データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 小渕内閣総理大臣の年頭記者会見

[場所] 
[年月日] 2000年1月1日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(上),395−416頁.
[備考] 
[全文]

 冒頭発言

 明けましておめでとうございます。

 新しい千年紀、ミレニアムがスタートします。

 平成十二年、西暦二〇〇〇年は歴史の波の節目が重なる時でもあります。この百年歴史を振り返れば、二度の世界大戦と冷戦をくぐり抜け、人類が平和と繁栄に向けて着実に歩んできた時代と言えましょう。一千年前には、紫式部の手で源氏物語が書かれ、日本の独自の文化が花開きました。

 歴史の節目を迎えるときは、新しい歴史が始まるときでもあります。

 この節目となる年に、歴史の大きな流れに学びながら、国民の皆様とともに大いなる勇気と希望を持って新たな第一歩を踏み出してまいりたいと思います。

 この七月には、沖縄県名護市で「九州・沖縄サミット」が開催されます。開催国である我が国が今日から一年間、G8の議長国としての重責を担うことになりました。

 二〇〇〇年という大きな節目の年に開かれるこのサミットにおいては、「二十一世紀がすべての人にとってよりすばらしい時代となる」という希望を、皆さんをはじめとして世界中の人々が抱けるように実りある議論をしたいと思っております。

 また、今年のサミットは七年ぶりにアジアで開催されます。私としては、G8が、グローバルな視点とともに、アジアの関心も十分に反映した、明るく、力強いメッセージを世界に向けて発信する機会にしたいと願っております。

 サミットの開催中は勿論ですが、この一年間は、世界の耳目が日本に、そして九州や沖縄に集まることとなります。日本という国が各地方ごとにいかに多様で豊かな文化を持っているか、また、日本人がいかにもてなしの精神にあふれた国民であるかにつき、ぜひとも世界の方々に理解を深めていただきたいと期待しております。ここに、国民の皆様の御協力を心からお願い申し上げます。

 今、皆様にご覧いただいておりますのは、このサミットの「ロゴマーク」でございます。全国から五千五百件を超える応募がありまして、その中から沖縄県の知念秀幸さんの作品をロゴマークとして決定させていただきました。

 この作品は、太陽をモチーフとして、「赤」は参加国の情熱を、「青」は広く美しい海を表すもので、このサミットに大変ふさわしいと考えております。

 さて私は、この機会に沖縄県の抱える基地問題について申し上げたいと思います。

 普天間飛行場の移設に関し、先の稲嶺知事のご表明に続き、このたび岸本名護市長が代替施設の受け入れを表明されました。知事及び名護市長、更に関係者の方々の、苦渋の中にも沖縄の将来を見据えた真摯なご決断に心から敬意を表したいと思います。

 また私は、我が国の平和と安全をもたらす安全保障体制の確保は、一人名護市、あるいは沖縄県の課題ではなく、全国民的課題であることについて、国民の皆様の深いご理解を求めたいと思います。

 今後、政府としては、代替施設の整備につきまして、市民生活への影響に最大限の留意を払い、安全、環境対策に万全を期してまいります。また、沖縄の地域振興に全力を挙げて取り組んでまいりたいと思います。

 今、新しい千年紀の入り口に立ち、日本の輝かしい未来を描いてみることは政治の大きな役割であります。新しい千年紀の始まりに身の引き締まる思いを感じながら、日本の明るく希望に満ちた将来の姿、特に社会のあり方について「五つの未来」として私の考えをお話ししたいと思います。

 第一の未来は、「社会の未来」です。グローバル化や情報化が進む新しい時代には、個人の「力」が社会を動かす原動力になってきます。即ち、科学・芸術・文化・そして新しい産業、更に社会全体をリードし、「国のかたち」をつくるのは個人の創造力と先駆的な挑戦であります。そのためには、社会が個人の挑戦を歓迎するとともに、教育などの様々な制度が、アイデアにあふれた人材を生み出し、自由な挑戦と失敗したときのやり直しができる仕組みを備えていることが大切です。

 また、個人が力を十分に発揮するには、仕事や暮らしに関して、多様な「豊かさ」を追求できる選択肢が用意されていることも必要であります。

 他方、このように個人がいきいきと活躍できる社会は、「無秩序で、自分の利益だけを追求する社会」であってはなりません。

 先の阪神・淡路大震災の際の数多くのボランティアの活躍や、現在、多くの方々が地域社会において福祉、環境などの面で積極的に参加している姿は、新しい社会の流れを予感させるものであります。

 このように、「個人」が自分の意思で社会と関わり合うことで「公」−即ち「おおやけ」、「パブリック」を意味しますが−を生み出していき、「個人」と「公」が共に共同して支え合う新しい社会の仕組みを築くことが大切になるのではないでしょうか。

 第二の未来は「子供の未来」です。今年は「児童の権利に関する条約」の発効十周年であり、また、国会で「子ども読書年」とされたところであります。

 ますます多様化し、変化のスピードも一段と速くなる新しい時代には、変化する環境の中で、「夢を実現する力をつける教育」が求められると思います。画一的な知識の量を重視するのではなく、確固たる基礎知識を土台に、自らものを考える力、表現する力を身につけることが大切であります。また、他人の気持ちを尊重し、生き物や自然を大切にする心も重要であります。家庭、学校、地域社会が連携して、いじめや学級崩壊を乗り越え、「自律心があり、あたたかな心をもった子供たち」を育てていけるように、教育のあり方を大胆に見直すことが必要であります。今後の教育のあり方につきましては、「教育改革国民会議」−仮称でありますが−を設置し、その基本に遡って幅広く検討していただきたいと思っております。

 第三は、「女性の未来」であります。社会の最小単位である家族が核家族化し、その対応力が弱くなっております。家族を社会が支える仕組みが必要です。それと合わせて、女性が多様な選択ができるよう、環境を整えていかなければなりません。家庭にいて出産・子育てに当たることも一つの選択であり、社会に出て働くのも一つの選択であります。固定化せずに、状態に応じて選択できるようにすることが大事だと考えます。女性が安心して出産し、また、仕事をもち、社会に参加しながら、人生を最大限充実して過ごせるような社会を作っていきたいと思います。そのため、保育システムの充実や柔軟な雇用制度などをつくっていかなければなりませんが、政府のみならず、家庭、地域社会、企業をあげての取り組みが重要だと考えます。

 第四に、「高齢世代の未来」です。高齢者の人口が増えた要因は長寿であり、これは世界に誇るべきことであります。まず、私たちは、多くの高齢の方々が元気で活躍されている事実をきちんと認識すべきだと考えます。

 最近、私は、「サードエイジ」という言葉を初めて聞きまして、感銘を受けました。高齢者につきまして、「サードエイジ」との呼び方を用い、「サードエイジも主役の社会を目指すべき」との主張は私の思いと大いに重なるものがあります。私は、高齢の方々が健康を維持し、病気を克服するとともに、その知恵や経験を活かして、仕事をしたり、地域社会に参加するなど、様々な選択肢が用意されている社会を築くべきだと考えます。また、こうした方々が活動しやすいバリアフリーの環境を作っていくことも大切であります。そして、こうした社会を支える土台となる社会保障制度は、国民的な議論を重ね、国民各層に安心してもらえ、また、満足してもらえるものへと改革していく必要があると、考えます。

 最後に、「世界と日本の未来」であります。日本の輝かしい未来は、世界全体の未来の安定と繁栄がなければ築くことはできません。国益に沿って、対外政策を進めることは当然ですが、自国の利益だけを追求することは相互依存が進んだ国際社会では不可能と言っても過言ではありません。日本が国際社会に臨む基本姿勢は、民主主義と市場経済原理を大原則として掲げながら、各国とともに世界の平和や繁栄を目指し、積極的に行動していくことであり、それが自ずから日本の国益にもつながっていくものと考えます。このように行動していくにあたっては、日米関係を重視しつつ、アジアとの関係を深めながら、世界に共感を持って参加することが重要であり、それが日本のすばらしい未来を築いていく道だと考えます。

 以上申し上げましたような「五つの未来」をの実現を通じて、日本の社会は明るく活力に満ち、日本人の人生は本当に充実したものへと向かうのではないでしょうか。私が目指すのは、性別に関わりなく、子供の時から高齢者にいたるまで、それぞれの価値観にしたがって、また、その時々の関心に沿って、「人生を一貫して充実できる社会」であり、教育、雇用、社会保障、そして経済の活性化策などを総合した「人生を一貫して重視する政策」であります。

 近いうちに「二十一世紀日本の構想」懇談会におきまして報告書を取りまとめていただける予定であります。この報告書を一つのきっかけとし、明るい未来のビジョンや夢に向かって更に国民的な議論が積み重ねられることを心から願うものであります。

 こうした未来を築き上げていく上で、その礎となるのは、「活力あふれる経済」であり、また、それを支える社会全体の「安全の確保」であります。

 私は、経済と財政について、かねてから「二兎追うものは一兎をも得ず」と言う状況にしてはいけないと申し上げ、しかしながら一方で、六百四十五兆円という巨額の債務残高を抱える厳しい財政の状況を直視し、財政構造改革という大変重い課題を背負っていることを一時たりとも忘れたことはありません。

 こうした基本的考え方の下で、私は、先般十三年度までを視野に入れ、公需から民需へのバトンタッチを行い、民需中心の自律的回復軌道に乗せるという経済新生への道筋を示しました。十二年度はその道筋を確実なものとする年であります。このように、経済新生が実現されることは、我が国経済が長い低迷を脱し、名実ともに「国力の回復」が図られることを意味し、国民の皆様に財政・税制上の諸課題を如何に解決していくべきか、将来世代のことをも展望した、腰を据えた議論をお願いできる環境が整うものと、私は確信しております。

 私は、これまで、多くの方々とお話しし、その意見に耳を傾け、国民の英知を集め、決断すべきことは決断し、果敢に実行する、こうしたことを政治の基本と考え、努力を重ねてまいりました。本年もこれを実行しながら、責任ある政治を行っていく決意であります。最後に、改めて国民の皆様の御理解と御支援をお願い申し上げ、皆様の御健康と御多幸を心からお祈り申し上げます。

 質疑応答

 今年は先ほどおっしゃいましたけれども沖縄でサミットがあって、総理は議長国として世界のリーダーを務めるお立場になられると思うのですが、先ほど「五つの未来」という観点から二十一世紀の日本についてお話がありましたけれども、更にもう少し具体的に二十一世紀の日本ということについてのイメージをお伺いしたいと思います。

 通常国会からは憲法調査会が設置され、議論が始まると思います。代表的な議論と言えば九条の問題があると思うんですが、それとか例えば今言われました個と公、個人とパブリックの問題とか、権利と義務の問題とかがあります。総理はこの憲法のどの部分について具体的に議論を進めていくべきだというふうに考えられているんでしょうか。

 それとまたもう一つ、さっきも言われましたが三党合意でありました「教育改革国民会議」の発足の件ですけれども、総理自身は教育のことについてもたびたび意欲を持って発言されていますが、具体的に教育基本法の改正の問題ですけれども、どこをどういうふうに改正すべきだという風に思われているのでしょうか。

○総理 まず、西暦二〇〇〇年に当たりまして、我が国をこの美しい日本、これをより品格ある国家として世界の中から注目もされ、その世界的役割を果たしていく国となすべく最善の努力をしていきたいというふうに考えております。

 昨年の十一月二十七、二十八日にフィリピン、マニラでASEAN10プラス3、すなわち日中韓が参加しての会合がございまして、そのときに各国首脳から改めて申されましたことは、九七年にバンコクから始まったアジアの金融危機、すなわち多くの資金が一挙にこのアジアから去っていったという中で、日本が新宮澤構想三百五十億ドル、あるいは五百億ドルの支援を通じましてアジア経済に大きな役割を果たしてまいりました。お陰様をもちまして、それぞれの諸国もほとんどマイナス成長でありましたが、すなわち九九年はプラス成長に転じている。そのことに関しまして、改めてアジアの一国としての日本に対する感謝とその努力に対する評価があったことを伝えられまして、世界の中に生きる日本、アジアとともに繁栄していく日本ということを痛切に感じたわけです。

 今まで戦後は、日本はどちらかというとアジアの国に対する援助というものはもともとは戦争賠償というところからスタートしているし、またアジアの諸国もそういった感じを持っていたことも事実です。

 しかし、改めて先般のアジアの危機において日本の企業は撤退することもなく、お金をそれぞれの地域から引き揚げるということもなく、共々に生きていこうということの中でアジアが繁栄して、そしてその繁栄が日本にもたらされ、また日本も同時に日本が経済成長してアジアに応えていくという新しい意味での日本の存在感というものを示し合ったということでございまして、各国の首脳からも率直に、本当にそのことについては日本国並びに日本国民に対しての評価があったわけでありまして、そういう国として今後とも日本が大いに繁栄していくための努力をしていかなければならないと思っております。

 そこで、具体的な問題として憲法改正の問題に触れられましたけれども、この点につきましては、政府としては現在憲法を改正するという意思はございません。が、しかし、御承知のように次の通常国会から衆参両院において憲法調査会が設置をされて、まさに国民的な視点に立って憲法をもう一度見つめ直そうということが始まったということで大変に意義が深いんじゃないか。従前は、今御指摘のありました第九条も含めまして、それが戦争につながるとか、いろいろな議論が憲法制定以来行われまして、いわば「不磨の大典」といいますか、憲法はアンタッチャブルなものだという感じがありまして、このことを正々堂々と論議をすることについてはそれぞれの主張をされる政治家がありましても、これを与野党も含めて検討しようという年に、この二〇〇〇年はなったということは、これまた大変に私は意義深いことだろうと思います。

 五年間という年限を定めて検討するということでございますが、その検討によりまして我が国戦後新憲法の下における憲法のそれぞれの条項について十分これから御論議をしながら、国民のコンセンサスを得ながら、改めるべきものがあるとすれば、それはいたしていかなければならないと思っております。

 具体的にどういう条項をどうするかということにつきまして、今私が申し上げることは差し控えますけれども、政府としてもそうした国会の真摯なこれから憲法に関する調査会の御論議などを受け止めながら、国の基本法たる憲法というものについて、しっかりとした視点でやはり見ていくという必要があるのではないかというふうに考えております。

 それからもう一つ、教育改革のことを申されました。率直に申し上げまして、昭和二十二年の教育基本法から始まりまして、そのときどきの内閣におきまして教育改革につきましてのいろいろな御論議がされました。特に、中曽根内閣におきまして臨教審がありまして、いろいろの御提言も頂戴をいたしているわけでございます。

 しかし、今、教育の様々な状態を見ますと、現象面で言えば学校におけるいじめの問題とか、その他、学級崩壊の問題とかもろもろあります。もろもろありますが、しからば教育改革とは何ぞやとなりますと、前の橋本内閣のときもこれを六大改革の一つに取り上げましたけれども、実際にこれから教育改革とは何ぞやというのは、それぞれ国年のそれぞれの立場でいろいろな御主張があるわけですね。ですから、この際はいま一度教育改革とは何ぞやという原点に立ち返って、もろもろの方々の御意見ということも拝聴しながら、戦後教育の在り方等も含めてそれを十分検計し、問題の諸点を考えますとともに、本日問題となっていることがなぜ起こってきたかということも含めて、それ序検討して分析して、そして新しい意味での二十一世紀の教育、たまたま二〇〇〇年でありまして、本来的には二十一世紀は暦の上から言えば二〇〇一年一月一日から始まるのかもしれませんけれども、まさに新しい世紀を迎えるに当たってここ一年、国家百年の計と常々言われる教育改革について、「教育改革国民会議」、これは自民党、自由党、公明党三党からのお考えがそこにまとまっておりますので、これを政府としてもしっかり受け止めながら、その会議歩通じながら教育改革の根本、そしてそれに伴って過去の教育の在り方、そして今日起こっている問題点等を考えなければならない。たまたま昨年のケルン・サミットでも世界の先進国も同様の思いをしておりまして、各国とも教育問題に対して百年の計を立てる努力をされておりまして、恐らく今夏に行われるサミットにおきましても、引き続いてG8の国々からもこの問題についての報告もあるのではないかと思っております。

 既に報じられているように、イギリスなどではやはりブレア首相が口を開けば教育、教育、教育と言っているというようなことも聞いておりますし、この間テレビを見ておりましたらスーパーティーチャーというんですか、非常に高い給与の下で教育実践をやる教員の、そういう方々が現場に出ていってやることとか、なかなか各国とも画期的ないろいろな政策を打ち出しております。我が国におきましてもいろいろと政策の提言はありましたけれども、これを具体化し、かつこれを実施するという点についてまだ十分とは言い難い点があります。したがって、申し上げましたように、この内閣として「教育改革国民会議」というような形で日本全国、あるいは日本国ばかりでなくてほかの国々からも有識者の皆さんの御意見を聞きながら、ひとつ次の二十一世紀、百年の計を立てる努力を是非いたしていきたいというふうに考えているところでございます。

−−次に政局です。定数削減の問題ですけれども、自由党は自民党との合意が実行できなければ離脱するというふうに言っております。総理は、これは党と党との約束というふうにお考えなんでしょうか。

 また、国会が始まると与党だけではなくて野党におきまして現状では通すためには三回とか四回強行採決しなければ当然成立しないと考えますが、これについてどう思われますか。冒頭処理しないとすると予算審議に入らないとか、そういう形でちょっと我々が考えてみても袋小路に陥るのですけれども、その辺をどう考えておられますか。

 また、総選挙のことですけれども、総理は通常国会の会期末のときに国民の理解を得るには是非新定数で行うべきだというふうに言われていましたけれども、これは現在も公約と考えてよろしいんでしょうか、お願いいたします。

○総理 まず、通常国会の冒頭に衆議院の比例区定数を削減するということについて若干歴史を申し述べれば、自由党の小沢党首と私との間で自自連立を行うときのお約束に出発をしているわけです。その後、連立内閣が公明党の参加を得まして、三党における連立に相なっておるということでございますが、自由党としてかねての御主張でありますし、また私自身も比例区の削減についてはそれを了としたわけでございます。

 しかし、いろいろな経過の中で五十名でなくして二十名という形で昨年来、真剣な御論議がされ、臨時国会の最後にはこれは衆議院において論議がされ、これが採決に至るという形に相なっておりますが、その後、伊藤衆議院議長が預かられておられるわけでございますので、引き続いて通常国会が始まれば是非このお約束を果たしていかなければならないというふうに感じております。

 ただ、今お話のように二回、三回の強行採決というお話がございましたけれども、選挙制度あるいは定数の問題ということにつきましては、願わくば国会議員身分のことでございますし、同時に議会制民主主義の基本のことでございますから、やはり与野党でよく話し合って、これが成立を期すということでなければならないというふうに思っております。私の見るところ、共産党は定員削減そのものに反対をしていると思いますけれども、野党第一党の民主党におかれましては、比例区の削減ということにつきましては、根本的には私は反対していないというふうに認識をいたしておりますので、これから通常国会を開会するまでにそうしたことの努力を与野党間で十分詰めていただきまして、国会が開会されましたら是非冒頭に処理していただきたいということを私としては心から念願をいたしておる次第でございます。

 それから、次の総選挙は新定数で行うべきということにつきましては、自由党との間にそのようなお約束をいたしております。すなわち、定数を減じているということは、その後に国民の意思をその定数において国民の判断を求めるわけでございますから、やはり選挙の前にこれの成立をお願いし、そして一定の期間というものが必要だろうと思いますけれども、やはり新定数を国民の皆さんに御理解いただいた中での国会議員、衆議院でございますけれども、二十名減らせば四百八十名ということになりますが、そのこと自体も含めて国民の信を問うというのが筋道ではないかというふうに考えております。

−−冒頭処理しないと予算審議に入れないのかというのはどうでしょうか。

○総理 それは国会で御判断することでございますけれども、今、申し上げたように冒頭の処理について、国会において精力的にお取り組みいただいて結論を得ていただきたいと思っておりますが、同時に、この十二年度予算というものは国民にとって最も必要とする基本でございますし、国会として予算の審議をおろそかにするというようなことは私はあり得ないものと認識をしております。政府としては一日も早く予算案を提出をさせていただきまして、これはこれとして十分御審議の上、速やかに御可決いただき、今、景気回復が穏やかながら成長している、この流れをいささかもとどめるということがあってはならないということで、恐らくその点については国会における良識というものが必ず発揮されると同時に、予算の審議というものについては積極的にお取り組みいただけるものと確信いたしております。

−−次伺いたいと思いますが、自由党との関係なんですけれども、今の離脱と裏腹に合流という話もありまして、国民にとっては非常にわかりにくい状況になっていると思うのですけれども、また自民党内でも意見が割れている中、総理は前国会の閉幕の日に、この合流については非常に前向きの発言をなさいました。今、そのお考えに変わりはないんでしょうか。合流についてはどのようなお考えを持っているのか伺いたいというのが第一点。あと、もし合流をする場合に、その時期なんですけれども、総選挙の後がいいのか、あるいは前がいいのか、その辺はどうお考えなんでしょうか。また、もし合流をする場合に、その意義というのはどこにあるとお考えでしょうか。

○総理 自民党と自由党とのいわゆる合流問題についてのお尋ねでありますが、私と小沢党首との間におきまして、この一年間自自連立内閣を自主的にやってまいりました。お互い党を別にしながら切磋琢磨するというのも、これなりの成果を私はあげてきたというふうに思っておりますが、同時に、基本的に自由党の国会議員の皆さんも、いわば我が党の基本的理念、考え方とかなり類似する点があるだろうと思っております。

 そういう意味では、別の党としてお互い切磋琢磨するのも一つの道、同時にお互いこの際一つの政党として力を合わせていくというのも一つの方向性じゃないかということでありまして、私と小沢党首の間におきましては、もしそういう道があるとすれば、その道をお互い選択することも望ましいことではないかという点にはある意味の一致点を見出していると認識をいたしております。

 ただ、非常に困難こと{前4文字ママ}は、かつて昭和三十年に当時の自由党、民主党がいわゆる有名な「保守合同」をいたしました。しかし、そのときの選挙制度は言うまでもありませんが、中選挙区制度でございまして、合同した上で一つの自由民主党が成立し、自由民主党の候補者として複数の選挙区における議員定数というものの中で、お互い生きる道がかなり可能性があったと。しかし、今日は一選挙区、単純選挙区として一選挙区一人という候補者の中で、お互い政党が合流した場合には、その選挙区をどうするか、いわゆる選挙協力の問題が非常に難しい状況であります。

 今日まで、この点については両党の責任者同士で話し合ってまいりまして、それなりの方向性は定まっておりますけれども、すべて現時点において両党が満足すべき状況になっていないということがなかなか合流への一つの大きなネックになっているということも事実だろうと思うんです。

 と同時に、やはり政党同士一緒になるということにつきましては、それぞれ政党の中において、やはり過半数以上の方々の理解、了解というものがなければこれを強行するということはでき得ないことは、民主的プロセスを持つ自由民主党とて当然のことでありまして、そういった点でいつまでとかということの限定はできませんが、願わくば党内における有力者あるいは有力なそれぞれの政策グループ、皆さんの御理解を得られる努力をしながら、その方向に向かっていくことが望ましいのではないかと、私、自由民主党総裁として、是非この点については、党内におけるそれぞれ有力な方々にお願いも申し上げてまいりたいというふうに思っておりますが、現実問題として、いつ、どこまでということについて、この機会に申し上げることは残念ながら控えさせていただきます。

−−次に伺いたいんですけれども、今年は総選挙のある年になると思いますが、総選挙の時期を判断する決め手は何だとお考えでしょうか。また、選挙の後の勝敗ラインですけれども、二百十五とおっしゃった方もいらっしゃいますし、単独過半数という声も出ていますけれども、総理としてはどの辺に勝敗ラインを置きたいというふうにお考えですか。

○総理 それそも勝敗ラインということ自体が概念規定されているわけではありませんが、少なくとも現実に政治をお預かりしている立場から言い、かつ与党最大の政党の責任者として考えれば、次期選挙におきましては、当然のことながら過半数以上の候補者を公認候補として擁立をし、その全員の当選を期していくということは、これは当然のことであるし、また、その選挙の結果によりましても、減員するかどうかにもよりますけれども、四百八十のまた過半数を超える議席を単独で確保していきたいということは、政党政治の立場で政党をお預かりする者の当然の主張であり、考え方であると私は認識をいたしております。

 ただ、単純な二党による政権の争奪といいますか、争いをしているイギリスとかその他の国と異なりまして、多党化している我が国のことでございますので、そういう意味から言えば、なかなか過半数を維持するということの困難性もあろうかと思いますが、少なくとも総裁として考えることは、是非、与党第一党として確実に政治を運営できる議席数として過半数を目指していくというのは当然のことであると思っています。

−−時期の判断の決め手は。

○総理 時期と言われましても、十月の十九日には任期満了になりますので、これも理論・理屈上から言えば、そういう任期満了において選挙が行われるか、その前に、いわゆる解散権の行使という形で解散が行われるかということでございますが、それはその時点における政治情勢で権限を与えられている、総理大臣が与えられているわけでありませんが、七条あるいは六十九条によって、内閣が与えられた権能として、それを主宰する内閣総理大臣の最終的判断によって決定をするということでございまして、どういう場面かと言われますが、政治は生きておりますので、国民の判断を求めなければならないという事態が生じれば、そのときは解散をしていくということだろうと、こう思います。

−−続いて外交問題についてお尋ねします。昨年十二月に日本と北朝鮮の赤十字会談が行われましたが、拉致疑惑ですとか食糧支援を巡ってすれ違いも感じられます。今後、日朝の国交正常化交渉をどういうふうに進めていくのか、お答えください。

○総理 これも言うまでもありませんけれども、国連の加盟国百八十八の中で、我が国が国交を有していないのは、大変残念ながら最も日本に近い国である北朝鮮ということになっているわけでありまして、そういうことから言いますと、現状は極めて近くて最も遠い国となっている状況を一日も早く、これは正常化しなければならないということでありまして、過去幾たびか正常化交渉が行われましたが、中断をいたしておりまして、幸いに村山元総理を団長としての与野党の議員各位における訪問団がそのきっかけをつくっていただきましたので、現在、赤十字同士のお話し合いも進んでおりますし、また、これから正常化交渉のための予備交渉が昨年末、そして、今年の当初行われる予定でありますので、それを通じまして正式な本会談に一日も早く入っていかなければならない、その努力を怠りなくいたしていきたいというふうに思っております。

 御指摘のように、諸課題はないとは言い難い点もあります。特に、一昨年の北朝鮮のミサイルが我が国上空を通過する発射の事件とか、工作船の事件、あるいはいわゆる拉致疑惑事件とか、我が国国民にとっていろいろな不信感が必ずしも払拭されていない状況であることは、私も承知をいたしております。

 しかし、冒頭申し上げましたように、このような状況を等閑視していくということがあってはならないということは当然であります。しかも、世界の大きな流れといいますと、特に北東アジアの安全保障を巡って、米国も、そして特に分断国家として苦労に苦労を重ねてきた韓国におけるキム・デジュン(金大中)大統領も、この点については包容政策を取っておるということでございますので、日本としても相協力して、是非国際社会に北朝鮮が入ってきていただいて、ともどもにこの地区の平和と安定に寄与していただくと同時に、国際社会の中で活躍いただける情勢をつくり上げるために、我が国としてお手伝いをすることは、これまたなさなければならないことだろうと思っております。拙速であってはいけないと思いますけれども、事においては果敢に対応していくべき必要があるのではないかというふうに考えております。

−−内政問題について伺います。二点ございますが、一つは、財政問題ですけれども、今日の総理のあいさつの中でも、経済の新生の道筋を今年確実にすると、さらには財政、税制上の展望を示す年にするということを言われました。

 宮澤大蔵大臣も、先日、二〇〇〇年度の予算を今までの積極型の予算の最後にするというような発言がありましたが、総理は、具体的にいつから、こういった積極財政を転換するのか、更に財政再建の道筋というのはどの時点ではっきり示されるのか、これが一点目です。

 関連してもう一点ございます。社会保障の政策のことですが、今年の四月から介護保険の制度がスタートしますけれども、それに加えて医療・年金、少子・高齢社会に見合うような社会保障の大幅な見直しが必要だという指摘が相次いでいます。これも当然財政を伴うわけですけれども、これまで総理がたびたび前向きに取り組んでいくという姿勢を示しておられますけれども、具体的に財政と社会保障の関係をどういう具合に切り盛りしてやっていかれるのか。いわゆる姿勢だけではなくて、少し具体的な考えを聞かせていただきたいと思います。

○総理 まず第一点の財政再建の問題ですが、先ほど申し上げましたように、六百四十五兆円という大きな国としての債務を負っているというこの事態は一日も早く解消していかなければならないと、このことが念頭を去ることは全く政治家としてあってはならないことだと思って日々考えているわけでございます。

 同時に、いつも申し上げているように、私が就任いたしましたときの日本の経済の状況、二年続きのマイナス成長をして、そして、このままの状況で日本がマイナスをするということは、先ほど申し上げましたように、「日本が風邪をひけば、アジアは肺炎を起こす」というような状況の中で、自らの体質をともかく改善をしなければならない。すなわち景気回復、経済再生ということが最大の任務としてとらえているわけでございまして、その過程で、なるほど今年度予算も来年度の予算を含めますと、八十三兆円に近いいわゆる公債発行の責任を負ったということでありまして、これが加えられますから、前々からいえば、六百四十五兆円になんなんとする財政赤字を抱えている。これは一日も早く解消しなければならないと思いますけれども、両にらみでやっておりまして、一方がうまくいくと、また両方ともこれがうまくいくということはなかなかもって難しい状況だろうと思います。したがって、この際は、いつも申し上げておりますけれども、「二兎を追うものは一兎をも得ず」ということであってはならない。したがって、この十一年度におきましては、〇・五%の目標を何としてもこれを達成する。そして、来年度、十二年度はその上に立って一%くらいの経済成長を目指していくという過程の中で、税収を確保しつつ考えていかなければならないのではないかというふうに考えております。

 したがって、財政再建につきましては、しっかりとした安定的な日本経済の成長の土台と言いますか、土俵をきちんと固めた上でそれぞれの政策を講じていく必要があるのではないかということでありまして、したがって、来年度の中で財政再建のためのスケジュールをつくるということは、なかなか困難なことではないかというふうに思っておりますが、いずれにしても、後世につけを回してはいけないという形の中で、日本経済をまず再生をさせて、その中から果実を生み出す努力をしていくということだろうと思っております。ほかの国の例、顰(ひそみ)に倣う(ならう)つもりはありませんけれども、一遍赤字財政になっても、それを埋め合わせても余りあるような、例えばアメリカ経済の状況というものがございます。我々も政策に誤りなきを期して行けば、必ずやそういった意味で大いなる黒字の中で、それが配分のできるような国家財政に一日も早く戻していかなければならないというふうに考えております。

 社会保障の点についてでありますが、なるほど今日高齢者はますます増加をいたします。一方、少子化の中で子どもたちに対する対策も講じなければならない。いずれにしても、高齢者のための政策をするためにもお金が必要、子どもさんを産み育てるということの安心してできるような社会にするためにもお金が必要、お年寄りのためにも子どものためにも、双方で掛かる費用というものは非常に大きいということでありまして、それを今日まで国民全体で賄ってきたわけでございますけれども、考えますと年金、医療、今、介護の話がありましたけれども、いずれもそれぞれの問題点についての処理について、審議会とか、いろいろな方々がいろいろ答申を出しながら政策として打ち出してきましたが、そろそろこれをみんな全体として考えなければならない、すなわち社会保障構造の在り方全体を考えなければならない、ぎりぎりの段階にきているのではないかと私は考えておりまして、この点は改めて、そのための有識者会議を一日も早く設置をいたしまして、年金、医療、介護、そういう社会保障全体にわたっての将来の総合的、有機的なつながりのある形での解決方法というものを考えていくための会議をしていかなければならないというふうに考えております。具体的なとおっしゃられますけれども、年金については今、国会に法律が提案されて、当面の問題の処理についての政府の考え方を明らかにしておりますけれども、私はそれだけではいかんと思っているのです。

 本当にその他介護の問題、医療費の問題も三十兆円を超えて、これはもうこのままの趨勢でよろしいかという、いろいろ国民の中の議論もあります、いろいろ医療改革も少しずつ行われておりますけれども、全体的に検討すべきぎりぎりの段階にきたと考えておりますので、どうも小渕内閣はいろいろ有識者会議ばかりつくるという御批判もあるかもしれませんけれども、やるべきことはともかくやらなければならない、社会保障についても同様だと考えて、その中でできる限り早い時期に一つの考え方をまとめさせて、国会の御議論とまたは御理解を得ていきたいというふうに願っています。

−−これで、総理の年頭会見を終わります。どうもありがとうございました。

○総理 どうも大変御苦労様でした。