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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 政治改革法案参議院否決に際しての細川内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1994年1月21日
[出典] 細川内閣総理大臣演説集,219−223頁.
[備考] 
[全文]

 − では、始めさせていただきます。

 まず、幹事社の方から概括的な質問をさせていただいて、その後フリーということでさせていただきます。

 まず、政治改革法案が否決された訳ですけれども、そのことについてどうお思いになるか。特に与党の方から、社会党から大量に反対が出たということについてどう思われますか。そこから始めたいと思います。

○細川総理 初めに、まず先刻参議院の本会議におきまして政治改革関連の四法案が否決されました。誠に遺憾なことだと受け止めております。一日も早く法案の成立を期待してこられた国民の多くの皆様方の期待に沿い得なかったということは、本当に残念なことだと思っております。しかし、私としては法案の成立のためにまだ残された日も十日余りございますから、全力を尽くしてその成立のために頑張ってまいりたいと、そのように決意をいたしております。

 こういう状況を踏まえまして、国会に対しましては憲法上の手続に従って今後の対応をお願いしたいというふうに思います。幸い、自民党も河野総裁を始めとして、政治改革の今国会での実現ということにはっきりそのことを明言しておられる訳でございますから、連立与党を通じまして早急に話し合いを進めていただきたいと、このように思っているところです。

 社会党の方にいろいろ難しい問題があったということについてのお話がございましたが、連立与党を支える第一党としての社会党の中で自らの信念を貫いて反対票を投じられた方々がおられたということは大変残念なことだと思っております。しかし、今後とも連立与党をしっかり支えていっていただけるであろうと思いますし、そのように強く期待をしているところです。

 − 自民党との話し合いですけれども、大分自民党案と政府案の間で乖離があるようですが、それは自民党案の方に大福に譲歩するという姿勢で臨まれて、そうした中で憲法の規定に沿ってお話を進めていくということになりますか。

○細川総理 これは、まだこれからどういうことになりますか、両院の協議会という形になるのか、いずれにしても基本的には国会の手続の問題でありますし、衆議院の選択の問題でございますから、まず政府としては連立与党の方とよく話を詰めなければならない、そのように思っております。

 − 先ほど、今国会で成立を目指すために協議をお願いするということでしたけれども、仮にこの国会で成立しなかった場合の総理の責任をどう考えていらっしゃるか、改めて伺いたいのと、それから衆議院の解散とか、あるいは内閣の総辞職ということが念頭におありになるのかどうか、お聞かせください。

○細川総理 後段の方のお尋ねからお答えをいたしますが、そういうことは考えておりません。先ほども申し上げたように残された日数もまだございますから、その中で全力を尽くしてこの法案の成立のために力を尽くしていくということが今、私に課された最大の使命だと思っております。

 − それでは、各社からどうぞ。

 − 一連の国会審議を通じて、かなり連立与党側の国会運営が強引だったというような野党側の指摘があるんですが、これを総理から見られますと、これまでの国会運営、連立与党の対応に反省点があるというふうに思われますか。その辺はいかがですか。

○細川総理 参議院に送られてからおよそ七十日余り、七十時間近くも審議がなされてきた訳で、このことを考えますとやはりこれは議会主義のルールに従って運営が適切に行われていくということは、これはやはり議会主義のあるべき姿として私は当然のことだというふうに思っております。必ずしもそれが強引であったというふうには受け止めておりません。議会運営のルールというものを出来る限り尊重して、連立与党としてもその運営に臨んでこられたというふうに私は感じております。

 − 先ほど、自民党との話し合いについては、今後の課題だからまず連立与党の動きを見極めてと、こういう話だった訳ですが、実際問題として両院協議会にしろ、衆議院本会議にしろ、自民党の同調がなければこの法案が成立するのはまず無理だというのが一般的な見方だと思いますが、基本的にはこれまでよりも自民党に譲歩してやるという方向をおとりになって話し合いになりますか。

○細川総理 そこのところは分かりません。分かりませんが、こういう結果が出た訳ですから、そこで歩み寄る余地というものは以前よりも大きくなったというふうに考えていいんじゃないでしょうか。

 − その点について、両院協で話し合うということですが、両院協というのはそれぞれの党派から代表者を出して話し合う訳ですね。その前の段階で、前あるいは後か分かりませんけれども、いわゆる河野総裁とのトップ会談ということが一度流れたやにお聞きしていますが、そういうことを早急に考えられるということは今、検討されていますか。

○細川総理 いつでもそれは結構だということを前から申し上げてきました。機が熟すれば、今でもその気持ちに変わりはございません。

 ただ、どういう形で今後の与野党の協議が進んでいくのか。その辺を見守りながら、そういう状況が出てくればいつでもそれは喜んでトップ会談をやらせていただきたいと思っております。

 − 予算編成とか、所得税減税の問題とか、この後、懸案がいろいろ控えているんですが、政治改革が今週というか、来週に決着がずれ込んだことによって、今後のスケジュールについて変更あるいは予定どおり進めるのか、そこら辺はどうなんですか。

○細川総理 出来る限り早く経済対策を取りまとめてもらいたいということで、経済企画庁を中心として政府部内での詰めを急いでいただいておりますが、それが詰まり次第、出来次第、三次補正の作業に掛かるということになる訳でしょうが、経済対策を予算化するための作業もありますし、また印刷の日数とか、事務的なそうした問題もあるだろうと思います。極力それを圧縮して補正予算を組み、また引き続いて当初予算を組むということで、今のこの経済の状況に何とか不安を与えることがないように、少しでも早くその対策を講じていかなければならない。そういう気持ちは全く今までと変わっておりません。

 こういう状況で、確かにおっしゃるように困難な問題があると思いますが、政府として事務的に詰められるところは、出来る限り政治状況がどうであっても詰められるところもあるだろうと思いますから、そこのところは詰めていきたいと思っております。

 − 成立期限の問題をもう一度お聞きしたいんですけれども、自民党との協議が不調に終わった場合について、先ほど解散総辞職に関する質問に対して考えていないというふうにおっしゃられましたけれども、それが不調な場合の総理の責任の取られ方についてはどのようにお考えなんでしょうか。

○細川総理 それは先ほども申し上げたように、まずはこの残された十日余りの日がありますから、その間に全力を尽くすというのが私の責任を果たすゆえんであるということを申し上げた訳で、同じことで繰り返しになりますが、そういう気持ちでいるということです。

 − 重ねて伺いますが、総理は就任特に、年内に実現しなければ政治責任を取ると言われましたね。そして、今国会中だというふうに言い直された。その今国会中に出来なければどうされるかということを伺いたいんです。

○細川総理 今国会はまだあと十日余りある訳でございますから、その間に全力を尽くしてやるということを申し上げている訳です。

 − 例えば四法案一括ということですけれども、四法案のうち、例えば腐敗防止だけを先行させてやるようなことは考えられますでしょうか。

○細川総理 それは、考えておりません。やはり、四法案一括をということは自民党もそう言ってこられた訳ですし、今のこの四法案の中に政治腐敗の防止にかかわる、例えば政治と金にまつわる透明度の問題であるとか、あるいは罰則の強化であるとか、そうしたことも盛り込まれている訳ですから、しかもそうしたことは政治改革、選挙制度の改革と相まって初めて効果を上げるものだと思っておりますから、それだけを切り離してやるというのはいかがなものであろうかという基本的なスタンスに変わりはございません。

 − 社会党の反対者のために法案が否決された訳ですけれども、それに伴って現在の連立政権の在り方に変化なり影響を与えるというふうにお考えですか。

○細川総理 それは、もう少し見てみないと何とも申し上げられません。出来る限りそういうことがないように願っております。

 − では、終わります。