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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第二次改造内閣発足時の小渕内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 1999年10月5日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(上),36−46頁.
[備考] 
[全文]

−−それでは、総理お願いいたします。

○総理 まず、最初に東海村ウラン加工施設の事故について一言申し上げます。

 今回の事故によりまして、多大な不安と御不自由を被られた近隣住民の方々に一刻も早く平穏な生活に戻られますよう、また、今回の事故で被曝された方々が一日も早く回復されますよう、心からお祈り申し上げます。

 今回の事故は安全を著しく軽視した予想外の人為的な事故でありました。このような事故を二度と起こさないためには、まず原因の徹底究明を行い、この結果を踏まえ、速やかに再発防止対策を確立し、実施してまいりたいと考えます。また、直ちに核燃料製造施設の緊急総点検に着手いたしたところであります。

 同時に、近隣住民の方々に対しまして、必要とされる支援を迅速に行ってまいる考えです。

 更に今回、政府の危機管理対策につきましても、謙虚に反省すべきことは反省をし、さらなる万全を期してまいりたいと考えております。

 最後に、現場におきまして、身の危険をも顧みず、事態の沈静化のために御苦労されました方々の献身と勇気に対しまして、心から敬意を表したいと思います。

 なお、私自身、明日午後、中曽根科学技術庁長官とともに現地を訪れ、現場の状況を視察することといたしております。

 さて、私は本日内閣改造を断行し、自由党、及び公明党・改革クラブとの連立内閣を発足させることといたしました。過ぐる通常国会におきまして、自自連立の上に、更に公明党・改革クラブの協力を得て、国家と国民のために数多くの成果が得られたことは皆様御承知のとおりでございます。

 こうした実績や基礎に立ちまして、三党会派は、緊密な協議を重ね、経済、社会保障、安全保障、政治・行政改革、教育、環境など、広範な分野でしっかりした政策合意に達した上で、連立内閣を発足させたものでありまして、今後三党派は政治責任を共にしながら、切磋琢磨して国家と国民のために、よりよい政策を練り上げ、果敢にこれを実施に移し、現下の諸課題に対処してまいりたいと考えております。

 今回の改造に当たりましては、この内閣に与えられた重大な使命をしっかりと踏まえまして、経済、明年の九州・沖縄サミットを始めとする内外の重要諸課題に政府・与党の総力を挙げて取り組むことのできる強力な体制を整えるべく、意を用いたところでございます。

 このため私は真に適材適所、真に強力な内閣を作り上げていく観点から、大臣、政務次官共に従来の組閣の慣行にとらわれず、思い切った人事を行ったと自負しております。

 具体的に申し上げれば、昨年七月の組閣以来、経済再生内閣と銘打ちまして、宮澤大蔵大臣、堺屋経済企画庁長官、与謝野通産大臣を中心とした財政、税制、金融、法制のあらゆる施策を総動員いたしまして、経済再生に取り組んでまいったところであり、その結果、ようやく景気は最悪期を脱し、ひと山越えた状況にあります。

 こうした流れを景気の本格回復にしっかりと結び付けるとともに、二十一世紀の発展基盤を築き上げていくためには、むしろこれからが正念場である。このことを肝に銘じているところであります。

 このため、経済政策を担ってこられました内外の信頼厚い宮澤大臣、堺屋長官に留任をお願いをいたしまして、引き続きその任に当たっていただくことといたしました。

 また、初閣議におきまして、総合的な経済対策を早急に取りまとめるよう指示いたしたところでございます。

 次に、明年の九州・沖縄サミットは、最重要の外交日程でありまして、沖縄県を始めとして、各自治体の緊密な連携を取りつつ、万全の努力をしていく考えでありまして、またサミット議長国としての国際的な責任を十分踏まえ、そのときどきの国際情勢の変化に従って、柔軟かつ迅速に対応していかねばならないと考えております。

 このような点にかんがみまして、私は河野元副総理・外務大臣に、外務大臣をお願いいたした次第でございます。

 このほか、いちいちお名前を挙げることは避けますが、各大臣ともそれぞれの分野で高い識見と豊富な経験をお持ちの方ばかりであり、私としては、現下の諸課題に対処する最善の布陣であると、このように自負をいたしておるところでございます。

 また、閣僚人事ではありませんが、国会活性化法によりまして、政府委員制度の廃止などにより、政務次官の任務、役割が飛躍的に高まることとなることに伴いまして、今回の改造に当たりましては、政務次官の人選をより一層重視し、それぞれの大臣とのコンビネーション、担当分野における識見、経験などを十分に踏まえて決定をいたした次第でございます。

 来る二〇〇〇年はミレニアム、いわゆる一千年紀に当たりまして、九州・沖縄サミットも開催されることから、二千円日本銀行券を発行するにふさわしい年であると考えられ、また、諸外国での二のつく単位の紙幣の発行及び流通状況や国民の利便性の向上も勘案し、新たに二千円券の発行を開始することとし、大蔵大臣の下で直ちに準備作業に着手していただきたいと考えております。

 二千円の図柄につきましては、表は沖縄の守札門を中心としたものとし、裏は源氏物語絵図の一場面を中心にしたものといたしたいと考えております。

 今後、大蔵大臣の下で作業を進めていただき、来年の七月の九州・沖縄サミットまでには発行を開始したいと考えております。

 二〇〇〇年、新しいミレニアムは目前であります。次の時代を明るく、希望に満ちたものにするために、この新内閣は対話と実行を基本とし、国民の英知を結集し、政治主導でスピーディーに現在の難局を乗り越えていく決意であります。

 国民の皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げる次第でございます。

−−それでは、内閣記者会の幹事社、NHKの島田ですが、今回の改造についてお伺いする前に、今、御発言のありました二千円札の発行について、これはいかなる経済的な効果をねらったものなのか、どういう趣旨でと、この点についてもう一度お願いします。

○総理 お答えいたしますが、ただいまも申し上げましたけれども、二〇〇〇年という年を迎えるわけでありまして、そういう意味で二〇〇〇年にふさわしいということも言えるかと思います。

 また同時に、九州・沖縄サミットという日本外交にとりましても、最大の国際的役割を議長国として担っていくと、こういうことでございますし、当然のことでございますけれども、利便性ということも十分考慮に入れたわけでございます。

 ちなみに、先ほどちょっと二の付く紙幣のことについて、外国の例を申し上げましたが、例えばアメリカは十ドルの次に二十ドルがあるわけです。イギリスについても、十ポンドの次に二十ポンドがある。フランスにつきましても、百フランの次に二百フランがありまして、実はこの枚数のシェアを考えますと、アメリカでは二十ドル紙幣は二四・三%、イギリスの二十ポンドは二五・六%、フランスの二百フランは二七・九%と、こういう数字でございまして、この紙幣の利用率と言いますか、利便性と言いますか、こういうものが非常に高いということが現実に先進諸国でも現れているということでございまして、そういう意味からも、今回利便性と同時に二〇〇〇年を記念して、この新しい紙幣を発行したいと、そして、図柄につきましても、表は沖縄の守札門をデザイン化できないか、裏は、ちょうど約一千年前でありますが、日本を代表する紫式部という女性の作家がつくられた源氏物語、こういうものを是非図柄として発行できたらということで、作業に入っていただくよう大蔵大臣に指示いたしたところでございまして、必ず国民の皆様も大いに御利用いただけることであると同時に、新しい世紀にわたる二〇〇〇年という年を、お互いしっかりかみしめながら、次の世紀に向かっていくにふさわしい、私は紙幣の発行であると、このように考えておる次第でございます。

−−次に、本日発足しました三党の連立内閣、これについてなんですけれども、今回、再任あるいは留任の方が合わせて五人おりまして、昨年の小渕内閣の発足時に比べますと、新鮮味に欠けるのではないかという声も出ておりますが、どういう要素を考慮した人事だったのか、お聞かせください。

○総理 まず第一には、先ほどもこれまた申し上げましだが、宮澤大蔵大臣、堺屋経済企画庁長官、いわゆる第一次内閣における経済チームの主軸ですね、この方々にお残りをいただいたということです。

 それは小渕内閣が経済再生内閣として昨年七月に出発をいたしておりまして、まさにこの景気最悪の事態に対処して、このお二人を始めとして、熱心な施策を遂行することによりまして、景気も回復基調に入りつつあるということに来ておりまして、私いつも申し上げておりますように、坂道の車をみんな総出で押し上げているところでございまして、手を離すと、また坂の下に戻ってしまう、こういうときでございますから、この状況を何とか安定したものにし、日本の経済成長、私の申し上げております来年三月〇・五%プラス成長にいたしたいと、その基本的体制をまず変えることはできないというのが基本的な考え方でございます。

 同時に、これまた先ほど申し上げましたが、国会活性化法によりまして、いわゆる従来の国会の在り方の中で、政府委員が廃止をされるということになります。そうなりますれば、大臣、そして政務次官が国会におけるすべての責任を負ってくるということでございますから、大臣並びに政務次官のコンビネーションということも非常に大事だというふうに考えております。

 そういった観点から、大臣につきましては、極めてベテランの方々、そして政策に明るい方、こうした方々を中心に安定した政権を作るべきであると、こう考えたわけでございます。

 御指摘のように新人にたくさん入っていただくということも望ましいことであり、また、若手新人の中にも有能、有為な方はたくさんおるかと思いますが、ここは極めて重要な新しい制度の下に難しい状況にございますので、この際、ベテランの方々に中核になっていただきたいということでございまして、それを新鮮味に欠けると言われると、これはそうかもしれませんが、しかし同時にこの際は新鮮味というよりも、むしろ安定感を持ってこの時局に臨むということの方が望ましいと考えて、今回の閣僚の選任並びに政務次官の任用については、私、そうした観点から今回の内閣を作らせていただいたということでありますので、御理解いただきたいと思います。

−−先ほどの総理の冒頭発言の中に、来年の九州・沖縄サミットが最重要課題の一つだという話がありましたけれども、そうしますと、今日この三党の連立体制が発足して、九州・沖縄サミットまでは内閣改造、あるいは衆議院の解散・総選挙ということは考えていないと理解してよろしいでしょうか。

○総理 まず申し上げたように、経済を再生から新生して、日本の経済を安定的な成長に持っていくということが中心でありまして、そのためにはできる限り早く臨時国会も開催をし、いわゆる経済再生のために必要でありました企業の競争力強化、すなわち構造改革につきまして、夏の国会を延ばしていただきましてまで法律を通させていただきましたが、中小企業関係につきましてなお取り組まなければならない課題が多いと。税制、金融、あるいは中小企業基本法、こうした問題もございますので、したがって、こうした国会にまずは臨んでいくということが中心ではないかと考えております。

 もとより、今御指摘のように九州・沖縄サミットもそうやさしいものではないと思っております。何しろ会場そのものがこれから建設途上にあるわけでございまして、そういった意味からも、なかなかこれを準備をしていくことは、道路、通信、その他万般にわたりまして、今、沖縄県でこれを開催するための作業はなかなか大変であります。

 したがって、これから補正予算ということが考えられれば、その中でも予算化して、種々の公共事業も含めまして、沖縄県に対する投資を行い、その成功のためにいたしていかなければならないことは当然でございまして、したがいまして、それまではと、こうお尋ねいただくと、それは解散権について物を申すことですから、これをお許しをいただくことといたしまして、今なさなければならぬことを最善を尽くしていくということに絞られるわけでありまして、当然のことながら現在解散などということは、念頭にあって事を処するということはできかねるということだろうと思っております。

−−続きまして、幹事社西日本新聞、長谷川から質問させていただきます。

 冒頭発言でも経済対策、これからが正念場であるとおっしゃられて、総合対策についても言及されましたけれども、当面、補正予算、それから円高対策、こういったものが課題になろうかと思うんですけれども、これに対してどのような方針で臨まれるのかと、特に補正予算については、その規模についてもお尋ねをしたいと思います。

○総理 規模につきまして、今私が何兆円であり、また何兆円の中の、いわゆる真水というものはどのくらいということをここで申し上げることはできかねると思っております。しかし、新内閣が今日誕生いたしました。したがいまして、関係閣僚もそれぞれのお考えがあるやに私は承知をいたしておりますので、それを集約をしながら、最終的には臨時国会において、現在の経済状況を少なくとも後ずさりさせることなくいくためには、かなりの積極的な補正予算を組むべきではないかと思っております。

 同時に、政府もそう考えるかについては、与党三党の考え方もございますし、また与党の中で自由民主党の三役も替わりまして、それぞれにかなり積極的な御発言をされている方もおりますので、そういう方々のご意見も拝聴しながら対応しなければならぬのじゃないかと思います。

 御質問でありますが、何兆円規模のということは申し上げられませんが、言えることは、繰り返しますが、今のこの経済回復の状況を、少なくともまた逆戻りさせることがあってはならないという観点に立って、適切な対応を取るべきだと、こう考えております。

−−円高対策について。

○総理 言うまでもなく円高というものは、その国に対する諸外国の国の力を評価する一つの指標だろうと思うんです。そういう意味では、円高そのものは日本の国に対するクレディビリティーの評価の表れであると言ってもこれは間違いないんだろうと思います。

 しかし、急激な円高、また円安もそうでありますけれども、そういうことが経済に及ぼす影響というものは非常に大きい。特に円高につきましては、輸出産業その他は、一円為替が円高になることによって、大企業の中などは、それだけで五十億円、百億円という単位で円高における影響が出てくるということを考えますと、我々としては、急激な円高は好ましくないということで政府としても適切な対応を常に取る意思を持って対処しておるということでございます。

 最近、こうした中で、やや安定しつつあるということについては、これは望ましいことではないかと思っております。

−−それから、最初に言及されましたけれども、茨城県東海村のウラン加工施設での臨界事故の件なんですけれども、安全基準見直しなどについて、いわゆる法整備も含めて検討すべきではないかという意見もございますけれども、これに対して総理の御見解はどんなものでしょうか。

○総理 ちょっと長くなりますが、今回、大臣の任用に当たりまして、昨日それぞれの方々に、所管について申し上げました。その中で、深谷通産大臣、あるいは中曽根科学技術庁長官も、本問題について非常に熱心に取り組まなければならない責務があると言っておられまして、今日の就任のときの記者会見でも、例えば、原子力防災法というような形で通産大臣も申し上げられております。

 同様の趣旨かと思いますが、中曽根科技庁長官も言っておられます。内閣の主要なメンバーであり、特に今回の災害に対しての責任あるお立場にある方が申されておることでございますので、十分意見を拝聴しながら、最終的には私総理としも判断を下していきたいと思いますが、提案をされた方々につきまして、どのような内容、どのような効果があり得るのかというようなことにつきましても、詳細な報告を求めて、最終的な決定をしていきたいと思いますが、いずれにしても、現在のままでよろしいかと問われると、現在のままであったらあのような事件が惹起したということを考えますと、二度と再び起こさないためには、どのような法的措置が講ぜらるべきかということについては、ほぼコンセンサスが得られたのではないかと判断しております。

−−それでは、各社、この後質問がありましたらどうぞ。

−−総理、今回の連立内閣で衆議院では七割の勢力を占めておりまして、参議院でもあと二十数議席足せば三分の二の勢力になります。理論上はこれで憲法改正が発議できる勢力に一歩近づいたということは言えますけれども、総理自身、憲法問題についてどのようにお考えでしょうか。

○総理 これは、小渕内閣としては現在憲法を改正するという意思はないということは国会で責任をもって答弁を申し上げている次第でございます。ただ、憲法そのものにつきましては、申し上げるまでもなく、過ぐる国会におきまして、両院におきまして憲法調査会を設けて大いに論憲、すなわち憲法について論議をしていこうということでございますし、私自身もいわゆる世界中の憲法をながめてみましても、いわゆる不磨の大典と言って一字一句、あらゆる世代にわたってこれが改めることができないというものではないわけでありまして、そういった意味で、国会というのは大きな国民の意思の表れかと思いますから、これは大いに論議し、憲法の中の諸問題について検討されることは、私は望ましいことだというふうに思っております。

−−今回の人事に関連してなんですが、加藤派では、今回の人事のことについて特に報復人事だという言い方をされていると思います。総理御自身は挙党一致でということを常々言われていると思うんですけれども、総務会長の人事のことに関連しても、今後、そのことをどういうふうに修復されるのかということをちょっとお伺いしたいんですが。

○総理 挙党一致、適材適所というのは、私は貫いたというふうに自信を持って申し上げたいと思います。

 今のお話に付言すれば、それぞれの政策集団が望ましいと、あるいは推薦と、こういう方々をそのままに全部採用しなければ、挙党一致でないということだということになりますと、まさにいつも御批判いただいておりますが、派閥何とかの政治というふうになるのであって、やはり総裁・総理として、党の人事並びに内閣につきまして、私は適材適所としてその人選をしたと確信をしております。勿論、今お話しのように、政策集団の中で、こうあってほしいという方についてそのとおりにならなかったという事実はあるかもしれませんが、その点は広く御理解をいただければというふうに思います。

−−それでは、時間ですのでもう一問。

−−三たび東海村の件なんですが、地元の住民はこの時期の内閣改造、特に科学技術庁長官の交代に不満の声もあるようなんですが、そうした批判にはどう答えられますか。

○総理 まあ、批判もそれはあるかと思いますし、また、有馬科学技術庁長官につきましては、昨年、私がいわゆる総理枠ということで御就任をいただいたまさに専門家中の専門家であります。ただ、メディアもそうでありますが、いろいろ今回の処理方につきまして、見方によっては、いろいろの政府全体の御批判もありますし、また科学技術庁の在り方についてもいろいろと御指摘のあったことは事実であります。この際、若い中曽根科技庁長官にそのバトンタッチをしていただきまして、有馬長官のお考えも十分その中に入れつつ、本問題に対して対処することができれば、ただいまのような住民の中の御批判には結果をもってお答えできるものだと、このように考えてもおります。

−−それでは、総理との約束の時間が過ぎましたので、本日はこれまで。

○総理 どうも皆様御苦労様です。また新内閣よろしくお願いいたします。