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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 羽田内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1994年4月28日
[出典] 羽田内閣総理大臣演説集,18−46頁.
[備考] 
[全文]

 それでは、会見を申し上げたいと思います。

 まず、冒頭にちょうど細川総理が四月八日の日に退任され、そしてその後あったことについてはもう申し上げません。

 また、二十五日の日に両院で首班に指名をされました。私どもは、この過去八か月間を振り返りながら、連立政権というものが一つの大きな新しい日本の政治を開いてきたと考え、またそのことを誇りに思ってまいりました。そういうことで、社会党の皆様方にも是非ともこの連立政権の中で御協力をいただきたい、これを維持していきたいということで呼び掛けをしておりました。今日の朝、村山委員長、そして久保書記長とお話した結果、残念ながら今度は御一緒に内閣を組織することが出来なかったということであります。そういったことのために大変皆様方に遅くなりましたことを、私は国民の皆様にもおわびを申し上げたいと思っております。

 いずれにしましても、私も計らずもこの難しい時代に重責を担うことになり、しかも少数与党による政権ということでありまして、大変厳しいものがあろうと思っておりますけれども、誠心誠意閣僚の皆様と力を合わせて、この日本の国がきちんとこれからも進んでいくように、全力を尽くしてまいりたいと考えております。その意味で、これから皆様方にもいろいろな面で御指導いただいたりご理解をいただきたいと心からお願いを申し上げたいと思います。

 一応、冒頭、私から申し上げることはこれだけであります。

○記者 総理、就任おめでとうございます。

 まず、基本的な問題について幹事社の方から質問して、あとは自由に質問ということで運ばさせていただきたいと思います。

 まず第一点、今、総理の方からもおっしゃられた残念だったということで、社会党が閣外に去り、政権を離脱されました。そのことによって、三十九年ぶりですか、少数与党政権ということになった訳です。今後非常に困難な問題、特に国会運営、そして法案の成立など非常に困難な問題があると思われます。また、こういう政権が不安定だということによって日本の政治そのもの、そして国民生活にも影響が出ると思いますが、その辺についての決意、そして抱負、戦略、まずその辺からお伺いしたいと思います。

○羽田総理 今、御指摘がありましたように、また私が先ほど申し上げましたように、今度は社会党がこの政権から離脱されたということで、少数与党の上に乗る政権であるということで、極めて困難な場面というのが多くあろうと思っております。

 しかし、予算につきましては今日、委員長、書記長とお会いいたしましたときにも、共にこれは編成したものであるということ、それから協力すべき点についてはやはり国家のためということで、自分たちとしても出来得る限りの協力をしていきたいというお話があったところであります。

 また、最大野党であります自由民主党、この皆さんは私どもと一緒に実は長い政権を担ってきた仲間たちでもあります。幾つかの問題では、ぶつかり合うということもありましょうけれども、しかし私は今度各党に、いわゆる社会党は離脱しましたけれども、合意した事項等につきまして、これを基本にしながら物事を進めていくときに、私は自由民主党の皆様方にも政策の面で協力していただくことが出来るであろうと考えておりますし、またそういったご協力というものを、いろいろな機会をとらまえながら訴え、またご協力をお願いしていきたいということであります。

○記者 今のお話がございましたけれども、野党の自民党、そして社会党、これは野党であるかどうかは若干議論がありますが、協力して今の政権に対しては対峙していくという方針を打ち出されているように聞いております。

 そういうことになりますと、やはり予算、今、総理がおっしゃられたように予算の成立ということまでは見えても、それ以降について見えない。そして、与野党の間で予算管理内閣ではないのか。その後、解散総選挙にいくということになる訳ですが、そういう話の中で総理は政治改革の鬼として小選挙区比例代表並立制の導入にずっと腐心されてこられた。その区切り法案が吹っ飛ばされて解散になると、そういうような事態を想定されているか、またそういうことについてはどのように臨んでいかれるのかをお聞きしたいと思います。

○羽田総理 この点につきましては、今日のお話し合いの中でも、改革という問題について自分たちは決して一歩も下がるものではないというお話であった訳でございまして、私はこの点については必ず、まさに七十年ぶりに大きな改革があった訳でありまして、この点については国民世論、国民の皆さんも支持してくださっておるということ、それから社会党の皆さんも本当につらい、苦しい、いろいろな厳しさというものを乗り越えながらこれに対してご協力をいただいたという経緯があります。

 私はその意味で、これをもしまた元へ戻してしまうということになってしまったならば、日本の政治そのものが非常におかしなことになってしまう。本物の政治が出来ていかないということになろうと思っております。

 本来、国会というのはいろいろな立場のものがありますけれども、国家国民、そしてこの国というのはやはりいきいきと進んでいく、そういったことのために政策論争等を行うということであります。そして、自由民主党の多くの皆さんも改革は進めなければいけないということを多く理解をしてくださっている皆さんがありますし、この関連法案につきましては自民党の中でもほとんどの方がこれに対して賛成しながらこの法案が可決されたという経緯からいきましても、私はこの法案の成立に関しては各党ともご協力がいただけるものであるというふうに確信をいたしております。

 そして、今の状況というのは解散というような状況にはないと思っております。

○記者 政策課題の中で税制改正というのは六月中に結論を出すということで最大の課題になると思われるんですが、社会党が離脱したことによってこの税制改正を実現するという与党の基盤ですね。それが非常に弱まった。具体的に消費税、間接税を中心とした見直しというのをどういう形で進められていくか。

 更に、国会で税制改正法案が成立しなかったという場合ですね。その際の政治責任、更に今年度行っている減税、これは来年度以降どうなるのか。そこら辺についてお話を聞かせていただけますか。

○羽田総理 まず今お話があった中の最後の部分から申し上げますけれども、これは細川内閣のときにああいう連立の中でのいろいろな議論の中から、一応単年度ということになっておりますけれども、国民の皆さんも、そして連立に参加しておった皆様方も、これをやはり何としても恒久税制に持っていきたいというお気持ちというのは私は変わらずお持ちであろうと思っております。そして、そういったものが実現するためには、これは間違いなく歳入欠陥というものが生まれてくるということであります。

 今、不況のために全体的に歳入欠陥があるというところへ持ってきて、所得税というものがこのまま続くとすれば更に大きなものになってくる。これに対して、赤字国債というもので対応するということはできません。いずれにしましても、平成六年度の予算、この末にはほぼ二百兆円を超える累積赤字というものになるということでありまして、赤字国債がそれだけたまるということでありますし、そして特に高齢化社会というものがやってきます。

 そういったものに対応していくということを考えたときにも、だれも税金などというものは、増税などというものを望む人はないはずであります。しかし、責任ある政治をやっていかなければならないと考えたときに、この問題について私どもはやはり当初お互いに話し合ったときのように、六月の末に向かって議論をし、そして何とか年内にこれを成立させるために、最善の努力をしていくということが必要であろうと思っております。

 そのときに責任がどうだこうだということ、これが通る通らないということを前提にしながら、今、私はものを言うことは差し控えたいと思いますけれども、しかし本当にこの国を将来に向けて安定して対応していくということを考えたときに、どうしても負担というものについてまで議論をしていかなければ、結局それは、また先送りにしてしまうということになろうと思っておりますので、私は総理大臣談話の中でも申し上げておりますけれども、いろいろな難しさについて率直に国民に訴えながら、もう逃げるということじゃなくて率直に訴えながら理解を求めていく。そして、そういう中で国民生活も上がっていくんだという方向を示していくことが必要であろうと考えております。

○記者 その関連とちょっと違うんですが、今、北朝鮮の情勢が緊迫しているとか、そういう状況の中で、細川総理は防衛問題懇談会で日本の防衛の在り方について考えて、それを七年度の予算に反映していくということを進められていた訳ですね。その路線については、総理もそのまま継続してやっていかれるというお考えですか。

○羽田総理 この問題につきましては、例のポスト冷戦といったこと、こういった中における安全保障というものを一体どうするのかということで、今のお話の懇談会というのが民間の皆様方によって進められておるということであります。そういう中で幅広く全体を議論をしていただくということでありまして、今、私はそれをただ結論を先に置いてどうこうするというのは、これはやはり考えなければいけないだろうと思っておりまして、いずれにいたしましてもこの議論を私どもは十分していただいて、それを大切にしながらそれぞれの予算措置に対応していきたいと考えております。

○記者 日米関係なんですが、日米経済関係で今、包括協議が暗礁に乗り上げているんですけれども、この再開の見通しについてどう認識されているか。自ら訪米されるなり、外相を派遣されるなりして、何か足掛かりをつくる考えはおありかどうかについていかがですか。

○羽田総理 足掛かりというのは、この間のマラケッシュで私がカンターさんとお話を申し上げましたけれども、ともかくお互いに常に門戸は広げておく。ということでありまして、そしてお互いの問題点というのはそれぞれが理解したというお互いの合意といいますか、そういったものがある訳でございます。ですから、これから冷静にお互いに議論が出来る、こういったきっかけというものは私ども考えていきたいと思っております。

 いずれにしましても、包括協議というものが始まった一番の大きな原因というのは、日本が大きな経常収支黒字、これを持っておるということが一番の基であります。これは単に日米関係というだけではなくて、例えばEUなどに対してもやはりそういう大きな黒字を持っておるということであります。ですから、私は包括協議が二月十一日に、不調に終わったときにも関係各省の諸君に対しまして、ともかくこれは話がついたから日米でどうこうするということだけではなくて、不調には終わったけれども日本の市場を開放していくということは、細川内閣が発足して以来このことを申し上げ、そしてそういう中に日本の活力というものを新たに生み出していこう。また、その結果が国民生活を更に上げていくものにしていこうということであるから、これは主体性を持ってやろうということで、三月二十九日でございましたか、経済改革対策の大綱というものをお示しした訳であります。

 また、六月中に規制緩和ですとか、撤廃ですとか、そういったものを含めたり、あるいは行政改革の委員会というものを民間の皆様方を入れてつくろうということも実は決定されておる訳でございまして、そういうものをやると同時に、私たちはその過程の中にあって当然アメリカとは話し合っていかなければならない。今、私が訪米するとか、そういった段階ではまだないと思っておりますけれど、いずれにしましても、そういったものもこれから模索していきたいと思っております。

 経済問題というのはお互いに理解し合わないと、日米は政治の面でも、あるいは安全保障でも、または地球環境ですとか、エイズですとか、いろいろなグローバルな地球規模の問題についてはお互いに協力し合っているんです。ところが、経済問題がうまくいかないと、どうしても国民の中にフラストレーションがたまってくる。そして、言葉の弾丸といいますか、そういったものが飛び交いますと、嫌米感情だとか、あるいは嫌日感情などというものが過去に生まれたことがある訳でありますから、私どもは幾ら日米関係がうまくいっているといっても、やはり経済関係についてもお互いが本当に協力できる体制というのは一日も早くつくること、これが我が国のためであり、かたずを飲んで見守っているいろいろな世界の国の人たちにも一つの方向を示すことになろう。そして、お互いが話し合ったことはただ日米関係ということではなくて、これは世界に向かって均てんをしていくんだということ、これも私は確認しておきたいと存じます。

○記者 それから、朝鮮半島情勢なんですけれども、端的には対話による解決を前提とされていると思いますが、せんだってペリー国務長官が来日された際に、仮に制裁となった場合に、国連制裁ができなかった場合に、国連の枠組み以外、多国籍型の制裁ということをも考えるという旨を表明されているんですが、これには同調されるお考えですか。

○羽田総理 この問題につきましては、残念ですけれどもIAEA、国際原子力機関、この機関の査察というものが十分でなかったということが国連に報告されたことは御案内のとおりです。そういう中で、国連でも安全保障理事会を中心にしながら議論をした結果、この段階では何らかの制裁とか、そういった決議というものではなくて、まずやはり北朝鮮に対して是非とも十分な査察をしてもらいたいということ、あるいは韓国、そして朝鮮民主主義人民共和国、この両国がお互いに特使を派遣していただきたい。そして、非核化というものを朝鮮半島で宣言していただきたいというような意味のことを含めた、宣言になっている訳です。

 ですから、今は私どもは北朝鮮に対してそういった国際世論からの呼び掛けに対して、心を開きながらこの疑惑というものを晴らしていただくということが一番大事なことであろうと私は考えておりますし、またそのために我々は存分な対話を続けるように、いろいろなところに慫慂していきたいと思っております。

 ただ、これは一般論からいきますと、国連というものが一つの方向を出したときに、我が国としてもそのときには憲法に許される中にあって、これは協力をしていきたいと考えております。

 そして、今、一番の最後にあった問題につきましては、今はまだそういう問題について議論をするときではないと認識をいたしております。

○記者 その関連で、緊急時の憲法の枠内での法令改正なんですが、どこまで対応されるお考えなんでしょうか。

○羽田総理 これは、別に北朝鮮問題ということではなくて、この国の安全あるいは安定、こういったことのために、何かがあったときにということで議論するということはあり得ましょうけれども、今、私どもは直ちにどうこうということをまだ考えてはおりません。

○記者 それでは、幹事社の質問は終わります。あとはご自由にどうぞ。

○記者 連立政権が壊れるきっかけになった統一会派の問題ですが、私ども随分人を食った話だと思うんですけれども、しかも羽田総理の今までの政治姿勢からやや相反するような気もいたします。何故総理になってから少したしなめることが出来なかったのか。あるいは、あの問題について怒っていらっしゃらないのか。その辺を聞かせていただきたいと思います。

○羽田総理 この問題につきまして、私は社会党の皆様に対しましても率直に申し上げて私ども投票した結果、そのときに、しかも組閣をしようというときにこういった問題が出てしまったということについて、残念ですけれども私も前から実は多くの政党がありますから、いろいろな問題に対して機動的に対応する、あるいはみんなが議論する場所がなるべくだったら少ない方がいいという思いは持っておりました。

 ただ、率直に申し上げまして、事態があんなふうに進んでいるということはよく承知しておらなかった。というのは、私はまさに党務というよりは公務の方に入っておったものですから、その意味では問題がありました。ただ、私が報告を聞きましたときには、これは社会党の方も了解をされておる、あるいは公明党なども了解されておるということでありますから、むしろ参議院の方にも何か社会党の方が新緑風会ですか、ここに入るなどというお話などがあったときでありますから、そういう中で円満に事が進んでいくのは大変いいなと、瞬間にそれを思った訳でありますけれども、ただ実際にこうやって会議が進んでいく過程の中で、そこに言葉とか、あるいは理解、これの行き違いがあったということに気付かされた訳でありまして、残念ですけれどもそのときには既に話が進んでおったということでありまして、私はその点では率直におわびしようということを、今日も社会党の皆様に申し上げたところであります。

○記者 その関連ですが、そのごたごたによって国民の間に政治に対する不信感がかなり増大したという気がするんですけれども、国民の政治に対する信頼を取り戻すために何をされるのか、それをお聞かせください。

○羽田総理 この点で、確かに連立というものですよね。私は、率直に申し上げて難しさというものが露呈したということであろうと思っております。

 ただ、これをいろいろと考えたり行動された方々、これも決して私は悪意であったとは思っておりません。ですから、先ほど私が申し上げた中で、しかし何故もう少し理解ができるように話し合えなかったのかということについては、率直に私は先ほども申し上げたように社会党の皆さんにもおわびを申し上げたということであります。ですから、これからはそういった問題の行き違い、人というのは常にいろいろな面で誤解ですとか、あるいは余りにも思い込みが過ぎますとかえって過ちを犯してしまうということがあります。

 ですから、そういった点で率直に話し合えるような環境というものをつくり上げていくということが、特に統一会派の場合にはそれが必要であろう。特に少数与党ということになって政権を支えることになっておりますから、その意味ではそういういわゆる意思の疎通の場というものを我々は更に努力をしていかなければいけないという思いを強くいたしております。

○記者 さきがけや社会党が連立を抜けた背景には、連立与党の政策過程システムの問題があったと思いますが、今後この代表者会議を中心にした決定システムを見直される、あるいは違う方法をやろうというようなお考えはございますか。

○羽田総理 そうですね。確かにこの間の政策の合意ですね。これに至る過程でも、非常にぎくしゃくとした感じがあったことは事実です。しかし、それがぎくしゃくしたというのは、お互いに率直に自らの党の、あるいはそれぞれの人の思いというものをぶつけ合ったというところにあったと思います。ですから、案外ぶつかり合っていたと思われる人が、外から見るのと違って、そこにお互いの信頼関係とか、あるいは友情というものが生まれてきている。

 私は、やはり日本の余りそういうものがなじまなかったのかもしれませんが、しかし今度の議論の過程で大変ぎくしゃくがあったことは事実です。しかし、ぎくしゃくはあったかもしれませんが、そのために国民には一体何を議論をしているのかということがよく見え過ぎるくらいに見えたんではないかということを思っております。だから、本当に私たち一人一人の人が生まれ育ち、そして長いこと歩んできた道というものが違う、その者が一緒にやるんですから、やはりぶつかり合うときがあるということ、しかしそのぶつかり合うところから道を開くんだということを互いが確信をする。やはり政治家ですから、国を動かしていく人たちですから、私の個人的な感情というものは押しつぶしてもやらないといけません。私は、そのことを強く思いました。

 アメリカの人と話したときにも、まあ羽田さん、これはよその国とヨーロッパとカナダとなんかはしょっちゅうこういうことはあるんだよ、だから余り気にしなさんなということがあったけれども、ですからこの次会ったときに、あれだけ議論したにもかかわらず、互いに友情というものを感じている訳です。ですから、私はもっと自由な議論をするということが大事ではないかと思っております。

○記者 政権がスタートして、その直後に少数与党政権になった訳で、国民から言えば非常に疑問というか、割り切れないものがあって、それだったら予算が成立した段階で、早い段階で解散してもう一度民意を問うのが当然じゃないかと、そういう意見が根強いと思うんですけれども、こうした意見に対しては総理はどのようにお考えですか。

○羽田総理 先ほどから申し上げていますように、今度のきっかけというのはまさに行き違いの中で起こってきてしまったということであります。そして、今日お話したときにも、やはり私たちはまだあきらめておりません。そして、この八か月間、お互いに自らの垣根を越えながら、これは社会党だけではなく我々もだんだん歩み寄ってきております。

 そして、私たちが今まで自由民主党にあったころ余り使わなかった言葉などが我々の中でも行き交うようになってきている。例えば、私たちは企業というものが大きく発展していく、そういう中で立派な建物が出来ていく。しかし、そこに勤めている企業戦士たちというのは本当にいいのか。いや、二時間も掛けて、あるいは二時間半も掛けて、往復四時間も五時間も掛けながら通勤している。こういった問題に対して対応しなければいけないということもお互いに気付いた訳です。

 ですから、私は、今日も申し上げたんですが、勿論門戸を開いていくのは当然ですが、私たちはこれからのいろいろな行動で皆さんの理解を深めるように更に努めていきたいということを申し上げ、そして新たな連立といいますか、そういったものをつくり上げるために努力をしたいということを実は申し上げている訳でして、今お話があったような結論を私たちは見ながらものをやるのではなくて、むしろその辺りから、あるいはその前に一緒に共に手を組むことは出来ないんだろうか。

 私は、この八か月間の歩みというものを振り返ったときに、確かに今度のときには本当に逆なでしてしまったようなところがある訳ですけれども、そういった問題について率直にわびながら、この八か月の連立政権というものの重み、そしてお互いに歩み寄ることによって日本の新しい進路というものが生まれつつあったということでありますから、このことを訴えながら何とかまた協力をいただけるような体制を築いていく。そのために、ともかくまず全力を挙げたいと思っております。

○記者 確かにそれが契機になったのは改新の問題ですけれども、しかしそれは一つの契機であって、それまでの間のプロセスの中で、積もり積もった社会党がほかの連立与党に対する不信感が、あれを契機に爆発したというふうに社会党の方の多くの人は説明している訳で、必ずしもその場面の行き違いだけがこうした少数与党に転落する原因ではなかった。それまでのプロセスが幾つもあって、それに対する反省というものがもっとあっていいんじゃないか。

○羽田総理 問題は、それでは全部お互いに意見が違ったのかというとそうではなかったと私は思います。そして、連立政権を維持していかなければならないと考えた方の中で、今度のやり方はひどいじゃないかというので、その方たちが実は大変に怒られた。ここに私は大きな重みがあるんだということで、これこそまさに反省していかなければならないことだろうと思います。

 そして、政治というのはこの八か月の間にいろいろな難しい問題に直面しました。そういったときに、あるときには相当強いリーダーシップなどというものが専ら求められたということがあるんでしょう。しかし、久保書記長がいみじくも言われたように、また税制をやらなければいけない、今まで大変大きな山を私たちは越えてきて、この山をもう一つ越えるというのはつらいよと、私は彼の気持ちというのをそのときものすごく感じた訳です。

 ですから、そういうものを今度の大きなショックの中で我々はまさに反省しながら、そしてお互いに話し合って物事が進めるような体制をつくり上げていくこと、これが大事ではないかと思っております。ですから、私は今まだあきらめておりません。そして、この八か月に成し遂げた成果というのは、大変短い間でありましたが私は歴史的に評価されるであろう。そして、それらの皆さんもそういう思いを持っておられると思っております。

○記者 小沢一郎さんとの関係について、総理は最近、小沢さんがシナリオを書く人でご自分は演じる人だということをおっしゃっているんですけれども、今日もまたお昼過ぎに組閣に際して小沢さんが執務室の方へ入っていったようですが、今でもやはりそういう役割分担とお考えになっていらっしゃるのか。それとも、総理になられた今は、これからはシナリオも御自分が書いて、実行も御自分がされていくと、そういうふうに変化されているのかどうか。

○羽田総理 今のシナリオというのは皆さん方のところにはデータバンクがあるせいか、ちょっと話したことがいかにもそれであるように書かれたりするんですけれども、これはどこかで応援演説か何かに行ったときに、新幹線に乗る直前にそういうお話があったときに、やはり一人の人間で何でもやることは出来ません。確かに一つのシナリオを書くことはできます。しかし、そのシナリオを書いた人が全部そのシナリオに乗って俳優さんは踊るものじゃありません。やはり俳優さん自身がこれを選ぶ。そしてまた、あるときにはそれを書き換えてもらう。自分はこのように理解するということがある訳ですから、そういうことが一般に私が何げなく言った言葉だけが飛んでいるようですけれども、少なくとも私は政治をずっと二十五年間歩んできまして、いろいろな問題、全然違う分野を歩んできた人間です。あるときには自らシナリオを書きながら、そして自ら踊ってきた経験を多く持つ人間であります。

 ただ、私は今までも外務大臣として本当に公務以外には手を出せません。党の方をやってもらう人というのはいなければいけません。そういう中の関係であろう。今日来られたという話でありますが、昔だって大体総理大臣が組閣するときには党の幹事長は必ず一緒に相談したものであります。一人で何でもできるものじゃないということです。

 ですから、実際に怒鳴り合いをしたり何かしてお互いに言い合いながらやっていく。実はそういう長い二十五年間の友人でありますから、そういう中で物事をやっていく。むしろ私などがやっているときは、彼は逆に私の公務などをやっている問題について意見があっても、これは孜さんがやっていることだからというので遠慮して、お前もっと手伝えなどということがある。実はそういう仲であるということをご理解いただきたいと思います。

○記者 少数与党で政権を発足になって、先ほど総理は大変厳しい状況であるとおっしゃられたのですが、国民の中には短命政権に終わってしまうのではないかという懸念、あるいは不安みたいなものもあるんですけれども、そういう声に対してどのようにお答えになりますか。

○羽田総理 そうですね。国民の皆さん方がいうのはちょっと、報道の中にいっぱいあることは私もよく承知しております。

 ただ、本当に私たちの行動というもの、あるいは国民に理解される行動、そういうものをやって政策なども一つ一つ積み上げていって、我々がやっていることは正しいということであるとすれば、むしろ国民の皆さんも理解を示してくれるでしょうし、それと同時に私は例えば社会党なども、そんなふうに進んでいくんだったら我々も協力しようじゃないか。そういう環境をつくりたいという思いを強く持っておるところであります。

○記者 社会党も抜けまして、自民党時代の内閣にまた戻ってきたような、そういうイメージがあると思うんですけれども、政治手法とか体質などの面で、羽田内閣というのは自民党政権とはどういう点で違うと思われていますか。

○羽田総理 元へ戻ってしまうというお話でありますけれども、少なくともそれこそ八か月前までは野党であった公明党あるいは民社党、その他の皆さん方もいらっしゃる訳ですよね。ですから、自民党時代に戻るということはあり得ません。

 ただ、先ほど申し上げたように、連立政権というのは三十八年ぶりでできたんです。世界の国で連立政権をやっていてもなかなか難しいところもあるのに、我々の国の場合には三十八年ぶりで新しい政権が、しかも連立という形で生まれた訳です。しかも、この短い間にどうしても日にちが切られていて決着をしていかなければならないというときに、ある程度スピードを持ってやらなければならなかったときに、剛腕だとか、きついとか、いろいろなことを言われたことがありますけれども、私はこれからだんだん連立政権が成熟していくということになったときには、お互いの意見、お互いの個性、こういうものを尊重しながら互いに譲り合う。そこに新しいものを求める。

 要するに、新しいものというのはこの国の国民がよりよくなるためにどうしたらいいのかということのために、今まで自民党政権でやったことを、これは違うぞと先ほど私が申し上げたように、環境の問題ですとか、あるいは勤労者の問題ですとか、そういったものに私たちが非常に大きく目を開いてきたということは、まさにこの八か月間の私たち自身の学習効果であったと評価をいたしております。

○記者 そうだとすれば、羽田政権でどういう課題に最も力を入れて取り組んでいくか。課題はいろいろ山積していると思うんですが、何を最優先にされていかれるおつもりですか。

○羽田総理 やはり政治改革は、これは飽くまでも法案が通ったということで、まさに区画を確定しなければならない。これがまずあります。そして、そういったものに合わせて、政治そのものを新しい制度に合ったものにしていくという大きな作業があるだろうと思っております。

 それともう一点は、やはり経済、これは今、多少明るい日差しが見えているということは言われますけれども、しかしまだ確固たるものではないということ、そして失業率を見ておりましても、決して安んじているということはできないということであろうと思っております。ですから、その意味で企業もリストラしたり何かしています。そのように、国そのものも規制の撤廃ですとか、緩和ですとか、行政の改革ですとか、あるいは情報を公開していくというようなこと、こういったものをきちんと確立していくことが今、私は望まれているんだろうというふうに思います。ですから、こういった問題について対応することです。

 それともう一つは先ほどお話があったように、税についてもやはり直間比率というもの、これがどうしても平等といいますか、パラレルではありません、バランスが崩れているという話があります。ですから、そういった減税をやっていく、福祉政策というものを進めていく、あるいは高齢化社会に至るまでの間に社会資本といいますか、そういったものの基盤を整備していかなければならない、こういう課題がある訳です。ですから、こういった問題と合わせて負担の問題というのも、これは率直に現状というものを国民に訴えながらやっていくことが大事です。

 そして、終わりに申し上げることは、日本の国、私は大蔵大臣、外務大臣をやりながら思ったことは、ともかく世界の国が先進国も、あるいは計画経済から市場経済に移る国も、あるいは途上国から今テイクオフをしようとしている国、あるいはまだ途上国にある国、こういった国からものすごい期待が日本に寄せられている訳です。いろいろな角度で、技術の移転ですとか、あるいはノウハウですね。会計学ですとか、投産法ですとか、そういった問題などについての協力も頼まれている。そういう国際貢献をやっていくことが、そしてあるいは戦争が終わった。それを復興しなければならない。あるいは紛争が起こりそうな地域、こういったところに対しても日本の国というのは声を掛けていく。これが今、国際社会から求められていることであろう。そういう意味での国際貢献といいますか、私たちの役割の分担、これをきちんとしないと、日本がこれから生きていくということ、よりよく発展することはあり得ないだろうと考えておりますので、これも私たちの課題であろうと思っております。

○記者 総理、おめでとうございます。

 実は、細川総理が辞任すると言った日に、羽田さんは日本はどうなってしまうのか、世界に対してもメッセージにならないとおっしゃいました。今日の少数与党は世界に対してどういうメッセージになりますか。

○羽田総理 先ほどもお話しましたように、日本の国は開かれた国であるという理解をまず国際社会に私は申し上げたいと思います。それと同時に、我が国は先の大戦にあって、あるいはその以前の問題について、いろいろな国の人たちの心に傷をつけたり、親族にけがといいますか、体に傷を負わせたり、あるいは命が亡くなった方々もある。こういった方々に対してもやはり私は反省をしながら、またこの思いというものを後世に伝えます。

 そして、日本はそういう中でそういうものを反省しながら平和の道を求めて歩んできました。しかも、世界の国からそういう日本に対して理解をしてくれて資源等も送ってくれ、また日本の製品というものを求めてくださることができた。それによって今日の日本が出来上がったんですから、世界の理解がなかったらそれはできません。

 そういう意味で、私が先ほど申し上げたように、途上国に対しても、あるいは今、転換をしようとする国に対しても、私たちは積極的に手を差し伸べていくということ、そして争いというものは決してよくないということで、私たちは平和の中で世界に貢献をしようとする国に対しても、私たちは積極的に手を差し伸べていくということ、私たちは平和の中で世界に貢献するんだという姿勢を明らかにするということが今、求められているんだろうと考えます。

○記者 昨年は衆議院で連立各党が過半数を取ったということで自民党から政権を奪われた訳ですけれども、今回は逆に圧倒的少数でありながら自らの政権をつくられた。その矛盾というか、皮肉というか、その点はどういうふうに考えられているんですか。

○羽田総理 社会党はこの間の問題に対しまして、これはおかしいぞということで実は怒られたということであります。

 しかし、基本的なお互いに一番大事な改革の問題ですとか、あるいは予算の問題ですとか、協力できるところはしていこうということを言ってくださっております。それから、先ほど冒頭に申し上げたように、自民党も大きな政策については今までの国会の中でも賛成をしてくださったということで、私はいろいろなものを振り返りながら単なる権力抗争ということではなくて、この国を進めるためにはというふうに考えていただいたときに、また私どもがその努力をしたときに、それぞれの皆さんも御協力いただけるものはいただけるであろう。このことを確信しながら、そのための努力をしていくということであろうと私は考えております。

○記者 細川前首相は三年間で三百万円の申告漏れという事実が判明したことによって結果的に辞任したという訳なんですが、総理はこれまでに申告漏れを指摘されたことがございますか。それと、今後そういう事態が明らかになった場合、細川首相と同様に辞職するというようなお考えはありますでしょうか。

○羽田総理 その申告漏れというのはないはずでありますし、私はそれは適正な対応をしているであろうと考えております。

○記者 総理がおっしゃりたいのは、つまり改革路線を継承される。政治改革を進められるということだと思うんですが、事態は逆の方向に流れているんじゃないかという感じがするんです。

 つまり、細川政権は金権腐敗に対する怒りから生まれた政権だと言われたんですね。それが、金権疑惑で政権を投げ出してしまった。更に三週間の政治空白を招いたという、いまだかつてないような政治不信というものがうず巻いている訳ですね。そうすると、志は別にして、事態は逆の方向へ流れているんじゃないかという感じがする訳です。それで、つまり政治改革政権と標榜した細川政権をまさに副総理として支えられたのが今の羽田総理な訳ですね。そのけじめ、その責任というのはどういうふうにお取りになるおつもりですか。

○羽田総理 これは、私は自由民主党におりましたときから政治改革というものを進める、その何故やらなければならないのかというと、結局自分党みたいなものを構成している、そこにいろいろな問題が起こってきてしまう。だから、私たちはそういったことがなくて済むような一つの改革をしなければいけないんだということで、政治改革をやったんです。ですから、その前のものはどうでもいいという話ではありません。

 しかし、そういうものでやったんだということで、私は細川総理もそういう思いでまさにこのままいったのではいけないということ、これは私は街頭などでもお話してきたことですけれども、そういう中で個人がどうのこうのということをしなくて済むようなものにしていかなければいけない。この思いは、私は今でも当時と変わっていないということで、そんなつもりでともかく改革だけは何としても成し遂げなければいけないと考えております。

○記者 連立政権の信用を回復されるために、疑惑にふたをして退陣されたような形になった細川さんに、例えば国会に証人喚問として立つように進められるとか、自ら進んで真相解明されるように総理の方からもアドバイスされると、そういうお考えはございませんか。

○羽田総理 私は一緒に仕事をしながら思ったことは、ともかく真相について自分できちんと語っていきたいということで、相当苦労をされておられたと考えておりまして、今の国会の問題については国会の問題でありますから、私が今これについて触れるということはしたくありませんけれども、いずれにしましても総理自らは何回もその問題についてはそれこそ正面からお話になっておったということであろう。私は、知る限りのことを総理は語られてきたと思っております。

○記者 先ほどちょっと小沢さんの今日の組閣のときのお話をなさっていたんですけども、確かに単独政権だったら党首と幹事長の方でそうやって話されるのは分かるんですけれども、連立において小沢さんだけが話されるということは、新生党とほかの党の意味合いが総理ご自身の認識として違うんでしょうか。あるいはまた、そういうことがごく自明に出てくるということが、特に小沢さんだけに権力の二重構造という指摘を受けると思われるのではないですか。

○羽田総理 例えば、この組閣だけはいろいろな方々から各党のご意向等をお聞きしております。そういう中での対応であって、それは各党の皆さん方も決して何も否定されたということではありませんし、私がまたその間に電話等で連絡を取りながら物事を進めてきたということであって、二重構造というのは私は当たらないと思っております。

 ともかく、互いに率直に彼などとは話せる仲であるということでありますから、そういうことは私はないと思います。ただ、何かすごい巨像という言い方はどうか、大きな象じゃないです。物事を割合と真っ正面からとらえ、まじめに物を考える人なんです。

○記者 小沢さんと羽田さんの政治路線の違いはどういうことなのか。あるいは、共通点はどうなのか。ずっと盟友の関係でやっていらしたんだけれども、その辺はどういうふうに認識されているか。それから、これからもやはり小沢さんが一番の頼りの相手ですか。

○羽田総理 それは、個人的に二十何年間お互いが知り合いながら歩み続けて、またお互いに助け合ったり、あるときにはけんかをしたり、そういう中で今日までやってきた仲でありますから、私はこの盟友関係を別に何かするつもりはありません。

 ただ、路線についてということでありますけれども、この路線についてのいろいろな問題のときに相当な議論をすることがありまして、私はどちらかというとあなたとは例えばずっと離れていても、この一つの問題を取上げたときには案外結論は同じだなと。ただ、私の場合には少し説明し過ぎるきらいがある。あなたは端的にすぱっと言うきらいがある。これをお互いに足して二で割ると一番みんなにいいのかななどということを言ったこともあります。

 いずれにしましても私は私なりきの判断、あるいは物の考え方というもの、ただしその間にいろいろな意見というものは率直に言ってもらうということはあり得ていいと思います。それをただ私が唯々諾々としてそうでございますかと言ったら、これはまさに二重権力ですよ。しかし、彼自身がそのことに対しては常に、むしろ逆にいろいろな問題で遠慮している面というのがあるんだろうと私は思っております。

○記者 今、小沢さんのことを、物事を真っ正面からとらえる人だとおっしゃったんですけれども、小沢さんはおととい国会の中で記者団に対してどの政党と組むかという問題で、私の口から言い過ぎるということも、どの女と寝ようが君らに関係ないだろうと、そんな言い方をされました。それで、これは非常に女性に対して失礼なだけではなくて政党に対する侮辱でありますし、国会議員としての品格もおとしめたものじゃないかと、そう思われるんですが、羽田事務所の方にも女性団体から抗議がいっているようなんですけれども、これについてその事実を小沢さんに率直に問いただされて、もしこういうことを発言されたんだとしたら、羽田総理とは全然違うタイプだと思うんです。羽田総理はそういうことをお考えにならない人だと思うんですけれども、厳しく抗議されたり、謝罪するように要求されたりということをお考えになられますか。

○羽田総理 ちょっと私もそれを自ら読んでおりませんからよく承知しておりませんけれども、確かに今、言われたような表現であったとすれば、これは一番難しい大事なときでありますし、どういうところでどんなふうに話したのか私も分かりませんが、もしそういったことがあったとすれば、これは当然政治家として、しかも非常にデリケートなときでありましょうから、冗談でも政党というお話が今あったかと思うんですが、だとすればそれは非常によくないことだろうと思います。

○記者 先ほど、党務と公務のお話をされましたけれども、連立政権の総理としての公務に専念するために新生党の党籍を離れるとか、そういうお考えはおありでしょうか。

○羽田総理 この問題につきましては、私は党の方と話していきたいと思っておりますけれども、勝手に私がどうだということを言ってしまうと党の諸君にそれこそしかられてしまいます。

 しかし、私は今までもいかなることがあっても公務というものを優先する。それでこの二十五年間歩んできた人間ですから、今度のように連立の上に私は乗ると、各党の上でやっていかなければならないという立場なんですから、その辺を党の方と私は本当に腹をぶっちゃけて、国のためにひとつそういうことで行動させてもらいたいということを話していきたいと思っています。

○記者 先ほど、少数与党政権の運営の仕方として、政党単位の政策協力ということをおっしゃいましたけれども、自民党にしても社会党にしてもいろいろな考えの方がいらっしゃると思うんですが、そういう中でより考えが近い方々に対して連立政権の中に取り込むような形で安定多数を形成していこうというお考えはないんでしょうか。

○羽田総理 私は今のこの段階では、当然来るもの拒まずなどという言い方がいいかどうか、適切かどうか分かりませんけれども、私たちと一緒にやっていこうという人があれば、それは勿論お受けすることにやぶさかじゃありません。

 ただ、私は社会党と歩んできたこの八か月間というのは、本当に政治家個人としても無駄な日々じゃなかったと思っております。そして、私たちが話し合いながらお互いに歩み寄ったものというのは、案外これからの日本の進むべき道であるのではないのかなという思いさえ実は持っているものですから、そういったことで辛抱強く語り掛けていく。ですから、勿論御協力くださるところがあれば私も御協力を決して拒むものではないということであります。

○記者 そろそろ政策課題に入らせていただきたいと思いますが、まず先ほど総理の中で税制改革という問題がございました。この点について、非常に具体的に申し上げますれば細川内閣のときに国民福祉税七%と、こういうものが提起されて一夜にして白紙撤回されたという経緯がございます。それで、先ほど総理は国民の負担ということについては明確におっしゃっておられましたが、基本的に細川内閣で出された国民福祉税の七%というものについては一つのターゲットとして総理の頭にあるのかどうか、その点をお伺いしたいと思います。

○羽田総理 この問題につきましては、まさにこれから議論をしていかなければならない課題であろうと思っておりますけれども、いわゆる直接税という中で生きておられる皆さん方にとりましては、もうこれ以上高齢化あるいは福祉のお金というのが増えてくる。これを自分が負担すると言ってもとても負担出来ないよということ、これを私は国民の多くの中の理解というものが得られてきていると思います。ですから、そういったものを安定して持続させていくためにはどうしても負担の問題を考えなければならないということです。

 ただ、問題は今お話のあったような率とか、そういった問題につきましては、これから私たちは税制調査会などでも議論をしていただきたいと思っておりますし、また連立与党の中の税制議論もあります。こういった中で徹底して議論していただきたいと考えております。当初私たちが社会党なども含めて話しておりましたように、何とかこの六月末までに方向を出していただきたい。

 そういう中で、今、言われた具体的な問題については議論され、その結論が得られるであろうと思っております。

○記者 少し国の進路に関することで質問させていただきますけれども、まずPKO協力法見直しの時期が迫っておりますが、PKF、平和維持軍の参加凍結ですね。これは、社会党とかさきがけがいなくなってこれを解除に踏み込むお考えですか。

○羽田総理 この問題につきましては、これを見直すのがちょうど三年ですね。ですから、今一年半たったというところだろうと思います。そして、今までモザンビークですとか、またカンボジア、こういったところで私ども経験を積んできている訳です。こういう経験を積み上げてきている、そういう中でこれから私たちは一体今の国際社会というものはどんなふうにそういう問題が起きてきているのか。

 この間もUNHCR、難民高等弁務官の緒方さんが東京にお帰りになったときにもいろいろなところの状況というもののお話をお聞きいたしましたし、また明石さんなども現実に旧ユーゴスラビアの中で活動されておる。そういう現実を私たちはよく見極めながら、それこそ国会の中でも大いに論戦を闘わせていただきたい。そういう中で、日本のそういった問題に対する方向は間違いなく出てくるであろうと考えております。

○記者 それと関連して、安保理の常任理事国入りも消極的な社会党、さきがけ、にらみ合っておりますけれども、総理としてはこれにどう対応される考えなのか。

 それと、集団安保に関して小沢さんや渡辺美智雄さんは憲法解釈の変更を目指している訳ですけれども、これまで内閣法制局が集団安保という言葉を使わずに集団的自衛権、この憲法解釈の変更を目指されるお考えでしょうか。それをお聞かせください。

○羽田総理 この問題につきまして、私はまさにポスト冷戦という中で非常に大きく変わってきています。そういう中で一体本当にどういうことが今、望まれているのかということを議論することは、私は政党の中で、あるいは政治家個人が現状というものをとらまえながら議論していくことは必要であろうと思っております。ですから、集団安保と集団安全保障というのをどちらを指して言われたのか、集団的な安全保障のことを言われたのか。ちょっとその辺。

○記者 集団安保、集団的自衛権です。

○羽田総理 集団的自衛権というのは一つの国が、例えば近隣の国が攻撃されました。それに対して対応します。これは国連憲章第七章でしたか、ちょっとこれは。間違いかもしれませんけれども、そこで認められている権利ということで、私ども主権国家としてこれは国際社会の中で認められています。

 しかし、日本のそれでは憲法九条と照らし合わせたときにどうなのかといったときには、日本が攻撃されたときの最小限の武力ということは、これは当然個別的なものとして認められているんだろうと思いますけれども、集団的安全保障についてはなかなか議論の大変多いところで、私は今の憲法の中ではなかなか読みとれないなという感じは持っております。これは率直に、私の勉強が不足しているかもしれませんけれども、そう思っておるということであります。

○記者 その国連の理事国入りの関連なんですが、細川総理は昨年の国連総会で、決して自ら進んでなるものではないと、やや消極的とも取れる態度を表明されているのに対して、波多野大使は理事国入りを希望すると踏み込んだ表明をなさりまして、多少当時の官邸と外務省の間に食い違いがあるのかなという感じもするんですが、当時の外務大臣もなさっていた羽田総理としては、この理事国入りを希望するということをはっきり表明されるお考えはあるんでしょうか。

○羽田総理 日本の国は、ご案内のとおり国連の拠出金が第二番目ですか。そういう立場で国連の活動を大きく支援をいたしております。それから、国連は始まったときには五十一か国でしたね。今一八四か国です。しかも、当時の戦勝国が常任理事国になっておる。しかも、はっきり申し上げて核保有国だけであります。

 総理がこんなことを言うとまた問題になるのかもしれませんけれども、しかし私はそういう中にあって、ポスト冷戦という中で国連が果たす役割というのはまた逆に増えてきているんです。というのは、要するに今まではアメリカとソ連邦との対峙があったんですけれども、これが取れたために今あちこちで小さな紛争が起こってきている。こういったものに対してどう対応していくのかというような問題、あるいは紛争が起こる前にこれを止めることはできないのか。起こった後にどう対応するのか。これが国連に対する新しいニーズであろう。そういう中で、国連は今の機能というものを新しいニーズに応えるものにしていかなければいけないということを言われているんです。

 そのときに、安全保障理事会というのはともかく国連のいろいろな動きに対して相当発言権というのを持っている訳です。ですから、日本の国がここまで、大きい小さいといいますといろいろな議論があるんですけれども、実際に大きくなっちゃっているんです。ですから、そういったときに私は国連の安全保障理事会の中で日本がここまで蓄積してきたノウハウですとか、そういったもので国連の中で大きな発言というものを求められているときになってきたろうと思っております。その意味で、この改革をされるならばそこで責任を果たしていくということは申し上げることが出来ると思っております。

○記者 その常任理事国入りの問題というのは憲法とも絡んでくる訳ですけれども、国会で全然議論もなされずに去年の六月ごろからどんどん政府として話を対外的に進めていっている。これは国会でも議論すべき問題じゃないんですか。

○羽田総理 これは私から申し上げる問題じゃなくて、当時から私は答える側の方だったんです。そこの中では、私は今、申し上げたようなことについて予算委員会ですとか、あるいは外務委員会ですとか、そういったところでお答えをし、そして議論をしてまいったと思っております。

 ただ、はっきり申し上げてそういった問題が本当に今、ご指摘があったように、国会の場というのがもっともっとそういった問題を本当に腹を打ち明けながら議論をしていく必要がある。その中で国民がどうあるべきだということの判断が出来るんじゃなかろうかと思っておりまして、私はご指摘はそのとおりであろうと思っております。

 ただ、日本の発言の仕方に対して、どうも少し、本当に責任を負うつもりはないのかという言い方をされる国がある。というのは、日本に対して何も、この言い方をするとまた誤解されますからやめておきますけれども、余り勇ましい方だけじゃなくて、日本という国はきちんとそういう問題について発言していただくということが非常に大事だと。

 例えば、今の半島の核の問題などにつきましても、日本は理事国になっている国に対しましても、粘り強い対話をしてほしいということを大変強く主張してまいりましたし、そういったものがこの間の議長声明というような形で表れてきているんだろうと思います。そうかといって、この間の例えば旧ユーゴスラビアの中でNATOが行動しなければならなかった。実際にそこで多くの人たちが追い詰められていってしまうというときにそういう対応をしなければならないとき、これに対して日本が参加するということは許されませんけれども、しかし皆さんの論説をずっと拝見している中でも、これはある程度やむを得ない行為であったろうというような評価もされています。

 いずれにしましても、そういった問題について日本という国は平和を希求してきた国であるだけに、しかし平和を希求すると言ってもただ何もしちゃいけないと言っているだけだったら本当の平和を確保することが出来ないということもあるでしょう。しかし、そういうことを言う立場というものが、私は今、日本に求められているんじゃないかという思いをいたしております。

○記者 そろそろ時間が来ました。あと二、三問に限らせていただきたいと思います。

 それから、総理も出来るだけ簡潔にお答えをお願いします。

○羽田総理 どうもそこがいけないんだな。

○記者 素朴な感想なんですが、連立政権直前から政界再編、再編ということが盛んに言われました。ただ、私どもが見ていて数合わせが行われている面が非常に強くて、率直に我々の日常生活から見ても、一体いつになったら落ち着くんだという気持ちが非常にするんです。この羽田政権が暫定政権になるのか、本格政権になるのかということにもかかわってくるような気がしますが、羽田内閣としては一体いつの段階でこういう数合わせでという話が終わって、本当に落ち着いて日本の進路であるとか、政策というものを考えられるような時代が来るという目途がありますか。

○羽田総理 その点については、今度細川政権が退陣された。そして新しい政権をつくろう。そのときに、ただ数合わせではない。むしろ数は逆にあるいは減らすかもしれなかったです。

 そういった中で真っ正面からともかく政策の議論というのは行われたと私は思っておりまして、決して政策がそっちのけになっているというのではない。むしろ危険を冒してでも真っ正面から議論をしたということは、私は日本の新しい政治の始まりかという見方をしておりました。ですから、これからもそういったことは私は随時行われていっていいんだろうと思っております。そして、これは私がよく言う言葉ですけれども、いわゆる自分の分かりやすい言葉で率直に議論をしていくということが、大事なんだろうという思いがしておりますので、私は決して単なる数合わせじゃないと思います。

 ただ、一言申し上げるのは、日本人というのは何でお前たちはそんなにせっかちなんだ。まだたった八か月しかたっていないじゃないか。しかも、お前たちは三十八年掛かって変わったんだぞと、実はヨーロッパですとかアジアの方から指摘されましたけれども、そうかと言って私は自民党政権にいただけに国民生活とか、あるいは政権の重さというものは存じておりますから、だんだん連立とか、あるいは与党、野党、これが慣れてくればおのずとそこに安定したものが生まれてくるであろう。そして、ルールというものが確立されてくるのではないかと思っております。

○記者 増税を求める税制として行政改革を推進しなければいけないということがある訳ですけれども、今回の閣僚人事で以前は国土庁長官と沖縄開発庁、北海道開発庁というのが一つだったのが今回はあえてそれを二つに分ける。当然省庁の統廃合というものも行政改革の中で議論されている中であえてそういう人事を行うということをどういうふうに説明されるんですか。

○羽田政権 国土庁とということですか。

○記者 国土庁長官と、以前は上原さんは北海道開発庁長官でしたけれども、あえてそれを分けられましたね。そういう官庁の統廃合を議論されている中であえてそういうポストをもう一度兼任じゃなくてやられるという理由は、行政改革の流れからすると分かりにくいんですけれども。

○羽田総理 今度は、ちょうど戦後五十年というのを迎えることになります。それから、今までやってきたこと、こういったことをきちんと一つの方向づけをしていく。そういうときでもあろうと思いますから、私はこういった両方の離島になっておるところ、この問題について一つの方向づけをしていただくということは大事だと思います。

 しかし、今、言われた行政改革の中における対応というもの、これはこれでしっかりとやっていかなくてはならない問題であろう。ですから、我々議論の結論というものを得ながら、それらに対しては対応しなければいけないと思っております。

○記者 あと一問だけ、どなたか。

○記者 小選挙区の区割りなんですが、総理としてはいつごろまでに審議会に提案してもらって、あと国会は二か月ぐらいしかないんですが、延長しても何としてもこの国会で決着をつけるというご決意なんでしょうか。そこら辺をお聞かせください。

○羽田総理 確かにこの問題については、日時がこういう状態にあるということは現実の問題であります。

 ただ、これは私から今、行政、しかも審議委員といいますか、区画委員をお願いいたしまして議論していただいていることでありますから、今、私がどうこうというようなことは言えません。しかし、一日も早くこれをやっていただきながら、何とかこの国会の中でやるような努力というものは私たちはこれからも続けていかなければいけないだろうと思っております。

 もう少し詳しく申し上げたいんですが、何か方向性を示してしまうようなことは、審議委員は今ちょうどぎりぎりの審議を始めていただいておるところでありますから、今、私がここで言うのはここまでにさせていただきたいと思います。

○記者 それでは、どうもありがとうございました。