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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2次森内閣発足後の森総理大臣記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2000年7月5日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

 それでは、私からまず冒頭に発言をお許しをいただきたいと思います。

 昨日、衆参両本会議におきまして、内閣総理大臣の指名をいただきまして、引き続き重責を担うことになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 今回の総選挙におきましては、自由民主党、公明党・改革クラブ、保守党の連立3党派による政権の枠組みに対して、国民の皆様から信任をいただくことができましたが、一方では、厳しい御批判があったことも謙虚に受け止めて、常に国民の皆様の声に耳を傾けながら、21世紀に向けた国政の舵取りをしてまいりたいと考えております。

 私は、選挙期間中に「次なる時代」への改革の青写真として「日本新生プラン」を発表いたしました。今、国民の皆さんの信任と新たな負託に応えて、この「日本新生プラン」を具体化し、大胆かつ細心にその実現を図ることによって、21世紀に向け、確固たる日本の未来を切り拓いていきたい、そのような思いで一杯であります。

 私の「日本新生プラン」は、5本の柱から成り立っております。

 第1の柱は、「本格的な景気回復の実現」と「時代を先取りした経済構造改革の推進」を車の両輪として「経済の新生」を実現することであります。我が国経済は、これまでの政策運営の効果によって、平成11年度は3年ぶりにプラス成長を達成するなど、危機的状況は脱し、明るさを増しておりますが、雇用面や個人消費の先行きなど、なお不安もあり、今後とも景気が自律的な回復軌道に乗るまでは、景気回復に軸足を置いた経済、財政運営を継続してまいりたいと思っております。

 このため、まず5,000億円の公共事業等予備費を早急に、かつ国民生活の向上に直結するような分野を中心に執行すべく、昨日大蔵大臣に具体的な作業を急ぐようにお願いをいたしました。

 一方、時代を先取りした経済構造改革の推進も急務でありまして、具体的には、IT革命への取り組み、産業の新生、これらを含めた規制緩和の推進を急がなければなりません。IT革命については、その恩恵を子どもからお年寄りまで、すべての国民が日々の生活で実感でき、また、経済発展の起爆剤となるような政策を展開していく必要がございます。そのためには、既存のあらゆる経済社会の仕組みを総点検し、新たな枠組みを構築することが不可欠であります。これを官民挙げて、全力で進めるために、現在の「高度情報通信社会推進本部」を発展的に改組いたしまして「IT戦略本部」とし、同本部のもとに民間有識者の参画する「IT戦略会議」を設けることといたしました。「IT戦略本部」の本部長は、私自身が務めたいと思います。新たに任命いたしましたIT担当大臣には、郵政大臣、通商産業大臣と連携を取りつつ、私を補佐してもらいたいと考えております。

 サミット前にこの新しい体制を立ち上げて、制度改革や電子政府の推進を始めとする総合的な検討を行って、時間を区切って、速やかに実行に移していくことといたしたいと存じます。

 また、我が国の経済構造改革を強力に推進し、産業の新生を図るため「経済戦略会議」及び「産業競争力会議」を、この2つも発展的に解消いたしまして、新たに「産業新生会議」を創設をいたします。同会議では産業界の代表者と関係閣僚の間で、産業や雇用、更には環境といった分野につき、産業の新生を図り、経済構造改革を進めるため、どのような取り組みが必要かを徹底的に議論をして、必要な施策を迅速に実施していく考えであります。

 この会議につきましても、サミット前に第1回の会合を開催すべく、早急に今、準備を進めているところでございます。

 更に、国際的に開かれ、自己責任原則と、市場原理に立つ自由で公正な経済社会への変革を目指して、引き続き規制改革を推進していく考えであります。

 このため、昨日、総務庁長官に、平成13年度を初年度とする新たな規制改革に関する3か年計画の策定を進めるようにお願いをいたしたところでございます。

 私の「日本新生プラン」の第2の柱は、「安心して暮らせる高齢化社会」に向けた改革であります。急速な少子高齢化の進展の中で、将来にわたり持続可能で効率的な社会保障制度を構築することが喫緊の課題であります。このためには、まず、年金、医療、介護について、制度ごとの縦割りの発想ではなく、実際に費用を負担しサービスを受ける国民の側に立って、横断的、総合的に見直すこととし、私のもとに設けてございます「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」における御議論などを踏まえながら、具体的な制度改革の実現に向け、精力的に取り組んでまいりたいと思います。

 また、意欲と能力のある高齢者が積極的に社会参加をして、高齢社会を支えていただけるように、「70歳まで働くことを選べる社会」の実現に向けて、条件整備を図っていくことも重要な課題であると考えております。

 「日本新生プラン」の第3の柱は、教育改革であります。

 今日、続発する少年犯罪の問題や、不登校、学級崩壊などの深刻化を思うとき、教育改革、すなわち「人づくり」の重要さは言をまちません。まず、体育、徳育、知育のバランスのとれた全人教育を目指して、「心の教育」の充実を図る必要があると考えております。その上で、世界に通用する様々な技術・能力を兼ね備えた人材を育成するために、世界トップレベルの教育水準を確保していく必要がございます。

 これら諸課題について、私のもとに設けられました「教育改革国民会議」において、教育基本法の見直しも視野に入れて、基本にまでさかのぼった検討を行って、具体的な改革を進めてまいる決意であります。

 また、少年の健全育成を達成すると同時に、悪質な少年犯罪を抑止するための方策について、国民感情を十分に踏まえながら、少年法の改正も含めて早急に検討を進め、適切な対策を講じてまいりたいと思っております。

 以上、申し上げました日本新生のための改革の青写真を実現していくためには、「政府自体の新生」が不可欠であると考えておりまして、これが「日本新生プラン」の第4番目の柱であります。

 来年の1月6日から実施されます中央省庁改革は、21世紀の我が国にふさわしい行政システムを構築する歴史的な改革であります。現行の1府22の省庁から、1府12省庁への円滑な移行に向けて、これからが新たな形にしっかりと魂を入れていくための、まさに正念場であると考えております。

 国民のニーズに合った省庁横断的な政策立案や、行政運営の実現を始め、統合による行政サービスの向上はもちろんのこと、行政のスリム化により、今後10年間で国家公務員の数を25%削減することなど、改革のメリットが国民の皆様にとっても確かなものとなりますように、私自身リーダーシップを発揮してまいりたいと、このように決意をいたしておるところでございます。

 既に昨日の組閣時におきまして、統合後の新しい府省の実質的な一本化を進めるために、平成13年度の概算要求に向けて、政策の融合化を図るように関係閣僚に指示をいたしたところでありますが、この省庁再編には、縦割りの予算配分がもたらす財政の硬直化を打破する絶好の機会であると考えております。この機を逃さずに、財政の効率化と質的改善を図るために、私自らのリーダーシップをより強く発揮できるように、政府・与党による「財政首脳会議」をサミット前にも立ち上げて、新しい手法で平成13年度の予算編成を行ってまいります。この一環として、情報化、高齢化、環境対応のいわゆる小渕前総理が掲げられたテーマでありますが、「ミレニアム・プロジェクト」3分野に新たにIT関連を始めとする新産業創造の観点を踏まえた人材育成や福祉・介護分野などを対象に加えた「日本新生特別枠」を創設をしたいと考えております。

 更に、都市新生のため、重点的な予算配分も検討してまいりたいと考えております。

 また、最近、公共事業予算の在り方などを含めまして、行政の透明性をより高めることが求められておりますけれども、省庁再編の実施に合わせて、各省庁の政策について、その予算・法律等の手段と効果を適正に評価するための政策評価の手法を新たに導入することとして、行政の効率化と透明化を図ってまいりたいと考えております。

 もとより、国民の行政に対する信頼を確保するため、公務員倫理の徹底を図るとともに、警察法改正を含めた警察刷新に責任を持って取り組んでいくことは言うまでもありません。

 さて、「日本新生プラン」の最後の、かつ重要な柱は、「世界から信頼される日本」の実現であります。外交面では、何よりもまず、目前に迫っております九州・沖縄サミットを成功させることが、この内閣挙げての最大の仕事でございます。議長国として、沖縄県民の皆様や、地元名護市を始めとする関係自治体の御協力をいただきながら、「一層の繁栄」、「心の安寧」、「世界の安定」の3つのテーマについて、アジアから力強いメッセージを発信していきたいと考えております。

 懸案の国連改革につきましては、安全保障理事会の改革を実現し、我が国が安保理常任理事国として、国際平和により大きな貢献をしていけるように、秋の国連ミレニアム・サミットに私自ら出席し、事態の進展を図ってまいります。

 本内閣の今一つの外交課題は、日米関係を基軸としつつ、21世紀における新しいアジア・太平洋の平和の枠組みを構築していくことであります。

 具体的には、朝鮮半島の緊張緩和を推進し、日朝国交正常化を達成することをこの内閣として追求してまいりたいと存じます。

 また、ロシアとの間において、戦略的・経済的関係の強化及び平和条約の締結を図るべく、年内に予想される数次の首脳会談の機会を通じまして、全力を尽くしてまいりたいと考えております。

 同時に、中国の国際社会への参加を支援しつつ、21世紀における日中パートナーシップの強化を図ります。この関連で中台間の対話の促進も働きかけていきたいと考えております。

 このほか、本内閣のもと、地方分権の推進、司法制度改革等、21世紀に向けての諸課題にも、引き続き積極的に取り組んでまいりたいと思います。

 私は今回の組閣に当たって、私の「日本新生プラン」実現に最も適した布陣となりますように、政策の継続性にも配慮しながら、適材適所の人材配置を心がけました。結果として、新内閣は、いわば「日本新生内閣」として、内外の山積する諸課題に対処し、国民の皆様の期待に十分応えていける改革実行型の内閣が組めたのではないかと自負をいたしております。具体的には、景気の本格回復を成し遂げ、更に新たな経済発展への道筋をつけるために、宮沢大蔵大臣、堺屋経済企画庁長官に再任をお引き受けをいただくとともに、九州・沖縄サミットへの対応に万全を期するために、河野外務大臣、更に宮沢大蔵大臣にも引き続きその任に当たっていただくようにお願いをいたしました。

 また、IT戦略を加速するため、内閣の要であります官房長官に新たにIT担当大臣の発令を行いまして、内閣を挙げてIT革命に取り組む体制といたしました。

 更に昨年来、中央省庁改革の指揮を取ってこられました続総務長官にも再任をお願いをいたし、来年1月からの実施に向けて、全力で取り組んでいただくことといたした次第です。

 また、今回保守党からは扇党首御自身に御入閣をいただきまして、連立与党の結束をより一層高めるとともに、既成の考えにとらわれずに、新たな建設・国土行政の確立に是非敏碗をふるっていただきたい、このように考えて入閣をお願いをいたした次第です。

 また、女性民間人の発想と改革への行動力に期待をいたしまして、川口さんに環境行政の舵取りをお願いをいたしました。

 このほか、この内閣におきましては、実務に精通し、各省庁をリードしていける方々に閣僚として活躍をしていただくことといたしました。

 この布陣で一致結束いたしまして、国民の皆様の期待に応えていけますように、果断に政策に取り組んでまいりたいと考えております。

 政治には国民の皆様の信頼が不可欠であります。私は、「国民と共に歩み、国民から信頼される政府」を信条として連立与党3党による安定した政治基盤のもと、初心に返り、先頭に立って、全身全霊をこめて国政に取り組んでまいります。

 国民各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げる次第でございます。

 以上、冒頭に述べさせていただきました。

質疑応答

【質問】まず、第2次森内閣が何を目指すかというのをお伺いしようと思ったんですが、先ほどの冒頭発言で大体言い尽くされておりますので、これは省いて、その中に含まれておりませんでした、この国の形の基本である憲法問題が国会でも大分議論されております。これについて、総理はどのようにお考えか、憲法を改正するお気持ちがあるのか、また、憲法問題にどういう基本的スタンスで新内閣は取り組むのか。

 また、4月のときに、有事法制について所信表明でお触れになりましたけれども、これはどういうふうな取り組みをされているのか。まずお聞きしたいと思います。

【森総理】憲法の基本理念でございます民主主義、平和主義及び基本的人権の尊重、これは憲法が制定をされましてから今日に至るまでの間、一貫して国民から広く支持されてきたものであって、将来においてもこれを堅持すべきであると考えております。

 他方、憲法第96条は、憲法の改正手続を規定をいたしておりまして、憲法が法理的に永久不変なものとは考えていないわけであります。また、憲法を巡ります議論が行われること自体は何ら制約されるべきではないということは言うまでもないことでございます。

 しかしながら、国の基本法であります憲法の改正については、世論の成熟を見定めるということが極めて大事だというふうに考えておりまして、その点につきまして、十分慎重な配慮を要するものであると、このように考えております。先の国会から、衆参両院におきまして、憲法につきまして、広範かつ総合的な調査を行うために、我が国憲政史上初めて憲法調査会が設置をされたわけでありまして、これは極めて長い道のりがございましたし、私も党におりましたので、この実現には本当に心血を注いでまいりましたけれども、私は極めて意義深いことだと考えております。今後とも、将来の我が国の基本の在り方を見据えて、幅広く議論をしていただくことを私は期待をいたしたいというふうに考えております。

 有事法制につきましては、我が国への武力攻撃などに際して自衛隊が文民統制の下で国家、あるいは国民の安全を確保するために、是非とも必要な法制であると私は考えております。このような考え方から、歴代総理として初めて所信表明演説の中でこのことを言及をいたしたわけでございます。かかるこの法制につきましては、こうした平時においてこそ、備えておくべきものだと考えております。この認識は、与党3党におきましても、一致しているものと私は考えております。

【質問】先ほどの衆議院選挙では非常に与党3党が議席を減らし、民主党が増やした。先ほど総理も厳しい批判があったことは謙虚に受け止めるとおっしゃいましたけれども、まず衆議院選挙を振り返って、どういう点を反省されているのか、それをどう今後の国政に生かすかということをまずお聞きして、同時に与党内から得票数と議席獲得数に大きな開きがあると、特に、公明党からはやはり中選挙区制に戻した方がよいのではないかという意見が出ておりますけれども、こういった与党内の動きについて総理はどのようにお考えでしょうか。

【森総理】今回の選挙によりまして、私ども与党3党は、いわゆる絶対的な安定多数を得たというふうに私は理解をしております。しかしながら、多くの方々の落選もございましたし、それから極めて地域的には厳しい批判もあったということも、選挙の分析上十分そのことは承知をいたしております。ただ、これからもう少し時間を掛けて、選挙等の結果を、これは十分党の方でも議論をしていただく、あるいは調査をしていただくことになるかと思っております。

 ただ、私は、これは選挙中にも申し上げておったことですが、なかなかこの連立内閣というこの枠組みでしょうか、こういう政治の手法については、なかなかまだ国民の皆さんには理解をされていないところがあると思っております。したがって、細川内閣以来、連立がずっと続いてきているわけでありますけれども、要はどの枠組みで協力し合っていく連立が一番国民のためにいい政治ができるのか、ということをやはり国民の皆さんにもっともっと努力をして、周知をしていただくということが一番大事ではないかというふうに考えております。

 よく巨大与党、巨大与党と言って御批判をいただいたわけですけれども、国会は、記者の皆様十分御承知のとおり、衆議院と参議院があるわけでありまして、参議院でもやはり安定した政治基盤がなければ、果断に政策の遂行というのはできないわけでありまして、これは2年前の金融国会を想起していただければ、十分お分かりをいただけることでありまして、私はあの当時、参議院の我が党の国対委員長が突然お亡くなりになったり、いろいろなことがございました。私も当時幹事長でございましただけに、自分の微力も恥じながら、この絶対安定多数を持っていないということの厳しさ、つらさ、そして、特に経済問題のようなことは、今や日本だけではなくて、国際的にもリアルタイムで解決をしていかなきゃならない。こういうときに国会がなかなか1つの結論を出し得ないということは、これは国家にとっても、あるいは国際社会の中においても、日本の信頼というものに大きく響いてくるものだということも私は自分のこの体験の中から得ました。

 したがって、そういう中で、衆議院、参議院、両方とも安定的な基盤というものがあることが、責任ある政党としての政治が進められていくことだというこうした結論の下に、私どもは今のこの3党の枠組みをしっかり大事に国民の皆さんにお訴えをしたところでございます。したがいまして、政策はもちろんのことですけれども、初めて3党間の本格的な選挙協力をやれたということは、実に私は大きかったと思います。今まで、私の自分の体験でいきましても、自社さ体制ということもございましたが、なかなかいよいよ本番になりますと、政党の協力関係というのは非常に難しいものでございます。しかし、あえてこれを、選挙協力を本格的にやれたということ、そのことによって我が党に残念ながら思いとどまっていただく、そういう犠牲を払っていただいたということもございます。

 それから同時に、逆に言えばまた、公明党や保守党の皆様方も、自由民主党と一緒にやっていくんだという、ある意味での退路を絶って3党の枠組みに協力をしてくださった両党、その3党の新しい連立の時代に入ったという、今の選挙制度の下ではそういう方向に入るわけですから、そのことに対してこれから更に政策の中での具体的な結果を作ることによって、国民の皆さんに理解を得られるように努力をしていくことが私は大事だと思います。

 もう1点のお尋ねでございました中選挙区制の話が出たのかということでございますが、これは前のいわゆる自由党と連立を組んでおりましたときに、定数削減の問題を3党間で議論をいたしました。そのときに、比例のみの定数削減をするということによる政党のメリット、デメリット、それから小選挙区制にも触れるということのメリット、デメリットがあって、なかなか議論が前に進まなかったんです。しかし、今年の暮れになるわけですけれども、国勢調査の結果が出るじゃないか、その国調の結果が出れば、また、定数是正の問題にどうしてもこれは触らざるを得なくなるから、そのときには小選挙区の問題を議論しましょう。したがって、当面は比例の方だけにして、その比例だけの数字も当初50という数字も出ておりましたけれども、20ということに削減案をまとめたのは、そうした経緯であります。

 そのときに、これは私ども自由民主党だけではございません、公明党も、そして当時の連立でありました自由党の小沢さんからもこの提案が出たんです。いわゆる小選挙区の定数是正をやるときに、改めて今の小選挙区制の中に矛盾点がいろいろあるだろうから、その矛盾点の解消も踏まえて、場合によっては境界を、いわゆる選挙の区域を変更せざるを得なくなりますね。そのときに1つの考え方として、2人区があってもいいのではないか、あるいは3人区があってもいいのではないか。それはいろんな障害があるというのは、御承知のように、国会議員の選挙区よりも、区議会議員や都議会議員が多いということもございますし、現実に区域の変更の線引きというのも、隣町がA地域で、B地域が隣町でと、人間関係、社会の生活の基盤というのが無視されたような線引きもあるわけですから、そういうことももう一遍見直していくときに、そうした考え方を採用してみたらどうかという意見が、昨年の定数是正のときに議論が出たものです。そのことがこの間の6党におきます懇談の中で、こういう議論がありましたね、もう一度このことも踏まえて、よく選挙制度については、更に検討していくべきではないかと、こういう議論が出たというのが報道されたものであります。

【質問】総理はどう考えているんですか。

【森総理】私も、個人的には選挙制度には絶対というものはないわけでありまして、ですから、小選挙区制度の本当は、完全小選挙区制というのが一番いいんだと思います。しかし、なかなかそれは現実的に一挙にできることではない。ですから、今の比例並立制というのは、ある意味では過渡的なものだというふうに考えなきゃならないと思うんです。ですから、この過渡的な期間というものをどういうふうに見ていくのか。小選挙区制度を取り入れたということは、個人の選挙ではなくて、政党と政党の選挙、そして、政策と政策との闘いということで採用し、いずれは日本の国も二大政党の方向に向けたらいいのではないか、そういう目標を持って進めようじゃないかということが、この制度を採用した実は大きな理由なんです。しかし、今は全くそれとはむしろほど遠い政党が分立しているという時代になっておりますから、この制度をみんなでやはり、その将来の方向を目指した考え方を遂行していくというならば、やはり選挙制度は絶えず見直していくということも大事なことでございますけれども、これはやはり政府がどうこうということを今申し上げるよりは、政党同士がお互いに選挙を闘い、選挙を幾つか経験をした中で、矛盾点を手直しをしていく、修正をしていくということが大事じゃないかなと思います。

【質問】先日、中尾元建設大臣が受託収賄容疑で逮捕されて、建設省も家宅捜索を受けました。今回の組閣で建設大臣の選任には大分御苦労されたようなんですけれども、一向になくならない公共事業を巡る癒着、腐敗の構造を、どのように断ち切っていかれようとしているのでしょうか。

 また野党は、あっせん利得罪の創設についても言及しているようですけれども、その辺りをどのようにお考えでしょうか。

【森総理】何についてですか。

【質問】あっせん利得罪の創設について、どのようにお考えでしょうか。

【森総理】今回の事件につきましては、現在捜査中の段階ということでございますので、私の今のこの立場で具体的なことを申し上げられないが大変遺憾に思っております。

 また、国民の税金によって賄われる公共事業の執行については、厳正に行わなければならんということは、これは当然なことでありまして、かりそめにも国民の疑惑を招くようなことがあってはならないということは、言うまでもないことだと思います。

 今回の内閣の発足に当たりましても、公共事業に対する国民の信頼回復を図るという観点から、建設大臣に対して、私から、公共事業の公正性の確保にも積極的に対応するように指示をさせていただいたところでございます。

 今、御質問の中に、建設大臣の人選に大変御苦労されたということでございましたけれども、実は正直申し上げて、そんなに苦労しなかったんです。私は、党の皆さんから御一任をいただいた以上は、建設省あるいは国土庁に対して、新しい発想で、是非このことについてしっかりと行政の指導をしてもらいたいと思っておりましたので、むしろ建設省、あるいは建設のこうした行政に御縁の薄いと言いましょうか、少し遠い方をお選びすることが私は一番いいのではないかと、これはちょうどこの事件が起きてからそのようにずっと考えておりまして、このような考え方について、党側にも私は了承を求めて、最後までどなたをもっていくかということについては、私の心の中にしっかり秘めておいたわけでございます。そういう意味で、特に来年の1月6日から中央省庁の再編が行われるわけでありまして、運輸省、建設省が国土交通省になることは言うまでもないことです。従来の公共事業の分け方というのは、もうある程度既定化しておりまして、なかなか新しい分野に入れないということもございます。また、若手の国会議員の皆さんもそのことについては、やはり新しい考え方を入れていかなければならんのではないかということは、どなたもやはり考えていらっしゃる。

 そういう意味で、この両省庁が一緒になって、そして国土のいわゆる交通省として、日本の社会資本整備を中心になって進めていくという、新しい時代に入っていくわけですから、そういう面からいきますと、従来の考え方やそういうものにとらわれない、しかも政治的に重い存在の方に、私は来年を目がけての、いわゆる建設省の建設大臣というのはとても大事な人選だと考えておりまして、そういう意味で連立を組んでいただいております保守党の扇党首に入閣いただくなら、この方に是非私は担当してもらえないだろうかということは、実は内々にずっとそういうふうな考え方を秘めておったことを、事前にお話を申し上げますと、またいろんな意見が出てまいりますので、私は率直に当日にお願いをしようと思っておりましたけれども、報道されておりますように、当日の未明にそのことを率直に申し上げて、扇議員の賛同をいただいたという経緯でございます。

【質問】あと、総理が力を入れていらっしゃいます。教育改革についてなんですけれども。

【森総理】それから、済みません、あっせん利得罪のことで。

 政治倫理の確立については、先ほども申し上げましたように、何よりも政治家の自覚が大切でございますし、また情報公開を通じた国民による監視も重要な方途であると考えております。あっせん利得罪の導入につきましては、これまでの私も党側でも随分議論を積み重ねてきたところでございまして、各党・各会派の間において、十分御議論をしていただくということが基本であると考えております。政府といたしましては、その結果を踏まえて、適切に対処していきたいと考えております。

【質問】続きまして、教育改革なんですけれども、総理は選挙中に中高一貫教育の推進ですとか、大学の9月入学などについて言及されているわけですけれども、それらについてどういった手順で進められるおつもりなのかということと、先ほどもちょっとございましたが、教育基本法の見直しについてどのように進めていかれるおつもりなんでしょうか。

【森総理】これも、御承知のように今、「教育改革国民会議」の方は、いよいよ分科会に入って、3つの分科会に分けて、大変熱心な御議論をいただいておりまして、8月ごろまでには考え方をまとめるための努力をしておられます。

 文部大臣もそうだと思いますし、私もそうだと思いますが、できるだけこの審議の、やはり妨げになるようなことは、できるだけ注意深く見守っていくということは、大事だというふうには思っております。しかし、考え方というものを、国民の皆さんに責任ある大臣の立場、あるいは私の内閣の責任ある立場としては、自分の希望としてこういう考え方もどうかなということを、国民の皆さんに御判断をいただく上で、そしてそれは「教育改革国民会議」の考え方を拘束するというものであってはならないということを、絶えず注意深く私は考えならが発言をしているつもりでございます。

 そういう中で、これは選挙中に申し上げたのが、中高一貫の問題と秋季入学の問題です。選挙中に申し上げたんですが、それは私が文部大臣をしておりまして、臨時教育審議会を設置する、そしてその後の教育改革について、自分がどうしてもやってみたかったことがこの2つだったんです。もちろんまだ幾つもありました。例えば幼保一元化の問題もございましたけれども、私は是非これはやってみたいなと思ったことでありましたが、なかなか残念ながらこれが実現しませんでした。ただ、いわゆる中高一貫については、各都道府県で選択をしなさいと、そういう制度があってもいいんですよという、そういう考え方に落ち着いたわけでございますが、現実は全国に500ございます高等学校の通学区域で、実際に一貫をやっておりますのはせいぜい17校ということでございまして、まだまだ積極的に自治体や政府が、文部省が進めていこうという姿勢が出ていないということだと思います。

 私は、この制度を申し上げているのは、12歳の小学校を終えましてから、18歳という高等学校、一番大事な年齢だと思うんですね、この12歳〜18歳ぐらいというのは。このときに受験のことだけに追われていくということの、日本の教育の悪い結果が出ているんではないだろうかと、そういう意味ではもっともっと伸びやかに、この6年間というものをもうちょっと、人生の全人教育的なものに使うことはできないんだろうか、もっと表現を変えれば青春が謳歌できる、最も大事な年齢なんであって、もっと伸び伸びと、個性豊かに自分の志向するものをやっていける時代にした方がいいんじゃないかと、私は前々からそう思っております。

 ただし、ここにも大変難しい話で、これから少子化になって、果たして今までのような受験戦争というのは続くのかどうかなということを考えてみると、そういう範囲の中で、そういう受験ということだけでそういうふうに考えてはいけないなという面も、やはり最近の時点では、当時私が文部大臣をやっていたときとは、違った環境になっているような気がいたします。

 しかし、やはりこの12歳〜18歳という年齢は大事に考えて、そう細かく削らない方がいいのかなと、私はそんな思いで、このことも積み残したとは言いませんが、実質的にはこの一貫制は余り実施されていないなという、そんな思いで申し上げたというのが第1点であります。

 それから、秋季入学については、これは国際化しているこういう時期の中で、大体世界がそういう方向にいっている、ほとんどそういう制度になっているわけでありまして、こうして恐らく海外子女教育、お父様、あるいは御両親のお勤めに関係があって海外に行かれなければならない、あるいは海外から帰ってこられる帰国子女の皆さんも、この入学期と言いましょうか、新しく学年が変わる時期が全く違っているということは、かなり子どもたちにとっては辛い、そういう経験だろうと思うんです。ですから、そういう意味では、国際化の基準に合わせていった方がいいのではないかと。

 私も当時、4月入学というのは、何か根拠があるのか調べてみたんですが、余り根拠がないんです。何か桜の花が咲いた、太郎君は小学校1年に通いましたと、何か詩的な表現でいくと、4月がいいんだなということをおっしゃる方々が多かったわけであって、そういう意味から言うともう少し国際化という見地で考えてみたらどうかと。

 それから、もう一つ考えることは、子どもたちに、高等学校終わってすぐ社会に行くのか、大学に行くのか、そして大学に行ってどの分野に進むのかということを、今の高校生たちがそこまで将来の目標を持って、果たして判断できているんだろうか。これも、将来は今のような入学試験というような制度が変わってくると思いますけれども、偏差値の点数で、高等学校の先生によって生徒が振り分けられていくという、こういう弊害を見ていますと、18歳の段階で点数だけで、そして子どもの将来を決めてしまうのは、果たしていいんだろうかという思いがあるんです。本当に手仕事で、日本に一番不足している宮大工さんのような仕事に誇りを持ってやっていけるような、そういう判断を今の高校生にすぐ求めるというのは難しいのかもしれない、中学生にも難しいのかもしれない。

 そういう意味で、卒業したら秋までの間、少し時間的な余裕を持って、将来の自分の方向を見つめるというような期間が、人生80年という時代になったら、それぐらいの余裕を持った教育体系にしてみたらどうなのかなという、そんな私の思いもあるのが、この秋季入学ということを、更に国民の皆さんに大いに議論してもらいたいなと思った理由でございます。

 教育基本法につきましては、これも反省から来ているんですが、私が文部大臣当時やろうとしておりましたときには、教育基本法に触れてはいかんという国会の、そういう決議ではありませんけれども、審議の中でそういうふうに制約を受けました。それから、教育委員会制度についても、触るなということを制約を受けました。そういう中で、この教育論議が始まったので、私は今度の「教育改革国民会議」の皆さんには、そういうものをすべてフリーにして、教育基本法も全部含めて、多いに闊達な御議論をしていただくということが大事だというふうに思っています。

 教育をやはり進めていく上において、ある意味では教育の憲法に当たるものが、教育基本法ですから、その教育基本法の中で戦後失ってきたものが幾つかあるだろうと、日本の歴史や伝統というものを大事にしていこうということなども、やはりどうしても、若干今の子どもたちにはそのことの理解というのは得られてないんじゃないかなという、そういう反省もございます。

 また、時代はだんだん変わっていくんだと思いますが、教育界の中におきます激しい思想、あるいはイデオロギーの対立も続いていたのが、やはりこの数十年だったと思っております。

 そういう中で例えば、国旗・国歌法を制定しましたときも、やはり当時のいわゆる日教組を中心とする教職員組合は、日の丸を国旗とする法的論拠があるかということが絶えずやはり議論の一つ中心だったと思います。その法的論拠がないということで、管理者である校長、教頭、あるいは教育委員会が大変苦労したことも事実だと思います。そういう中で、国旗・国歌法が定められたわけでありまして、そういう意味から言いますと、やはり教育を進めていく中において、日本の歴史や伝統や、そして昔からある日本のいい美風、そういうものに対して、きちんと教育の中でしっかりと教えられるような、そういう環境をしっかり作っておくことが大事ではないかというふうに考えたからでございます。

【質問】経済関係についてお尋ねします。

 総理は選挙中、財政再建よりも景気対策を優先する考えをずっと示してこられましたが、危機的状況にある財政の再建にどういうふうに取り組まれるのか、その道筋をお聞かせください。

 それから、社会保障改革との関連で、消費税率の引き上げが取りざたされておりますが、消費税率についてはどうされるおつもりか、それをまずお聞かせください。

【森総理】極めて厳しい我が国の財政の現状を考えますと、皆様方の御指摘にもいろいろございますように、財政構造改革というものは当然実現しなければならんということは、これは極めて重要な課題であるということは、私も十分承知をいたしております。しかし、今、御質問の中にございましたように、まずは我が国経済を本格的な回復軌道に確実に乗せるということがよりもっと大事な政策だというふうに思っております。

 私は、小渕前総理の考えを受けて今の内閣をお引き受けをし、ここに来たわけでございますので、やはりそうした小渕前総理の思い、本格的な景気回復をしっかりやって、軌道に乗せていくということをやはりしっかりやり遂げていくことが、この内閣を作るに当たりましても、政策の継続性ということと、新たな、いわゆる「日本新生プラン」というものの2つ、私はそういう意味では大別して並べたわけでございます。

 したがいまして、我が国経済も、お陰様で政府・与党の適切な政策運営によりまして明るさは増してはおりますけれども、厳しい状況を脱し切ったということは必ずしも言える状況ではございません。ですから、昨日でございましたか、短観の発表がございましたけれども、確かに企業の収益はよくなっておりますし、設備投資も進んでおります。しかし、もうちょっと詳細に見ると、やはり大企業の面においては、そうした数字は非常にいい数字にプラスに転じていますけれども、中堅企業あるいは中小企業は、軒並みまだマイナスです。ただ、縮小幅が狭まっているということは言えますけれども、まだ収益はよくなったとか、あるいは設備投資を更にやっていこうというそういう空気はないことは事実でありまして、日本の大きな産業、経済の8割近くというのは小規模経営が支えているわけでありますから、この辺のクラスが本当に実感として景気がよくなったという数字が、しっかりと把握できることが大事だと思います。

 もう一つはやはり雇用の面、これもまだいろいろな意味での、新しい産業の求人が非常に出てきておりますし、有効求人倍率も上がっておりますし、来年の新規の学卒者に対する募集は、今年よりもはるかに上がりますということは明確に企業側も言っておりますし、そういう意味では明るさは見えております。しかし、新しく求めている分野、例えば情報通信、IT関係とか介護とか環境というのはなかなかまだミスマッチがあって、すぐその仕事に就くということには若干の猶予が必要だということにもなります。

 それから、このところ出ておりますデパートの売上げなども見ておりますと、隔月ごとにプラス、マイナスとなっておるようですね。そういう意味では、消費は確実になったということはなかなか言えないのではないか。これは昨年のボーナスからそういう傾向が特に顕著でもあるわけで、この夏のボーナスは恐らく若干は伸びてくるのだろうというふうに考えられますけれども、少なくとも年末のボーナスまでは、しっかりとした上昇の機運が出るまでは、消費が力強い足取りが見られるということにならないのではないか、このように考えますので、そういう意味では、私は是非この厳しい状況が本格的に脱して、そして、いわゆる消費が公需から民需に切り替わったなという数字が明確に見えるまでは、今の経済・財政運営を続けていくということが私は大事なことだというふうに考えておりまして、そういう面で、大蔵大臣にも、あるいは経済企画庁長官にも御再任をいただく上において、このことについて十分御協議を申し上げて御理解を得ながら、そういう形で経済・財政運営をやっていこうということでございます。

 なお、経済企画庁長官には、私はまた新たな経済のいわゆる進展が見られますように、どうしたことがこれからより確実な新しい経済の運営ができるかということについて、少し検討してほしいということも堺屋長官にお願いをいたしております、ということも申し添えておきたいと思います。

 それから消費税の問題をどうかというお尋ねでございますが、消費税の問題も税率の問題もすべて含めて、将来の税制の在り方については、今後の少子高齢化のそういう進展、あるいは経済社会の構造変化、あるいは財政状況等、こうしたものも見ていかなければならんと思っております。そういう中で、やはり国民的な議論によって検討されるべき課題だというふうに考えております。

 いずれにいたしましても、歳出面の無駄はないか、十分これを見直していかなければなりませんし、先ほども触れましたように、新しい中央省庁がスタートしていく際でもございますので、十分に効率的な予算を組むということがより大事、そして更には行政改革をなお力強く進めていくということもまた当然大事なことだと思っております。

 いずれにしても、国民の理解というものを得ることなしに増税というものを押し進めるということはあり得ないことであって、そして、今申し上げましたように、日本の景気が本格的な回復の軌道、特に消費の面が力強さを見せるまでは、今の時点で国民に増税を強いるようなことだけは私はとるべきではないという考えを持っております。

【質問】先ほどのあっせん利得罪の関係ですが、これは長年議論があることは我々も承知しておりまして、これは、職務権限がなくても、いわゆる口ききという行為を罰するという法律だと思うんですけれども、長年、自民党を中心に、口ききをなくすと国会議員の仕事がなくなってしまうというような議論があって、長年成立してこなかったという経緯があったと思うんですけれども、総理御自身は、この法律についてはどのようにお考えなんですか。

【森総理】今のお尋ねで、何か国会議員が、そういう紹介をしていることがなくなったら国会議員の仕事がなくなるというのは、大変私は厳しい御指摘だと思いますが、わかりやすく御質問いただいたものだというふうに思います。国会議員にはもっと大事な仕事がたくさんございます。

 そうした御紹介をしたり、あるいはそのことによって行政が判断を、政治家が紹介をしたとか、人様の紹介によってどういう判断をしたという、どういう裁量をしたということは、私はあってはならないことだと思いますし、特に、こうした最近のいろいろな経験といいましょうか、事象から極めて透明度が増しておりますし、それから情報公開というものも非常に明確化されてきておりますから、そういう面の中で、官庁ではそうした国民の税金を執行していく上においての裁量に特別の判断を利用するということは、そういうことは私はもうなくなっていくといいましょうか、そういう時代ではないというふうに考えます。

 したがって、私自身も、そうしたことには十分政治家全体として従来のことも踏まえながら、まずそうしたことに対する紹介をしたり、そういう口きき的なことをするということは、まずしっかりこのことについては自制をしなければならん。そういうことに対してやってはならないことだということを自覚しなければならんということだと思います。

【質問】来年の7月に今度は参議院選挙がありますけれども、昨日の両院議員総会でも若手から、自民党は体質を変えないと次の参議院選挙で勝てないのではないかと、かなり危惧する声が出ましたが、あと1年しかない中で、総理は自民党をどういうふうに、どういうスケジュールで、どういう方向に変えていこうというふうにお考えでしょうか。

【森総理】一昨年になりますか、前回の参議院の選挙で、やはり今と同じような傾向で都市部において我が党は敗れたわけでありまして、その中から、いわゆる反省・前進会議というのを当時設けました、私が幹事長をしておりましたので。そして、党内で、都市部の議員の皆さんを中心にし、なおかつ国会議員だけではなくて、各地域の県連のそうした関係者にもお集まりをいただいて、随分長い議論をし、いろいろな政策面とか制度面とか、候補者の選定でありますとか、そういうことをすべて幅広く議論をして結論を得たものがございます。

 そういう中で一番大事なのは、都市に対する政策ということが当時言われまして、我が党で、総裁の直結のいわゆる都市問題協議会というものをつくりました。そして、大変都市部の先生方には熱心な御議論をいただきました。そういう中で、いわゆるバリアフリー化がどんどん進んだということだとか、あるいは昔の古い時代のいわゆる公営住宅についての、ほとんど3階、4階にはエレベーターがなかったんですね。そういうものに対してはできるだけエレベーターを付けるような仕組みの予算措置もいたしましたり、かなり思い切ったことをいたしました。それから、都市におきます道路面、あるいはそうした社会資本も、随分従来の観点から考えて変わってきた、そういうこともしましたし、あるいは商店街の活性化の事業ということもやりました。まだ完全に、そのことがなかなか都心におきます有権者の皆さんの理解を得られなかったということも、私は今回の反省点にしなければなりませんので、引き続き、都市に対する基盤というもの、都市の在り方というもの、こういうものについてはなお一層、これは党側だけではなくて、政府も積極的に乗り出すべきだというふうに考えておりまして、そういう意味で、経済企画庁長官には、新しい日本の経済の方向を是非検討していただく中に、さっき申し上げたように、小渕さんのやられたミレニアム、それに私が提唱しておりますいわゆる「日本新生特別枠」、それだけではなくて、都市基盤に対する、都市生活者に対して何が大事であるかということについても、政府は本格的にこの問題について着手をしたいというふうに考えております。これは政策面でのことだと思います。

 同時に、候補者選定について従来のような進め方というのは、必ずしもなかなか選挙にとって有利ではないという面もあるのかもしれません。そういう面については、党側で今、もう少し候補者の選定、候補者の運動の進め方、組織の作り方、そうしたことを思い切って大きく改革をしていくようなことを、今、野中幹事長が考えておられまして、まず、この選挙で反省から始めようということで、近々、残念ながらこの選挙で落選されました方などからまず中心に御意見を承る、そして各県ごとにいろいろな御意見を承る。そして、特に都市部の皆さんに対しての御意見も承りながら、党としての考え方をまとめていきたいというふうに、幹事長から私に報告がございましたので、是非積極的に、できるだけスピーディにやっていただきたいということをお願いをいたしておるところでございます。

【質問】新しい内閣ではIT担当大臣を設立したり、あるいはIT戦略会議の本部長に就任されるということですが、ITを重点政策として掲げて、今後、まず何から手を付けていくのか、教育改革などに比べると、やや具体策が今のところ見えてこないというのが現状だと思うんです。

 それと、あと公共事業費の配分の見直しについて先ほど言及されましたが、ITの基盤整備のために思い切って配分を見直す心構えができているかどうかを聞かせてください。

【森総理】確かに「教育改革国民会議」のように、現実に今議論していますから見えてくるということになりますが、ITにつきましては、非常によく積極的にやっているという意見もありますし、諸外国に比べて非常に遅れているという御指摘がある方々もありますし、私はどちらかというと、いろんな方々のお話を聞いていると、やはり遅れていたというか、政府としての取り組みについては、いろんな複雑な省益のいろんな縄張り意識もあったんだろうと思いますから、確かに政府全体としては進んでいないことは事実だと私は思います。

 そういう意味で、今回官房長官にIT担当の閣僚として責任を持っていただいて、内閣全体としてIT社会が実現していくように、あるいはIT革命がどんどん積極的により進化していくように、まず何ができるだろうか。我々は正直申し上げて、こうした分野については素人です。ですから、まず政府の役割というのは何なんだろうか。自治体の役割というのは何なんだろうか。民間の役割というのはどうなんだろうか。そして、民間のそうした仕事がどんどん進めていけるためには、どういう法的な整備が必要なのかということをまず議論していかなければならんと思います。

 よく言われますように、いわゆるデジタル・ディバイドというのがあって、そういうことは国民の中にもあります。私はさっき、選挙中は8歳から80歳までと言ったんですが、そういう皆さんが本当にスムーズにパソコンが触れるようにするというのは、正直言ってなかなか大変な仕事だと。どうやったらいいのかなということも教育面で考えなければならない。

 進んでいる国はどういう方向をやっているんだろうか。アメリカなどから比べてみると、日本の学校へのインターネット化というのは、まだそんなに促進されておりません。2005年を全教室に目標にしているくらいでありますから、アメリカから見ればはるかに遅れているという面があります。そういう面で何をもっとやらなければならんのかということ。

 それから、これはサミットの重要課題になりますけれども、国によってデジタル・ディバイドというのはあるわけです。そういう国に対して、これは世界中の人々がみんなが新しい、いわゆる産業革命のような、新しい時代の1つの革命なんですから、そういうことに世界中の皆様がその恩恵にあずかるようにしていくということが、G8諸国の責任だろうと思いますから、そういうこともどういうふうに進めていくのがいいのか。様々なテーマがあると思います。そこで「IT戦略会議」というものを設けて、できる限り御専門の有識者の皆さんと、それから経済・産業に携っておられる皆さん、そういう皆さんのお話を一緒に議論をしながら内閣が一体になってこれを進めて、できるだけスピーディに進めていけるように、そういう意味で、まずIT戦略会議を設けようというのが、そういうことにございまして、特にサミットの前に立ち上げたい。

 それから、サミットでは当然この議論が世界の首脳からも出てくると思いますので、そこで世界に向けてのIT憲章というものも、今事務方が努力しておりますので、そういう憲章が出ますと、これは世界全体に対するメッセージですから、同時に我が国に対しても、そのメッセージは発信されることになりますから、国内で今度は何をしなければならんのかということも、このIT戦略会議とリンクをしていくのではないか、こんなふうにも考えております。

 今、新しい21世紀の産業の起爆剤にしていくということは非常に大事で、これはIT産業を進めていくということだと思いますが、国民全体から言えば、IT社会に入っていく。電子政府もそうだろうと思いますし、そういうIT社会に入っていくことによって、社会がどう変化していくのか。その社会の変化が多くの国民の皆さんに恩恵が受けられるというようにしていくということが、ITを政府が責任を持って進めていくという上において、一番大事な視点でなければならんなというふうに考えております。

【質問】一つあるんですが、さっきの日本新生特別枠と、都市新生枠はそれぞれ幾らくらいの規模を考えておられるのかという点と、もう一つ、あっせん利得罪なんですが、自民党の議論を5、6年前から聞いているんですが、結果的には自民党的な体質、存在意義そのものを失うものだという意見が党の改革本部の中でも結構出て、堂々巡りの中で結局、そういう意見が消滅してしまうと。そこはやはり総理の大きなリーダーシップがなければ実現しないし、新しい考え方とか、国民の信頼等を重視した形でリーダーシップがなければ、その創設などは生まれないと思うんです。その点、総理はどういうお考えでいらっしゃいますか。

【森総理】どのくらいの日本新生枠かということ、これはそのためにこれから議論をしていく、そのために、財政首脳会議を設けているのもそこにあるわけでございます。

 前の小渕内閣のときの「ミレニアム・プロジェクト」は確か5,000億でございましたから、そうしたことがどういうふうに有効であったのか、どういうふうな配分ができたのかということも十分参考にしなければならない。その「ミレニアム・プロジェクト」は更に継続していかなければなりません。それに新たなものを私は幾つか申し上げた。更に今申し上げたような都市基盤というのもございますし、そういうことももう少し議論をいたします。まだ全く入っていない議論ですので、どの程度の枠になるかということは、今の時点では申し上げることは、余りそういう数字を申し上げたら、もっと大きなものになるのかもしれませんし、今は適切ではない、そういう時期ではないと思っておりますが、いずれにしても、新たな「財政首脳会議」というものを設けるわけですから、ここで十分論議を深めていきたいと思っております。

 それから、あっせん利得罪につきましては、確かに長い経緯がございます。要はそういうことを紹介をしたり、取り継ぎをしたりということによって、何か公正な判断ができない、そういうことがあってはならないということだと思いますから、むしろそういうことをしてはならないんだという、政治家としての自覚がまず大事だと思うし、それから、そういうことをできるだけ避けるために情報の公開化というのはだんだん進んできたと思いますから、そういう意味では非常に透明性も出てきたし、入札制度などについても、かなり公正、公平、透明が進んできていると思いますので、私は政治家をそういう形で、法律で抑えてまでやらなきゃいけないのかと言われるようなことであるのは、政治家としては本来恥ずべきことだと思う。まずは政治家の自覚から始めなければならんことだと思っております。

 しかし、御指摘のとおり、この議論は我が党の中で随分長く続けられたことも、我々も十分承知をしていることでありますし、これは我が党だけではなくて、それぞれの政党にもいろんな議論が私はあったと思っております。自由に政治家としての活動が阻害されると言いますか、そういうことであってはならないと思いますし、そういうことを不正に紹介をしたりして、公正な判断を曲げるようなことは断じてあってはならないと思います。しかし、今のこういう状況が、いろんな形で出てくるということについては、我が党も改めて真剣な議論をしていくことだと思っておりますし、そういう意味では各党・各会派、それぞれ今意見が出つつあるときでありますから、その議論というのを十分待つ、政府としてはしっかりそのことを待つということも私は大事だと思っております。

【司会】どうもありがとうございました。