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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第二次橋本内閣発足に当たっての記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 日本
[年月日] 1996年11月8日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),31−55頁.
[備考] 
[全文]

○総理 今日はどうもありがとうございました。

 第百三十八特別国会におきまして、昨日内閣総理大臣の指名をいただき、引き続き重責を担うことになりました。どうぞよろしくお願いをいたします。

 今年の一月十一日に総理を拝命して以来、この十か月間、自分なりに全力を尽くして国政に当たってきたつもりですが、第二次橋本内閣の発足に当たり、内閣総理大臣として今後私自身取り組みたいと考えております主な課題について、冒頭しばらくの時間をいただきたいと思います。

 この新しい政権で私が真っ先に取り組みたいと考えておりますことは、行政改革です。今や戦後五十年間、日本を支えてきた経済社会システムというものが、内外の環境の変化の中で、深刻な限界を露呈していることは申し上げるまでもなく、皆さんがよくご承知のことです。

 これを二十一世紀にふさわしい経済社会構造に再構築をしていくためにも、まず政府自らがその中核を成す霞が関の改革に直ちに着手しなければなりません。私が我が国の未来を見据えて、将来求められる国家、行政の機能が何かということを問い直した上で、複雑多岐にわたる行政課題というものを、役所本位の縦割行政ではなくて、国民本位で実行する体制を作り出すことが、行政改革、霞が関改革の本旨だと考えています。

 このことは長きにわたって続いてきた行政システムの根本的な設計変更を求めるものであり、強い政治的な意思がなくては到底実行は出来ません。

 私自身が責任者となって霞が関改革のための直属機関の発足に向けて直ちに取り掛かって、出来ればこれを今月中にもスタートさせて、精力的な検討を開始したい、そのように考えております。

 迅速、かつ重点的な審議というものを確保するために、この機関の基本的な使命、私は前に国家機能、すなわち国の存続、国の富を増やす、国民の暮らしを守る、そして、教育・文化と大きく分けて四つの機能に分ける。そういう考え方を提起したことがありますが、何と言っても二十一世紀における国家機能の在り方、それを踏まえた中央省庁の再編の在り方、そして、官邸の機能強化のための具体的な方策、この三つに的を絞り込むべきであると思っています。

 その際重要なことは、現行の政府の業務をそのまま与えられたものとするのではなくて、第一には規制の撤廃は緩和、第二には地方や民間への権限業務の委譲、こうした努力によって行政をスリム化する、効率化する。そして真に、国家国民に必要な行政の機能を見極め、そうした行政の遂行に最もふさわしい省庁体制や官邸機能を構築していくことだと思います。

 その意味で、運営に当たっては、不断に規制緩和や官民分担を検討しておられる行政改革委員会、地方分権を検討していただいている地方分権委員会の検討成果を取り入れるなど、この二つの委員会との積極的な連携を図っていく考えです。

 こうした検討を進めるに当たって重要なこと、それは従来型の官僚のセクショナリズム、あるいや省利、省益、特定の利益といったものを排除して、真に国民的、国家的見地からの合理的であり、かつ、大胆の改革案というものを真剣かつオープンに策定していくことであります。そのためには、委員は私は例外を持たず官庁のOBを排除するつもりです。

 また、非常に大切なのは実は事務局体制なのですけれども、この事務局体制についても、実効性を上げると同時に、事務局が大局的な見地を確保して、その公平性、中立性を担保するためも、各省庁から省益にとらわれない優秀な出向者を求めることは当然ですけれども、それ以外に学者、民間、あるいは委員をお願いする方々が自前のスタッフをお持ちであるなら、そうした方々を含めて構成する、そう考えております。

 この場合、審議機関は発足後一年に限定する。その間に成案を得て、平成十年の通常国会には法案を提出し、成立を期したいと思います。

 そして、省庁の再編統合というものは法案制定後五年以内に実施すると申し上げてきましたけれども、これは例えば二十一世紀がスタートする西暦二〇〇一年の一月一日までにその新体制への移行を開始することが出来れば、私は大変すばらしい。それを目標にして努力をしたい、そう思っております。

 勿論、その間においても、各省庁の自主的な改革努力を促していくこととともに、日銀法の改正でありますとか、金融の検査、及び監督体制、いわゆる大蔵省改革、その第一弾については、先行して実施するのは当然のことです。

 そして、この機関での議論を現実のものとしていくためには、政府及び与党の協力体制、これを整備することが不可欠です。

 昨日組閣をする際にも、全閣僚に対して私は個別に、行政改革と規制緩和については、いやしくも省庁の利益を代弁するのではなくて、広く国民、国家という立場に立って事務方を協力に指導し、実行に移していただきたい、そう指示をいたしました。今日、政務次官会議でも同様の初訓示をしたところです。

 この機関で得た結論というものは、これはすなわち内閣としての結論ということをあらかじめ明らかにした上で検討を行い、政府が一丸となってこれを実行に移すことが必要です。

 また、自由民主党においては、行政改革推進本部を設置し、それを支援する体制を既に整えております。連立与党を始め、他の政党にもご協力を強くお願いをする次第です。

 大胆な行政改革を行おうとするときには、さまざまな反対、摩擦が生じるでありましょうし、総論賛成、各論反対ということも予想に難くないことです。

 かつて土光臨調のとき、行財政調査会長として、例えば国鉄改革等に取り組んだとき、本当に大変な抵抗を受けた記憶も私自身の中に残っています。国民の皆様には、この内閣の決意というものを是非ご理解いただいて、強くご支持をいただくことが出来れば本当に幸いです。

 しかし、経済社会の構造改革のためには、行政改革だけで十分では決してありません。大競争時代が到来した。そして、国際的に企業が国を選ぶ時代になっている中で、今や産業だけではなく、政治や行政、社会まで含めた経済社会システム全体が世界的な競争にさらされている。そんな状況に我々は今生きています。

 我が国は今や高コスト構造の下での産業や雇用の空洞化の懸念、世界の歴史の中でも類を見ない高齢化の進展、先進国の中でも最悪の状況となっている財政、この財政の悪化は見逃すことは出来ないし、これらに起因する国民負担の急増と社会活力の低下といった危機的な状況に直面しているんです。

 同時に、ここ十年間くらい、世界の金融市場が大変大きな変革を遂げてきたのに対して、我が国の金融市場の停滞は否めません。今こそ既存のシステム、制度をゼロから見直して、この再構築に努めなければなりません。

 このため私は行政改革を含めて、特に経済構造改革、金融システムの改革、財政構造改革、社会保障構造改革の五つの改革に強い決意を持って実行するべく取り組んでいくつもりです。

 その際、特に私たちが注意しなければならないのは、実はこの行政改革、経済構造改革、あるいは金融システムの改革や財政構造改革、社会保障構造改革というのは、これは独立して存在する課題ではなく、それぞれが極めて密接にかかわり合っている問題だということです。すぐれた金融システムというものは、経済の基盤ですし、経済構造改革によって付加価値の高い経済活動がこの国で行わなければ、国の歳入の確保は出来ない訳です。財政再建もそうなれば、本当に単なる皮算用に終ってしまう。

 また、健全な社会保障制度を維持していくためには、持続的な経済成長が不可欠です。逆に財政構造改革や社会保障構造改革が進まないままに国民負担率が増大し続ければ、社会の活力は著しく損なわれてしまう。産業の海外逃避や空洞化は一層深刻なものになる。このことがさらなる財政悪化を導いていく。このままでは本当に悪循環です。

 戦後五十年の長きにわたって存続した各種の既存の制度というものを見直して、新たなシステムを作り上げる際には、そのために必要な人材をいかに確保し、育てていくかということも欠くことは出来ません。

 創造性とチャレンジ精神に満ちたたくましい、他人への思いやりを有している、正義感、公益意識を持ったとでも言い換えましょうか。こうした人材を生み出してくれるような教育改革も進めなければなりません。

 これは行政改革もそうですけれども、こうした課題というものは、従来のように各省庁別に、個別にその所管の範囲内で、それぞれの利害の中で政策を練っていたのでは解決は到底出来ないんです。なぜならこうした手法そのものが既に既存の社会システムを前提にしたものですから、この新しい内閣においては、各省庁任せではなしに、私自身、また、官房長官等と一体になりながら、政治的なリーダーシップというものの中で、官邸主導のプロジェクトチームを編成しながら、構造改革の統合的な理念、そして、具体的な目標やスケジュールを定めながら総合的、包括的な計画の下に思い切った改革に取り組んでいきたいと思います。

 最後に外交政策については、本日は特に二点だけ申し上げておきたいと思います。

 今朝、私はクリントン大統領と電話で話しをしましたけれども、その中でも二人がお互いに触れたように、普天間を始めとした沖縄の在日米軍の施設区域の問題というものは、引き続きこの新しい内閣においても、最重要課題の一つとして取り組んでまいります。

 日米安全保障体制は、日米関係の根幹であることは申し上げるまでもありません。これを安定せていくためにも、普天間飛行場の問題を含めて、SACOの最終報告の早急な取りまとめを行って、一方、同時に沖縄の振興策を強く進めていきたいと考えています。

 このため、新たに沖縄担当大臣を、沖縄県の基礎的な部分を担当していただく開発庁とは別に、各省庁にまたがる政策課題を解決していく役割として、この内閣では設けることにし、梶山官房長官にお願いをいたしました。

 先ほど大田知事にお電話をしたときにも、梶山官房長官にこの沖縄問題を担当していただくということについては、非常に強く期待を寄せていただいたところです。

 第二に、日米関係と並んで最も大事な外交関係の一つである日中関係、これはただ単に二国間にとどまるものではなく、この日中関係が安定し、発展するということがアジア太平洋地域全体の平和と繁栄のために、そして、国際社会全体にとっても本当に重要なことです。その意味で、両国の責任は極めて重いものがありますし、日中間のさまざまな問題の解決に誠実に取り組みながら、明年、日中国交正常化二十五周年を迎える、こうした節目の年に当たって両国間の協力関係の一層の強化に向けて最大限の努力をしてまいります。

 以上、ちょっと長くなって恐縮でしたが、第二次橋本内閣として発足に当たり、考えている基本を申し上げました。どうぞよろしくお願いいたします。

 − 総理、どうもありがとうございました。

 では、冒頭幹事社の共同通信と東京新聞の方から若干質問をさせていただきます。

 総理の行革に対する熱意というのは、今大分我々も理解出来ましたが、一方で第二次橋本内閣、これは前の第一次と比べてみまして、社民党とさきがけが閣外協力に転じるという、大きな違いが出ているという指摘もあり、一方で、そのために政権の枠組みが弱体化するのではないかという指摘もございますが、そういう辺りを踏まえまして、今後の総理の社民党、さきがけに対する対応、それ民主党への対応、これについてのお考えをお述べください。

○総理 先日の衆議院選の前と後と決定的にに変わったのは、この三年数か月の政局を踏まえて、それぞれの政党がおのれの理想をかざしてこの選挙戦に臨んだ。そして、国民の審判がくだったという点がありますね。

 その状況の中で、非常に過半数に近い比較第一党という地位を自民党は与えていただきました。そして、その中で我々は社民、さきがけの両党との間には政策合意を、また民主党の皆さんとは、立法府における個別政策協力、二十一世紀とは合意、こうしたものをそれぞれ結ぶなど、自由民主党として政策中心に他の会派と精力的に協議を行ってきました。

 これは中においては、本格的な高齢社会の到来、外においては、冷戦構造が崩壊してから後の不安定な国際情勢が続く中で、産業の空洞化、財政の危機的状況といった状況に直面している今の状況の中で、こうした課題に対応するために一刻の猶予もないと考えたからです。

 私は選挙中、何回も政策面で基本的な考え方を一つにするなら、政党あるは個々の政治家を問わず共に協力していく道を閉ざすつもりはない。また、その必要はないということを申し上げてきましたけれども、その気持ちは今も全く変わりません。

 今、冒頭に申し上げたような議題に対し、私たちは国家、国民の将来というものを考えながら、政策中心の政治というものを引き続き心掛けていくつもりです。

 − 併せまして、野党の新進党に対する対応、これについてもお話を伺います。

○総理 今の答えと重複する部分があるんですけれども、まさに私は重要な政策について基本的な考え方を一にするなら、政党であれ、個々の政治家であれ、協力していく道を閉ざす必要はないと申し上げてきました。その点、どなたに対してでも同じです。その上で、今回の選挙結果を冷静に見た場合に、国民の、あるいは有権者の意思と言い換えましょうか、有権者の皆さんの意思、思いというものがどの辺にあったのか。殊に消費税、財政についての考え方の差というものを有権者の皆さんがどうとらえておられたのか。これは判断の分かれる問題だと思います。

 − 幹事社の東京新聞です。

 私の方から二問、質問させていただきます。

 まず最初に組閣に関してなんですが、閣僚の顔ぶれを拝見しますと、派閥均衡という印象を感じる訳ですが、山積する政策課題を処理していくための挙党体制というものを重視されて、派閥均衡ということについての配慮がおありになったのかどうか、その点をお聞きしたい。

 もう一つは、行革推進に当たって、人事配置について特に何か重視された点とか、配慮された点があれば、それもお聞かせいただけますか。

○総理 人事配置は行革だけに限定ですか。

 − そうですね。要するに、行革を推進していくための・・・。

○総理 というのは、行革というのも我々が抱える最大のテーマだということは最初に申し上げましたけれども、それだけが問題点ではないと思います。

 そして、派閥云々の話がありましたけれども、私はそう考えていませんが、それを議論してみてもしようがないでしよう。

 ただ、私はしばしば聞かれる皆さんに対して、人事というものは本当にこういう問題点をだれならということを中心に考えるべきものだということをさんざん申し上げてきました。内閣全体として言うなら、まさに行政改革、経済構造改革、金融システムの改革、財政構造改革、社会保障構造改革、こうした問題は本当に重要課題だと思っていますし、それに加えて、各省庁が抱えている課題、あるいは懸案といったものをつぶさに検討した上で、私なりに人事はさせていただいたつもりです。

 例えば外交日程が非常に立て込んでいる中で外務大臣は代えられない。外交の継続性ということを考えましたし、また、日銀改革や金融行政からまず第一弾の改革に踏み切って行くべき大蔵省、これはそれだけが問題ではなくて、一方では予算編成を抱え、財政再建を抱える、非常に大きな重みを持った課題を持っています。

 あるいは、介護保険をこれからまとめ上げ、同時に社会保障構造改革を抱えながら、一方でエイズ問題、あるいはO157など、国民生活に非常に密着した課題を抱えている厚生省。

 また、例えば水産関係は外交交渉を全部控えていますけれども、同時に二十一世紀を見据えた食料というものをどう考えていくのか、こうした点での農水省。それぞれいろいろな問題を抱えてきました。また、省庁を飛び超えた問題として、まさに沖縄の問題などがあります。

 そういう状況の中で、付け加えさせていただくなら、今度閣僚を経験した数名の方が、あるいは副長官、あるいは政務次官という形でこの陣容に加わっていただいた。懸案を抱えているところでその体制を手厚くすることが出来たことを非常に喜んでいますし、ある意味では、そういう人事を受けてよしと引き受けてくれた諸君にも、私は、仕事優先という点から本当にうれしく思っていますし、感謝しています。

 同時に、行政改革の前に、阪神・淡路の復興対策、そして沖縄という言わば危機管理に類する大きなテーマを官房長官のところに集約して引き受けていただきました。

 これは私なりに本当に考えた結果ですし、これから仕事をしていただいていく上で私は評価をしていただくことだと思います。そして、行政改革という点では、まさに先ほど私自身が申し上げたように、直属の機関を来週早々にでも武藤さんと少し時間を取って相談をし、議論をし、いずれにしても、武藤総務庁長官には行政改革担当閣僚として、その直轄機関の私の代理をしていただくことになりますから、十分ここを打合せをしていくことになりますし、その上で出来るだけ早く、先ほども申し上げたように、官僚OBも使う気はありませんが、学者、民間、いろんな立場の方々に、まさにゼロから青写真を書いていただけるような方々にお集まりをいただいて、発足後一年という時間を区切った考え方の取りまとめに入っていきたいと思います。

 その意味では私は、実は武藤さんに最初からねらいをつけていましたし、本当に気持ちよく引き受けてもらったのは非常にありがたかった。その意味では、組閣を考えた瞬間から、全く私の頭の中で動いていない一人が武藤さんです。

 − 分かりました。先ほど総理が行革の推進には省庁も含めて大きな摩擦とか、要するに抵抗が考えられる。それに対して総理は強い政治的なリーダーシップを発揮されて、解決されていかれるご決意を承りましたが、この強い政治的リーダーシップについて、何か具体的なお考えがおありになれば伺いたいと思います、それから、行革担当の首相補佐官という話も一部にあるようなんですが、補佐官を置かれるという考えをお持ちなのかどうか。その辺も聞かせていただけますか。

○総理 これは検討の中にあるテーマですが、今ここで置く置かないを明言することについては、委員を一方で人選しようとしている中で、多少かかわる部分も発生する可能性があるので、そうした考え方も選択肢の一つとして頭の中にありますということで、とどめさせてください。人の話というのは、大変微妙なバランスで成り立つ部分がありますから、内閣補佐官いう制度があり、その内閣補佐官いう制度を活用することも選択肢の一つにある。それは私は全く否定をしません。

 − リーダーシップの方は何かお考えがございますか。

○総理 本当ならそんなリーダーシップを発揮しないでも、皆さんが強力してくださって、どんどん進めれば一番いいんですよ。そして、それがどんな場合に、どんな形で必要ななるか、これはなってみなければわからない。むしろある意味では議論の途中で、平行のままどちらかに采配を挙げなければならないということもあるかもしれませんね。

 あるいは、この議論をここで切らずに、もっと時間を掛けさせるという決断をする場合もあるかもしれません。

 いずれにしても、私ども主催する機関をつくらせていただく以上、その責任は私にある訳ですし、そこでなるべくなら私がああだこうだという裁定を下すような形ではなく、建設的な議論が進むことを期待しますけれども、むしろそういう作業が進んでいるうちに、それぞれの、個別の例えばお願いをした委員のところにプレッシャーが掛かったりしないように、外圧を防ぐのが一つのリーダーシップかとも思います。決してマスコミの皆さんの夜討ちまで私が制限するという意味ではありませんけれども。

 − 分かりました。幹事社からの質問をこれで終わります。各社どうぞ、自由に質問してください。

 − 総理、財政再建の問題なんですけれども、財政再建について何らか期限とか目標みたいなものを決めて財政再建に取り組むとか、財政再建法みたいなものを制定するとかいうことをお考えなんでしょうか。

○総理 ちょっと微妙なので資料に目を通させてください。下手な言い回しをするとしかられてしまうところがあるから。

 今、言われたような感じというのは当然のことながら頭の中にあることです。そして、当面いきなり我々はこれから予算編成を考えていかなければならない訳ですけれども、少なくとも考えていただきたいと思うことは、現在の財政構造を放っておけば、もう既に今の場合、歳入歳出のギャップが二十一兆円、これはいよいよ拡大していく訳です。当然のことながら公債残高は累増化される訳です。こんなものをそのまま続ける訳には本当にいきません。

 ですから、我々としては本当に幅の広い議論というものを求めながら、速やかに出来るだけ検討を進めていきたいということには間違いがありません。そのためには与党に対しても、財政構造改革の特別の検討の場を持って、政治主導の中で歳費削減の具体的な方策というものを策定することを考えていただきたい。そうしたお願いを申し上げたいと思いますし、自由民主党に対してもそうした指示をしたいと思います。

 そうした中で、当然ながら財政赤字についての、その在り方というのはおかしいですけれども、合理的な基準、あるいは中期的な財政再建計画、あるいは財政再建法というものについても検討されるでしょう。その上で、例えばこういうやり方もある、ああいうやり方もあると考えてみると、国債残高あるいは国債発行高で歯止めを掛けていくという手法が一つあります。あるいは分野別の経費、その上限を設定して、その中で努力をするといったやり方もあります。

 ですから、その辺にまで私自身が具体的にイメージを決めきれてはいません。ただ、これで新内閣もスタートし、党の方の人事も大体終わりましたから、週明け出来るだけ早い機会に、自由民主党に対してはそうした指示を、協力していただける各党の皆さんにはそうしたお願いをさせていただきたいと思っています。

 − 財政再建との関連で補正が絡んでくると思うんですけれども、補正予算ですね。つまり、加藤幹事長は五兆円規模を打ち出しましたけれども、そうすると逆に財源の問題で財政再建に逆行するという意見も、民主党含めていろんなところがら出ていますけれども、その補正の中身について、総理としては今どのように考えておられますか。

○総理 大変申し訳ないけれど、私は一度も補正予算が必要でないと言ったこともないが、私はそういう巨額の補正予算を必要だと言ったこともないんですよ。そこは確認しておいてください。

 私は補正予算は間違いなしに必要なのだということは冒頭申し上げておかなければなりません。それは本年度になってからの阪神・淡路の復興対策の中で新たに確定して、これからむしろ国が支払っていかなければならないものもあります。あるいは全く予期していなかった大変不幸なO157の事件でいろんな影響も出ています。また、これはこのまま余り大きな災害が発生しないで済むことを祈っていますけれども、どうしても災害関係の補正というものもいつも考えていかなければなりません。

 ですから、私はその意味で今年補正予算が必要でないというのではありません。補正予算はいずれにしても必要なんです。その上で、今の日本の景気、最近の動向を見ていきますと、民需は引き続き順調に、堅調に推移しています。そして、景気は回復の動きを続けています。しかし、その足元、テンポは大変緩い。しかも雇用情勢には改善の動きは見られるけれども、依然として非常に厳しい。懸念する状況があることも事実です。

 現時点では公共事業などの機動的な、また弾力的な執行に努めることを始めとして、平成八年度予算のさまざまな施策というものを円滑に実行していく。これが一番大切なこととして、今、万全を期しているところです。いずれにしても我々はこれからも景気に注意を払い続けていきます。その上で、全体の規模といったような問題は論ずべき話であって、今、数字が先にあって、補正是か否かという議論を私はする気はありません。いずれにしても補正予算は必要なんです。

 − 行革なんですが、今、総理、ゼロから青写真をつくり直したいとおっしゃいましたけれども、選挙前に党の方で省庁の半減案というようなものがあったかと思うんですが、その具体的な省庁の再編のときに、数について半減したいぐらいのイメージというのはお持ちなんでしょうか。

○総理 私自身が半分ぐらいに減らしたいと、そう申し上げてきました。だから逆に数ありき、数から入るのならそちらから入ってもいいですけれども、私は初めに数を幾つにしなければならないという話ではないと思うんです。これは繰り返しになって申し訳ないけれども、私は国の機能というものを大きく四つに分けて自分なりの議論をしてきました。

 それは、例えば外交であり、安全保障であり、治安であり、また財政といった国の言わば存続に関する機能、あるいは産業政策等々を含めて国の富を増やしていくための機能、そして社会保障、福祉、あるいは環境、こうした分野を含めて国民の暮らしを守る機能、そして、もう一つが教育であり文化、その文化というものは古いものを保っていくことと新しいものを生み出していくことの両面を含みますし、国際的文化交流といったものも含みますげれども、私なりに分けると、そういう大きく四つの機能に分けられるのではないだろうか。それが私自身の考え方でした。

 そして、そうした中で私は半分ぐらいに減らしてはどうだろうということを国民の皆さんに問い掛けてきました。さっきも申し上げたように、そうした考え方をベースに私は提起をしましたけれども、必要なことは二十一世紀における国家機能の在り方、私はそれを大きく四つに分けましたけれども、四つがいいのか五つがいいのか、それこそ皆さんにも一緒に考えていただきたいと思います。

 そして、それを踏まえた上で私は中央省庁の在り方というものを数も含めて考えるべきだと思うし、同時にそこでもう一つ大事なことというのは、現在の政府が持っていることを全部そのままにしておいて新しい地図を書くのではなくて、一方で地方分権あるいは民間への権限委譲といったものを含めて、業務がスリム化される部分、一方ではまさに規制の撤廃とか緩和といったものによってスリム化する部分、要するにどんどん変わっていくべき姿というものを踏まえたものでなければいけない。私はそう思うんです。

 ですから、私は私自身の考え方として、国の機能を四つに大きく分け、その中で今は半分ぐらいにと私自身は考えました。

 その上で専門家の、これには行政法の方もありましょうし、憲法の方もありましょう、財政あるいは外交というか国際政治というか、いろんな分野の学者さん、経済界、こうした方々、それぞれ本当にいろんな立場からきちんとした考え方を出していただく。それが成案を得てというのに私は一年という時間を限った訳です。

 − 行政と財政再建、どちらも絡む話ですが、総理は以前四つの審議会、複数の審議会の会長をお集めになって、いろいろ共同の目標に向かって調整をされようとされましたが、こういうことをやってごらんになって、やはりそういうものではなかなかおぼつかないから、直属機関という新しい枠組みをつくられるのか。

 あるいは、これまでと同じように審議会がある訳ですから、引き続き審議会同士の調整というものも想定されているんでしょうか。

○総理 困ったな。さっきも申し上げたつもりだったけれども。まさに現在に存在する審議会、その中で行革委と分権委の名前を挙げましたけれど、そこからの答えというもの、あるいは勧告というもの、どういう形になるのか分かりません。これはまさに直属機関に取り入れていきたいと思います。

 ただ、要するに、逆に設置法をつくったために、例えば諮問出来ないとか、それぞれみんな制約があるんです。ですから、私は既存の法律を持ってっくられている審議会が、出来るだけ連携をしていただいて作業が進むように、あるいはそれぞれの審議会の任期の切れるときに、もっと大きなものに統合していくことが出来ないかどうかを、これは引き続き私は考えます。しかし、同時に出来るだけ早く立ち上がれるように、行政改革についての動きを立ち上げることが出来るようにということを考えていったら、最終的には私は事務局を持つ直轄機関という考え方になりました。

 − その行革関連だけではなくて、経済審議会だとか。

○総理 だから、逆に審議会の統合ということを私はだんだん考えていきたいんです。例えば財政を考えている審議会と社会保障関係を考えている審議会が全く連携が取れない。しかも、その社会保障関係の全体を束ねる審議会が例えばどこか別のところにあって、年金は年金、医療保険は医療保険、雇用保険は雇用保険、全部が関連するようなものがほかの省庁にちらばっている。それぞれがそれぞれの制度の中の議論をしていらっしゃる。これはやはり私はなかなか問題が、一つずつはいい答えが出ても、全部を並べてみるとうまくいかない原因の一つだと思うんです。

 今、何か厚生省関係のそうした審議会は会長さん方の会合、会議のような形にして、随分実効が上がり始めていると聞きましたけれども、やはりそうした審議会のうち、どれとどれを統合すればいいのか、まだよく整理し切れていないんですが、少なくとも主要な幾つかの審議会というのは将来的には束ねていきたい。それは私自身が本当に頭にあることです。同時に直轄機関というものを考えた理密でもあります。

 − 重要課題の一つに挙げられた金融システム改革について、その意味とスケジュールをもう少し詳しく教えてください。

○総理 金融システム改革の方については、来週恐らく、これもどこかの時点で大蔵大臣と法務大更にお越しをいただくことになるだろうと思います。そして、そこでご相談をした上で、細かい問題についてはお返事を申し上げることになるだろうと思いますが、どういうふうに申し上げたらいいかな。

 ちょうどこの十年ぐらい世界の金融市場というのは大変な勢いで変化を続けてきました。ところが、その十年ぐらいの間の前半の五年ぐらいというのは、日本の場合はバブルで浮かれていた時代だと思うし、後の五年ぐらいはバブルがつぶれて、その収拾に追われてしまった時代、そんな状況だったんではないかと思います。

 ところが、今、金融関係の犯罪化というのはよくないけれども、例えばデリバティブ関係で犯罪が起きたりするような、全然違った時代にどんどん世の中が変化してきました。そうした中で、今度は間もなくヨーロッパに新しいユーロという通貨が生まれようとしています。これは当然ながらドルと並んだ基軸通貨の一つになる運命を生まれながらにして持つ通貨だということを言わなければなりません。こうしたこともある。そして、アメリカではどんどん新しい金融商品が開発される。どんどんダイナミックな変化をしている中で、通貨としての円の価値をどうやって守るかという視点もこの中にはあります。

 同時にもう一つの問題としては、まさに今、我々は高齢社会に突入している訳ですけれども、その二十一世紀の高齢社会で日本の経済が活力を維持していこうとする場合に、一つは新しい時代を担う成長産業への資金供給が非常に重要であると同時に、国民の資産がより有利に運用される場所というものは必ず必要です。同時に我々が世界に貢献していくためにも、日本が国際社会に対して円滑な資金供給をしていくということも必要です。

 そういうことを考えますと、一千二百兆円もの我が国の個人貯蓄というものを十二分に活用させていただくということは不可欠ですし、これは経済の血液の流れをつかさどる、それはまさに金融市場なんですけれども、金融市場改革が遅れれば、これは流れがどこに向いてしまうか分からない。この時期にこそ金融システムの改革に踏み出して、今後の数年でそれを完了していくことによって、ロンドンとかニューヨークに並ぶ資金の最適配分、そういう本来果たすべき機能を果たしてくれるような市場を我々が日本につくっておきたい。そのためには、金融システム改革というものを避けて通ることは出来ません。

 同時に実は金融市場そのものが、あるいは優れた金融システムそのものが新しい産業でもあるんです。これ自身が一つの産業でもある訳です。そして、そういう金融システムが構築されることは、すべての産業の発展の基礎でもあります。これはフリー、フェアー、グローバル、今三つの原則にこれを絞り込んでいますけれども、今申し上げたような問題意識を持って、後日改めて大蔵大臣と法務大臣に対して具体的な検討項目を示したご相談を仕掛けたいと、今、そう思っています。

 − 外交面でお尋ねしたいんですが、間もなくフィリピンでAPECが行われまずけれども、総理は今度のAPECが重要だという認識はこれまでもお持ちになっておりますが、どういう位置づけをされて、それに日本としてどう臨まれるのかという点を伺いたいと思います。

○総理 これは余り間近なもので、手札を全部さらされるのはちょっとつらいところがありまずけれども、APECというのは非常にユニークな仕組みだと思うんです。今、世界の各地に地域内のいろいろな仕組みが生まれていますけれども、非常に緩やかな連帯感に結ばれた協力関係、しかも外に開かれている。私はこのAPECというのは、アジア太平洋地域という発展段階も、経済的な力も、歴史的な経緯、民族、いろんな違いを持っているこのアジア太平洋地域というものが、これから先、更に発展していくことを考えた場合にほ、非常に重要な地域協力であり、またこの仕組みというのは非常にこの地域に合った仕組みだと思っています。

 そして、その会合の中で、首脳が集まって行う非公式首脳会合、率直な意見交換というものは、昨年日本が議長国として大阪で行った会合でも非常に有意義なものでした。特に今年の場合は、大阪で日本が議長国として取りまとめた行動指針、これを具体的な行動計画に進展させる非常に重要な年になります。これは閣僚レベルで一生懸命努力をしてもらう訳ですけれども、恐らく首脳会合では、こうした作業というものを更に推進しながら、APECの活発な活動を維持強化していくために、どんな問題があるかといったようなことは当然出てくるでしょう。

 今、想定されている大きな論点というか、出てくるであろうと予想しているのは、一つは貿易投資の自由化、円滑化と行動計画の提出というものが進む中で、それぞれのメンバーが持ち寄ってくる個別行動計画、これを土台にしながら、メンバー全体で取り組んでいく共同行動計画をつくるだろうかというようなことが、一つ大きな問題点だろうと思います。

 もう一つは、貿易投資の自由化・円滑化と並んで、言わば車の両輪のような役割を成す経済技術協力というものをある程度、今度は経済技術協力というものに焦点を絞り込んだ協力の枠組みについての議論、こうしたものが多分必要になるだろうと思います。具体的には、例えば、インフラの整備などが問題になってくるでしょうけれども、これをどうまとめていくかというのがもう一つの課題でしょう。

 その上でもう一つあるのは、民間との協力関係というものになると思います。これは一昨年のAPECの中小企業大臣会合で、民間と共同の会議を日本が提唱して初めてやっている。参加の各メンバーは当初大変疑念を持っていましたけれども、その中小企業大臣会合で、民間との共同会合は非常に有意義だということを知ってから、大変積極的にこれを動き出させることが出来たといってもいいかもしれません。

 今年はそのAPECのビジネス諮問委員会の方から、APECに対して、投資促進やインフラなどで五分野、十項目の提言を含んだ報告書が出ているようです。これはまだ実は目を通す時間がなかったんですけれども、恐らくフィリピン会合では、首脳レベル、閣僚レベルと同時に、ビジネス界との意見の交換が予定されていると聞いていますから、当然こうした問題があるだろうと思います。更にWTOのシンガポール会合に向けて、閣僚会議に向けて前向きなメッセージを出すということもあるでしょう。

 大きく今、想定出来る問題はそうしたことになるでしょうし、日本としては各国が大阪でつくった行動指針に基づいて持ち込むそれぞれの努力の成果に見劣りのしないものを、前年度議長国としての責任で持っていきたい。目下それぞれ作業をしてもらっている最中です。

 − 行政改革ですが、総理の会見で決意のほどは伺ったんですが、この前、加藤幹事長とのお話で、火だるまになってもやり遂げるとおっしゃったやに聞いていますが、これは政権の命運をかけてやるということですか。

○総理 火だるまというのと火の玉と言ったというのと二つあるんですが。

 − それは置いておいて、政権の命運をかけると・・・。

○総理 いずれにしても、このテーマはやっていかなきやならないんです。その命運をかけるとか、政治生命をかけるとか、私は余りそういう大時代な言葉は好きではない、その上で、しかし、これはやらなかったらこの日本という国の明日がなくなっちゃうぐらいのことなんです。だからこそ、私は自分の直属の機関をつくって、自分が主宰してこれに取り組む、そう申し上げてきました。

 その上で、これが進まなければ、国民は二度と私を信用してくださらないでしょう。ただし、逆に国民にもお願いしておかなければならないことは、本当にこれを動かし始めたときに、個々の利害で妨害はしないでいただきたい。是非その点のご協力は得たい。今まで、何回か私は本当に、一番ひどかったのは国鉄の分割民営化に向かって、行革審を動かし始めた当時でしたけれども、これは多かれ少なかれ、電電の民営化のときでも、専売の民営化のときでも、あるいは小さな話ですけれども、財務局を財務地支局にするというようなときでも、随分いやな思いを家族ぐるみしました。

 それだけに、さっきたまたま人の話に触れられたときに、微妙なのでというお許しをいただいたのもそういうことですけれども、どうぞこうした問題を担当する委員の方々に、警備を必要とするようなことのないようにだけは是非お願いをします。皆さんにも協力をしていただきたいと願っています。

 − 総理、火だるまですから、火の玉です。含蓄のある表現なので。

○総理 どっちを言ったか覚えていないよ。

 − どっちにしましょう。なかなか総理のご決意を象徴する言葉だと思うんですけれども。

○総理 どちらを取っていただいてもいいですよ。いずれにしても、やらなければならないことはやらなければならないんですから。

 − 政界再編のことなんですが、今後、だれを軸にどう進んでいくとお考えでしょうか。

○総理 大変申し訳ないが、選挙の結果を受けて、私たちは冒頭申し上げたように、社民、さきがけと、また民主党の皆さんと二十一世紀の皆さんと、政策合意を、あるいは院内における立法についての協力行動、あるいは合意をと、それぞれに結んできました。言い換えるならば、社民、さきがけ両党とは政策合意、民主党とは立法府における個別政策協力、二十一世紀とは合意、我々は政策中心でそういう協議を行った上で新しい内閣をスタートさせたところです。

 政界再編というのが、あなたが言われる意味が何を指されるのか分からないが、国民の審判を受けた衆議院の総選挙の結果として、国民に与えていただいた議席に基づいて、我々は党として今行動をしています。

 そして、昨日召集された特別国会での首班指名において、新しい内閣が誕生しました。どこをどう再編するんですか。

 − 総理、日中関係のことをおっしゃいましたけれども、巷間、無償資金援助の凍結とか、そういったことが言われておりますが、中国は立派な大国でございまして、そういうのをこの際やめて、真の日中関係を築くべきではないかと私は思いますけれども、どういうアプローチで・・・。

○総理 ちょっと待って。あなたの言う真のというのは、無償資金協力はやめるの、あなたの案では。

 − 私はもう要らないのではないかと思います。

○総理 中国の中、どの程度ご存じだろう。

 − それは、中国指導者が考えるべきなんです。

○総理 なるほどね。そういう考え方がるというのは一つの勉強になりました。

 私はたまたま中国という国も好きだし、また自分が山登りという趣味もあって、随分中国の各地域を旅しました。そして、医学協力が実っているケースや、あるいは障害を持つ方々のリハビリテーション施設が日本の協力で出来上がっていくのを見てきました。それがどれだけ日本という国を中国の方々に温かいものとしてイメージしてもらうのに役立っているかという方も出てきました。だから私は無償は放り出せ、中国の指導者が考えるべきだというようなことを言うつもりはありません。来年はむしろ日中国交の正常化二十五周年という一つの大きな節目の年です。両国の友好、協力関係を二十一世紀に向けて発展させていくために重要な区切りの年ですから、私は本当に出来るだけ緊密な対話を進めていきたいし、関係を強化したいと思います。

 と同時に、むしろ私は日中関係というものがより発展していくことがアジア太平洋地域だけではない、国際社会においても非常に大事なことだと思っていますし、これを遵守していくということは当然のことです。同時に我々は、中国の改革開放政策というものを引き続き支援していく。この点はあなたと考え方が違うようだけれども、私はその必要があると思っていますし、同時に、むしろWTOへの早期加盟を図ることによって、中国と国際社会との一層の協調に向けて進めるような舞台づくりをしていくといった努力も我々はこれからも払っていきます。

 − 総理、行革についてですが、ちょっとくどいようですけれども、先ほど政権の命運とか、あるいは政治生命という言葉は好きじゃないというふうにおっしゃいましたが、総理は先ほどからご自身が主宰して実行していくということをおっしゃられている限り、やはりそれが例えばうまくいかなかった場合、あるいは成案まで時間が掛かった場合、そういった場合、やはりトップたるものが何らかの責任を明らかにするというのは当然じゃないかと思うんですが、その辺はいかがでしょうか。

○総理 失敗してからそれは申し上げることです。逆に、あなたにも協力してほしい。これは私自身の政治生命とか、そういったことを言えば済むような甘い話ではありません。当然失敗をした場合、それだけの責任が生じるというのは当たり前のことですから、この行政改革が成功するかしないかというのは、一人の政治家の進退といったような問題で済む種類の話ではないんです。どうぞそれは分かっていただきたい。そして、その上で是非成功するように協力していただきたい。

 − 総理、先日コールさんに、コールさんが長期政権になっていることを、その秘訣を聞いてみたいということを晩餐会のあいさつでおっしゃいましたけれども、長期政権に持ち込む秘訣は何かお聞きになりましたでしょうか。もしくはお聞きになっていなくても、何か今、胸の中に持っていらっしゃるものがありますか。

○総理 これは僕が言ったんじゃないですよ。僕がそう言ったのに対してコールさんが答えてくれたのは、なるべく記者会見を減らすこと。そして新聞は絶対に読まないようにすること。これはコールさんがそう言ったんですよ。ただ、私にはそれだけの度胸がないから、やはりテレビも新聞も出来るだけ目を通しまずけれどもね。だから、そうすると短命だということかな。コールさんはそれはよくないと、自分は新聞は読まぬことにしていると威張っていましたよ。そして、それが長期政権の秘訣だって言っていましたね。みんなわあっと笑い出したんだ。

 − 沖縄問題とともに阪神・淡路の復興対策は危機管理という点で、官房長官が担当されますけれども、もう少しお考えを伺いたいんですが。

○総理 大変申し訳ないけれども、ご質問の趣旨がもう一つよく分からないんだ。

 − 阪神・淡路の復興担当が国土庁長官から官房長官に替わられた訳ですけれども、それについて総理がお考えになった点というのをもう少し伺いたいんですが。

○総理 失礼しました。今、大震災から本当にいつの間にか一年十か月近い日にちが経った訳ですけれども、あの悲惨な状況というものは私も脳裏から消えませんし、皆さんもそうだと思います。そして今、復旧から復興の段階に入ってきて、少なくともまだ住宅とかいろいろな問題があるんですけれども、それ以上に国土庁という防災という視点からこの問題をとらえるのとは違った復興へのアプローチが今や既に必要になっています。

 そして例えば、神戸港が港湾としての機能を回復してくるにつれて、当然当初は戻ってくるであろうと思われていた荷物がなかなか戻ってこない。それは港湾における小さな話をするなら、港湾における手続の繁雑さとか、時間とかいう問題までこれが影響してくる。これは一つのケースですけれども、そういう問題も、国土庁というところが抱えるものでは、あるいは国土庁長官が担当省と抱えるのでは、他省庁との連携の上に必ずしも十分ではないといった問題が現実に出てきました。

 そして、これから先はいよいよそうした問題は増えてくるだろうと思います。むしろその土地の問題とか、神戸の市街地をどう復興するか、これは本当に国土庁自身の仕事としてやっていっていただく、あるいは国土庁が兵庫県、神戸市を始めとした被災地域と相談しながらやっていっていただくテーマは勿論あるんですが、ここから先、神戸に今まであった産業をいかに呼び戻すか、あるいは国際社会の中でどう神戸に荷物を集めるか、あるいはもっと大きく、神戸の相当な活気の基になっていた観光という側面にどう応えるか、これが実は省庁の壁を超えて相当広範な問題を含んでいます。

 そうしたことを考えたとき、これはむしろ官房長官にお願いした方が、より現実的に対応が出来るだろう。そう私は判断をしました。そして先ほど官房長官ともご相談をしましたが、国土庁長官には出来るだけ早く、当然のことながら現地に行っていただきまずけれども、(国土庁長官は明日既に神戸入りを決めておられるようですけれども、)官房長官にも復興担当の閣僚責任者として、出来るだけ早い時期に兵庫県並びに神戸市を訪問していただこうと思っています。

 ですから、国土庁の本来業務の部分は当然のことながら国土庁にお願いをし、県、市との調整もお願いしますけれども、その省庁の壁を超えた、あるいは複数省庁にまたがるそうしたさまざまな対策については、官房長官にご努力いただく方がよりスムーズだと、そう考えてこういう判断をしました。

 − 総理、今後国会では行政改革と同時に、消費税の見直し問題も焦点となってくると思うんですけれども、社民党やさきがけとの政策協議では、この問題はなかなかうまくいかなかった訳ですけれども、今後、特に益税の問題とか、食料品の問題とか、その辺り消費税の見直し問題に対する総理の考え方をちょっとお聞かせ願いたい。

○総理 私自身は、皆さんの中にも聞いていただいた方がたくさんあると思いますけれども、今度の選挙期間中も二%消費税率を上げさせていただきたいということを申し上げて選挙を闘ってきました。そしてそのうちの一%はまさに地方への財源であり、残る一%が先行して既に実施をしている所得税減税の穴を埋めたり、新たな介護の仕組みの国の負担部分を拠出したりということに使わせていただきたいということを申し上げてきました。

 そして、この消費税の問題に関連して、一つ出てくる問題は、所得の低い方々に対してどう対応するかということです。今回の税制改革の中で、高齢者介護の基盤となる新しいゴールドプランのための財源などは確保しておりますから、当然これの完全実施に努める訳ですし、生活保護世帯、あるいは老齢福祉年金、児童扶養手当などの受給者の方々に、九年度に一万円の臨時福祉給付金を支給すること。あるいは低所得の在宅、寝たきりのお年寄りなどに対しては、九年度に三万円の臨時介護福祉金を支給すること。年金で生活しておられる方々には、十年度以降年金の物価スライドを行う。こうしたことを考えた訳ですし、選挙中にも申し上げてきた訳ですが、来年四月に消費税を引上げさせていただくときには、限界控除制度を廃止すると同時に、簡易課税の適用上限の引下げや、みなし仕入率の改正、中小特例措置の大幅縮減というものを実施することになっています。

 当然こうした努力をしていくということは一方で申し上げてきたことですから、我々としては、そうしたことを国会でお尋ねがあればお答えを申し上げていくということになろうかと思います。

 − まだ質問があるとは思いますが、予定時間をかなり過ぎましたので、ここで終了させていただきたいと思います。どうも総理、今日はありがとうございました。

○総理 ありがとうございました。