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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第百四十三回国会終了後の記者会見(小渕内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1998年10月16日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(下),862−876頁.
[備考] 
[全文]

○総理 本日、第百四十三回国会が閉会いたしました。この国会を振り返りまして、また、今後の課題につき簡潔に所感を申し述べたいと思います。

 まず、衆参両院におかれましては、七月三十日の開会以来二カ月半にわたりまして、金融関連法案を中心に、多くの法律案、条約につきまして精力的にご審議いただき、三十四本の法律案と補正予算が成立し、二本の条約の承認をいただきました。この場をかりて、厚く御礼申し上げたいと思います。

 他方、いわゆるガイドライン関連法案等、今国会で成立に至らなかった重要な法律案につきましては、今後、できるだけ早い機会での成立をお願いいたしたいと考えております。

 次に、今国会の審議の中心となった金融関連法案について申し述べます。

 日本経済の再生のためにまずなし遂げるべきことは、金融機関の不良債権問題の抜本的処理を図り、日本の金融システムが健全に機能する基盤を整えることであります。

 このため私は、金融システム全体の危機を絶対に起こさない、また、日本発の金融恐慌は決して起こさないとの固い決意のもと、日本の金融システムの安定と内外からの信任の向上に全力をあげて取り組んでまいってきたところであります。

 この問題につきましては、与野党間で真剣かつ勢力的に協議が進められ、私自身が節目節目で党首会談などをお願いいたしまして、金融機能再生法、金融機能早期健全化法という二つの新しい法律を車の両輪とする法的な枠組みが整えられました。

 また、金融機能再生法に基づく業務のため十八兆円、金融機能早期健全化法に基づく業務のため二十五兆円の政府保証限度枠が設定されました。私といたしましては、これによりまして金融システムの再生、健全化を図るためのしっかりとした基盤が整えられるものと判断いたしておるところでございます。

 政府といたしましては、金融再生委員会の設置を始め、これらの法律の施行体制をできる限り早期に確立し、万全を期してまいりたいと考えております。

 以上のように、金融システムの問題につきましては新しい枠組みが整備され、この際、国民の皆さんの不安や疑間も踏まえ、私の率直な思いや決意を国民の皆さんにお話しさせていただきたいと考えております。

 不良債権処理を進める過程で、金融機関をめぐってさまざまな事態が生ずることが予想されておりますが、私といたしましては、次の五点を強調させていただき、国民の皆さんに政府を信頼して冷静に対応していただくことをお願いいたしたいと考えます。いわば「国民への五つのアピール」と、受けとめていただければ幸いであります。

 まず第一は、金融機関に預金されている方の預金の保護に万全を期することでございます。

 第二に、中小企業等に対する信用収縮が生じないよう万全を尽くすことであります。今般の金融機能早期健全化法におきましては、金融機関からの株式の引受等の申請を審査するに当たり、借り手に対する融資の姿勢を重視することといたしております。

 また、先般決定いたしました資金規模四十兆円を超える中小企業等貸し渋り対策大綱に基づきまして、施策を強力に展開することといたしました。

 第三は、景気対策に全力をあげて取り組むことであります。新しい枠組みによりまして、日本経済の回復にとって大きな障害となっております金融システムの機能不全を早期に解消することは可能となりますので、今後は当面の景気回復に向け、さらに実体経済面を中心に一層全力をあげて取り組みたいと思います。

 一両年のうちに日本経済を回復軌道に乗せるよう、内閣の命運をかけて全力を尽くす覚悟であることを改めて明言いたします。

 第四は、金融機関の誠実な対応への強い期待であります。金融機関の経営者、職員の方々に対して、金融機関の公共的使命や、公的な支援が行われることの重み等に十分思いを致し、適切かつ十分な情報開示、迅速な不良債権への取り組み、抜本的リストラ、再編への取り組みなどに誠実に取り組んでいただくよう政府として強く期待いたします。

 第五に、今回の金融システムの対策の実行に伴いまして、金融システム全体の再生・健全化のために政府保証などを厳格な条件のもとで活用することとなりますが、この点につきまして国民の皆様のご理解をいただけるよう、内閣をあげてできる限り努力をいたしたいと思います。

 景気回復への取り組みにつきましては、既に事業規模十兆円を超える補正予算の編成や、六兆円を相当上回る程度の恒久的な減税を実施することを明言いたしてまいりました。減税につきましては、既に政府及び党の税制調査会に検討開始を依頼したほか、併せて、経済的・社会的に恵まれない人々に対しても何らかの工夫ができないかどうか、予算面での対応を含め検討を指示したところであります。

 さらに、景気回復策の検討に当たりましては、私の構想であります「生活空間倍増戦略プラン」や、「産業再生計画」の具体化を始めとして、住宅民間設備投資促進策、雇用対策、効果的な具体策を早急に検討するよう各閣僚に指示したところであります。

 私といたしましては、経済再生内閣にふさわしい景気回復策を、直属機関でございます経済戦略会議の貴重な提言を参考にいたしましてスピーディに取り組みたい、展開いたしてまいりたいと思います。

 次に、外交面の取り組みについて触れたいと思います。今国会中に私は訪米をいたしまして、クリントン大統領と首脳会談を行い、日米間で広範・緊密な協調体制を再確認したところであります。その際、日本経済再生に向けた政府の取り組みにつきまして説明をいたしまして、米側の理解を得ることができたと信じております。

 また先般、金大中韓国大統領をお迎えいたしまして、首脳会談を行いました。二十一世紀に向けた日韓パートナーシップをうたう日韓共同宣言に署名するなど、日韓関係に新たな歴史的一ページを記することができたのはご承知のとおりであります。

 今後、十一月にはまずロシアを訪問し、エリツィン大統領との日ロ首脳会談、その後、マレーシアでAPEC非公式首脳会議、帰国直後にクリントン大統領をお迎えし、日本での日米首脳会談が予定されております。

 さらに、延期されていた中国の江沢民国家首席の訪日も十一月下旬の予定であり、一カ月後に主要国の首脳と相次いで会談するという例のないスケジュールとなっております。

 内政と外交は表裏一体というのが私の信念であります。経済再生内閣としての取り組みが、アジアを始めとする世界の経済的安定と繁栄にとりきわめて重要であり、また、世界の平和と経済的繁栄なくして日本の安全と繁栄は実現されないとの認識のもとで、世界的広がりを見せる経済危機への対応、また国際社会の安全保障問題等につき、こうした機会において各国首脳との協議を行ってまいりたいと考えております。

 最後に、七日早朝、沖縄で発生した事件は大変痛ましい事件であり、昨日、フォーリー駐日米国大使とお会いした際にも、自分より本件に強い遺憾の意を表明するとともに、事件の再発防止及び綱紀粛正の徹底を申し入れました。

 改めて、亡くなられました上間さんのご冥福を心よりお祈り申し上げますと同時に、ご遺族に心からお悔やみを申し上げたいと思います。

 小渕内閣が発足してから七十九日目となりました。連日の国会での審議が続きましたが、その間、残念ながら、国民生活に大きな影響を与える災害や事件が数多く発生いたしました。八月の集中豪雨や九月の台風、毒物混入事件等によってお亡くなりになられた方々と、そのご遺族に対し、この機会に改めて、深く哀悼の意を表しますと同時に、被災された方々に心からのお見舞いを申し上げます。

 また、我が国の安全保障に大きな影響を与えた北朝鮮のミサイル発射事件につきましては、政府として、国際的対応も含めまして万全の対応をとってきたところであります。また、今般の防衛庁調達実施本部の事件は、防衛庁、自衛隊への国民の信頼を失墜させたきわめて残念な事態であります。

 政府といたしましては、額賀防衛庁長官を督励しつつ、再発防止、国民の信頼回復に向けた最大限の努力を行ってまいる考えであります。

 以上、今国会を振り返りながら所感を申し上げましたが、率直に申し上げまして、私も国会に三十五年議席をいただいてまいり、また、しばしば大臣の重責を担ってまいりました。このたび内閣総理大臣という職にあって振り返りますと、改めて国会の重さ、こういうものを痛感いたしますと同時に、国民の皆さんの声を聞く大切さということを深く実感いたした二カ月半であった、こういうふうに考えております。

 以上でございます。

−−長銀の問題ですが、総理は八月二十日に住友信託銀行の社長を公邸にお招きになりましてお話しされたように、当初は、長銀と住友信託銀行の合併を考えておられたと思います。長銀が特別公的管理、事実上の破綻処理されることになったことについて、どのようにお考えかということと、民間の企業に対して、一国の総理大臣がそういう形でコミットされたことについての政治的な責任ということについて、どうお考えでしょうか。

○総理 私は、かねてから申し上げておりますとおり、金融システム全体の危機的状況は絶対起こしてはならぬ、こういう決意のもとで我が国の金融システムの安定と内外の信任の向上に全力をあげて取り組んできたところであります。

 その意味で去る八月二十一日、私より、長銀と住友信託銀行との両行が具体的に合併を推進することにつきまして、我が国金融システムの安定に資するとの観点から、これを評価する旨の談話を発表したものでございます。

 その後、長銀問題を含む金融問題につきましては、先般、与野党の合意を踏まえて修正されました金融再生法が成立したことから、政府といたしましては、長銀問題について、この金融再生法のもとで適切に対応してまいりたいと思っております。

 お尋ねでございますが、この国会が始まりました段階におきまして、日本の金融システムが安定する、そのためには金融機関自身の合併その他再編成の動きがございまして、私も金融監督庁長官の上におります大臣といたしまして、また、民間同士ではございましたけれども、既に合併につきましての方向性が打ち出されておりましたので、その方向につきましては、これを支持をしてまいったわけでございます。

 いまお答え申し上げましたように、二カ月の間に新しい金融再生法が成立いたしましたので、その法律に基づきまして適切に対応いたしていきたい、このように考えております。

−−総理は、銀行など金融機関に対して強制的に資本注入することに慎重な考えをお示しです。また、野中官房長官は、資本が注入しやすいような環境をつくりたいということもおっしゃっています。

 金融再生委員会ができる二カ月までの間は、総理がその業務を代行されることになると思うのですが、銀行に資本を注入するよう申請するよう促されるというお気持ちはおありなのでしょうか。また、促して、銀行がそれを拒否した場合には、何らかの強制的な手だてというのも視野に入れていらっしゃるのでしょうか。

○総理 資本増強制度がその規模や効果の面で十分に機能を発揮し、この法律の目的であります我が国の金融システムの再構築と我が国の経済の活性化に資するために、金融機関が公的資金を受け入れるための体制整備や、投入された資金の効果的な活用をしていくことが不可欠であります。したがいまして金融機関におきましては、受動的に対応するだけでなくて、主体的な行動が求められておるのではないかと思っております。

 なお、いまお尋ねのありました強制的な資本注入を実施することは、特別公的管理やブリッジバンクなど、完全に公的な管理のもとである銀行は別といたしましても、私企業の経営戦略の根幹をなす資本政策に国が強制的かつ直接に介入することになるため、株主資本利益率の低下等の問題を勘案し、慎重に判断されるべき問題であると考えております。

 いずれにいたしましても、国会の中で衆参とも、議員各位が真剣にこの問題に取り組みまして、日本の金融機関が不健全であるということは、これは世界的に大きな不信を招くことである。そういう意味で、それぞれの金融機関が自ら考えることではありますけれども、せっかくでき上がりましたこの法律の趣旨を十分受けとめまして、適切に対応していただくように政府といたしましても考えてまいりたい、こう考えております。

−−次は、外交問題についてお尋ねするわけですが、総理の冒頭の言葉にもありましたように、先日、韓国の金大中大統領との首脳会談で、過去の歴史問題について、共同文書におわびの言葉を盛り込まれたわけです。来月、江沢民中国国家主席が訪日されるわけですが、その際にも同じようにおわびの言葉を文書に盛り込まれると、そういったお考えはおありなのでしょうか。

 それともう一点。ロシアとの平和条約の問題ですけれども、クラスノヤルスクの橋本前首相とエリツィン大統領との会談で、二〇〇〇年までに条約締結に全力を尽くすという合意がありました。

 ただ、最近ロシア外務省の幹部が、来月、総理がロシアヘ訪問される際に交わされる文書には、その年限を盛り込まないという発言をどうもしているようなんです。その高官の発言は、ロシア側に何らかの方針転換なり変化があったのか、日本側としては、その年限が文書に盛り込まれるようあくまでもこだわられるのか、その辺の総理のご見解をお尋ねしたいと思います。

○総理 まず直接お答えする前に、金大中大統領との共同宣言署名の問題がございました。本問題につきましては、大統領と心から話し合いをいたしまして、二十世紀で起こったことにつきましては二十世紀のうちに結末をつけて、大きな区切りをつけて、新しい二十一世紀は、お互いすばらしい日韓のパートナーシップをつくり上げないかという首脳同士の信頼のもとに、この宣言に署名をいたしました。

 もとより、村山内閣時代におきまする考え方を踏襲はいたしておりますが、改めて私自身の考え方を明らかにいたし、恐らく国民の皆さんもご理解を多くいただいておることと認識いたしております。

 そこでお尋ねの、江沢民国家主席の訪日の際に、改めて同様なものについてどう取り扱うかということでございます。率直に申し上げて、現時点で中国との間におきまして、どのような首脳会談における話し合いが中心になるかということにつきましては、何も定まっておりません。

 言うまでもありませんが、今年は平和条約二十周年という記念の年でもございますので、今までどおりに、我が国としては、日中共同声明、述べられた立場、これまでの内閣総理大臣談話に述べられた認識を踏まえて対処いたしていきたいというふうに思っております。

 揚子江の大水害のために九月訪日が不可能になりまして、残念に思っておりましたが、二十周年ということでございまして、今年中に我が国をご訪問いただけるという形になってきつつあることは、大変うれしく、正式に決まりましたら、心から国民とともにご歓迎を申し上げたいと思っております。

 次に、ロシアとの関係でございますが、十一月に私、訪ロすることは既に決定いたしておるところでございますが、どのような文書を作成するかにつきましては、現在、まだ定まっておりません。

 そこで、いまご指摘のように、ロシアの中で、政府筋かと存じますけれども、いろいろとご発言があることは承知いたしております。しかし、こうしたロシア側の逐一の発言を、私、いまコメントする立場にありません。

 本日も高村外務大臣が出発いたしまして、ロシアのプリマコフ首相始め外務大臣等との話し合いに入ります。橋本内閣時代に、橋本総理、エリツィン大統領ともに信頼のもとにつくり上げてきたいわゆるクラスノヤルスク合意、また、川奈での会談、その実績の上で、日ロの平和条約締結に向けての作業が加速されることのために、この高村大臣のせっかくの努力も期待をいたしますし、私自身の訪ロもぜひそうありたいと心から願っております。

−−臨時国会の召集について伺います。

 政府は、近く緊急経済対策をまとめ、事業規模十兆円超の補正予算と、七兆円の恒久的減税の額の上積みを、年内に前倒しして処理されることを検討されています。前倒しの場合、年内に臨時国会を開いて補正予算を成立させなければならないことになると思います。

 一方で、さきの十六兆円の総合経済対策が十分に消化されていなくて、その執行率を高めるべきだという議論もありまして、臨時国会召集は見送ろうという意見もあると聞きます。年内に臨時国会を開かれる考えがあるかどうか、お伺いいたします。

○総理 結論から申し上げますと、いま、臨時国会の召集につきましては特に考えておりません。

 しかし、いまお話しのように、政府といたしましての景気回復策、私自身も就任早々これを打ち出しておるわけでございます。今次、二次補正が行われましたので、三次になるかと思いますけれども、そのための内容、どういうものが可能かということも含めまして、いま、政府部内、各閣僚を督励いたしまして、その中身について検討を命じておるところでございますので、そうしたものが具体化してくるということがなければならないと思います。

 一方、税制につきましても、政府並びに党の税制調査会に私から直接お願いをいたしております。その税調の作業も、例えば自民党の山中最高顧問などは、できる限り早く作業を進めたいという強いご意志を示していただいております。

 そうしたことができ上がりましたら、政府としての考え方を集約して、そして取りまとめた上で、国会ということも考えなければならないかと思いますけれども、いまは、いまご指摘のありました第一次の補正予算、総合経済対策、これの実施が、いろいろな状況、すなわち地方との関係におきまして、なかなか進捗状態が進んでおりません。ですから、これをもっともっと加速させていかなければならないということで、その状況も見なければなりません。

 それから、各閣僚に効果的な具体策を指示しておりますが、特に私といたしましては、「生活空間倍増戦略プラン」あるいは「産業再生計画」、こういうものの具体化ということで、いま検討しております。住宅民間設備投資促進策、雇用対策、こういうものが現下きわめて重要であるという立場で、こうしたものの取りまとめを急いでおるわけでございます。

 さらに、経済戦略会議から、先般、貴重な緊急提言をちょうだいいたしました。いま、その中身につきまして精査いたしますと同時に、これまた、各閣僚にその内容につきまして検討を指示しておりますので、そうしたものが具体的予算として上がってまいりますれば、それを取りまとめて、しかるべきときには政府の考え方を明らかにしなければならないとは考えております。

−−以上で幹事社の質問を終わりました。あとは自由にお願いいたします。

−−テレビ東京です。

 いまもお話に出ていました景気対策についてなのですけれども、商品券の支給というお話が出ていますが、公明の法案では、一律三万円という形で支給してはどうかと。

 これに対して政府のほうでは、高齢者や弱者に対して重きを置いた形で、減税を補完するというものはどうかという話が出ているのですが、この商品券の支給に関しまして、総理ご自身のお考えをお伺いしたいのですが。

○総理 今国会、特に衆議院では平和・改革、参議院では公明の諸先生方から、この問題についてのお尋ねがございました。そのときは、実務上種々の困難な問題がある、しかし、具体的な研究もさせていただきますと、たしか国会で答弁いたしております。

 こういった点で研究を進めてまいると同時に、各党間でもいろんなお話し合いに入れるのではないか、こう思っております。

 この問題につきましては、メディアの中でこれだけ大きくなりましたので、賛成、反対のご議論があるようなことを、私、拝見させていただいております。この実効性、それから、景気対策にどのような効果があるのかという点も、これからできる限り検討・研究させていただきたいというのが現在の状況でございます。

−−朝日新聞の佐藤です。

 参議院の過半数割れの中で発足した政権として、今国会では、野党との協議でも何回も徹夜されたり、いろいろご苦労があったと思われます。

 そこで安定した国会運営をつくり上げるために、今後も、政策ごとに野党との部分連合といいましょうか、提携を結ぶのか、あるいは、基本的に野党と提携をつくって、新しい枠組みをつくりながら政権の求める政策を実行していくのか、その辺のお考えはどうでしょうか。

○総理 言うまでもありませんが、衆議院では政府与党が過半数を維持しておりますが、参議院におきましては逆転をいたしておるという状況でございます。たしかこういう政治情勢は、大平内閣のときに私も経験いたしております。

 そういった中で与野党間で話し合いを進めていって、最終的には法律案を国会としてご審議させていただいて、これを通過させるということになるわけでございますが、これは与野党とも、最終的には「国民のためになる」という大目的のために話し合いを進めるということになるのではないかというふうに思っております。

 今般も政府としては、金融関係の法律も提案させていただきました。金融再生法のように、与野党の皆さんが真剣に深夜にわたりまして検討された結果、一つの結果が生まれてきておるわけでございます。これを部分連合と言うのかどうか、これは言葉の問題でしょうけれども、私は、その法律自体が国民のためになるということであれば、政府としても妥協いたすべきことは妥協し、また、いい考え方が野党にあれば、これを取り入れながらいたしていきたいというふうに考えております。

 これが、将来にわたって一つの枠組みになるかどうかということにつきましては、現時点ではなかなか判断しかねるとは思いますが、今後、改めて国会を開くに当たりまして、野党の皆さんのご協力をどういう形で求めていったらよろしいかということにつきまして、政府与党としても真剣な対応を考えていかなければならないかと思っております。

 いずれにいたしましても、今国会におきましては、野党との話し合い、すなわち国会における民主主義の手続きによりまして、国民にとって大切な金融二法案、あるいはまた、旧国鉄・林野の長期債務を処理する法案、これなどが通過することができまして、私自身もそういった点でいろいろ学ぶことの多かった国会だと、こういう認識をいたしております。

−−読売新聞のワタベと申します。

 KEDOについてですが、きょう、高村外務大臣も来られてその対応についてお話し合いになったと思います。KEDOへの資金拠出の凍結解除について、時期も含めて、どのようにお考えになっておられるか。この問題については、国民世論との兼ね合いもあろうかと思いますが、いかがですか。

○総理 これも結論を申し上げますと、何月の何日という結論はまだついておりません。

 ただ、高村外務大臣が先般訪米されまして、米朝会談の状況等につきましても、十分アメリカ側のご意見も聞きました。また、先般は韓国の外相も来られまして、外相同士のお話もございました。

 韓国、アメリカ、日本、こういう基本的な国が、北朝鮮の軽水炉の問題につきましては、北朝鮮は核開発を決して行ってはならない、そういう枠組みの中でKEDOがスタートしておるわけでございますので、この枠組みを壊すことがあっては、これはいけないことだという原則はあります。

 しかし、ご指摘のように、つい先般、ミサイルの発射があり、我が国の空の上を飛んでいったのではないかと、こういうことに相なっておりまして、国民的な厳しい感情のあることも承知いたしております。

 そういったことを勘案しながら、与野党の国会議員の皆さんを始めとして、この問題に対してどのような考え方をされるかということのご意見も拝聴しながら、最終的には、私自身決定をいたしたいと思いますが、そう長く、この問題について我が国だけ特別な対応を取るということは、なかなか困難ではないかというふうに考えております。

−−先ほど参議院の本会議で、額賀防衛庁長官に対する問責決議案が可決されましたけれども、その直後、総理ご自身も額賀長官と会談されました。額賀長官の進退問題については、現時点ではどうお考えでいらっしゃいますか。

○総理 額賀防衛庁長官が、参議院におきまして問責決議が可決されたということでございます。

 その直後、私のところに見えられました。本人はこのことを重く受けとめておる、こういうことでございました。それはそのとおりであると私は思います。

 しかし、いま、額賀長官に与えられた仕事というものは、言うまでもありませんが、調達実施本部の元幹部の背任事件、あるいはまた、証拠隠しの疑惑をめぐりまして、この問題に対するきちんとした対応を責任者として果たさなければならない立場だろうと思っております。

 そうした意味におきまして、防衛庁、自衛隊への国民の信頼を失墜させたことは、きわめて遺憾なことでございます。防衛庁長官も当然でありますが、私ども政府といたしましても、心から国民におわび申し上げなければならない、こう思っております。

 この信頼をぜひ回復させていかなければならないということで、いま、全力を尽くしておると認識いたしております。

 私といたしましては、この問題のすべてをきちんと明らかにし、そして剔抉をして、新しい防衛庁、自衛隊を目指すための諸施策を徹底してやることが、いま、防衛庁長官に与えられた責任であると認識いたしております。

 重ねて申し上げますが、参議院における決議の重みというものは十分認識しつつも、ぜひ全力をあげて本問題に取り組んでいくことが、その務めではないかと私は考えておりますので、進退問題については現時点では何ら考慮いたしておりません。

−−防衛庁の組織改革など、背任問題とか、それの一段落ついた時点で、防衛庁長官として進退を明らかにするということはお考えでしょうか。

○総理 一段落というのがどういうところかわかりませんけれども、一つは、この間、長官として中間報告をいたしました。

 しかし、現時点では、一方では刑事事件として捜査の対象になっておりまして、事件の推移ということも防衛庁長官としてははかり知れないものがあるわけです。そうした動きというものも十分認識をいたすとともに、防衛庁長官として中間報告をいたしました。これは国会の終わるまでにというお約束でしたので、いたしました。

 したがいまして、これに対していろいろなご意見のあったことは承知をいたしておりますが、私は、さらに加えて、最終報告を目指して一層の検討をしてまいるというふうに確信いたしております。いまお尋ねではございますけれども、その後のことにつきまして、いま、この場所で私が申し上げることは不可能でございます。

−−どうもありがとうございました。