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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第二次橋本改造内閣発足に当たっての記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 日本
[年月日] 1997年9月12日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),60−76頁.
[備考] 
[全文]

○総理 自民党総裁に再選をされました機会に、昨日党人事を行いますとともに、内閣の改造を行いました。引き続きどうぞよろしくお願いをいたします。

 昨年一月に内閣総理大臣に就任して以来、景気の一日も早い回復、沖縄を巡る課題などに取り組むと同時に、戦後の我が国の発展を支えてきたすべてのシステムの変革と創造を目的とする六つの改革を、内閣の最重要課題に掲げながら全力を傾けてまいりました。

 その間、ペルーの事件、あるいはナホトカ号の事件、さまざまな事件がありましたが、この間、国民の皆様から与えていただきましたご支援、ご協力に改めて心からお礼を申し上げます。

 本日は内閣として今後特に力を入れていきたいと考えている課題に絞って、冒頭しばらくお話をさせていただきたいと思います。

 第一は、何といっても六つの改革を本格的な軌道に乗せることです。六つの改革は、金融システム改革や経済構造改革のように、既に具体的な進展を見せ始めている分野もありますけれども、改革は実はこれからが正念場でありますし、これからの三年間、誇りと自信を持って二十一世紀を迎えるための集中改革期間としたい、そう心から願います。

 中でも行政改革と同時に財政構造改革、これは政治が強いリーダーシップを発揮していかなければ実現出来ない課題であり、政治の側から明確な目標を示していかなければなりません。私はこの国の将来を考えるとき、少子・高齢化というこの急速な進展に対する対応、経済のグローバル化への対応、財政の危機からの脱却、こうしたことを念頭に置いて改革を進めなければならないと思います。

 そして、そのためには簡素で効率的で、しかも透明な行政。内外の情勢変化や危機に対して弾力的に対応出来る行政を構築しなければなりません。

 私が行政改革会議を設置し、委員の方々にご就任を願った趣旨は、まさにこのような行政体制を整備するために内閣機能をどう強化していくべきか。また、中央省庁をどう再編すべきかを検討するためでありました。

 同時に行政の簡素、効率化というものを進めようとするなら、一方では大胆に規制の撤廃・緩和を進めなければなりませんし、また、実施部門を含めて国が持っている業務と権限を出来る限り民間へ、あるいは都道府県、更には市町村へと移さなければなりません。不退転の決意でこれを進めていきたいと願っております。

 また、財政構造改革は、将来の世代に対する私たちの責務だとも思います。我が国が社会保障関係費を中心とする歳出の自然増に対応しながら、財政の危機的な状況を克服するためには、一切の聖域を設けずに、歳出の合理化、効率化を進めていく。そして、財政の規模をぎりぎりにまで絞り込まなければなりません。

 今後、いわゆる財政構造改革法案を出来るだけ早く成立させるとともに、集中改革期間の初年度となる平成十年度予算の編成に当たって、限られた財源の中で経済構造改革や、豊かな国民生活に資するよう一層の重点化を進めながら歳出構造そのものを見直していく方針です。

 また、社会保障構造改革は急速な少子・高齢化の進展と経済成長率の低下という環境の変化の中で、高齢者の介護を始めとした社会保障のニーズの変化に対応しながら、効率的で質の高いサービスを提供出来る体制をどうつくり上げるかという問題です。

 社会保障制度が経済に占める規模は、制度か整備し始められた昭和三十年代とは比べものにならないぐらい拡大しておりますし、給付と負担の関係というものを、幅広い観点から見直さなければ、将来の負担が過重なものになることは既に明らかです。高齢化のピーク時においての財政赤字を含めた国民負担率が五〇%を超えないように、そうした中で社会保障制度を構築していこうとするためには、医療については、医療提供体制、医療保険制度その両面にわたる総合的な改革を段階的に進めなければならない。

 また、年金については、平成十一年の財政再計算に向けて、国民に開かれた議論を行いながら、抜本的な制度改革を行われなければなりません。

 現在、国会にお預けをいたしております介護保険法案については、一日も早い法案の成立を目指します。

 また、経済構造改革と金融システム改革は、我が国の経済を民需主導の強靭な経済へ転換するために極めて重要でありますし、既に示されている改革の具体的なスケジュールにしたがって、関係省庁が一体となって改革を推進してまいります。可能なものについてスケジニールの前倒しを行うことは当然であります。

 また、教育改革については、特に幼児期からの心の教育という視点を重視しながら、教育改革プログラムの一層の具体化を進めてまいります。

 第二の課題は、冷戦後の国際社会の情勢の変化に対応した新たな外交を構想し、実行していくことです。我が国外交の機軸である日米関係については、昨年四月に発表しました日米安全保障共同宣言によって、日米安保体制の果たす役割を両国で再確認をし、これを受けて作業をスタートさせました日米防衛協力のための指針の見直し作業を、月内にまとめたいと思っております。

 そして、冷戦の終結に伴って、欧州においてはNATO、あるいはEUなど、政治経済の両面において新たな秩序を構築しようという動きが見られる中で、我が国としても、まさにアジアの東の端から見たユーラシア外交といった視点から、ロシア、中国、韓国などとの関係を更に発展させたいと思います。

 先日まいりました中国訪問におきましては、両国関係の新たな展望を切り開くよう、自分なりに一生懸命努力してまいりましたけれども、エリツィン大統領とも十一月にお会いをして、信頼、相互利益、そして長期的視点という三つの原則に沿って目口関係を前進する基礎をつくりたいと思います。

 また、内閣としては、引き続き沖縄を巡る課題の解決に最大限努力をしてまいります。沖縄に所在する米軍の施設区域の問題については、普天間飛行場の代替ヘリポート問題を始めとした整理・統合・縮小の推進など、引き続き真剣に取り組んでまいります。

 また、沖縄の風土や伝統文化を最大限生かした地域の振興策の策定は道半ばです。政府としては、国民全体で沖縄の新しい四半世紀の第一歩を祝福出来るよう、そんな願いを込めて沖縄復帰二十五周年記念式典を十一月二十一日に開催いたします。沖縄の方々が背負ってこられた負担は国民全体で等しく分かち合う、そうしたものである。そう考え、引き続き課題の解決に全力を尽くす決意です。

 以上申し上げました課題、特に六つの改革は、戦後五十年余りの間に我が国の社会に深く根を下ろした現在のシステムを根本から見直すものです。一朝一夕で出来ることではありませんし、これまで慣れ親しんできた仕組みや考え方を変えていく。そのためには痛みを乗り越える勇気と苦しい決断が求められます。

 しかし、同時に私は改革の先にある未来というものを信じますし、また、その改革がなければ、明日の日本はない、そう思っております。

 そして、改革を先送りにするつもりはありません。改革をやり遂げていくために、政治に携わるすべての方々の創造力を結集したいし、そのために社会民主党、新党さきがけとの与党三党の協力関係を基本としながら、政策によりまして、各党各会派のご協力をもいただきたい。そして、そのような政策本位の政治というものを通じて、国民の皆様の期待にこたえてまいりたいと思います。

 国民の皆様のご支援とご協力を心からお願いを申し上げます。

 − 幹事社の時事通信です。よろしくお願いいたします。

 三点ほど幹事社からまずお尋ねして、昨日の内閣改造にかかわる問題、あるいは行政改革、三番目にガイドラインの問題をお聞きして、なお時間が許せば追加質問をフリーに皆さんからやっていただくことになると思います。

 まず、昨夜の内閣改造について総理にお尋ねしたいと思います。

 昨夜から今朝にかけてのテレビニュース、新聞等、総理ご自身がごらんになってよぐお分かりと思いますが、佐藤孝行さんの総務庁長官起用にっきましては、与野党だけではなく、国民世論にも非常に厳しいものがあります。歴代内閣が手控えてきた佐藤さんの入閣をなぜこの時点、この内閣で実現しなければならなかったのか。総理ご自身の言葉で改めて説明していただきたいと思います。

○総理 マスコミの報道ばかりではなく、官邸に届いているインターネット等のご意見を見ましても、この点に対しては大変厳しいご批判があります。殊に私にとって非常に重く感じられたご批判、それは一方で教育改革を言いながら、これは子供たちの教育にとってどういう意味を持つのかというお尋ねでございました。

 私はそういう批判を素直に私なりに受け止めたいと思いますが、同時にこれはどこの世界のことでもそうですけれども、一度犯した過ち、あるいは一度過ちを犯した人は、そのレッテルを一生背負っていなきゃいけないんでしょうか。有能な人が、あるいは有能でないと自分で思っている方かもしれない。その償いを済ませて、改めて世の中の役に立ちたいと思うことが許されないんだろうか。私は実は二度のチャンスというものが与えられてもいいのではないか、本当にそう思います。

 私自身も過ちの多い人間ですが、繰り返し自らを戒めながら、その反省の上に立って仕事をしてきました。そして、昨年私は自民党の行革推進本部の本部長を佐藤さんに引き受けていただきましたが、これ以来、今日まで本当に一生懸命、特殊法人改革を初めとした問題に取り組んできていただきました。

 私はその党の中でふるったその手腕というものを、行革を担当する総務庁長官として、行革だけでなく、総務庁の所管全体に対してですが、是非ふるっていただきたいと思います。

 また今まで閣内で行政改革を担当していただいた武藤さんに、今度は党の行政改革推進本部の本部長をお願いをました。今までややもすると、内閣、更に行政改革会議と党の間にかみ合わない部分がありましたものを、このお二人が連携して行政改革会議の中間報告を骨格としながら、成案をとりまとめていただきたいと願っています。殊にそれだけ厳しいご批判がある。それを吹き飛ばすほどの活躍を佐藤さんにしていただきたい、今、私はそう願っています。ご批判も承知をいたしておりますが、今申し上げましたようなことも含め、私なりに考えに考え抜いた上での結論としてこの道を選びました。

 − その件で最初総理が申されたように、子供の教育をどう考えるかという、そういう批判も確かに国民の間にあるかと思います。総理が一生懸命今力説されておられる行政改革は、やはり国民の理解、信頼があってこそ推進出来ると思いますが、佐藤さんの起用ということは、その点について言えば、非常な国民の不信を買っているんではないか、そういうふうに思いますが、いかがでしょうか。

 つまり、行革にマイナスになるんではないか。そのようにも考えます。その点いかがでしょうか。

○総理 これは皆さんの報道の中でしばしば書かれていますけれども、官僚の抵抗、あるいは省利、省益からの抵抗、更にその省が存在することで、自分たちが今のルールの中で温かい食事に当たっている人と言ってはいけないかもしれません。そういう人たちも含め、抵抗は皆さんが想像されるよりはるかに強いものがあります。そして、その中でこれを乗り切っていくためには、私はやはり与党と内閣、行政改革会議のご議論というものが、どこかでよりよい成案に、言わば融合していかなければならないと、そう思っています。

 そうした中で今のようなご批判があればあるほど、私は佐藤さんに、その声を吹き飛ばすくらいの活躍をしていただきたい。また、それだけの活躍の出来る方だと、そう信じています。

 − もう一点、佐藤さんの話とは別に政治倫理に関してお尋ねしたいんですが、先日、石油卸商の泉井純一被告から山崎政調会長ほか自民党の幹部、主要閣僚の方に多額の献金がなされたという記者会見がありました。

 この点について、総理は総理番に対し、司法捜査は終了したので問題ではない。政治的側面は別の問題だというふうなことをお答えになっておられますが、これらの方々の雇用に当たっては、政治的にも問題がないというふうに判断されたんでしょうか。改めてお尋ねいたします。

○総理 私、雇用なんてしていませんよ。

 − 登用でも、指名でも何でもいいんですが。

○総理 雇用なんて、雇ったりなんて、そんな失礼なことはしていません。

 私自身が、泉井さんという方は全く面識がありませんし、存じ上げない方ですけれども、先日確かに記者の方からそのような質問があったとき、私は報道以外を知りませんでしたから、司法上の問題と、それ以外とを分けて確かにお答えしました。そうした疑惑を受けるようなことがあってはならない。これは当然だと思います。

 その上で、いろいろその泉井さんという方が名前を挙げられた方を閣僚あるいは党役員に登用する、雇用じゃないですよ。登用する際にはお一人ずつそうした話を確認いたしました。それぞれの方はきちんと対応されると私は信じております。その上で人事は終わりました。

 − それからもう一点だけお尋ねしますが、昨日の内閣改造を拝見しますと、やはり旧態依然として派閥からの推薦を優先された。つまり、派閥からの推薦名簿に従って閣僚を指名、任命されたというふうな印象が非常に強いんですが、もっと総理ご自身がリーダーシップを発揮されて派閥を乗り越えた人事というものを行えなかったんでしょうか。

 佐藤孝行さんについても、中曽根総理からの強い推薦があったというふうに承っておりますが、この点も合わせていかがなんでしょうか。もっと総理ご自身の判断というのが優先されてもよかったんじゃないでしょうか。

○総理 随分私の判断は受けていただいたと思っています。今あなたが問題にされている佐藤さん、武藤さんでも、党と内閣との行政改革の責任者がそれぞれの立場を変えて、今まで内閣の中で行政改革会議との間の議論というものを今度党の方に定着させる努力をしていただく。同様に党の空気を知り抜き、同時にここまで行政改革を党の立場でやってこられた佐藤さんが、行政改革会議の皆さんと中間報告から最終報告に向けて論議を交わしながらよりよい着地点を探す。こういう考え方を持っていることは改めて申し上げるまでもないでしょう。

 そして、財政構造改革、三塚さんに留任していただきました。

 そして、閣僚経験者の政務次官として中村さんも引き続いてこれを支えてくれる決意をしております。

 そういう意味でいくなら、外交の継続性ということも考え、やはり閣僚経験者の政務次官であった高村さんに引き続いて外務省でこれを務めていただきます。

 そして小泉厚生大臣、社会保障構造改革の大事な時期です。

 あるいは、ガイドラインの問題等も大詰めを控えている久間防衛庁長官、こうした留任をされた閣僚の顔ぶれを考えてください。そして、その上で全く皆さんの目から見て不適当な人を私は閣僚に就けているつもりはありません。

  − 続きまして、行政改革について具体的なお話を二点ほどお伺いしたいと思います。

 まず一点は、さきの行政改革会議の中間報告において、郵政三事業の問題について簡易保険の民営化等々の方針が打ち出された訳ですけれども、これに対して取り分け自民党内から強い異論と反論が出ています。この点を踏まえて、十一月末の最終報告、取りまとめに向けて総理はどのように取り組まれるか。まず、郵政三事業の問題についてお願いしたいと思います。

○総理 私、本当はどうして行政改革というと郵政三事業しか皆さんが質問しないのか不思議でしょうがないんですけれども、郵政省の持つ仕事は大きく分けて、いわゆる郵政三事業と通信、放送といった大きな二つのカテゴリーに分けられる。その中で現業的な形で郵政三事業というものをくくられる。それは一つの考え方で結構です。

 そして、行政改革会議の中間報告の中には、簡易保険は民営化するとされています。これをどう具体的に進めていくか。例えば、既に加入していらっしゃる方々にいたずらな不安を与えないようにするにはどうすればいいか。あるいは、国民全体のその在り方から見た望ましい保険の在り方はどういうふうにすればいいか。こうしたことを考えながら、これも中間報告を骨格として検討を進めていかなければなりません。

 郵貯についても、例えば納付金、国営を続けるのであれば、その間は納付金をといった提言がなされていることはご承知のとおりです。郵政三事業というものが議論の対象に挙がったその根幹は何だったかと言えば、財投というものの使われ方、それが基本だったんじゃないでしょうか。違いますか。私は財政投融資の在り方から、この問題が非常に大きな議論になったと思います。

 従来は、確かに年金の積立金がその大きな柱の一つでした。しかし、今これだけ毎年年金の新たな受給権が百万人近く発生するという時代に入って、今の財投の中核が郵貯であり、その状況は事実の問題として特殊法人の在り方とともに議論をされてきています。ですから、この中に資金運用部への預託をしないという原則が書かれていることが、今までマスコミの皆さんからはほとんど注目していただけませんでした。その上で、例えば民営化をされるまでにおいても、郵貯というものが自主運用をされるとなったとき、また当然ながらその場合に民間に比べて有利な条件があれば、それは民間と同じレベルに直していくとき、問題点は何でしょう。

 私は、本当に不思議だと思うんですが、もともと一番問題だったのは財政投融資の在り方、そしてその財政投融資を原資として問題がいろいろな角度から指摘されている特殊法人というものが問題だったんじゃなかったでしょうか。

 そして、その前からいろいろな角度でこの問題は議論されてきましたけれども、二年前にまさに自民党の総裁選のとき、小泉さんがこの問題を思い切って提起をされ、私との間で議論になりました。

 ただ、そのときにも私は財投の見直しを否定したことはないはずです。また、あのとき振り返ってみて、簡保は余り議論にならなかったように思う。むしろ郵貯と郵便事業、これが問題だったと思います。

 言い換えれば、問題の質を余り変えてしまわないで、短絡しないで聞いていただきたいと私は本当に思うんだけれども、郵政三事業というものを見直す必要があるということは、だれも否定されないと思います。見直した結果、国民生活の中で何が一番大切であるか。これは、国民のご意見も伺いながら決めていくべきことだと思っています。

 先日、残念ながら我が党で行革推進本部に出ましたときにも、そういう意味では非常にきついご意見を出された方がありますが、私は問題の本質に戻って冷静なご議論を願いたいと、そう思っています。そして、特に地方において、過疎地において、特定局を中心とする郵便局のネットワークは今後も国政の中で大事な役割をする。それを否定している方は行革会議のメンバーを含めてありません。

 − 具体的な点として、大蔵省の財政と金融の分離問題について、今度は与党内、社民党と新党さきがけの方から、昨年十二月のいわゆる自社さ三党合意に基づいて完全分離を求める声が強く出ています。

 その点、行革会議の中間報告においてはその点が不十分であった。その点への不満が多い訳なんですけれども、この点を総理はどう考えられますか。

○総理 今、改めて三党合意に目を通しているんですが、昨年十二月の与党三党合意、確かに抜本的な省庁改革では金融と財政の分離を明確化する。本件については総理の下の行政改革会議において検討される霞が関大改革の課題とすべきであると、そう三党合意にはなっています。

 そして、いろいろな角度からの議論が行われた上で、先般の中間報告では大蔵省が今後行うべき機能について、財政、通貨管理、為替管理は大蔵省の所管、そして大蔵省の金融に対する企画立案は預金者保護という観点を踏まえ、市場信用秩序の維持に関する企画立案に限定すると、こういう中間報告になっています。

 問題は、ここに残るものはルールづくりですから、そのルールづくりの範囲をどう限定するかということです。その場合でも、実は実行は金融監督庁なんです。ですから、例えば名前を出していいのかどうか分からないけれども、野村証券、第一勧銀に対して先般大蔵省が処分を決めましたけれども、これは金融監督庁が発足すれば当然金融監督庁に移る業務です。あるいは、投資信託を銀行の窓口で売る場合に、利益を保証したものではありませんよということをちゃんとしろというような、そういう指導を大蔵省はしていまずけれども、これも金融監督庁が出来れば金融監督庁に移る業務であって、要はそのルールをどう限定するかということだと私は思います。

 − 続きまして、日米防衛協力について一問お聞きします。

 総理は、周辺有事の対象問題につきまして、北京で地理的な概念は考えていない。事柄の性質に問題があるというようにおっしゃいましたが、今、与党三党で行われている協議というのは、いわゆる台湾を含むべきではないといった地理的な概念に基づいて行われているようでして、来週火曜日に与党三党は取りまとめるそうなんですが、九月の最終報告へ向けてその見通しをお聞かせ願いたいんですが。

○総理 今ちょっとあなたの言われたので事柄の性質にと言われた、その後の言葉がちょっと聞き取れなかったけれども、着目した概念と・・・。

 − そういうことです。

○総理 そういうことでいい訳ですね。

 まさに私は、中国の皆さんにもそういう説明をしてきましたし、また事実そういう議論をしている問題なんです。そして、例えば地球儀の上に線を引いて、ここからここまでというような私は単純な話じゃないと思います。まさにこのガイドラインの問題、与党ガイドライン問題協議会の場においても、精力的なご議論を重ねていただいている、そういう報告を受けています。

 政府としては、六月に発表した中間取りまとめを受け、こうした与党内のご議論、それ以外の場所でのご議論、こうしたものも踏まえながら、近く予定されております日米安全保障協議委員会、いわゆる二プラス二、ここで新たな指針を策定しようとして今、見直し作業を鋭意促進しているさなかです。

 当然のことながら、これがまとまれば国内に公表するだけではなくて、周辺国にもこれをきちんと説明をし、要ら、ざる誤解を受けないように、そういう努力をしていくことは当然ですけれども、その中でもこの一年間、両国が作業をした結果をしっかりと最終報告に盛り込んでいきたいと思います。まさにこれは地理的概念ではなくて、事態の性質というものに着目した議論ですから、これは実際のものを見ていただいて説明に代えるというか、納得していただく以外に、実は周辺諸国に対してもありません。ですから、江沢民首席、李鵬総理に対しても、そういう要らざる誤解をお互いに、あるいは要らざる懸念をお互いにしなくてもいいように、日中両国の安全保障対話を制服の高級レベルも含めて出来るだけ緊密に行おうよ。そういう議論の中でお互いに誤解を解いていこうよ、あるいは懸念を払拭する努力をしょうよということを話し、原則的な同意を得てきたことです。

 あのときも中国側は、私の説明を理解はされましたけれども、納得はされませんでした。これは、ガイドラインがまとまった時点でこれを説明しても、簡単にそれは理解と納得という言葉の違いを埋めることは難しいのかもしれません。

 しかし、我々はそういう努力をしていかなければなりませんし、そのガイドラインの問題はまさに地理の話ではなくて、事態というものに着目した議論であるということは、事実問題として繰り返し皆さんに申し上げなければなりません。

 − 幹事からは以上ですが、あと一問か二問どなたかあればご質問ください。

 − 二つお尋ねしたいんですけれども、佐藤孝行さんの問題なんですが、総理がおっしゃっている方の処分が終わったとか、もう一度チャンスを与えるかということが今、問われているのではなくて、閣僚に登用する人、政府の大変な権限を持つ閣僚に登用する人に対して、どういうモラルのスタンダードが求められるかと、ここが世の中で問われていることだと思うんですが、この点について総理はどう思われるか。

 それと、あと六つの改革なんですけれども、これは私は手段だと思うんです。手段の後、どういう結果が生まれるのか。どういう国家目標を総理はお考えになっていらっしゃるのかということを、もう少し具体的にお話いただけますか。

○総理 全く異質の問題二つをお尋ねいただいたけれども、まず第一に私はそれではあなたのおっしゃったことをまず肯定した上で、この事件というものが一体何年に起きたか。そして、その後に国民の審判が何回あったかということも、もう一つの議論として提起をしたいと思います。

 そして、これは私はへ理屈をこねるつもりはないし、議論するつもりもないし、私自身が本当にそうやってインターネットでいただいたものに、意見に目を通しながら、特に大変感情的な何か分からないのもちょっとありましたけれども、本当に教育というものを考えるときにいいんだろうかという問い掛けに対して、これは重く本当に受け止めるものがありました。

 その上で、では死ぬまでその方には思い切った仕事をするチャンスは与えないということなんだろうか。私は、自らの名誉を取り戻すために死に物狂いで仕事をしてもらいたいという期待をかけたんですが、もしそれが私の願いと違ったら、これは私自身に目がなかったということなんですけれども、チャンスを与えることまで否定出来るものだろうか。率直に私はそう思います。

 そして、考え抜いた上での私の結論ですと先ほど申し上げた、これをもう一度申し上げなければなりません。むしろある意味では、党という立場で影響力を行使する。閣僚という衆人監視の中で自らの行動を律していかなければならない立場で、全力を尽くして責任を果たすのと、どちらが皆さんの目に触れていくんでしょうか。そんな思いも私の中に今、伺っていてありました。

 それと、国家観というお尋ねですが、これはいろいろな答え方があると思います。その上で私なりにお答えをしてみると、ベースとして考えるもの、それは一つはまさに少子・高齢化です。そしてもう一つは、やはり経済のボーダレス化、そして世界中の国々がよりよい条件を整備して企業の誘致合戦を行っている。投資をお互いに求め合っている。言わば企業、投資が国を選ぶ。そんな時代に入っているという認識です。

 そして、それはすべてのシステムの問題にかかわってきますし、そこで求めていく答え、求めようとする答え、それがいかにその活力を保つか。この日本という国が今日まで進んできたその活力というものを、これから先どう維持し続けるかということに私は要約出来ると思うんです。

 そして、そのための手段として私は六つの改革を選んだ訳です。そうした改革が済んだ時点で、国の役割というのはまさに一人一人の国民にとっては、おのおのが個性を持ち、自分の夢を持ち、あるいは希望を持ち、それを実現すべくチャレンジするチャンスが公平に与えられる。そして、そのためには教育の中にも創造性とか、チャレンジ精神を求められるようになる訳です。そういうものを本当に実らせていくための国民の役割というものは、環境整備を受け持つことだと思います。

 そして、その時点の国の役割というのは、国内的にも国際的にもというか、国民の生命と財産を守るという一点に凝縮出来るでしょう。そして、その財産というものには、我々の先祖から伝えられた文化とか伝統も当然のことながら含まれてきます。

 そして、それが外に向かっても同じことですけれども、同時に国際社会も刻々動いている訳ですから、その中で機敏に対応出来る、そして国際社会の中において日本に求められる責任をきちんと果たしていき得る、それだけの行動力を持つ国をつくっていくこと、それが我々の目指していく方向ではないかと思っています。

 まさに司馬遼さんの「この国のかたち」といったような名せりふは私には浮かばないけれども、私はやはり外に向かっては、変化に機敏に対応し得る、同時に国際的に責任を果たし得る、そうした国になりたいと思いますし、同時に、国民の生命と財産、財産という言葉はただ単純な、お互いの資産ということではない、広くこの日本という国が今日まで保ち続けてきた伝統・文化・文化遺産、あるいは生命という中には国民の健康・福祉といったものも当然包含される概念ですが、要約すれば、そのような形のものを私なりに夢見ています。

 − 最後の一問ですが、どうぞ。

 − 行革論で、先ほどおっしゃったように、省庁の組み合せだけではなくて、規制緩和、権限委譲の部分が欠落しているとまさにおっしゃったんですが、十一月の最終報告までにどうやってそれを入れていくのか、そして、通常国会にどの程度の法案が準備出来るのか。

○総理 法案まで私は一遍に申し上げる自信はありませんけれども、一つは地方分権推進委員会が地方分権に関する第四次の勧告、これを大体今月末に出していただけると思います。

 そうすると、まず第一に、一つの分権という地方に国の持っている権限をお渡しする方の大きなルールというものはそこで出来てきます。これを、第一次の勧告から今度いただく第四次の勧告まで合わせて地方分権の推進計画を来年の国会の終わるころまでに出来るだけ早くまとめたい、これは今までもそう申し上げてきました。その中で、まず一つ地方に渡していくというテーマが出てきます。

 それから規制緩和、ちょっと今何月だか忘れてしまいましたが、経済構造改革の方で既にルールをつくって、方針を決めてどんどん進めています。これが終われば、というよりも終わる前にも、もっと追加するものがあれば追加をしていきますし、より積極的にこれは進めていかなければなりません。これは当然並行して行われる作業であって、実はその並行して行われ、既に出ている勧告、例えば、地方分権推進委員会からの第一次・第二次の勧告等を合わせて中央行革会議の中間報告を見ていただけなかったことは、何か省庁の数合わせというようなご批判をいただく原因になったような気がしてなりません。ですから、当然それは一つ合わせて進めていくことです。

 この点で、実は皆さんにこの機会を通じて私は本当に協力をお願いしたいことがあるんです。

 今日、午前中全国知事会議がありまして、そこでもお願いをいたしました。問題は、国から地方に権限を委譲するといったその権限が、都道府県のレベルでとまてしまったたのでは困るんです。住民に身近なサービス、住民に身近なものほど住民に身近な行政、すなわち市町村の段階にまでこれが下りていかなければなりません。

 しかし、今、全国に三千三百ある市町村、規模には大変な差があります。そうすると、例えばAの市であれば、受け取っても自分の力で実行出来るが、Bのところでは、例えば人口が少な過ぎて、当然のことながら役場の職員の数も少なくて対応出来ないとか、いろんな問題が出てきます。

 ですから、一つは地方自治体が自主的な、市町村が自主的な合併も含めて、広域連合とか、あるいは一部事務組合とかいろいろな仕組みを使って、都道府県まで降りてきた権限が一番身近な自治体にまでおりてくるようなご協力を是非いただきたい。知事会には、知事さん方にもそういった意味でのご協力を是非お願いしたいということを申し上げました。

 また同時に、昨日、初閣議の閣僚懇になりましたときに、閣僚の諸君にそれぞれの所管省庁において地方分権を進めることは当然のこととして、その委譲する権限が出来るだけ身近な行政にきちんと届けられるように、言い換えれば都道府県の段階で叢るのではなくて、市町村まで権限の委譲出来る体制よくチェックし、そうした方向で仕事を進めてもらいたい、私はそれを強く閣僚に指示しました。私が一番恐れるのは、都道府県まで下りた権限がそこでとまってしまうこと、一番身近な市町村長さんたちにはちっとも変わらないじゃないかという反応が返ることです。そういう意味での協力は是非お願いをしたい。

 そうして、そういうものと合わせて行政改革というものを理解していただきたい、また、そういうつもりで私たちは進めていきます。

 どうもありがとう。