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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成十一年度予算成立に伴う小渕内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 1999年3月17日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),928−939頁.
[備考] 
[全文]

【冒頭発言】

○総理 平成十一年度予算が、お蔭様をもちまして、本日、成立する運びとなりました。衆参両院におかれまして、予算成立のため大変ご努力をいただきましたことに心から感謝申し上げます。

 今回の予算は、戦後最も早い時期に成立することとなりました。これは、今回の予算の早期の成立と執行如何がいかに重要であるかということについて、与党のみならず野党の方々からも大変理解をいただいた結果でありまして、この場をお借りいたしまして、改めて関係の方々に御礼を申し上げるところでございます。

 私は、昨年七月、この内閣をお預かりいたしまして以来、日本経済の再生に向けてあらゆる施策を総動員いたしまして、いわば背水の陣を敷いて取り組んでまいりました。幸い、最近になりまして、銀行の資本増強による金融システムの安定化策の進展や補正予算の執行など、これまでの施策の効果に下支えされ、景気はこのところ下げ止まりつつあると思っております。

 また、それぞれの企業や家庭の方々の意識や姿勢も、困難に打ち克ち、この国の将来に向けて前向きに取り組んでいこうということで、ご理解をいただきつつあるように存じております。

 言うまでもなく、経済は生きものでありまして、私は、常に経済の動きを直視し、よい芽があればこれを伸ばし、悪い芽があればこれを摘んでいくというように心がけてまいりたいと考えております。

 そこで私は、景気の回復をさらに確実ならしめることを目指しまして、本日、公共事業、住宅、中小企業につきまして、次の指示をいたしたところであります。

 まず第一の公共事業についてでありますが、予算が早期に成立を見たことによりまして、政府といたしましても、一刻も早い景気回復に向けて最大限の効果が発揮されるよう全力を尽くしてまいりたいと思っております。

 この観点から、私は、予算の成立に当たりまして、第一に、公共事業等にかかわる実施計画、いわゆる箇所付けの協議及び承認をできるだけ前倒しするとともに、その透明性の確保に努めてまいりたいと思います。

 第二は、十一年度上半期における公共事業等の執行につきまして、契約額が前年度を大きく上回るよう、その積極的な施行を図ること。

 以上二点につきまして、関係閣僚に対し具体的な方針を早急に検討するよう指示いたしたところであります。

 次に住宅についてでありますが、景気の速やかな回復と、豊かな住生活の実現のために、住宅投資の拡大が重要でございます。最近は、住宅投資に明るい面が見えてきたところでありますが、現在、住宅の建設や取得をお考えになっている方々は、現在の財投金利の水準との関係で、住宅金融公庫の金利が、今後、大幅に引き上げられるのではないか、すなわち、現行の二・二%が、現在の金利水準を前提といたしますと、今後は二・八五%になる、そういった不安をお持ちになっておられることをよく承知いたしております。

 一方、公庫の経営は誠に厳しい状況にございます。この際、私といたしましては、こうした方々の不安に応え、また、回復の兆しが見られる住宅投資の足どりを確かなものにするために、公庫金利の引き上げ幅を思い切って圧縮し、持続的に需要を喚起していくことがぜひとも必要であると考えました。その旨、建設大臣に検討を指示いたしたところでございます。

 第三に、中小企業についてでございますが、中小企業につきましては、依然としてその資金調達の環境は厳しいと思っております。今回、大手十五行に対する公的資金の注入に当たりましては、各金融機関におきまして、特に中小企業向け融資を増やし、その資金需要に十分応え、貸し渋り対策にも資するような計画が策定されたところであり、今後、これが確実に実行されるよう万全を期してまいりたいと思っております。

 また、中小企業の特別保証制度につきましては、国会におけるご議論でも、中小企業の方々からも大変効果を発揮している政策との評価を受けております。また、その保証枠を拡大してほしいとの要望も多々寄せられておるところでございます。

 これらを踏まえまして、現在、二十兆円に加えまして、今後、必要かつ十分な額の保証枠を追加することといたしました。その具体的規模等につきましては、中小企業者の資金需要の動向を引き続き注視しながら決定してまいりたいと考えております。

 今後の大きな課題でございます雇用と経済の供給面の課題について、一言触れたいと思います。

 まず、雇用の問題であります。昨年十一月の「緊急経済対策」におきまして、百万人の雇用創出・安定を目指し、思い切った対策を決定いたしたところでございますが、さらに具体的推進を図るべく、去る五日、福祉、情報通信など四つの分野につきまして、ここ一両年に期待される雇用創出の規模が七十七万人にのぼることを明らかにいたしたところであります。

 次に、経済の供給サイドの問題でありますが、私は、今や、官民が一体となって経済の供給面の体質強化に取り組んでいく時が来たと確信いたしております。究極のところ、将来の日本経済の発展は、健全で競争力のある産業によって支えられるからでありまして、私は近く、官民の代表からなる「産業競争力会議」を発足させ、大いに知恵を出し合って取り組んでいくことといたしました。

 これらの点につきまして、ぜひ国民皆様のご理解を得たいと思っております。

 この機会に、既に衆議院におきまして審議をされております、いわゆるガイドライン法案をはじめ多くの重要法案につきまして、その速やかな審議、成立を関係各位に強くお願いする次第でございます。

 最後になりましたが、私、明後日から韓国を訪問いたしますが、これにつきまして一言申し上げたいと思います。

 昨年十月に金大中韓国大統領との首脳会談(於東京)を通じまして、日韓両国は、その過去を克服し、二十一世紀に向けた未来志向の日韓関係を築いていく基礎が固まったところでございます。私といたしましては、この機会に、この歴史的な流れをさらに深く根づかせ、拡大していくことが私の責務であると考えております。

 こうした考えに立ちまして、私は、金大統領との日韓の両国関係のさらなる発展や、北東アジアを巡る諸問題などにつきまして、胸襟を開いて十分な意見交換をしてまいりたいと考えております。

 以上でございます。

【質疑応答】

−−それでは質問させていただきます。最初に、景気対策です。

 先ほど総理は、公共事業の前倒しなどの追加策をお話しになりましたけれども、景気では、株価など幾つかの経済指標では明るさが見えていますけれども、景気回復の足取りは依然として重いものがあると思っております。今後、さらなる景気対策、つまり、補正予算などの景気対策を策定するお考えがあるかどうか。また、あるとすれば、その策定のメドはいつごろになるのでしょうか。

○総理 これは、いま冒頭の説明の中で申し上げて、繰り返しになるかもしれませんが、これまでの景気対策につきましては、十一年度予算もそうでありますが、その前の補正予算等を通じまして、あらゆる手段を講じて景気回復に最善を尽くしてきたつもりでございます。先ほども申し上げましたが、いわば背水の陣を敷いてすべてこれを行ってきたと思っております。もとより、予算が通過いたしましたので、これを一日も早く執行していかなければなりませんが、そのためのことにつきましても、先ほどご説明いたしたとおりでございます。

 幸い、これまでの政策効果や、民間の方々も大変前向きになってきていただいておりまして、その姿勢によりまして景気は下げ止まりの状況ではないか。ですから、これが反転してより上向きのものになるものと確信しておるところでございます。現在、こうした回復基盤を固める大変大切な時期だという認識もいたしております。でありますので、これまでの施策、十一年度予算の執行に加えまして、景気回復をさらに確実ならしめますように、公共投資、住宅、そして中小企業の三項目について指示したところでございます。

 冒頭のお尋ねにございましたように、東京市場の株式のダウの価格が一万六千円を超えております。実は、私が就任いたしました時の価格を本日超えたと、こういう数値でございます。もとより、株式というものはいろいろと変動のあることではございますけれども、ぜひこれを確実なものとして、経済の一つの指標でございますから、やはり株価というものに十分関心を持っていき、また、それが良き結果を生むことのできるような政策を着実に遂行していくということで、これがすべてである、こう考えておるところでございます。

−−明日十八日から、日米防衛協力のための指針、ガイドライン関連法案の委員会審議が始まります。ガイドライン法案の成立は事実上の対米公約となっていまして、五月の総理の公式訪米の際にも大きなテーマになると思います。法案の修正は、与野党の間で水面下では始まっていますけれども、今後の法案修正、衆院通過の見通しなどをお聞かせください。

○総理 ガイドライン法、すなわち周辺事態安全確保法案につきましては、実は、今国会、あるいはその前の国会もそうですが、予算委員会をはじめとして多くの委員会でもこれを取り上げていただきまして、大変熱心なご議論を展開していただいております。

 政府といたしましては、我が国の平和と安全を確保する重要な本法案でございますので、今国会成立または承認をいただけますようにぜひお願いをしたい。また、ご審議につきましてのご協力を切に祈念しておるところでございます。

−−北朝鮮の地下核施設疑惑をめぐる米国と北朝鮮との交渉が合意に達しまして、核施設の疑惑のある地域への視察が実現することになりました。それで、見返りに米国は食糧支援を行うというふうに言われています。

 この事態を踏まえて、我が国の今後の北朝鮮政策に変化があるのか、ないのか。また、総理はさっきおっしゃいましたけれども、十九日から韓国を公式訪問されます。日韓の北朝鮮政策への連携策とか、そのようなものについて、どのような形で金大中大統領との首脳会談に臨まれるのか、その二点をお聞きしたいのですが。

○総理 米朝会談につきましては、我が国としても両国の会談を注視してきたところでございます。特に北朝鮮の秘密核施設疑惑につきましては、断続的に開かれた協議を見守ってきたわけですが、この度、この難しい協識が妥結いたしまして、米側が疑惑の対象となっておりますクムチャンニの施設を十分な形で訪問することを北朝鮮側が認めるに至ったと聞いております。我が国としては、これを歓迎し、高く評価いたしたいと思います。

 今回、北朝鮮をめぐる国際社会の懸念の一つである秘密核施設疑惑につきまして、まず交渉を通じて解決する道筋がつけられたということは、我が国を含む関係諸国と北朝鮮との関係を展望した上でも、非常に好ましいことだと思っております。このことは、今後の対北朝鮮政策を検討していくに当たりましても、一つの好ましい材料であると考えておりまして、これを契機に、北朝鮮がさらに建設的な対応をとられることを期待いたしております。

 また、今週末に訪韓いたしまして、金大中大統領と会談する予定でありますが、先般、米国のペリー北朝鮮政策調整官も訪日されました。そのペリーさんの政策見直しの現状についての説明も含めまして、対北朝鮮政策につき忌憚のない意見を交換したいと考えております。いずれにいたしましても、米朝の話し合いが決着いたしたということでございますので、今後、これが進展することを期待いたしますと同時に、最も関係の深い韓国、そしてまた、日本としても大変関心を深くしておる北朝鮮の問題でございますので、韓国、米国、こうした国々とともにしっかりと協調して対応していきたい、このように考えておる次第でございます。

−−総理は自民党総裁でもあられるのですが、東京都知事選で自民党は元国連事務次長の明石康氏を推薦されています。ただ、柿沢弘治元外務大臣、石原慎太郎元運輸大臣が出馬を表明し、自民党は、三分裂といいますか、そういう様相を呈しています。まだ現状で結果を予測することは難しいのですけれども、党総裁、自民党執行部などの今後の結果責任がもしもあるとすれば、どのようにお考えですか。

○総理 自由民主党といたしましては、東京都政に対してもっと責任を持っていかなければならない、過去四年間を振り返って痛感をいたしております。

 そこで、既に党本部、東京都連として、的確な手順を踏んで明石康氏を東京都知事候補として推薦申し上げておりますので、その必勝を期して鋭意準備を進めておるところでございます。

 一方、都知事選を巡りまして、予期せぬ状況になっておること、この点については明石さんにも大変申し訳なく思っておりますが、いずれにしても、明石さんの当選に向けて、自由民主党の選挙対策の本部長でございます私でありますので、その先頭に立ってこの選挙を闘い、勝ち抜きたいと思っております。ともかく選挙に勝つということで全力を挙げさせていただきたい、このように考えております。

−−日の丸・君が代、国旗・国歌の法制化の問題ですけれども、野党は、今国会の法制化については慎重な対応に変わってきていると思いますけれども、総理は今後、日の丸・君が代、国旗・国歌の法制化についてどう取り組んでいかれるのか、お聞かせ願えますか。

○総理 国旗・国歌の法制化ということは、内閣としてこれを提案して国会にお諮りするか、議会としてこの問題にお取り組みするか、こういうことに尽きると思いますが、私といたしましては、二十一世紀を前にして、国旗・国歌につきましても、戦後半世紀を経ていることでございますので、この際、法制化をして、国民のご理解のもとに法律として制定することが望ましい、こう考えておりまして、できますれば今国会にこれを提出させていただくための準備をいたしております。

 どうしてこういうことになったかということでございますが、申し上げましたように、戦後五十年、日の丸、あるいは国歌につきましても、いろいろな国民的な考えというものはあっただろうと思いますけれども、この機会に、世界の中でこれを法制化している国々もかなりあることでありますし、また日本におきましても、最近、政党の中では、これを法制化することについて肯定する政党も出てきておりますので、私としては、この問題にぜひ取り組ませていただきたい。

 特に、これがすべてではありませんけれども、きっかけになりましたのは、広島県における石川校長さんの大変残念な自殺という悲劇が起こりました。日の丸を掲揚し、かつ、君が代を斉唱するということにつきまして、学習指導要領におきましてこれをお決めして教育委員会でこの実施をお願いしているわけですが、その狭間で大変ご苦労されたという経過もございます。

 そういった意味で、学習指導要領だけでなくして、法制化によってこのことをきちんとすることが望ましいのではないかというようなことも含めまして、私としては、現下、その法制化のための準備をさせていただいておるところでございます。

 お尋ねにつきましては、当初、これは率直に取り組んでもよろしいのではないかというような各党の幹部のお話も、メディアを通じて承知をいたしておりましたが、最近、ご指摘のようにやや変化があるという見方もされております。

 ただ、この問題は極めて重要なことでございますから、それぞれの政党、あるいは、国会議員一人ひとりのお考えも十分参考にしていただかなければ、単に多数決で決するというものではなかろうかと思います。十分なお話をしていくことができれば、必ずご理解をいただけるものだろうと考え、法案を提出いたします過程におきまして、最善の努力をして理解を深めてまいりたい、このように考えております。

−−外交問題でもう一つお聞きします。

 ロシアのエリツィン大統領が、健康問題でなかなか来日の目途が立たない状況にありますけれども、今後、どのような日程で来日が可能なのか、あるいは、平和条約交渉の今後の見通しも含めてお考えをお聞かせください。

○総理 ロシアからは、外相、あるいはマスリュコフ第一副首相と引き続いて我が国を訪問されて、高村外務大臣をはじめ、また、私自身もそれぞれ会談をさせていただいております。我が国の立場は十分お伝えしておるところでございますが、二〇〇〇年までに何とか領土問題を解決して平和条約を結ぶという流れの中で、橋本総理、エリツィン大統領との信頼関係に基づきまして順調に運びつつあったと思っております。私自身も外務大臣として、また、昨年冬には総理大臣としてロシアを訪問し、エリツィン大統領とも忌憚のないお話を進めてまいりました。

 願わくば今年の春にエリツィン大統領をお迎えして、明年となってまいりました二〇〇〇年に向けて、大きな前進を図りたいと念願いたしておるところでございます。ロシア側の要人の方々には、ぜひ大統領に今回は訪日をしていただきたいということを申し上げておるところでございますが、ご指摘のように、現在やや健康を損なわれておるということもお聞きいたしております。一日も早い回復をし、そして願わくば、春、桜の花の咲く季節に我が国を訪問していただきまして、ロシア大統領と私の間に将来に対する方向性が定まる、そのための絶好の機会を得たいと、いま念願しておるところでございます。

−−衆議院の選挙制度改正が大きなテーマになっております。特に東京都知事選に絡んで、重複立候補の問題をはじめ、区割りの問題、供託金没収者の当選者の問題などが出ております。総理のお考えとしては、まずどこから手をつけていこうとお考えでいらっしゃいますか。

○総理 選挙制度の問題につきまして、総理としてお話を申し上げることに大変慎重にならざるを得ないのは、やはり国会議員自らの身分にかかわる重要な問題でございますので。選挙制度につきましては、段々の経緯の中で、いま、衆議院においては小選挙区・比例代表制度をとらせていただいているわけでございます。

 また、今後の問題としては、衆議院の問題について、いまお触れになられたように、一回行ったこの制度における選挙制度の問題点等について指摘をされていることについては承知をいたしております。衆議院の問題、あるいは参議院の問題、あるいは定数の問題等いろいろございますが、私としては、自由民主党の総裁として自由党の小沢党首とのお話によりまして、まずは衆議院の定数の削減について合意をしておりますので、その点から実現いたしていきたい、実現可能性のある問題から処理していきたいということを考えております。