夫にあふれる経済活動を活発にすることで、それを大きく開花させることが必要だと思います。そのためには、思い切った経済構造改革に取り組むことが不可欠であります。経済構造改革を担当する通商産業大臣には、先般、経済構造改革のための新たなる行動計画をおまとめをいただきました平沼さんに、引き続きお願いすることといたしました。

 我が国が持つ潜在力を十分に発揮し、力強い経済成長を実現させながら、必ず成し遂げなければならない課題であります財政構造改革への準備も怠りなく進めていきたいと考えております。

 IT革命の推進は、新しい発展のための核となるものでありまして、内閣一体としてこれを強力に進めるため、IT担当大臣を置くこととして、その任務を額賀さんにお願いすることといたしました。臨時国会では、IT基本法の制定をいたしました。来年1月からは、法律に基づきましたIT戦略本部を設置をいたします。そして、私自身がそのリーダーシップを発揮するために、重点的に講ずべき具体的政策を迅速かつ大胆に決定して、実行に移していきたいというように考えております。

 構造改革を進め、経済の活力を高める一方で、国民一人一人が安心し、ゆとりある人生を過ごせるようにすることが大切であります。私は、物質的な豊かさのみを追求し、競争一辺倒の思いやりのない社会ではなく、日本の文化や伝統を大切にし、人々が互いに協力し合う社会を目指すべきであると考えております。

 その点におきましても、教育改革は極めて重要な課題であります。文部大臣には、教育分野に十分な経験をお持ちの町村さんにお願いをいたしました。亡くなられました小渕前総理が教育改革をスタートさせたいと私に相談がございまして、そして当時副幹事長でございました元文部大臣である町村さんに是非事務局長をやってもらって、そしてこの教育改革を何としても実現させたいんだという、そういう御相談が私にございました。そういった経緯から、今回のいよいよ最終的な答申をいただく、教育改革国民会議がまとめてくださる教育改革を実行していただくためには、町村さんに御担当をいただくことが極めて私は適切な判断だと考えました。21世紀の日本を支える子どもたちが、創造性豊かな「立派な人間」として成長することが必要であり、思い切った教育改革を断行してまいります。私は、来年の通常国会を「教育改革国会」と位置づけて、学校教育に関する事項、公立学校の学級編成、教職員定数の標準などに関する法改正を始めといたしまして、直ちに取り組むべき課題について、一連の教育改革関連法案を提出したいと考えております。

 さらに、国民生活のセーフティーネットであります社会保障制度を再構築し、揺るぎないものにしていくことも最重要の課題であり、公明党の坂口さんに厚生大臣を労働大臣とともにお願いすることといたしました。私は、年金、医療、介護、雇用等、生涯を通じた社会保障全般について、実際に費用を負担し、給付を受ける生活者の視点に立って、横断的・総合的な見直しを進めていくことが必要であると考えております。給付と負担の在り方について国民的な議論を行い、幅広く検討していきたいと考えております。

 また、保守党の扇党首には、引き続き建設大臣をお願いするとともに、併せて運輸大臣、国土庁長官、北海道開発庁長官もお願いすることといたしました。扇大臣には、中央省庁再編後に発足する国土交通省において、個別行政の所管や利害を離れて、既成の考え方にとらわれずに、改革の成果を十分に発揮していただくようにお願いをいたした次第です。外交面におきましては、米国の新政権との信頼関係の確立を図ることはもとより、日露平和条約交渉、日朝国交正常化交渉等、重要な課題が山積いたしておりますので、河野外務大臣に御留任していただくことといたしました。内閣としては、グローバルな座標軸を設定して、先見性と戦略性を持って積極的かつ創造的に外交を展開してまいりたいと考えております。

 このほか、各閣僚とも高い識見と豊富な経験をお持ちの方ばかりでありまして、私としては、現下の諸課題に対応するための最善の布陣であると自負いたしております。

 各閣僚には、来年の1月6日の中央省庁改革後の新しい体制の下でも、引き続き閣僚としての責任を果たしていただきたいと考えております。私は、内閣発足後の初閣議におきまして、全閣僚に対し、円滑に新組織に移行し、改革の本旨であります「国民の立場に立った総合的、機動的な行政」を実現するため、改革後を見通して行政各部を督励し、連帯感の醸成と使命感の喚起に努め、改革のメリットを国民にとって確かなものとするため、全力を挙げて取り組むよう指示をいたしました。また、行政の公正性、透明性にも留意し、閣僚が率先して国民に対する説明責任を果たすべきであることも併せてお願いをいたしました。

 なお、政務次官につきましては、新体制移行後、極めて重要な役割を果たします副大臣に就任をいただくことを念頭にいたしまして、政策的な能力や経験などを十分に考慮して、明日にも決定をいたしたいと考えております。

 私は、日本新生を目標に掲げまして、これまで国政をお預かりをいたしてまいりました。日本新生は、日本の経済社会全体を新しい多様な知恵の時代にふさわしい構造と発想に変えようとする大きな改革であります。この内閣は、21世紀を迎えるに当たり、日本新生に向けた経済社会の構造改革に全力で取り組む「実行と責任の内閣」でありたいと考えております。

 私は、「日本新生」という目標は、国民全体が共有することが必要であると申し上げてまいりました。改革には、時として痛みも伴います。しかし、私は改革を先送りすることなく、経済構造、教育、社会保障、司法など、様々な社会のシステムのあるべき姿について、広く国民にビジョンをお示し、国民的な議論に根ざした改革に、真正面から取り組んでいく決意であります。

 私は国家、国民のために何が必要かを第一に考え、全身全霊を傾ける決意であります。この内閣の閣僚全員も、また同じ思いであります。私は、このチームを率い、国民の皆様の声に耳を傾け、また国民の皆様に積極的に語り掛けながら、必ずや大きな成果を上げ、期待に応えていきたいと考えております。

 国民各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。

質疑応答

【質問】まず最初は、今回の改造人事では、政策の継続性、あるいは専門性ということを重視されて、留任する閣僚、あるいは経験者の登用などが目立ちますが。中でも、橋本元総理大臣が行政改革担当、沖縄北方担当ということで起用されたことが大きな特徴だと思います。今回、行政改革を全体の中で大きな柱と位置づけた理由と、橋本元総理大臣は具体的にどのような役割を果たしていただきたいのか。また、行政改革は総務省の所管業務でもあります。橋本元総理大臣が、特命相として仕事の振り分けをどのようにやっていくのかということ、総理大臣としてどうお考えでしょうか。

【森総理】今回、宮沢大蔵大臣に加えまして、橋本元総理にも入閣をお願いをいたしました。これは、この改造に当たりまして、私が何としても実現したいと思って、率直に申し上げて一生懸命、橋本先生といろんなお話し合いをかなり前からいたしてまいりました。特に、この21世紀という新しい時代を切り拓いていくためには、十分な強力な布陣を整えるということが、何よりも大切だということを考えました。同時に、中央省庁が1月6日からスタートするわけでありますが、この中央省庁を改革するリーダーシップを発揮されたのが橋本元総理大臣でもあるわけでございまして、単に1府12省という形だけ、枠組みだけを整える、そして形だけが行政改革が進んだということであってはならないと。本当に、この改革をしたことが、行政官庁をこういうふうに再編成したことが、本当に実効あるそういう役所になるという所期の目的をきっと果たすということが大事でありますので、その行政、中央省庁改革に魂を入れるということが重要だというふうに考えました。そういう意味で、当時お作りになって大変苦労されて、この問題に直接総理大臣として担当されました橋本さんに、このことをしっかりこれから補足をしていっていただくと、フォローアップしていっていただくということが、私は大事だというふうに考えたわけでございます。

 同時に、これは単なる行政改革の入口に過ぎないと私は思っているんです。これから、更に特殊法人を始めとして、公益法人、まだまだ多くの行政改革の課題がたくさんあるわけでありまして、先般、続前総務庁長官には、12月1日にこの行政改革大綱を更にまとめていただきました。ですから、これを何としても実行させなければなりません。これにつきましては、当時、野中、冬柴、野田、3幹事長からも強い申し入れが政府にございまして、何としてもこれを実行しようということでございました。こうした、次なる行政改革に実を上げていくということに関しましても、やはり強力なリーダーシップが必要だと思います。私も勿論先頭に立ちますけれども、この中央省庁再編という大きな日本の正に新しい政府がスタートする、そのことをまとめられた、努力をされた橋本さんに、更に魂を入れていただくことに努力をしていただく、それを私と一緒にやろうと、それが正に21世紀の行政改革ということなんではないだろうか、こう私は率直に橋本先生にお申し出をいたしました。強い御辞退もございましたけれども、今日2回にわたりましてお目にかからせていただきまして、そして心からの御快諾をいただきました。大変、私はありがたいと思っておりますので、2人でしっかり協力し、また全閣僚の協力を求めながら、是非中央省庁再編後のスタートについた日本の行政改革、そして一番国民の税金をできるだけ無駄使いをしないように、小さな政府を最後まで実効あるべき形にもっていく、更に将来の地方の行政改革にも、ある意味では大きな役割が果たし得るように、そういうことを努力していくために、橋本大臣に御入閣をいただいたということでございます。

 総務省との所管業務にどうなるのかというお尋ねでございますが、恐らく橋本元総理も会見のときに、この枠組みについてのペーパーをお示しになったというふうに伺っておりますけれども、先ほど申し上げましたように、新しい中央省庁をどう進めていくか、どう中身を実効あるべきようにしていくかということが、橋本行政改革担当大臣の大きな命題だろうと思いますし、一方総務省は、これから、これは自治省や郵政省と一緒になっていくわけでありますから、行政改革だけを進めていくという省庁でもないわけでございますので、そういう意味ではこの役割分担を、担当をしっかりとお互いに区分けをしながら、橋本担当大臣には、今申し上げた中央省庁、規制改革、あるいは行政委託型の公益法人等の改革、公務員制度の改革、特殊法人等の改革というものを進めていただくと、それから、総務省には地方分権の推進でありますとか、公会計の見直し、改善でありますとか、行政評価システムの導入でありますとか、あるいは電子政府の実現、情報公開の推進、減量・効率化の推進、その他の大綱に定める行政改革の推進、こういうふうに役割をお互いに分担しながら、なおかつ協力をし合いながら総合的に実効あらしめていくことが大事ではないかというふうに考えております。

【質問】現在、各種の世論調査で内閣の支持率が低迷しておりますけれども、それによって自民党内だけでなくて連立与党からも、森政権で果たして来年の参院選を闘うことができるのかという疑問の声が起きておりますが、今回の内閣改造で、果たして挙党一致体制をとれるような形を作り得たのかという点と、そして連立を組む公明、保守の協力信頼関係を今後どうやって築いていくのか、2点回答をお願いいたします。

【森総理】今日内閣改造を行いまして、内外の諸課題に対応し、21世紀の我が国の未来を切り拓いていくための強力な布陣を整えることができたと先ほど申し上げました。そして、来年の1月6日の中央省庁再編の改革のメリットを国民にとって確かなものにしたい。そのための行政改革を強力に進めながら、更にあとひと押しというところまできました景気を本格的な回復軌道に乗せていく。IT革命への対応、教育改革や社会保障改革の実行など、政策を積み上げていきたいと思っております。

 内閣は、確かにそうした世論の支持率等も十分に謙虚に受け止めながら、日々更に努力をしていくことが大事だろうと思いますが、何と言いましてもやはり政策を着実に、ある意味では果断に実行していくことが大切だと、何よりも私はこのことが最重要視されなければならんと思っています。そういう意味で、冒頭申し上げましたようにこの改造に当たりまして両党党首、更に幹事長等とも十分お話を申し上げ、御協力を仰ぎ、そして両党からしっかりやろうということのお励ましもいただき、全面的に私にお任せをくださるということまでおっしゃっていただいたわけでありまして、そういった意味で,私はこの両党と一緒に3党強固なる連立を再確認でき得たというふうに考えておりまして、この3党の連立の効果を具体的に一つずつ進めていくことが、何よりも3党連立の枠組みを確かなものにしていくことになるのではないかというふうに思っております。

 我が党の中にも様々な意見が当然、自由民主党という政党は皆さんがそれぞれの思いで率直な御意見を発せられ、また私もそれをちょうだいをする。そういう中から日々反省をしながら新しい政策課題に取り組んでいるわけでございます。そういう中で、挙党一致の下に今回の内閣は私はでき得たというふうに考えておりまして、まずは連立与党の結束を強化しながら一つ一つ成果を上げていくことによって、来年の夏の参議院選挙においても国民の皆様から評価をいただけるのではないか、また、その評価をいただけるように一生懸命努力するということであろうと思います。

【質問】外交問題について1問だけ伺います。ロシアに絞りたいと思います。クラスノヤスク合意がもう今月一杯に迫っております。ロシアとの平和条約締結交渉を継続して行われておりますけれども、総理御自身のロシア訪問ということは現時点でお考えでしょうか。

【森総理】ロシアとの平和条約締結問題につきましては、先般、ブルネイにおきまして日露首脳会談をいたしました。その結果を受けまして、交渉を更に詰めていくために先週末、専門家レベルの協議も行われました。極めて双方率直なお話をされたという報告をいただいております。それで、今後時期を見て河野大臣が訪露するということになるのではないか。そして、これらの協議を進められたその実績の上でイワノフ外相と更に協議するということになっております。

 さらに、平和条約締結に向けました具体的な進展が得られるということであれば、年内にも私がイルクーツクを訪問することで、プーチン大統領との間でこれは合意をいたしております。時期につきましては、双方お互いに協議をしながら決めようということになっておりまして、むしろプーチン大統領からイルクーツクで会おうという強いメッセージをいただいておりますので、少なくとも平和条約締結に向けた具体的な進展が私は何らかの形で得られるのではないか、また、得られるように双方が今、努力を続けているということでございます。

 問題は、難しいものであるということはもう言うまでもございません。しかし、政府といたしましては、北方四島の帰属の問題を解決することによって平和条約を締結するというこの一貫した方針の下で、引き続き精力的な交渉を進めていくと、このような考えでおります。

【質問】先ほどの日露交渉の関連でございますけれども、橋本元総理が1月6日から北方担当も兼ねられます。橋本さんもこのロシア交渉に前面に立って出てくるのかが1点と、その何らかの形での進展は二島返還先行論を含まれるのか、含まれないのか。この辺をお聞きしたいと思います。

【森総理】橋本さんも、これまで大変日露の交渉に御苦労いただいております。当然、外務大臣を中心にしながら、また私も一緒に協力しながら、この日本の国民の願いであります北方四島の返還、そしてその後の平和条約の締結、このことに皆で協力し合って努力して合っていこうということでございまして、皆さんでスクラムを組んでしっかりとこの交渉に当たっていきたい。もちろん、橋本さんのこれまでのそうした御協力を、また、いただきたいというふうに思っています。

 御承知のとおり、小渕内閣、そして私の内閣の下におきましても外交の最高顧問というお立場を私はお願いをいたしてまいりまして、これまでもいろいろな御指導もいただきましたし、またそうした直接的な外交に対しても携っていただくようにお願いもしてきたところでございますから、こうしたことをお互いに皆が力を合わせながら、内政であってもすべてやはり外交にも大きく通ずる問題ばかりだというのが昨今の政治課題だろうと私は思っておりますので、そうした面でしっかりと協力し合っていけるというふうに考えております。

 それから、2つ目の御質問がございました。これは先ほどから申し上げましたように大変な難しい問題でございますが、一貫して北方四島の帰属の問題、これを解決することによって平和条約締結というのは我が国の政府の一貫した考え方でございまして、その大きな前提の中でどのように日露が歩み寄ることができるかということを今まさに問題点を詰めているところでありまして、そうした努力を更にこれからも継続していきたいと思っています。まだ率直に言いまして、今年末まで20日以上あるわけでありまして、日々更にこれを努力していこうと。近々また河野さんに訪露もお願いをしようと思っておりますから、最後まで努力をしたいというふうに思っております。

【質問】橋本元総理は財政改革を進められて、一昨年の参院選で小渕内閣に替わり、財政再建路線というのは方針転換したと。そういう中で今、森総理が進められている小渕内閣を継承した経済政策と齟齬はないのかということが1点と、それからそのすり合わせをしておられるのかどうか。更に、先ほど冒頭の発言で財政構造改革への準備も怠りなく進めていくという発言がありましたけれども、そろそろやはりタイムスケジュールみたいなものを示す時期ではないでしょうか。その2点を伺いたいと思います。

【森総理】橋本内閣当時は、もちろん財政への健全化の大きな目標もございましたし、同時にたまたまそういう時期にアジア経済が大変大きな低迷をいたしたり、また我が国の経済もバブルがはじけるというかつて経験したことのない経済のそういう事態に直面をいたしました。そしてまた、引き続き私どもとしては税制の問題もございました。そういう様々な問題が一緒になったのがあの時期であったと思っておりまして、財政再建のためだけの、また経済低迷とか、そういうことだというふうに、私は一つの問題を焦点として当てるべきではないと考えているんです。

 そういう中で、まずは経済を立て直そう。まずは日本の経済をよりよいものにしていくことによって、そしてその次にくることは当然財政の健全化ということに着手していくべきだろうと。小渕さんも絶えず「二兎を追う者は」ということの表現をしておられましたが、2つのウサギを追う者という意味ではなくて、1つのことをまず解決をして、そして次の目標に向かって進もうという、そういう思いが当時小渕さんにはおありでありましたし、私も党の責任者でもございましたので、そうしたことを御相談しながら進めてきたわけです。それで、常々申し上げておりますように、財政というのは極めて厳しい状況にあることは皆様方からの御指摘でも承知をいたしておりますし、一方では財政構造改革は必ずこれは実現しなければならないものであることは論を待たないというふうに思っております。それで、これは単に財政面だけでなくて税制や社会保障の在り方、これは有識者会議の答申もいただいておりますので、そうした社会保障を国民がどういうふうな形で負担をしていくのかということも十分考えなければならんし、更に中央と地方、これとの関係ということも大事でございますし、経済社会全体の在り方にまで及ぶ課題であるということも常々私は国会でも御答弁申し上げてきております。

 これだけの大きな課題でありますだけに、我が国経済の足下が不安定ではこうした重要な問題に着手できるわけはないわけでありますから、まず我が国経済の成長の道筋もしっかり見通せず、あるいは将来の計画のフレームを描けないということになってはいけないわけであって、まずは引き続き私は本格的な景気を回復軌道にしっかり乗せると、それは先ほど申し上げたように、あともう一歩というところにきているわけでありますから、幸いこの補正予算を成立させていただきましたし、そしてまた13年度の予算編成に、今のこの状況でまいりますと、臨時国会をこうした形で終えましただけに、余裕をもって13年度予算に取り組むことができます。そうしたことを国民の皆さんにアナウンスメントしていけるということがとても大事なことで、これはまた微妙に経済、日本の国内経済のみならず、世界の経済にも大きく影響していくことでもありますので、そうしたことをしっかり道筋を立てながら、まずは景気回復を本格的にし、そして財政再建への取り組みの道筋と言いましょうか、そうしたことを描いていきたい。そのために、宮沢大蔵大臣に引き続きこうしたこともお願いしたということも、そういう意味からであるわけでありますし、今、御指摘のように、齟齬でありますとか、そうしたことは全くないわけで、橋本さんにも一緒に入っていただいて、内閣全体としてこの問題に取り組んでいきたいという思いから、こうした内閣一致した取り組みを是非着実に進めていきたいと思っております。

【質問】関連してお伺いしますけれども、来年1月から内閣府には経済財政諮問会議ができまして、財政運営の基本的な方針を決めるということになっていますけれども、これについてはその現存の財政首脳会議と機能が重複するんではないかという指摘がありますけれども、来年1月に向けてその辺の整理というのはどういうふうにされるんでしょうか。

【森総理】財政首脳会議というのは、別に法律であるとか、あるいは固定化したものではないんです。来年の経済財政諮問会議というのは、率直に言えば14年度からの予算にむしろ携わっていくということになると思います。

 したがいまして、もちろんその前に日本の財政でありますとか、経済については十分検討していくわけでありますけれども、したがってこの13年度予算に対して、全く与党が基本的な方向、基本的な考え方も示さないままで進めていいのかということになって、むしろ当時あれは私が政府と与党とが一緒になって協議する、あるいは方針を決めるということが大事ではないかということで、あの会議を設けたものなんです。

 ですから、これがずっと固定化して継続していくということでもないし、それでは単年度でやめるのかねということに対しても、まだそういう答えも出しておりません。とりあえず、今年の補正予算から13年度予算に対して与党の考え方を示す場面がないわけですから、これからそれでいいのかどうかということも問題になると思います。政府・与党の首脳会議であるとか連絡会議であるとか、いろんな会議があるからそれでいいじゃないかという意見もあるわけですが、それはかなり大人数のメンバーで国対委員長なども参加するような、そういう会合でありますから、そういう財政、経済だけを専門にやっていく与党と政府の協議体がないというのはいかがなものかなというふうに思っております。

 したがって、この財政首脳会議については、別に名称にそうこだわることもありませんし、政府と与党の連絡会議、懇談、協議、とにかく打ち合わせは絶えずしていかなければならないのではないでしょうか。特に経済財政諮問会議が、これからリーダーシップを取っていくということになりますと、これは経済界、民間の方々も入っている会議になるわけです。そうすると政治が全く入っいないと、政党が全く参加していないということにもなるわけでありまして、必ずしも政党が参加することがいいとか悪いということではなくて、やはり政党は政策を国民に示す、そういう責任があるわけですから、どういう考え方で進めるかということを事前に調整すると言いましょうか、政党の考え方を聞くという、そういう何らかの機会があってもいいのではないかということで、会をとりあえずスタートさせたということでございますから、これからどうするかについては、また与党側ともよく相談をして考えてみたいというふうに思っております。

【質問】今度の組閣に当たって、当初保岡さんの再入閣を総理としては希望していらっしゃったというふうに聞いております。また、田中真紀子さんの入閣も総理御自身意欲を示されたというふうにも聞いておりますが、結果的にそういう内閣ではなくなったわけですけれども、組閣の過程でなかなか自分の思うような人事ができないなというような、そういうような経緯というのはあったんでしょうか。

【森総理】皆さんはどういうふうに受け止めておられますか。私は今度の組閣は実にスムーズに、そして私の思う気持ちが十分入った、そういう組閣ができたと思っています。ただ、従来と違って皆様方に余りニュースが出ていかなかったということが、かえって何か苦労しておるのではないか、難航しているんじゃないかという御想像があったかもしれませんが。私、自分自身では誰にも、はっきり申し上げてここにおられる官房長官にも、自分はこういう方向でやろうと思うということを、そう具体的に御相談しておりません。大体自分なりに考えて、自分で電話も入れて、ある程度お話がまとまってから官房長官に申し上げて、お話に行って欲しいとか、了解を求めて欲しいとか、周囲の皆さんの、何て言いましょうか了解を得て欲しいとか、そういうふうなやり方をいたしましたので、大変皆さんには申し訳なかったんですけれども、どうもどなたが出てくるのかというのがお分かりにくかった。それが難航しているんじゃないかというふうに受け止められたのかと思っていますが、私の本当に思うとおりのことが今回できたし、できたというふうに思っております。

 そして特に、少し情緒的になって恐縮ですが、今朝の最後の閣議で申し上げたんですが、本当に今度の内閣は、今度と言いますかこれまでの内閣はよくやってくださいました。本当に短い期間だということを、ある程度承知をされながらよくもこれだけやってくださったかと思うぐらい実行をしていただいたと思っていまして、今日は本当に皆さんに最後のお別れのごあいさつを閣議で申し上げるときは、何とも言えない気持で私はごあいさつを申し上げました。

 ですから、7月に選任をさせていただいた、この組閣も私は最高のものであるというふうに思っておりましたから、皆さんができ得れば全員、本当は引き続き御留任をいただいてやってもらいたいという、そんな気持ちであったことは事実でございますけれども、しかしやはり新しい中央省庁再編という機会でありますから、改造せざるを得ないということを皆さんにお願い申し上げて、そして大体多くの問題でもみんな継続的にいく問題ばかりではありますけれども、まずは一つの区切りができたなということについては新しい閣僚にお願いすることにし、引き続き政策課題としてやっていっていただかなければならんというような外務大臣とか大蔵大臣でありますとか、そういうのは継続していただくということで、そういう考え方を基本に、頭に置いて、いたしたわけです。その中に今、御指摘がございました、法務大臣についても本当に司法改革に真正面に取り組んでいただいたと感謝をいたしております。

 そしてまた、これはIT関連の政策を進めるという件においても、あるいは今、経済の新生会議にいたしましても、そういう日本の企業経営、産業界、こうしたものも新しい、やはり司法の改革を求めているわけでございまして、そういう国際的な流れというものもございますので、そういう中で思い切った司法改革というものに保岡さんは本当に勇気を持って取り組んでいただきまして、その方向性も私は出していただいたと思っております。そういう意味で、できれば御留任をいただきたいという気持ちもございましたが、一つの区切りを付けたということと、そしてもう一つ、高村さんという専門的なお立場の、我が党に立派な方もおられましたので、高村さんにバトンタッチをしていただくという、そういう判断を私はしたわけです。

 それから、田中真紀子さんにつきましては、私自身がそんなことを考えたとか、意欲を持ったということは具体的に申し上げるべきことではないと思っておりますが、多くの方々から御推薦がございました。是非御考慮をいただくようにということもございまして、いろいろと考えましたし、それから党の御意見等も十分お聞きをいたしましたけれども、この前御当選間もなく閣僚として御活躍をいただいたということもございます。そういう意味から言いますと、党内にはそういうことに対するバランスと言いましょうか、そういうこともやはりございますし、またそれだけの力をもった方でもありますから、いずれまたそうした中で内閣に入っていただく機会も当然来るだろうと思っておりますが、まずは、我が党の中で田中さんの持っておられる、個性や力や、あるいは行動力、そうしたものを是非発揮して我が党の権威者的な役割もしていってもらいたいなというふうに希望しております。

【司会】どうも総理ありがとうございました。