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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 阪神・淡路大震災犠牲者神戸市合同慰霊祭における村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年3月5日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,260−265頁.
[備考] 
[全文]

○総理 今日は阪神・淡路大震災の犠牲者の、神戸市が主催する慰霊祭がございました。慰霊祭に出席をして、慎んで哀悼の言葉を申し上げさせていただきました。

 折角、現地にまいりましたので、今日は武村大蔵大臣と園田官房副長官ともども、今なお避難所で不自由な生活をされておる皆様方にお会いをしまして、お見舞を申し上げるとともに、それぞれの方々の当面する必要な要望事項等について話を承りました。

 何ぶん寒い時期でもありますから、もっと電気器具が欲しいとか、あるいは食事についても、温かい食事がもう少しいただきたいとか、そういうお話もございましたけれども、やはり一番強い声は一日も早く仮設の住宅に入りたいと、こういう希望が強いように感じました。仮設住宅につきましては、三月いっぱいに三万戸を造ると。そして、四月までには四万戸ぐらいを目標に、今、総動員でやっておりますから、もうしばらく辛抱して、頑張っていただきたいというようなことを申し上げました。

 仮設住宅に入っておる方々にもお会いをした訳でありますけれども、一番最初に出た言葉が、まだ、避難所で避難生活をされておる方々が気の毒ですという言葉がございました。それだけに仮設住宅に入られておる方々は、本当によかったと言って喜んでおられる言葉も聞きましたが、やはり、一番、住宅問題が当面する課題だなという印象を強く受けました。

 それから、区画整理やら、都市再開発の計画をしておる地区にも行ってまいりましたが、これは何と言っても、その他域に住んでおられる方の地権者の方のご協力がないとなかなかできない仕事ですから、なかなか大変だなという印象を受けましたけれども、そういう計画が地元の皆さんの御協力もいただいて、スムーズに実行されていくことが活気を取り戻す一つの大きなシンボルになるというふうに思います。是非成功させるために国も挙げて協力をしなければならぬという気持ちを抱きました。

 そうした状況を見るにつけ、現地で何かと苦労されております県や市の職員の皆さんや、あるいは、消防署、警察署、自衛隊等の方々が、自ら被災者であるにもかかわらず、そういうことを顧みずに、不眠不休で献身的な努力をされておる姿も見ましたし、同時に、そういう話も聞いてまいりました。本当に頭の下がる思いで、心から感謝も申し上げてまいりました。

 また、北海道から来られておる医療関係のお医者さんや看護婦さんにもお会いをしましたけれども、本当に行き届いた医療を施しておられる。同時に、ボランティアの方々も、一生懸命苦労されて努力をし、協力をいただいておる。そういう姿も見てまいりましたけれども、本当にそういう方々のご努力に対して、心から感謝を申し上げてまいりました。

 そうした全体の、この震災によって受けた大きな打撃から立ち上がろうとしておる皆さんの姿を見てまいりましたけれども、何と言っても、あれだけ多くの方々の尊い命を亡くした訳であります。その霊に報いるためにも、そして、今なお避難生活をされておる皆さんや、その救援・復旧・復興に携っておる皆さんのお気持ちにお応えするためにも、何としても政府も可能な限りの御協力をしながら、地元と一体となって復旧・復興に努力をしていく。そのことが、そういう方々の霊に報い、ご苦労に報いることになるという決意を新たにさせられてまいりました。

−− 先程、神戸市の慰霊祭の方に出席されたということでありますが、出席を終えられての率直なご感想をお聞きしたいのですが。

○総理 先程も申し上げましたように、慰霊祭に出席をいたしまして、改めて悲しみの思いを深くしたところでございます。それだけに復旧・復興に向けて、全力を挙げて、その霊に報いなければならぬと、こういう責任の重さを痛感をし、決意を新たにさせられたところであります。

−− 首相の諮問機関の「阪神・淡路復興委員会」が先に住宅建設の復興のための十か年計画の策定、瓦礫の活用などをポイントとした緊急提言中、五項目を出されましたけれども、政府としてどのように取り組んでいかれるのか。

○総理 今、お話のございました復興委員会には地元の知事さんや、神戸の市長さんも委員にお入りをいただきまして、専門的な立場から、これから兵庫県、神戸市をどう復興していくかということについて、いろいろご議論をいただいて、提言をいただくことにしておる訳です。

 その話の中で、復興十か年計画というものが策定されていくと思いますけれども、これからいろいろご審議をされると思いますから、そういう提言については、十分尊重しながら、政府として可能な限りの協力をしていかなければならぬというふうに思っております。

 これから兵庫県と神戸市がそれぞれ都市計画づくりをやっていくと思いますし、素晴らしいプランも持っている訳ですけれども、そのプランに、この受けた災害の教訓を取り入れて、そして災害に強い町づくりをこれからされるということになると思いますから、その復興委員会の提言というものを十分受け止めて、そして政府と県・市・自治体と一体となって取り組めるような体制を作っていきたいと思います。

 私が本部長になった閣僚全員を委員とした復興本部も作って、復興委員会と復興本部が十分連携を取り合った形の中で計画的に仕事を進めていきたいと思っております。

−− 兵庫県は復興プランとして住宅の再生であるとか、土地基盤の再生であるとか、兵庫建築計画という計画を既に策定作業に入っている訳なんですが、これをどうするのか。「規制緩和パイロット自治体」の創設など規制緩和を主眼とした震災復興特別措置法の制定を要望しており、六月までに制定をして欲しいということを公表し、これの主眼は規制緩和であり、いわゆる一連の規制緩和策を含む特別立法の制定を要望していますが、それについてはどうでしようか。

○総理 要件が復興促進のための特別の税財政措置、あるいは、今、お話もありました規制緩和と市場開放、あるいは、社会資本の重点投資や新しい市街地整備手法等の新制度の創設、このような特別設置法の制定を要望されておることはよく承知をしております。いずれも切実なご要望と受け止めておりますが、その詳細な内容につきましては、これから国としても十分伺った上で、どのような法的支援が必要か、また、可能かというようなことについて誠意を持って検討させていただきたいと思っております。

 ご指摘のように、規制緩和を具体的にどう生かして組み合わせていくかということは大変重要な点だと思いますが、他方、特別な規制が必要となってくる面もあるでしょうし、一つの大きな意義を持った兵庫県の提案だと受け止めております。内容を詳細に検討させていただいて、そして、国としてやらなければならぬことについては全面的に協力をしていこうという立場から、更に話を詰めていきたいと思っております。

−− 政府は、大規模災害の危機管理の抜本見直しを行うということで、先日、「防災臨調」というような民間の機関を近く設置するという方針を打ち出されましたけれども、具体的な設置時期はいつごろになりましょうか。また、臨調の中でどういった内容について論議されるのかという辺りについて、お教えいただければと思います。

○総理 今度の大震災の教訓に学んで、危機管理の在り方、初動における対応がいろいろ指摘をされておる訳です。現行制度の中で、仮に、明日何か起こったときにどのような対応ができるかということについて、官邸を中心にして、可能な限り正確な情報が速やかに収集でき、そして、的確な対応ができるような措置をするという意味で、緊急時に必要な当面の対策については、先般、閣議で決定をして、直ちに段取りを取れるようにしております。

 同時に、これまでも防災計画というのは持っておりますけれども、今回の兵庫・淡路大地震の経過から見て不十分な点も沢山あると思われますから、中長期的に、日本における火山やら、あるいは、地震といったものに対する防災対策をどのように見直しをしていくかということから考えてまいりますと、地震の予知の問題とか、あるいは、今回の経験に照らして、例えば、地域的な協力関係と、言うならば、県・市、あるいは、もっと広い範囲のブロックの体制、それから、警察、消防、自衛隊、あるいは企業といったような方々の情報の提携と協力関係というものがどういう形でできるかといったような問題、あるいは、公園緑地やら水といった問題をどう適切に確保できる町づくりをするかとか、いろいろな中身のものがあると思います。そうした全体の防災の在り方というものをどのように計画的に推し進めていくことがいいのかというようなことも含めて、専門家、経験者、あるいは、多くの国民の皆さんの知恵もお借りをして、防災に徹底をして、少なくとも国民の生命と身体と財産が保全もできて、安心して暮らせるような国土づくりをどうしていくかというような視点から、防災臨調といったようなものを年度内に何とか作れないものかといって、今、相談をし、検討しているところでございます。

−− 総理は、コペンハーゲンでの社会開発サミットで、防災についてのフォーラムを日本でも開催を検討したいとおっしゃっていられますが、そのフォーラムについての具体的な内容をどのようにお考えか。被災地での開催を検討するお考えがおありでしょうか。

○総理 三月十一日にコペンハーゲンで開かれる国連の社会開発サミットで、私は講演をする予定をいたしておりますけれども、今回のこの大地震に対して、世界の国々や機関からお見舞いをいただき、同時に、いろいろな意味でご支援をいただきました。あるいは、また、ボランティアの方々も参加をしていただいて、救援活動にご協力をいただきました。そのお礼も申し上げたいというふうに思っております。同時に、この経験を踏まえ、そして、どこかで何かの災害があったときに、お互いに協力をし合えるようなそういう仕組みというものを考えていく必要があるんではないか。私は、そういう気持ちを込めた意見をこの挨拶の中で申し上げたいと思っております。

 このアジア地域だけでも、閣僚レベルぐらいの何らかの会合を持って、そうした相談ができるといいと思っておりますけれども、具体的にこれからどのような時期に、どのような範囲の、レベルの会合を開くかということについては、検討していきたいというふうに思っています。

○総理 どうもご苦労様です。