データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 伊勢神宮参拝時における小渕内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2000年1月4日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),1002−1009頁.
[備考] 
[全文]

−−ただいまから、内閣総理大臣の記者会見を行います。

−−原子力行政と芦浜原子力発電所計画についてお尋ねいたします。JCOの被曝事故で、国の原子力行政に対する国民の不安は増幅しています。二〇〇〇年を迎え、新しい時代の原子力行政はどうあるべきだとお考えですか。

 また、特に地元では、中部電力の芦浜原子力発電所計画に賛否両論があり、三十七年も棚上げのままの深刻な状態が続いています。このほど、約二年半の冷却期間を終え、近く三重県の北川正恭知事が何らかの判断を示す方針です。総理は、知事の方針をどのように受け止めるおつもりですか。お聞かせください。

○総理 お答えの前に、改めて平成十二年−元号で申し上げれば−の新春を迎えました。また、今年は西暦で言いますと二〇〇〇年ということでございまして、いわゆる千年紀、ミレニアムの年となりました。恒例となりました伊勢神宮参拝をさせていただき、記者会見に臨ませていただきました。本年一年間、記者、各位皆様の御理解、御協力を改めてお願い申し上げる次第でございます。

 今お話にありましたように、このたび、昨年のJCOの事故、特にこれを教訓といたしまして、先の臨時国会におきまして成立しました関連の法律の円滑、かつ実効的な施行に万全を期してまいるところでございます。四月から原子力安全委員会の独立性及び機能の強化を図ることによりまして、安全確保及び防災体制の再構築に懸命に取り組んでいるところでございます。

 資源に乏しい我が国が社会経済の安定的発展と、地球環境の保全を図るためには、原子力抜きのエネルギー供給は極めて困難でありまして、安全の確保を大前提に国民の理解を得つつ、その開発利用を進めてまいりたい、これが政府の基本的な考え方でございます。

 また、御指摘の芦浜地点につきましては、電力供給の安定確保のため、特に重要な地点として政府が要対策重要電源に指定いたしているところでございまして、現在もその認識に何ら変わるところはございません。県知事からも、こうした国のエネルギー政策の趣旨を踏まえた御判断がいただけるものと期待をいたしております。

 冒頭申し上げましたように、昨年誠に申し訳ない事故が発生したことによりまして、原子力発電そのものに対しましても、国民の一般的不安が生じていることを否定はいたしておりません。しかし、申し上げたように、日本におきまして今五十一基の原子力発電所が発電に対して国民にその責任を負っているわけでございまして、最近の旺盛な電力需要ということを考えますと、クリーン・エネルギーとしての原子力の発電、しかも世界に冠たる多重防護がなされている状況にかんがみまして、依然として国民の理解と協力を得ながら進めていかなければならないという基本的方針でございます。

 しかし、この点につきましては、御指摘のように長い間の経緯もございます。そういった意味におきまして、知事もいろいろ御苦労されておられることだと思いますし、過去の経過につきましても、私自身勉強させていただいてまいっておりまして、関係町村、あるいは漁協、その他万般の皆様のいろいろな考え方もあろうかと思いますが、私といたしましては、是非北川知事の公平な御判断をいただけるものと考えておりまして、地元の重要な案件であることは、政府としても十分承知をしながら対処していきたいというふうに考えているところでございます。

 −−首都機能移転問題についてです。首都機能移転問題で昨年十二月に国会等移転審議会の答申が出ました。今後、国会で論議されることになりますが、総理は首都を東京から別の場所に移そうという意欲をどれほど持っておられますか。

 また、三重・畿央地域は高速交通網が整備されればという条件付きで移転先候補地に残りましたが、今後国会で他の候補地と同等に議論することができるとお考えでしょうか、お願いします。

○総理 お答えいたしますが、首都機能移転は東京の一極集中を是正し、国土の災害対応力を強化し、国政全般の改革と深く関わりのある重要な課題であると認識をいたしておりまして、内閣といたしましてもその具体化に向けて積極的な検討を行ってまいりたいと、そう考えているところであります。

 審議会は候補地として栃木・福島地域、岐阜・愛知地域の二地区を選定するとともに、将来一定の条件が満たされるならば候補地となる三重・畿央地域を含め、合わせて三か所を答申し、国会での議論にゆだねる内容となっております。国会では、答申の内容を十分に踏まえて我が国の将来を見据えつつ、大局的な観点から幅広い議論をいただけるものと期待をいたしておりますが、長年にわたりまして、この首都機能移転につきましては御議論をされてまいりまして、一応政府としてはこの諮問に応じて答申を頂戴いたしましたので、これを国会にお渡しをしなければならない立場でございまして、国民的考え方から国会においてこの問題をお取り上げいただき、御議論を願えるものと考えているところでございます。

 ただ、この答申により、その後におきましては、現在、首都として存在している東京都との間におきましての御議論も残されているのではないかと思いますが、しかし、いずれにしても政府としては国会における重要な御判断というものを仰いでいける、その今、答申を得てお答えのできる時点に達しておりますので、過去のいろいろな議論を踏まえながら、今、申し上げましたように国会で真剣な御検討をいただけるものというふうに考えております。

 「総理自身がどういうふうに考えているか」ということでありますが、私自身、現時点におきましてどの地区がどうだとかというお話を申し上げる立場になかろうかと思っております。まさに国民的な議論を起こしながら、当初この問題が起こった東京における一極の過度の集中というものの中で、三権がどのようにそれぞれ移転していくかどうかという問題につきましては、それこそ国民全体の課題、かつ長き世紀にわたっての判断でございますから、慎重の上にもまた十分な御検討を更に行わなければ歴史的な評価に対応できないのではないかと思っております。

 と申し上げますゆえに、今時点におきましてこの問題について私の方から今この考えを申し上げさせていただいて、国会でのいろいろな御議論の前提となってはむしろいけないのではないかと、こう考えているところでございます。

−−衆議院は今年の十月に任期満了となります。解散総選挙の時期について総理はどのようにお考えでしょうか。また、次の選挙は衆議院の定数の問題とも関係してまいりますが、今月に召集されます通常国会の冒頭で処理するという約束が与党間でできております比例定数の削減法案についてどのように扱う考えでしょうか。お伺いいたします。

○総理 まず解散総選挙に関してでございますが、私は基本的には四年間の任期というものを全うすべきではないか、これが国民が総選挙において与えた意思ではないかというふうに思っております。

 が、しかし、内閣総理大臣として日本の政治に大きな責任を負っている立場から言えば、国会における支持と理解がなければ、これまたこの任に当たれないわけでありまして、そういう意味で憲法でも規定されておりますように、七条あるいはまた六十九条によりまして内閣そのものにいわゆる解散権というものを行使する権限をお与えいただいているということでありますので、政治そのものはいつも申し上げておりますように誠に「生きた」といいますか、日々変化というものはあり得るわけでございます。そういうことから言えば、国民の皆さんにあえて信を問わなければならないという段階にまいりますれば、申されましたように十月十九日任期満了を待たずして解散ということを行使することは、これは許されるものと思っております。

 ただ、年頭でも申し上げましたけれども、やはり今、日本の政治の大きなポイントは二年続きのいわゆるマイナス成長から脱して、何としてもプラス成長のGDPを、国内総生産をプラスに転化していかなければならないというのが私のこの小渕内閣に与えられた当初からの強い国民の要請でございます。幸いにしてこの一〜三月期をもって当初目標としてまいりましたプラス〇・五%が達成できるということでありますれば、併せて十二年度の予算、いろいろとメディアの皆さんは積極予算と言っておりますが、そう大型積極予算と言い切れるかどうかわかりませんが、少なくとも十二年度においては○・五%を更に上回ってそれを発射台といいますか、スタートにして一%目標を達成すべく予算編成をいたしているわけでございます。是非この予算を一日も早く国会で御審議、御通過いただくということが景気回復、経済再生、そして新しい時代の経済新生に向けての基本的な課題であろうかと考えておりますので、やはり政府といたしましてはできる限り早く予算案を国会に提出をいたしまして、できる限り早くこれが成立を期していきたいというのが強い願いであり、国民もまたそのことを私は要求・要望されるのではないかと実は思っているところでございます。

 なお、定数是正の問題につきましては、残念ながら昨年末の臨時国会におきましてこれが通過することができませんでした。しかし、定数を減ずるということにつきましてはいろいろな御議論もあるかと思います。思いますが、やはり現下、国内におきましてもそれぞれ各企業体におきましても、やむを得ざることとしてこの体質強化のために俗に言うリストラをせざるを得ない厳しい環境の中にあります。そういう意味で、ひとり国会だけ今の定数でいいかということについての御議論がありまして、昨年自由党の小沢党首と私との間におきまして、当初は五十名の比例区の減員ということでいたしてまいりましたが、その後、三党連立内閣ができ上がりまして以降、現時点においては二十名減員の方向で国会の御審議を願いたいと願っております。でき得べくんば国会を召集をさせていただいた暁において、冒頭にこの処理をするということを自民党としてはお約束をいたしているわけでございますので、是非これが達成のできるように国会の御理解をいただきたいと思っておりますが、共産党を除きましては、いわゆる比例区の定数を減員する、削減するということについては野党第一党もこれは反対をされていないと承っておりますので、願わくば是非各党間の御協議の下でこれが成立できるようにお願いをいたしたいというふうに考えているところでございます。

−−昨年末にロシアのエリツィン大統領が辞任しました。ロシアとの間では二〇〇〇年中に日露平和条約を締結することになっておりますが、今年中に条約締結をすることが可能でしょうか。その見通しについてお聞かせください。

○総理 クラスノヤルスクの首脳会談以降、日露関係進展の流れを自らイニシアチブをつくってきたエリツィン大統領が辞任をされたということは極めて残念と考えております。

 他方、昨今の日露関係改善の趨勢は既に歴史の流れとも言うべきものになっておりまして、政権の交替に関わらず推し進められていくべきものであると確信しております。政府としては、あらゆる分野におきまして日露間の協力関係を強化しながら東京宣言及びクラスノヤルスク合意を始めとする一連の合意及び宣言に基づき、二〇〇〇年までに北方四島の帰属問題を解決し、平和条約を締結すべく全力を尽くしていく考えでありまして、エリツィン前大統領の後継者との間でもこのような方針の下、緊密に協力していく考えであります。

 重ねてでありますが、実は今年の三月にエリツィン大統領に是非訪日をお願いをし、また大統領自身もそのようなお考えがあって我が方、丹波駐露大使の信任状捧呈の折に、大統領からもそのようなことをお話があったと聞いておりましたので、春四月と言わず三月に訪日を強く期待をし、かねてからの橋本内閣以来の日露間の関係の急激な流れというものをまさに二〇〇〇年までにこの平和条約締結の大きな足掛かりにしたいと認識をいたしておりましたが、昨年十二月三十一日、電撃的に大統領がそのすべての権限をプーチン首相に譲られたということでございますので、その点は率直に申し上げればいささか虚を突かれた感じではありますけれども、しかし、私はエリツィン大統領とこの首脳会談をいたしました折にも、一昨年の冬、そして昨年のケルンのサミットにおきましても、二人同士になりますと非常に大統領のクラスノヤルスク合意を実現しようという熱意についてはいささかも私は疑いを持っていなかったわけでありまして、そういう意味ではエリツィン大統領も意中の人としてプーチン首相を大統領代行に選ばれたということであるとすれば、当然私はその熱意、意思、希望、こういうものは引き継がれるものと考えているし、私もそのことを確信をいたしております。

 また、プーチン大統領代行就任に当たりましては私からもお手紙を差し上げて、前エリツィン大統領以来の大きく進展してきた日露間の問題について引き続いて同じお気持ちを持って対応していただけるようにと日本側の意思も伝えておりますし、必ずやそういう対応をしていただけるものと考えております。幸いプーチン首相とはAPECにおきましても既にお話をする機会がありましたので、願わくば一日も早く、また二人が会談を行うことによりまして、今までの流れを更に加速することのできるようにということで、今年全力を挙げてまいりたいというふうに考えております。

−−ありがとうございました。これをもちまして内閣総理大臣の記者会見を終了いたします。

○総理 では、今年も是非よろしく。