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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 伊勢神宮参拝に際しての村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1996年1月4日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,814−820頁.
[備考] 
[全文]

○総理 おめでとうございます。

 −− 三重県の県政記者クラブ幹事社です。

 地元の話題から先に入らせていただきます。実は三重県の南部に芦浜原発という原子力発電所の計画予定地がありまして、これが約三十年以上にわたって反対派と賛成派が非常に割れて、いまだに地域的な問題となって長く継続しておるんですけれども、村山さんが社会党出身の総理大臣となられて、社会党としても新規原発については反対するという姿勢を打ち出してみえると思うんです。それからあと、社会党の三重県本部の方でも一応芦浜原発については反対したいと、そういうような申し入れとかしておるんですけれども、今、社会党出身の総理大臣になられて、この問題は非常に長いこと続いておりまして、どうにか地元としては何らかの形で明確に決着したいと、してほしいと、国に対する非常に強い要望があるんですが、今、総理として、この地元の一原発の問題なんですけれども、これを現時点で推進すべきか、あるいはここに来て中止というか計画撤廃すべきかというところで一言明確なお返事をいただければと思うんですけれども。

○総理 これは我が国全体の今後を考えた場合に、国民生活の高度化に伴ってエネルギーが必要であるということについてはどなたも否定をし得ないと思うんです。

 したがって、何よりもその原子力発電の場合には安全性の確保と平和利用というものが大前提でなければならぬと。これから政府としても出来るだけ省エネに努力する。同時に、クリーンなエネルギーの開発に全力を挙げて取り組むと。こういうことも並行してやりながら、全体としてのエネルギーの需要というものに対してどう応えていくかということが私は課題になるというふうに思うんです。

 したがって、先ほども申し上げましたように、原子力発電の場合には何をおいても安全性の確保ということが大事であるし、それから平和利用というのが国の方針として決定している訳ですから、したがってその方向についてしっかりした前提を確認しながら、原子力発電の立地については可能な限り地元関係者の了解を得なければ出来ないことですから、その点は今後さまざまな意見があると思いますけれども、エネルギー全体の需要をどう目指していくかという観点から十分な検討と話し合いが必要であるし、何よりも皆様方の御理解と御協力がなければこれは出来ないことですから、今後の推移を十分見守っていきたいというふうに私は思います。

 −− もうちょっと詳しくというか生の言葉をいただきたいんですけれども。

○総理 国としてエネルギーの長期の需給見通しというものをちゃんと確立しておる訳です。そのエネルギーの需給見通しの中で、例えば、火力発電、水力発電、原子力発電、それからその他の発電といったようなものを総合的に展望しながら今後どのように進めていくかという方向は決まっておりますから、したがって、その決まった方向の中で原子力発電についても、今、申し上げましたように何よりも安全性の確保ということを大前提にして、国全体のエネルギー需要に対してどう応えていくかという観点から、関係者の議論も含め、地元の協力もいただきながら話は進められていかなければならぬというふうに思っております。

−− 地元の反対が非常に強力であれば、その意向に沿った形で進むのも、それはそれで了解すべきものだと、そういうふうにもお考えですか。

○総理 これはどんな無理をしても地元関係者の理解と協力がなければ出来ないことなんです。ですから、今お話もございましたように、三十年間も掛かっておるというお話がございましたけれども、やはり三十年間さまざまなそれぞれの意見があって、なかなか合意が得られないというところにまだ実現しない問題点がある訳ですから、私は、これはもう何をおいても地元の理解と協力というものが大前提だというふうに思います。

 −− 第二点目なんですけれども、長良川河口堰という、長良川の河口の方に大きな堰がつくられまして、環境面からいろいろな反対運動とか運動も起こっているんですけれども、現在一応本格稼動して一年弱経っているんですけれども、環境面を配慮して、現在の稼動の在り方を見直すような、河口堰についてそのようなお考えはありますでしょうか。

○総理 河口堰の運用によって潮どめが出来たということによって、今マウンドと言われる川底を掘って、そして深くしていくという作業をしておることについて、地元の関係者の皆様方の賛同もいただいておるというふうに思いますし、ある意味では利水と洪水の防止ということのために大変役に立つというふうに歓迎もされておるというふうに聞いています。

 それから環境面につきましては、これはこの連用によってどのような環境に影響があるのかということをしっかり見定めていく必要があるというので、この専門家の皆さんを動員して、そして環境調査をこれからも進めていくと。この環境調査については飽くまでも公開をしながら関係の皆さん方の御理解と御協力をいただけるようにすると。環境の保全については万全を期して努めていくということになっておると思います。

 −− 三点目は首都機能の移転問題です。実は東海地方とか、あと三重県の方も、知事が積極的に東海地方として一体となって首都機能誘致に向けて動きたいというふうなこともおっしゃっているんですけれども、総理として東海地方、あるいは三重県の首都機能の移転先としてどのようなお考えを持っているかということを伺いたいんですけれども。

○総理 これは皆さん御案内のように「国会等移転調査会」というのがありまして、その調査会から十二月十三日の日に御報告をいただきました。その報告の中にこの首都機能を移転する基準というものが一応設けられている訳です。その基準に基づいて専門的な、中立的な機関を設置して、そこで移転先を決めるという方向も報告書の中に書かれている訳です。

 政府としては、その報告書を尊重しながら、出来るだけ国民的な合意を得る努力をして、早い時期に出来るだけ決められるようにしていきたいというふうに思っておりますけれども、私がどこの地点にどうするとか、具体的なことについて御回答出来る段階ではないということについては御理解をいただきたいと思います。

 −− 今日は伊勢神宮の方にお見えになって、もう揮毫は終えられましたでしょうか。どのような形でお書きになったか。

○総理 これは、年月日と、それから内閣総理大臣村山富市というふうに書きました。

 −− 内閣記者会幹事をやっております読売新聞です。新党結成について相当時間が掛かるというような見方を示されておりますが、それについて今の段階で具体的にいつごろまでを目標に幅広い勢力を結集したいと考えていらっしゃるのか。また、それに先立って、明日社会党の委員長公選の立候補の受付が行われるんですが、それに立候補される意思があるのかないのか。その辺をお伺いしたいんですが。

○総理 私は、昨年大阪でのAPECがある前に党の皆さんに、APECが終わったら新しい党をどうつくるかということについて精力的に可能な限り取り組んでいきたいということをお約束をした訳です。APEC終了後、そういう志を持っておると思われる方々に可能な限りお会いをして、そして意見も聞きながら、何とか年内にそういう話し合いが出来るような場をつくりたいと思って努力をしてまいりましたけれども、なかなか思感どおりにいかずに年を越した訳でありますけれども、そういう考え方について、またそういう方向については変更はございません。これからも、言うならば第三極を構成しながら、形成しながら、政権を担い得るようなもう一つの党を是非つくりたいと、こういう方向でこれからも最大限の努力をしていきたいというふうに思っております。明日、委員長の立候補については締切ですけれども、まだ時間がありますから今、熟慮中であります。

 −− 続きまして、一部に四月に橋本自民党総裁に政権を禅譲して解散という報道もあるんですが、それについて総理の見解と、それとまた絡んで年内に衆議院解散というのはあるのかどうか、総理の見解をお願いしたいんですけれども。

○総理 私は、年頭の所信表明でも申し上げましたけれども、今、何よりも国民の皆さんが期待しておるのは、やや景気に明るさが見えてきた。これは個人消費につきましても、民間の設備投資にしても、これまでの政府の経済的な景気対策に呼応して、幾らか明るさが見えてくるというような足取りがうかがえる。

 この景気の足取りを更に確実なものにしていくというためには、不良資産の処理の問題とか、あるいは規制緩和の問題とか、あるいは科学技術立国としての新しい分野の開発とか、それから高齢化が目の前に来ている訳ですから、高齢化に対する対応とか、いろんな国内的な課題を抱えている訳です。

 同時に、沖縄の基地問題等を中心とした日米関係の在り方についても、これから四月にはクリントン大統領もお見えになって話し合いが持たれるということもございますし、更にまた国際的にも日本の国がAPECの会合でも提案をいたしましたけれども、国際的な人口、食糧、エネルギー、環境問題といったような我が国が国際的に貢献し得る分野というものをしっかり見据えて、そして二十一世紀の展望を開くというのが、今年に与えられた課題ではないかというふうに考えておりますが、こういう課題を抱えておるときに、私はいささかもひるむことなく、全力を挙げて国民の御期待にお応えすることが当面課せられた最大の役割だというふうに思っておりますから、したがって、解散ということは今のところ考えておりませんし、与えられた課題について全力を挙げて取り組むということ以外に申し上げることはないというふうに思います。

 −− 続きまして、住専処理問題ですが、行政の責任問題の追及、それから二次損失分の対応などの問題について、どのように取り組まれるおつもりなのか、その辺をお願いしたいんですが。

○総理 住専問題で私どもがやっぱり一番重点を置きましたのは、何よりも今申し上げましたような日本の景気の足取りを確実にするためには、この不良資産の処理というのは先送り出来る問題ではないという判断が一つ。それから、国際的に日本の金融の在り方というものが問われておる。

 更にまた、個人の預金を保護する必要がある。こういった問題も含めて、不良資産の処理というものについては、何とか解決する必要があるというので、昨年の春ごろから検討し、取り組んできた課題なんです。

 これは皆さん御案内のように、三つの方法があった訳です。

 一つは、関係者が大変多い訳ですから、その関係する皆さんで十分話し合いをして、そして何とか解決の目途がつけられるなら、それも一つの方法だと。

 二つ目には、これは貸し借りの問題ですから、法的に処理をすると。こういう手続の方法もあったと思いますけれども、しかし、今申し上げましたようなことにいたしますと、話もつかないし、訴訟事件に発展をいたしますと、いつ解決するか分からないというので、その間にだんだん傷口が大きくなって、結果的には国民の負担もまた増えてくるし、日本経済のためにもならない。こういう判断からいたしますと、私は今回の政府が取った選択というのは、今、考えられる範囲のやっぱり最善の策ではなかったかというふうに思っている訳です。

 ただ、国民の皆さんの立場からすれば、あのバブル経済のときに起こした問題について、何で国民がしりぬぐいをしなければいかぬのかと。こういう利子の安いときに、利子を当てにして生活を計画をしておるお年寄りからすれば踏んだりけったりではないか。こういう御批判も私は厳しくあろうかと思うんです。

 しかし、冒頭に申し上げましたように、日本経済全体の動向やら、あるいは日本の金融の信頼やら、また預金者の保護やら等々を考えた場合に、こういう処理しか方法はなかったということについては、いずれ全貌が解明をされて、その責任の所在も明らかにされていくということになる過程の中で、国民の皆さんにも、ああ、そうだったのかと言って御理解がいただけるときが必ず来るというふうに思っていますし、また、御理解が得られるように政府も最大限の努力をしなければならぬというふうに思っております。

 −− 今日で村山政権誕生から五百五十四日になりまして、歴代十四位、大平内閣と並んだんですが、これについて、当初意外と言えば意外という声もあったんですけれども、ここまで長く続いてきた御感想をお聞きしたいと思うんですが。

○総理 これは昨年一年間を振り返ってみますと、一月の十七日の日に阪神・淡路の大震災があり、三月には地下鉄のサリン事件があり、次から次へ事件やら事故が発生して、考えるいとまもないくらいに追いまくられた一年だったというふうに思います。

 それから、またこれから日本の国が国際的にどのような役割を果たすべきなのかといったような問題も考えさせられる課題の多い一年だったというので、私が総理に就任して何日経ったのか、あるいは歴代総理の中で在職日数がどうなっているのかというようなことを考えたこともありませんし、当面、与えられた課題について、国民の皆さんの御期待にお応え出来るように精一杯、内閣が一体となって取り組んでいくということ以外には考えたことは余りございません。