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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 森内閣総理大臣記者会見録(広島市)

[場所] 広島市
[年月日] 2000年8月6日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【司会】それでは、ただいまから森内閣総理大臣の記者会見を始めさせていただきます。

【質問】まず、1つ目の質問ですけれども、森総理の「神の国発言」に対して、被爆者団体の中からは不快感を示す声が上がりました。「森総理は広島に来て欲しくない」という声も上がりました。今日のこれから開かれる被爆者の「要望を聞く会」では、代表の出席を取りやめるということでボイコットの意思を示した団体もあります。こういう反応をどのように感じておられるか。まず最初にお聞かせください。

【森総理】私の発言が十分意を尽くさない表現で、多くの方々に誤解を与えたことにつきましては、その後、いろんな機会におきまして、その真意を御説明を申し上げてきております。私の発言が原因で、本日の一部代表の方が御参加いただけなかったことは、大変残念なことだと思っております。

 私は、過去の歴史に学び、反省すべきことは反省し、未来に向かっていくことが必要であると考えております。

 本日、広島を訪れ、再びこのような悲劇が繰り返されるようなことがあってはならないという思いを新たにいたしております。その意味で、私にとっても今日の会合は大事な機会でありまして、出席された方々のお話は十分真摯にお承りをして対応してまいりたいと、こう考えております。

【質問】それでは、2つ目の質問ですが、今年5月にニューヨークで開かれたNPTの再検討会議の最終文書で、「核兵器廃絶に向けた明確な約束」という文言が盛り込まれました。これまでの「究極的目標」という表現との違いはどこにあって、今後の核兵器廃絶への取り組みをどのように促していかれるのか。また、具体的な日本の役割は何だと思われるか、お聞かせください。

【森総理】我が国は、94年に初めて究極的核廃絶決議を国連総会に提出をいたしましたが、このことは、核兵器国に最終的には核兵器のない世界を目指すという目標を認めさせた点では画期的なものであったと思います。

 先般の核兵器不拡散条約運用検討会議にて採択されました最終文書では、5核兵器国が「究極的」という文言を削除をいたしまして、「核兵器廃絶に向けた明確な約束」という文言を認めたわけでありまして、このことは核廃絶をより現実的な課題として認めたということになるわけでありまして、核廃絶へ向けてさらなる前進であったと、このように考えております。

 それから、先般の九州・沖縄サミットにおきましては、議長国として核兵器不拡散条約運用検討会議の成果に基づいて、核軍縮・不拡散に向け一層努力していくということで、G8の合意を達成をいたしました。改めて沖縄から世界に向けて平和へのメッセージを発出することができたと、このように感じております。

 我が国は唯一の被爆国といたしまして、今後とも核軍縮推進の先導役を果たす考えでありまして、今後は運用検討会議で合意された核軍縮に関する現実的措置の実施を確保するために、外交努力を一層強化していきたいと考えております。

 その一環といたしまして、この秋行われます国連総会にも新たな核廃絶決議案を提出したいと考えております。

【質問】それでは、最後3つ目の質問ですが、日本国内、そして朝鮮半島など海外には今も多くの被爆者の方が、今も続く被害と闘っています。今後、日本の被爆者、それから海外の被爆者、それぞれどのような援護対策を講じるべきだと思われておられますか。

【森総理】多くの被爆者の方が、今もなお国の内外において後遺症等で苦しんでおられることは誠にお気の毒に思っております。今日、平和記念式典に参列させていただきますこの機会に、原爆養護ホームの「倉掛のぞみ園」を慰問させていただきまして、あのような惨禍が2度と繰り返されることがないよう、また、被爆者の方々が安心して暮らしていくことができるように努力していくことが私の責務であるという思いを新たにいたしました。被爆者の方々の援護に関しましては、被爆者援護法に基づく各種援護施策が講じられているところでございますが、これからお伺いする御要望も真摯に受け止めて、被爆者の方々の実情を十分に酌み取りながら、被爆者援護法に基づく援護施策の着実な実施に努めてまいる、そのような所存であります。

 なお、朝鮮半島を始めとする在外被爆者の方への援護に関してでありますが、被爆者援護法は、法制定当時の経緯やその給付が保険料等の拠出を要件とせず公的財源により賄われているものであることなどから、国内に居住又は滞在している方のみを対象としております。

 しかしながら、この法律では国籍要件を設けていないことから、在外被爆者の方でありましても、日本においでになられた場合には、国籍を問わず、その間、被爆者援護法に基づく医療の給付等が可能になっておりまして、政府としては、対象となる方々が訪日される場合には、きちんと誠意を持って対応し、被爆者援護法に基づく医療の給付等の援護を行う考えでございます。

 また、韓国、北米、南米の海外の被爆者に対しましては、これまでも医療支援、健康診断事業といった措置を実施してきております。

 また、北朝鮮につきましては、本年2月から3月にかけて、朝鮮被爆者実務代表団が訪日し、日朝双方関係者の意見交換が行われたと承知をいたしております。

 今後ともかかる交流を通じまして、相互の認識が深められることを期待いたしておりますとともに、政府としても、在北朝鮮被曝者の実態に応じて、医療上の人道支援を含め、どのような援助が可能であるかを検討していきたいとこのように考えております。

【質問】総理は衆議院予算委員会で、靖国神社の参拝について、「国民や遺族の思い、近隣諸国の感情を考慮し、慎重に、自主的に判断したい」と答弁されましたが、公式参拝について最終的にどう判断されますか。日をずらしての私的参拝といった可能性も含めてお答えください。

 また、靖国神社を巡りましては、野中幹事長が官房長官時代にA級戦犯の分祀と特殊法人化を提唱しましたが、この考えについてはどう思われますか。

【森総理】常に申し上げておりますとおり、私自身、戦没者に対する追悼の気持ちは誰にも増して強く、また、今日の我が国の平和と繁栄が、戦没者の方々の尊い犠牲の上にあると考えておりますことには、変わりはございません。

 今年の8月15日につきましては、諸般の事情を総合的に考慮した結果、先に国会でも申し上げておりますように、私自身が、自主的に、また慎重にいろいろ判断をいたしまして、公式参拝することは控えたいと考えております。

 なお、今お尋ねの私的参拝についてということでございますが、これはまだその時期に至っているわけでもございませんし、これも国会で申し上げておりますように、私個人の心の問題でございますから、慎重、かつ自主的に判断をしたいとこのように考えております。

 それから、分祀の問題、あるいは特殊法人化の問題でありますが、これはもう我が党でも20年以上、この靖国問題を議論している中ではいつもこの問題が出ているわけでございまして、私自身も、まだ若いころにも、この点につきましても、議論を重ねてまいりました。靖国神社は宗教法人でありますから、憲法の保障する信教の自由に基づいて検討されるべきものと考えております。この時点で、政府として見解を申し上げる事項ではないと考えております。

【質問】総理は先の臨時閣議で公共事業の大幅な見直しの方針を示されています。これはどういったことを念頭に置いておられるのか。具体的にお答えいただければと思います。

 その中でも象徴的な存在となっています吉野川の可動堰、あと中海の干拓事業については、どのように対処されようと考えていらっしゃいますでしょうか。

【森総理】公共事業につきましては、近年、まず効果の乏しい無駄な事業が行われているのではないか、一度決定された事業は経済社会情勢が変化しても中止されていないのではないか、更に配分が時代の要請に応じて変化していないのではないか、こういう批判、あるいはこういう指摘があるわけであります。

 こうした状況を踏まえまして、13年度の公共事業予算の編成に当たりまして、まず私自身、先般、財政首脳会議を党と政府との首脳におきまして、会議を持って、その作業のスタートを始めたわけでありますが、日本新生プランの4分野等の重要課題への思い切った重点化を行う、それから、個々の事業についても、その必要性等を厳しく洗い直して、中止すべき事業は中止する等の抜本的な見直しを行うように閣議で指示をしたところであります。

 したがいまして、今、自由民主党におきましては、私が亀井政調会長に指示をいたしておりますが、「公共事業抜本見直し検討会」を設置をいたしまして、連日連夜と言ってもいいでしょうね、抜本的な見直し方策について、精力的な議論が行われているというふうに承知をいたしております。

 時折政調会長とは直接お目にかかったり、あるいは報告を受けたり、また、電話などでもこの状況の進捗状況について、私もその経緯を十分慎重に見ながら、相談をしながら、この検討会議の進め方と言いましょうか、進捗状況を見ている状況でございます。

 今度とも、私自らがリーダーシップを発揮して、政府与党一丸となって公共事業の抜本的な見直しをやりたいと、このように考えております。

 なお、あらゆる公共事業につきましては、その必要性を厳しく洗い直すということにいたしておりますが、今、御質問がございました吉野川の可動堰や、中海干拓事業につきましても、当然洗い直しの対象になるものと考えておりまして、近々、この検討会議の皆さんが現場を見られるということも予定されているようでありますし、更に亀井政調会長自身も、関係者を伴って一度現場に行って、現場の関係者等にも十分お話を聞いて、その対応をしたいと言っておりますので、その結果もまた待ちたいと、こういうふうに考えております。

【質問】最後の質問になりますが、あっせん利得罪について、国会議員だけではなく、秘書や地方議員も含める案がありますけれども、総理は適用範囲、法制化の時期についてどう考えておられますか。

【森総理】これも、たびたび国会の御質問等でお答え申し上げておりますように、政治倫理の一層の確立のためには、まず何よりも、政治家一人一人の自覚が大切であるというふうに考えております。いわゆるあっせん利得罪の法制化につきましては、野党が共同して法案を出しておられますことは十分承知をいたしておりますし、今、与党3党間においても、プロジェクト・チームを設けて協議を開始をしたところでございます。

 私としては、是非、各党各合派の間において、十分に議論がなされて、是非ともまとめていただきたいと、こんなふうに思って期待をいたしております。

 法制化に当たりましては、その目的について吟味をした上で、解釈次第で適用範囲が変わることのないように、犯罪の構成要件が非常に大事でありまして、このことを明確にする必要があるので、少なくともこの点については十分に論議する必要があると、このように思っております。

 したがいまして、まだ議論の最中でありまして、それぞれの党の間において議論をしているときでありますので、この時期について政府として確たることを申し上げるということはできませんが、私としては、できる限りこの国会でも十分な協議をし、成案を得ていただいて、次期国会での議論を是非期待をしたいと。あるいはまた、その議論の中によって成立まで、できれば御努力をいただきたいというふうに期待もしております。

 それから、野党案では、処罰対象を国会議員のみとしてあるようですが、公明党はそれを秘書にまで広げるということを検討しているということも承知をいたしております。私は、適用範囲についても、議論の過程において、地方議員、そして秘書も含めて、幅広く検討していただく必要があると思います。

 ますます地方分権が進んでまいりますし、予算等もできる限り地方の判断で事業の執行をするというようなことも多いわけでございますから、将来のことも十分考えれば、地方議員も対象にするということを検討の課題としていただくことは、私は当然ではないかなと考えております。

【司会】どうもありがとうございました。

 それでは、これをもちまして、内閣総理大臣の記者会見を終了いたします。

【森総理】どうも皆さん暑い中御苦労様です。