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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 連休の警戒体制に関しての村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年4月28日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,280−284頁.
[備考] 
[全文]

○総理 いよいよ明日より大型連休が始まる訳であります。これは一年に一度の大型連休で、働く皆さんも家族づれでそれぞれ計画を組まれたり、予定をされておったり、楽しみにしておられると思うんです。しかし、最近、大勢人が集まる場所やら、あるいはまた公共の交通機関における事件が相次いで発生しており、国民の皆様も何が起こるか分からないという不安な気持ちで心配されている面もあるのではないかというふうに思われますし、社会秩序に対する不安感というものが大きく広がってきておるというふうに思われる訳です。今、警察を中心に、こうした一連の事件の全容を解明をして、一日も早く犯人を検挙して、そして、再発を防止するという意味で、不眠不休で全力を挙げて取り組んでおります。私は警察を中心とした取組みが必ず事件を解決をするというふうに確信し、信頼しておりますが、国民の皆さんもなにとぞ政府を信頼していただきたいというふうに思います。

 この連休中には、全国の警察を挙げて通常の勤務体制に加えて六万人の警察官を動員をして、行楽地における警戒を実施するとともに、公共の交通機関等や、人の集まる場所等には更に警戒を強化して万全の体制を取っております。

 加えて政府としては、国会の協力もいただきまして、サリン等を取り締まるための特別の立法もいたしましたし、そういう法律の施行もされる訳であります。そうした制度の充実と同時に、先ほど来申し上げておりますような警戒体制と一日も早い犯人の検挙、そして絶対に再発を防ぐということに万全の取り組みをしていきたいと考えておりますし、その努力を今している過程にありますから、国民の皆さんも、そうした政府、警察の取り組み等に対して一層の御理解と御協力をこの機会にお願い申し上げたいというふうに思っております。

 以上です。

 −− 内閣記者会を代表して二点質問させていただきます。

 サリン事件なんですが、捜査の進展状況が今ひとつ明らかになっていないということで、総理としては、いつぐらいが山場というか目途にお考えになっておられるのか、捜査の状況について把握している状況を説明願いたいと。

○総理 これはいつごろが山場になるか、目途になるかということについては、捜査の段階にありますから、必ずしも断言出来ませんけれども、最終的な局面に入れる段階にまで来ているのではないかと思います。一日も早く犯人を検挙して、事の真相を明らかにするということが大事ですから、その方向に向けて全力を挙げて取り組んでいるところであります。

 −− 国民の不安心理の中には、オウム真理教とサリン事件の関係がいまひとつまだはっきりされていないと、捜査の中ではっきりされていないということはあると思うんですが、総理大臣はその辺についてはどのように掌握されておられるんでしょうか。

○総理 警察におきましては、公証役場の事務長の逮捕・監禁事件について、山梨県に所在するオウム真理教関連施設に対して捜索を行いました。ところが、その施設の中からサリンを製造するために必要とされておる薬品類が多量に発見、押収されたことなどを総合的に判断をして、オウム真理教関連施設に対して、殺人予備の容疑を立証するため、今、捜索と検証を実施中であります。松本市、及び地下鉄における事件では、サリンが犯行に用いられておりますが、サリンは通常自然界には存在しないものであることは、もう皆さん御案内のとおりであります。両事件との関連性を考慮しながら、慎重に今捜査を実施し、真相の解明を図っておるという段階にあることを申し上げておきたいと思います。

 −− 他社の質問どうぞ。

 −− オウム真理教の捜査に関しては、別件逮捕じゃないかという声もある一方で、やはり別の法律、破壊活動防止法や内乱罪を適用すべきだと。そちらの方が法の理論にかなうんじゃないかという議論がありますが、総理はどういうふうにお考えでしょうか。

○総理 オウム真理教関係者が逮捕・監禁事件やら、あるいは武器の製造等に組織的に関与していた疑いがあるというところは、警察ではその全容を解明するために今、捜査を幅広く進めておるところであります。捜査や職務質問等の過程で、法令に違反する行為を発見したときには、法に基づいて個別に対処しているところでございまして、私は法に照らして厳正に対応しておるというふうに確信をいたしております。今お話がありましたような法の適用をしなくても、問題の解決は出来るんじゃないかというふうに考えており、今のところそうした法の適用は考えておりません。

 −− この問題に関連して宗教法人の解散請求の問題と、それから宗教法人の認可の指針として、一地方自治体が認可をして、それがいろんな県に広がっていくと。場合によっては海外にまでそういう支部が出来ると、こういう仕組みにも問題はないんだろうかという声も出ているんですが、この辺はどういうふうにお考えでしょうか。

○総理 信教の自由というのは、憲法で保障されておりますから、尊重して大事にしなければならぬというふうに思います。今、お話がございましたように、これは機関委任事務で宗教団体の本部のあるところが所在する都道府県が宗教法人として許認可権を持っている訳です。ところが、宗教活動というのは、その都道府県だけに限定されるのではなくて、これは今度のオウムの場合もそうですけれども、全国的に運動がされていますし、同時に外国までその宗教活動が展開されていく。こういうことから考えてまいりますと、そうした機関委任事務の在り方でいいのかどうかという問題についても、検討していただく必要があるのではないかというふうに思っておりますし、同時に宗教活動が法に照らして正しく行われていくということが大事なんであって、そういう意味で何らかの検討をする必要があるかどうかという問題についても審議会等を通じて十分検討されていくのではないかと思っております。

 −− オウム真理教自体が拉致事件とか、かなり組織的だと思われるような容疑が出てきている訳ですね。今まで宗教法人の解散というのは余りない訳ですけれども、このこと自体にはどういうふうな対応をされるんでしょうか。

○総理 おそらく起訴されるという一つの段階が明確になれば、そういうことも検討されていくのではないかと思っております。今、東京都と文部省と連携を取りながら注目しているという段階ではないかと思います。

 −− 総理、オウム真理教の捜査に関連して、現職の自衛官が情報を漏洩していたと、こういうことが確認されているようですけれども、これに対して国民の信頼も含めて、あともろもろの責任問題についてはどういうふうにされますか。

○総理 やはり規律が一番厳正でなければならぬ自衛官が、規律違反行為を行ったことは誠に残念であり、遺憾だと思います。これを一つの例として、今後一層規律の厳正な扱いについて対応していく必要がある。また、しなければならぬと思っております。

 −− 阪神大震災の発生のときに、官邸の危機管理ということが非常に強く指摘された訳ですね。官邸の危機管理、そういう意識の欠如というか、体制の遅れなどが指摘されましたけれども、このところ地下鉄サリンだけじゃなくて、社会的ないろんな凶悪事件、こうした部分は言わば社会的、国家的危機とまで言われかねないんですが、そういうことに対する、もう一度危機管理について総理のお考えを聞かせください。

○総理 阪神・淡路地区の大地震の経験、それから今回の地下鉄サリン事件の経験、等々に照らして、これは今の官邸を中心とした危機管理の体制をどう作っていくかということについては、閣議でも決めておりますし、情報の収集を正確に迅速に機敏に行う。同時に、それぞれ必要な関係機関に対して指示が明確に伝達されるという体制をしっかり作るということを前提にして、今確立をいたしております。

 −− 地下鉄サリン事件を契機に、カントリー・リスクと言うか、日本が安全な国であるという神話がかなり崩れてきているんじゃないかということも言われている訳なんですけれども、総理としては海外に向けて、日本の安全をどういうふうにアピールされるのか。その辺の考えはどうなんでしょうか。

○総理 私は、本当に日本国くらい安全な、秩序の維持されている国はないということを誇りに思っておりましたけれども、今回のサリン事件やら、あるいは警察庁長官の狙撃事件やら等々、極めて残念に思います。いろんな国際協議の場でこういう問題をお互いに出し合って、これは日本だけに限られた問題じゃありませんから、アメリカでも爆破事件があったりしている状況ですから、そうしたテロ的な行為やら、今回起こったような事件等に対して、お互いに緊密な連携を取り合い、情報も交換し合って、全体としてこうした事件が再発することのないように、積極的にそういう役割を果たしていきたいと思っています。

 どうもありがとうございました。