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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 兵庫県南部地震に際して神戸市での村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年1月19日
[出典] 村山演説集,230−234頁.
[備考] 
[全文]

−−まず、内閣記者会の幹事社として二点お聞きします。後、記者からお聞きします。第一点は、現場を見られましての率直のお気持ち。第二点は、今夜、総理を本部長といたします緊急対策本部の一回目の会合が開かれると聞いておりますが、どのような対策を実施されるお考えか。

○総理 昨日、臨時閣議を開きまして、現地に参りました国土庁長官、それから運輸大臣、建設大臣、自治大臣等々から、災害の状況も聞いておりました。実際に私が参りまして目の当たりに拝見いたしますと、本当に想像に絶するものがある。これはもう、誰も予想しえなかった、はるかに予想を超えた災害になっておるということを痛感いたしました。今日はそうした現状を正確にとらえて、亡くなられた方々に、心から哀悼の意を表すると同時に、被災された皆さんをお見舞いし、激励をし、政府としても万全の対策を採りますから、力を合わせて頑張ってくださいということを申し上げたいと、そういう気持ちで参りました。

 それから、昨日の臨時閣議において、当面何よりも大事なことは、行方不明の方の捜索と人命救助にまず全力を挙げると。それから、被災されて避難生活をされている皆さんに水やガスや、また、食料や毛布や寝具やら緊急に必要なものを十分充足をして、不安を解消し、落ちついて生活ができるような条件を可能な限り整備していく。これはあらゆる手を尽くして緊急に行わなければならないことだと思っていますから。それからやっぱり経済活動をするにしてもですね、道路の復旧とか、公的な施設の復旧は大事なことですから、そういう復旧も行っていく必要がある。更に今私は知事さんにも申し上げましたが、やっぱりこういう都市型の直下型地震というものは、始めての経験でもありますし、そういうものを想定して建築なりですね、構造物なんか作られてないという面もあったんではないかと思いますから、今の段階からやっぱり専門家を入れて十分調査をし、そういうものに耐えうるような町作りを考えていくというようなことも、これから真剣に取り組んでいかなければならない課題であると思っております。当面必要な具体的対応については各省でそれぞれやっていただく。同時に内閣全体が一体となって取り組まなければならない課題もあると思いますから、総理を本部長にした、緊急災害対策本部に格上げをして取り組んでいく。それからもう一つは、知事さんを中心にして、あるいはまた市長さんを中心にして、それぞれ地方自治体でも対策本部を作って全力を挙げて取り組んでいただいておりますけれども、国のこの出先についても一体となって、ある程度現地で判断をして、現地で決裁をして取り組めるようなことも必要ではないかと思いますから、そういう点も十分連携を取った上で結論を出していきたいと思っています。それから、当面は予備費で十分賄えると思いますけれど、これからまた更に被害が大きくなる可能性もありますし、復旧については、一層必要な面もある訳ですから、補正予算等についても検討する必要があると思いますし、同時に、先程知事さんからも強く要請がありましたけれども、当面今の法体系で賄い得ないものがあるんではないかと。従って、新しく立法が必要ではないかと要請もございますので、そういう点も十分検討してですね、抜かりのないよう対応していきたいというふうに思っています。

−−水とかガスとかのライフラインの復旧の目処などはいかがなものですか。○総理 これは後で市長さんからお話があるかと思いますけれども、取りあえず、これはもう一番先程に申し上げましたように緊急に必要なものですから。近郊の市町村からも随分応援に来ていただいておりますし、可能な限りの給水を出来るように対策を講じていただく。同時に、これは本来、蛇口をひねって水がでていただくのが一番いいわけですから、そういう意味における復旧作業も精力的に進めていただいております。段々そこらの点はですね、直っていくんではないかと、給水が行くようになっていくんではないかと思っています。市長さんそうですね。

〇神戸市長先ず、水の問題ですけれど、現在阪神水道から利水をしておりますけども、約三十万トン程入ってきております。今日から明日にかけてですね、できれば底水三層になっておりますから、一番低いところですね、底層の区域、これは芦屋さんも西宮さんも一緒でございますけれど、その部分に、配水池に水を溜めましてですね、各地域に下ろしていくという今段階です。その段階で管路の亀裂が入っているとか、そういう検査をいま掛かったところです。ですから検査がうまく行けば、どんどん皆に下りてきますから、末端のですね蛇口まで届きます。場所によっては、スムーズにすっとこういく場所も出てくると思います。その底層区域と、特に西区の方、これについては今日・明日中には蛇口から一部出てくるんではないかと、水が送れるんではないかと考えております。それが続きますと次に中層、あるいは高層までいきますが、順次阪水からの水を溜めるという段取りで今やっておりますので、いましばらくお待ちいただきたいなと、こう思っております。ガスは、それから後になるんだと思いますんで、大阪ガスとの協議の中で、出来るだけ早く復旧していただきたいと、こう思っておりますが、電気通信、その他いろいろ工事を行っておりますから、これが進みますとほとんど支障のあるものを撤去しながら、新しく架設するものは架設してもらうと、こういうことでお願いしてますんで、順次電気通信は回復するんではないかとこう思っております。以上です。

 −− 食料については如何ですか。

〇神戸市長 食料は、もう、国を始め各都道府県から、またボランティア的な給付、そういったものが一斉にそれぞれの地域に来ております。むしろ、これをどう皆さんの手に届けられるか、その届ける方法が問題です。出来るだけ早く、小回りのきく、道路事情が今悪いですから、小回りのきく方法を絶えず考えながら、早く配達をしたいなとこう思っております。

○兵庫県知事 神戸市以外の前半のことを申し上げますとですね、先ず、一番深刻な水でありますけれど、緊急の飲料用水につきましては、一帯世帯、人数大体二百万人余だと想定いたしまして、この水を全部確保することはできております。しかし、生活用水につきましてはまだ十分行っておりませんで、今市長から話がありましたように、水道供給ということにならざるを得ません。それまでの間は、下水につきましては、簡易トイレ等の手配を今しておりまして、大半が目処がつきつつあります。それから水道につきましては、神戸市以外で一番大きいのは、西宮市、芦屋市でありますが、ここは残念ながら技術屋さんが不足で、今までの情報では復旧の目処立たずということを皆様方には申し上げてきておりましたけれど、県、あるいは他の都市からの技術屋さんの増、派遣をいたしまして、当初考えていたよりは復旧の目処が早く立つのではないかと、このように想定をいたしております。

 それから、食料につきましては、神戸市以外の部分も含めまして、神戸市も含めましてですが、一部営業活動も始まっておりますけれども、食料として百五十万食、一食あたり確保する必要があろうと、従来これにつきましては、一週間、ここ一週間の対策をとって来ましたけども、搬送手段のインフラの被害の状況からしますと、当面二月一杯までの対策をする必要があろうと思って、食糧庁あるいは流通業者、関係の供給業者との話を進めておりまして、これもほぼ目処が立っております。

 −− 今後、こうした災害復旧に対する財源の確保については、何かお考えはございますでしょうか。

○総理 先程も申し上げましたように当面は、この予備費で充当してまいりますけれども、相当長期にわたって莫大な資金がいるというふうにも思われます。そういう状況とも照らし合わせて、補正予算を編成する必要があるということであるかどうかそこらも検討する課題としてやって行きたいと思っております。

 −− 新しい立法が必要ではないかということですが、どういうふうな考え方ですか。

〇総理 これは、復旧に入れば先程申し上げましたように、兵庫県、神戸市を中心にしてですね、新しい町作りが始まっていくわけですけれども、こういう経験を踏まえた上で、今の立法だけで十分対応しきれるかどうかというような問題もまた起こってくる可能性もある。もしそういう場合には新しい立法というものを検討する必要があるんではないか、というような意味で申し上げているんです。当面、具体的に、その何が欠けているとかですねいうようなことではないと思います。今の法体系のなかでやれることは全てやり尽くすと、なおかつ必要なのかどうかということはこれから検討されなければならない課題だと思いますね。