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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄訪問に伴う小渕内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2000年3月26日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),1024−1033頁.
[備考] 
[全文]

−−それでは、ただ今より小渕内閣総理大臣の記者会見を行います。

 まず最初に、小渕総理よろしくお願いいたします。

○総理 この度の沖縄訪問につきましては、稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長を始め、関係の方々の行き届いた御配慮に、まず最初に心から感謝を申し上げます。

 この度は、私としてはこのサミットを成功させるために、地元の皆さんにその協力方をお願いに参ったということでありますが、かえって現地名護市等におきましては、サミットのシンボルマークで作った旗や日の丸の小旗を打ち振って歓迎をいただくと同時に、是非成功しなければならないと、させるべきだと、こういう大変地元の力強い熱意を逆に感じたような次第であります。

 また、今朝、首里城に参りましたところ、もちろん、沖縄県民の皆さんばかりでなく、全国各地から観光を目的に参っておられる方々からも、しっかりサミットを成功させろという声が飛んでいたことなどを聞きますと、ますますもってその責任の重きことを痛感した今回の訪問でございました。

 今回の訪問では、間もなく完成予定の万国津梁館や、G8議長記者会見場等の視察に加えまして、平和祈念公園への訪問や、地元報道機関の方々と懇談を行うなど、非常に有意義な訪問となりました。中でも、サミット開催に向けて準備が順調に進んでいる様子を目の当たりにいたしまして、沖縄県民の皆様一人一人のサミット成功に向けた大きな意欲を感じて胸が熱くなるとともに、大変心強い思いをいたした次第でございます。

 本日は、こうした思いを踏まえまして、この場でサミット首脳会合の日程の中の首脳の社交行事について発表いたしたいと思います。

 まず、沖縄サミット推進県民会議におかれては、二十二日夕刻歓迎レセプションを開催し、各国首脳御夫妻に沖縄県の伝統芸能に触れていただくと同時に、県民の皆様と各国首脳夫妻との触れ合いの場とすることを検討されていると伺い、非常に楽しみにいたしております。

 また、二十二日夜の首脳夫妻社交夕食会につきましては、沖縄の皆様の誇りである首里城で開催いたします。この関連で、本日、私は首里城での万国津梁の鐘の完成式に出席いたしましたが、琉球王朝の繁栄と交流の歴史を刻む万国津梁の鐘の音が再び首里に響くというこの事実に深い感銘を覚えた次第でございます。各国首脳御夫妻には、こうしたレセプションや夕食会を通じて、沖縄の豊かな文化と歴史を必ずや肌で感じていただけるものと大いに期待をいたしております。

 次に、九州・沖縄サミットは、二〇〇〇年という節目の年に七年振りにアジアで、しかもアジア諸国と歴史的つながりの深い沖縄で開催されるサミットであります。こうした点を踏まえまして、私は今回の沖縄訪問の最後の行事として、先ほどアジア太平洋アジェンダ・プロジェクトの沖縄フォーラムに出席し、アジア太平洋の学術研究の第一線で活躍しております有識者の方々と意見交換を行い、いろいろと有意義な意見を頂きました。その中で、アジア経済危機の際の経験も踏まえて、アジア太平洋の地域協力を強化する必要性と、その国際社会全体の将来にもたらす積極的な意味が指摘されまして、その観点からも、G8のサミットを、アジアとのつながりの深い沖縄で開催する意義は大きいとの貴重な御意見を頂きました。

 こうした、頂いたアジアからの貴重な声も踏まえながら、来るサミットにおきましては、二十一世紀はすべての人にとってより素晴らしい時代になるとの希望が抱けるような明るいメッセージを発信するべく、全力で取り組んでいきたいと考えております。

−−それでは、御質問の方をお願いいたします。

−−二点ほど質問させていただきたいと思います。

 ただ今の総理のお話の中にもあったんですけれども、初めての地方開催となる九州・沖縄サミットの首脳会議についてなんですが、議長国として議題や宣言に沖縄開催の意義及びアジア諸国の視点や声を具体的にどのように反映させていくお考えなのか、お伺いしたいと思います。

○総理 今次沖縄訪問を通じまして、先ほど申し上げましたが、私はアジアの交流の拠点としての沖縄の歴史を改めて実感し、こうした沖縄の歴史を背景として、沖縄の方々が豊かな文化的遺産を活力の源としている姿に改めて感銘を覚えた次第でございます。サミットに出席するG8首脳にも、こうした沖縄でサミットが開催される意義を是非とも実感していただきたいと考えております。

 二〇〇〇年という節目の年に開催される九州・沖縄サミットでは、二十一世紀にすべての人々が一層の繁栄を享受し、心の安寧を得、より安定した世界に生きられるよう、各国、そして国際社会は何をなすべきかを大きなテーマにいたしたいと考えております。

 また、七年振りにアジアで開催されることを踏まえまして、グローバルな視点に立ちつつも、アジア諸国の関心を十分に反映させていきたいと、このように考えております。

 具体的には、私は、一月の東南アジア歴訪、二月のUNCTAD総会出席等、さらには先ほど行ったアジア太平洋アジェンダ・プロジェクト沖縄フォーラム出席を通じて、グローバル化とIT革命の進展が急速に進む中で、開発の問題や、国際金融システムの問題、IT革命の課題などに対して、アジア各国が関心の高いことを身をもって感じたところでございます。

 また、グローバル化の中で、文化の多様性をいかに活力の源にしていくか、アジア共通の課題であると考えております。

 したがいまして、九州・沖縄サミットではこうしたアジア諸国の関心事につき、じっくりと議論したいと考えておりまして、その上で、二十一世紀がすべての人々にとってより素晴らしい時代となるという希望を世界の人々が抱けるよう、この沖縄から、明るく、力強いメッセージを発出いたしたいという願いを込めております。

−−それでは、二問目ですけれども、普天間基地問題ですが、稲嶺知事や岸本市長が強く求めております代替施設の十五年使用期限並びに工法、使用協定などの問題について、対アメリカとの交渉をどのように進め、また、そのめど付けの時期をいつごろとお考えなのかお伺いしたいと思います。

○総理 普天間飛行場の移設・返還にかかわる諸問題につきましては、地元の意向も踏まえまして、昨年末、御指摘の点も含めまして、政府としては、その取組方針を閣議決定いたしたところであります。政府といたしましては、今後、この閣議決定に従いまして、県や地元の御意見を十分お聞きをし、米側とも協議しながら、安全・環境対策や地域の振興を含めて全力で取り組んでまいりたいというふうに考えております。

−−それでは、続きましてお願いいたします。

−−今、政界で一番関心の高いのは、何といっても衆議院の解散・総選挙の時期ですので、その点についてまずお尋ねしたいと思います。

 昨日、収録されました「総理と語る」の中で、総理は次のようなことをおっしゃいました。「警察不祥事などの予想外の問題が出てきているので、内閣としてある程度めどを付ける時間が必要だ」と。先日、発足した「警察組織刷新会議」では、六月末か七月に報告をなされると聞いておりますので、総理の発言と照らし合わせますと、解散・総選挙の時期は七月以降、つまりサミット後になるというふうに受け止めたんですけれども、改めて総理のお考えをお尋ねしたいと思います。

○総理 昨夕、収録いたしましたテレビにおける対談におきまして、この問題についてもお尋ねがありましたので、お話を申し上げさせていただきました。

 私は常々、何といっても十二年度予算を一日も早く成立せしめるということが内閣として最大の問題である−−しかし、予算は、お陰さまで戦後最短・最速ということで通過することができました。もちろん、早きがゆえに必ずしも尊いとは言えませんけれども、しかし、昨年もそうでありましたけれども、やはり四月一日から予算についてこれを直ちに執行できるということは、これは日本の経済の大きな運営の中で、いわゆる公需という立場から言えば、誠にこれは大切なことでありまして、そういう意味から言いますと、来年度予算につきましても、非常に早い時期にこれが成立し、確定したということは意義深いと思っております。

 ただ、予算案が通過しただけでは執行できません。今、国会におきましては、予算関連法案並びに重要法案につきまして熱心に御討議していただいております。特に与党三党としては、力を合わせて、それらがすべて衆参両院通過して成立することのために御苦労いただいているわけですから、これもまずやらなければならないことだろうと思います。

 そこで、今お尋ねにありましたように、昨今、警察不祥事あるいは自衛隊における射撃をめぐっての事件等、もろもろの問題が非常に今起きているわけでございまして、内閣としても実にその責任を深く痛感しているわけであります。

 ただ、こうした問題は、昨日今日に起こったことではありません。たまたま現象的には神奈川とか新潟で誠に言語道断なことがあり、うそを隠蔽するというその上塗りのことが起こってきたということでありまして、そのために、今御質問にもありましたように、警察の問題について言えば、警察刷新会議を国家公安委員長の下でこれを実施し、一日も早い結論を得て、的確に二度と再びこうしたことが起こらない、きちんとした体制を整えるということも、治安の責任を持つ内閣の執るべき対応だと思います。これがいつ御結論を得られるかということは、なかなか私自身が指示するわけではありませんで、内閣総理大臣といえども、警察の問題については、所轄することがあっても指揮・監督をすることではないという立場でありますが、やはり国の最高責任者としては極めて重要案件でありますから、それが中途で解散・総選挙という形でこれが遅れていくということがあってはならないと−−どうなりますか分かりませんが、その刷新会議の御結論を得れば、時には、これは法律の改正ということも企図せざるを得ない問題もあるのではないか、今も、警察法改正が神奈川県の事件から考えて、やはり県の公安委員会の在り方等を含めた改正案が既に国会に提出されておりますが、その後起きたいろいろな事件を考えると、もし、きちんとした方向性が指し示され、内閣として法律をもってこれのきちんとした結論を得るということになれば、これは当然のことでありますけれども、国会を新たに開くということはなかなか難しいとなれば、現国会の中で処理することもあり得るということを実は一般的に申し上げたわけでございまして、サミットの前とか後とかということを申し上げたつもりはないわけでありますが、いろいろお取りようによってと、こういうことかと思いますが、しかし、こうした政局の中で、今、内閣としてお願いをしているというようなことが、なかなかもってこれが国会の御理解を得られないということになりますれば、これはサミットの前であれ後であれ、これは国民の最終的な判断をいただかなければならないということでございますので、したがって、いろいろの取りようがあったかもしれませんけれども、解散につきましては、現時点において、特段に時期を定めているというようなことは考えていないというのが、そのことについて正確にお答えをせよということでありますれば、今のお答えが私の内閣としての解散権行使についての基本的考え方であると、こう御理解いただければ有り難いと思います。

−−今のお話を伺っていますと、やはり小渕政権としてはやるべきことが山積しておるというような印象を受けたんですが、そうしますと、サミット前かサミット後かということであえてお尋ねしますと、総理はやはりサミット後というふうに傾きつつあるというふうに考えてよろしいんでしょうか。

○総理 今もお話し申し上げたように、正確に申し上げれば、今、解散については考えておりませんということです。

−−最後、もう一問お願いします。

 今日ロシアの方で大統領選が行われますので、ロシアのことで一つお尋ねしたいと思います。

 先日の記者会見で、プーチンさんがもし当選したら、総理はモスクワ以外のロシアのどこかの都市で会談をしたいというような意向を発表なされましたけれども、今後、二〇〇〇年の平和条約締結に向けて、日露外交をどのように具体的に進めてらっしゃるお考えなのか、その御方針をお尋ねしたいと思っています。

○総理 日露の平和条約締結という問題につきましては、長い間、非常に進ちょくしない状況でありましたけれども、エリツィン大統領と橋本総理とのクラスノヤルスクの会談を通じまして、大いに進展をしてきたわけであります。その後、川奈におきましても、お二人の会談が持たれまして、二〇〇〇年までに平和条約を締結しようというロシアと日本側の首脳の考え方が一致したわけであります。これを受けまして、私といたしましても、二十五年振りに田中角栄総理大臣以来、モスクワを訪れまして、この問題を進展すべく努力をいたしたわけでありますし、また、昨年のケルン・サミットにおきましても、エリツィン大統領は最終日、到着をされまして、二人でお話をしまして、是非これは実現をしようという意思を更に再確認をしたところでありますが、誠に残念ながら、エリツィン大統領は昨年の十二月三十一日、誠に突然に辞意を示されて、現在、後継者としてプーチン大統領代行が選挙を行い、明朝は、恐らくその帰趨がはっきりされるのだろうと思います。

 そこで外交の一つの姿として、日本として平和条約を結んで、世界の中で条約の無い、国境線が確定しないというような国はロシアをおいてほかに無いわけですから、そういう意味では、気持ちとしてははやる気持ちで何度でもモスクワと思いますけれども、やはり、さはさりながら、やはり外交の鉄則で、交互に訪問することになっておりまして、そういう意味から言うと、もし、プーチン新大統領が誕生するということになりますれば、この大統領が、東京ないしその他、日本に来訪をお願いするというのが筋だろうと思っております。

 しかし、なかなか新大統領誕生で、もしその訪日の予定が直ちに立ちにくいということであるとすれば、日本側の気持ちとしては、いわゆる首都モスクワ以外の地域で会談することもやぶさかでないと私は考えているわけでございまして、まだ当選をしておりませんので、お話を申し上げる立場にはありませんけれども、勝手を申し上げれば、是非日程を作っていただいて、何度でも首脳同士が話し合うという機会を作る中で、最終目的に向かって、歩を一歩ずつでも進めたいというのが率直な気持ちでございます。

−−ありがとうございました。大変恐縮ですが、時間となりましたので、これで記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

○総理 どうも御苦労さまでした。お疲れでした。ありがとうございました。