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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内閣改造に当たっての宮澤内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1992年12月12日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,647−664頁.
[備考] 
[全文]

 司会 最初に、まず、クラブを代表して幹事社の方から内政・外交の基本問題について、いくつかお伺いをした後に、各社から自由に質疑を行うという方式で行いたいと思います。時間は概ね一時間を予定しておりますのでよろしくお願いいたします。

 まず最初に、今回の内閣改造に当たって、最初に総理は派閥の弊害の排除、あるいは適材適所への転換ということを掲げておられたわけですが、今回、その基本方針が改造で貫くことができたというふうにお考えなのか。

 また、その結果としてみると、派閥のバランスと言いますか、派閥の壁は大変厚かったようにも見えるのですが、そこら辺についても総理のお考えをお伺いしたい。

 一方、総理総裁として、党三役人事の問題も含めて、全体の今回の人事についての総理のご自分の評価、お考えをお伺いしたいと思います。

 総理 今朝の新聞を読んでみて、どうせ褒められているとは思わなかったけれども、あのぐらいならいい方かなと思って読んだんです。

 私としましては、皆さんから非常に協力していただいたので、いい人事ができたと思って、自分は満足しております。

 我が国として、これから二十一世紀に向かって新しい国づくりをしなければならない。国際社会では冷戦後の平和秩序をどうやって創るかという、そういう時代に入ってきたんで、実力者を集めて変革と実行を目指そうと、そういうつもりで組閣をいたしましたが、適材適所で、今お話の派閥中心の人事ということについても、できるだけそういう批判に応えるべく努めたつもりですし、また、そういう意味では、党内でも協力をしてもらったと思っています。

 もちろん、党内に、現実には、派閥というものがまだありますから、だんだんそれは薄くなっていくと思いますが、その実情を全くすぐに無視するという、そういうつもりはなかったですけれども、今までのように、それにとらわれてどうも適材適所でないと分かっていることは、したくないなあと思ってまして、その目的は達することができたと。

 役員人事についても、適材の方に、適所に入っていただいたと、いうふうに、自分としてはそう思っているんです。

 記者 次に佐川事件の真相を解明をする臨時国会も終わりましたけれども、その真相解明を求める国民の声はますます高まっている。いっそ、竹下元総理の議員辞職を求める声も、非常に強くなっている。総理は、政治改革ということを強く、掲げておられますけれども、いわゆる政治改革の入口の、こうした政治倫理の問題について、国民の政治不信の解消にどのように取り組まれていかれるおつもりか。竹下さんの議員辞職の問題についても、含めて、一緒にお考え方をまずお伺いしたいと思います。

 総理 この所信表明で私は、この政治不信は、異常だと、かって経験したことがない。したがってこの不信解消と言って、強くこちらから所信表明で訴えたぐらい、私自身は国民の持っているいらいらっていうのを、痛いほど自分で分かっているつもりであります。

 ただ、その解明が、政府の関係機関による解明。国会における証人の喚問あるいは尋問等々、各々手続きを踏んで行われていますから、国民としてはますますいらいらが嵩じておられるというそういうことだと思うのです。それは、やはり我が国のような、きちんとした憲法を持っている国ですから、人権も大切であるし、法の秩序、プロセスというものも大事ですし、そこは悪い奴だからもう辞めさせてしまえというような、なかなかそういかないという、国民が自然に持っておられる感覚と、いらいらする、どうしてもそういうことができるわけですね。そこはよく分かっています。そこは、ですから、政治がそこを分かっていないといけないと思うので、あなたの言われるように、やはり政治に対する不信というのは、政治家の倫理の問題であるし、政治改革の問題であると思いますね。

 私は就任のときに、政治改革は大体一年間で抜本の答申を出してもらいたいとお願いをしておきましたけれども、ちょうど一年、国会の都合で少し延びましたが、一昨日、改革本部で答申を作ってくれたわけです。それから、緊急分はどうしても、十減九増とか政治資金の問題があって急ぐというので、前国会、前々国会と思いましたが、延びましてこの間の国会で成立しました。

 ですから、きちんきちんとそういうことはお約束した通りできてきているのですけれども、しかし、目の前にこういう事件が出てきましたから、やはり国民としては、それは政治についての不信がなかなか解消しない、私は無理もないと思いますね。

 今、竹下さんのお話がありました。これは国会でもお答えしていたことなんですけれども、我々政治家の身分というのは、議員本人とその議員を選んだ選挙民との関係、そういう非常に神聖な関係でありますから、やはり、自分で決めるというのが原則だと思うんですね。しかし、どういうことに照らして決めるべきかということになれば、やっぱり自分が選挙民から負託を受けて責任を背負っておる、自分がその負託に応えられるか、その責任を全うできるか、あるいはもうその条件が欠けているか、そういう判断を基準にやっぱり決めなければならないものだとそういうふうに思ってます。

 記者 今、総理もお触れになられましたけれども、党の政治改革の抜本改革方針が出ました。その単純小選挙区を柱とする改革案を、前回の例もありますし、この基本方針をどのように実現をしていかれるのか。

 総理 政治改革の基本方針というのを、一昨日、約束どおりの時期によくまとめて答申をしてもらいましたので、これで政治改革本部の仕事はひとまず済んで、これからこれをどうやって推進するかということになります。私は、まだ、よく党の執行部に相談していないんですけれども、その推進のための、やはり責任は私が、総裁自身が、本部長と言うんですか、推進の責任者にならなければならんと、自分で思っているんです。で、新執行部に相談しようと思っていますが、私自身が本部長として推進に当たりたいと思ってます。

 記者 先日、党の方は、法案について通常国会に提出したいという方針を出しておりますけれども、その法案については政府提案という恰好になさるのか、それとも議員立法ということになさるのか。

 総理 そこのところをまだ決めていないんですね。と言うのは、いずれにしても、これは各党にもご提案があるだろうし、ご意見があるだろうから、そういう意味でお互いの共通の土俵の問題ですから、各党ともご相談をする必要があるでしょう。その上で、どうするかを決めていきたいと思ってます。

 記者 内政の最後ですが、毎回お聞きしているんですが、景気の問題でございます。

 十一月の日銀短観も非常に厳しいものが出ておりますが、非常に不況感が一段と強まっている。この景気を転換するには、ムードを転換しなければならんというような声も聞かれますし、そのためには、金利の利下げであるとか、赤字国債の発行であるとか、あるいは所得税減税を求める声などもさまざま出ておりますが、景気対策についてどのようにお考えなのか。そして、特に具体的に、所得税減税、あるいは利下げの問題、あるいは赤字国債発行の問題などについてのお考えを具体的にお伺いしたいと思います。

 総理 昨日の日銀短観をどう読むかということですけれども、一言で言えば、在庫の調整はかなり進んできて、やや先が見えるところまで来かかっているがというのが一つあるのですね。しかし、なかなかそれが経営者の明るい見通しになっていないのは、例え話で言えば、胃の中にずいぶん入っていたものがだいぶはけましたと、胃は軽くなってるんだけれども、しかし、そんなら食欲が出てきたかというと、やはりかなり重い病気なものだから、すぐそれが食欲にはなっていないと。多分、そのぐらいの例えで、ほぼ私は当たっていると思うものですから、在庫調整がまさに進まなきゃ、胃が空っぽになってもらわなければ困るんですが、と同時に、片方で体力がついてこないと食欲にそれがなってこないので、それが総合経済対策でありますし、ここで補正が通りましたから、下半期に効果が出るでしょう。それはGNPで2・4パーセントという乗数効果があるというのですから、これは馬鹿にできない効果があるでしよう。

 ことに、公共事業は、増えるのは当たり前ですが、あとは住宅がかなりよろしいでしょうね。それなりの効果はあるんですが、しかし、やはり平成五年度の予算をそれにつなげる格好で編成をしておかないと、あの総合経済対策、あれでおしまいということでは所期の効果は出ないと思いますね。ですから、それはこれから予算編成をするときに、大事に考えておかなければならないことだというのが一つですね。

 それから、これに関連して、所得税減税というお話があって、これは国会でも何度か申し上げたんですけれども、減税というのは政治そのものみたいなものですから、本当にできるときにはやるのが本当だと私は思っていますけれども、残念ながら、今、それができる状況にないのじゃないか、もし、本当に二兆円とか三兆円とか財源をどう使うかというのであれば、それはさっきも申しましたような乗数効果の多い中央、地方の公共投資であるとか、あるいは、生活関連の施策の充実であるとか、中小企業への融資であるとか、そういうことに使った方が景気刺激の効果が大きいだろうというふうに依然として思っているんです。

 と言うのは、今お話にありましたように、「いや、それは赤字国債を出してやればいいじゃないですか」という発想は当然にある。またそういうご意見の支持者も少なからずあります。が、実は、この赤字国債というものを出すということになると、予算の編成そのものがもう締めが効かなくなっちゃう。「赤字国債を出せばまだ金はあるじゃないですか」という話にどうしてもなりやすいんですね。

 昭和五十年に赤字国債を初めて出したんです。それがようやくやめられたのが、私が大蔵大臣をしてほぼやめるところまでいって、結局十五年かかったでしょうか。それは、景気がよくなって歳入が非常に増えたもんですから、幸いにしてやめられたということもあるんです。だからなかなかこの赤字国債というものは、やっぱり麻薬みたいなところがあって、当面の効果っていうのはないわけじゃないんだけれども、なかなかやめられなくなっちゃう。そういう面があるもんですから、できるならば避けたいという気持ちがあります。

 それからもう一つ、しかしそんなら減税ということを将来考えないのかということになりますと、昭和六十二年、三年にやりました今の税制の抜本改正のときに、私はし残したと思うのは、やはり所得税の累進構造というんですか、所得が上がると高い税率にこう移っていきますね。あの累進構造が刻みが多過ぎる。ですから、サラリーマンの重税感というのは、ちょっと給料が上がると税金が増えちゃうという。あれがアメリカとかイギリスみたいに、三段階とかなんとかのっぺらしていますと、そういうことって起こらないんですね。ですが、それをやろうとすると、そこんところが一番税収が大きい部門だもんだから、なかなか、この前の抜本改正のときに英米のところまでやれなかった。それが今日残されている問題だということは私も気がついているんです。

 実は、いわゆる年金の制度改革、再計算というのが平成六、七年にあるのですが、このときにはこれから二十一世紀に向かっての国民負担をどういうふうにするかということをもう一遍考え直さなければならない時期に、もう二年ぐらいのうちに来るんですね。そのときには、この税負担の問題もやっぱり避けて通れないであろうと思っています。かねてまた、直間比率というような議論もありますから、国民負担全体の問題として、年金も併せて根本的に考えなければならない時期がやがてくる。このままいつまでも放っておいていいとは、私はですから思っておりません。

 記者 それでは、外交問題の方に移らせていただきます。

 まず、日米関係ですけれども、クリントン新政権が誕生しまして、党内外には早期に訪米をすべきではないかといった意見も出ているわけですけれども、総理ご自身としては、いつ頃にアメリ力訪問すべきなのか、そのお考えまず伺います。

 総理 実は、そういうことは早い方がいいなという気持ちは私もあって、いろいろ打診のようなことはしてみていたんですけれども、結局、クリントンさんとしては、まだ人事も十分に進んでいないということもあるんでしょうが、やはり外交については大統領は一人しかいないんだ、というそういう、原則をきちんとしておきたいという気持ちがおありでしょうね。ですから、自分が就任するまでは、それはブッシュ大統領の外交であると、そういうことをお考えのようで、どこからお出でになっても、ECの会議などで、今、ECの議長はイギリスの首相ですけれども、そういうことについてもどなたとも就任まではお会いしないというご方針のようです。そうであれば、それはなにもそれでもということはない。そういうご方針であれば、できるだけ早い機会にまたお会いをしましょうということになるので、当面の問題ではない。もちろん、電話なんかでは用があれば話すことはできますけれども。どうもそういうことのようです。私は、ですから就任されて早い機会にということが今の考え方ですね。

 記者 もう一つ重要なのはロシアの関係だと思うのですけれども、今、ロシアとの関係なかなか改善の糸口が見えませんし、ロシアの内政もどうもすっきりしない状態が続いているようですけれども、北方領土交渉を含んで、今後の日ロ関係をどう進めていくおつもりなのか。また、併せて、エリツィン大統領の日本訪問についてはどのような感触を持っておられるのか。

 総理 これは九月にエリツィンざんが訪日寸前に電話をかけてこられたことはご記憶の通りですけれども、自分の方の国内の事情で、どうもすまないが行けなくなったというこういうお話でしたね。ですから、そういう国内の事情というものがなるべく早く解消してお出でになられることを願うということになるのですけれども、それはそれとして、両国間の、仮に大統領はあのときすぐにはお出でにならなかったけれども、外交当局の接触というのはやはり大事ですから、次官クラスの、具体的に言えばクナーゼ次官とこちらは斉藤外務審議官ですけれども、こういう会合をもう一度できれば年内にでもやって、そして訪日が延期された後の両国のこれからの関係の持っていき方について相談をしてもらってはどうかと思っているんです。それは、両国の関係一般ですから、もちろん領土問題、平和条約というものは当然ありますけれども、もう少し幅の広い取り上げ方をして、今日のロシアの経済状況であるとか、あるいは我が国からの緊急援助、技術援助その他の援助の問題であるとか、広い問題の取り上げ方を、もう一度そのレベルでしてもらうことがいいのではないだろうかとこう思っていまして、先方は今、ああいう人民代議員大会ですから、それを済まされないと、いわば落ち着いてそういう体制に入れないのかもしれませんが、できればそういうことをやって、そしてさて来年に向かってどうやりますかなと、こういう相談をしてもらったらどうでしょうかね。そういうふうに今思っているのです。

 記者 来年は東京サミットですけれども、これにエリツィン大統領を招くということについてはいかがでしょうか。

 総理 それは、日本が議長国ですから、G6か国のいろいろ意向も聞きながら、我々が決めることですけれども、まだ決めるべき時期ではないと思うのです。それは、お互いが知っているように、人民代議員大会でもなかなか議論が激しくなっているようですし、IMFとの関係もどうもなかなかおいそれと進まないふうでもあるし、今、全体の問題として、これからロシアが既定路線にちゃんと向かって進んでいってくれるのかどうかといったようなことも、この今の代議員大会が済まないとちょっと見当がつきにくい。おそらくあちらもそうだと思うんです。あちらも日本との接触をどうしようかというのは、これが済むことを待っているでしょうから、いろいろな状況の展開をもうしばらく見ていなければいけないのではないかと思っています。

 記者 最後の質問になりますが、コメの問題について伺います。コメの関税化には反対であるという日本の主張に対して、田名部農林水産大臣がお回りになっても、アメリカ、ECの回答は非常に固かったように思われます。

 また、一方で、この際、関税化ということを受け入れて、むしろ条件闘争に早く転ずるべきではないかといった声も出てきております。コメを中心としますウルグァイ・ラウンド交渉に総理として今後どう臨まれるのか、お考えを伺います。

 総理 今日、新しい内閣が出発しましたが、田名部農水大臣には、留任をお願いしました。それは、私が強く、実はお願いをしたわけですが、やはり田名部さんがこの一年余り、この問題を担当されて農民に対しても非常な信頼を勝ち得、お互いの間の信頼感ってのは、深まっているということ。しかも、ご自身で、なんと言ってもこの一年間のウルグァイ・ラウンドの進行状況、ことに最も最近のことをこの間見てこられたということですから、この問題を解決していただくのに一番適任だと考えまして、留任をお願いした。

 田名部さんに、今度アメリ力とヨーロッパに行っていただいたのは、実は私がお願いをしたんです。私がお願いしました意味は、いよいよアメリ力、ECとの先だって来の会談で、ウルグァイ・ラウンドというものがおそらく文字通り最終段階に入ってきた。そこで、果たしてアメリ力とECはどういう話をしたのかという、その問題と、もう一つ、ウルグァイ・ラウンドが文字通り最終段階に入ってきたかどうか、その最終の時期をどの辺にとらえるかということを直接大臣に見てきていただきたい。と同時に、我が国の立場というものを重ねて大臣の口から説明をしてきていただきたいということでお願いをした。帰ってこられた報告を聞きますと、ウルグァイ・ラウンドというのはまさしく最終段階に入りつつある。もう少しなにかいろいろあるかもしれないが、体制としてはやはりそう判断した方がいい。その場合に、我が国がウルグァイ・ラウンドを壊したということは断じてあってはならないと思います。

 次に、田名部大臣が、我が国の立場というものをアメリカでもヨーロッパでも説明をされて、それを先方としてはよく理解をしていることではあるが、日本がなんとかウルグァイ・ラウンドを壊さないでほしい。これ、当然のことですが、我が国にもそういう要請を先方はしているということです。

 そこで、ウルグァイ・ラウンドを壊してはならない、しかし、他方で日本の農民が安心して農業ができる、安心してコメが作れるということでなければならないのですから、そういう二つの要件をどうやって満たすことができるか、これをこれからある与えられた時間の中で、農水大臣を中心に政府も党も真剣に考えなければならないだろうと。要は、日本の農民が安心をして農業をやりコメを作ってもらえる。一時やそこらのことではなくて、将来に向かって、そういう確信を持てて、したがって新しい農林省の食料、農業、農村での新施策、これが行われるような条件を確保しておくことが大事なわけですね。と同時に、ウルグァイ・ラウンドを壊さないように、日本としても協力をしなければならない。

 その二つを満たしていかなければならないというのが、これからどれだけ時間が残っていますか、年内ということはそれは無理ですが、しかし、いろんなことを考えると、そう長い時間は残ってないですね。そういうふうに考えてます。

 司会 それでは、幹事の質問はこれで終わりですので、あとは各社自由に質問をしてください。

 記者 今のラウンドの関係なんですが、これまで日本はアメリカ、ECの農業交渉が難航していることを理由に、あの専守防衛にいわば徹してきたと思うんですけれども。今の総理のおっしゃり方ですと、今後は万が一受け入れた場合に備えて、国内対策なども考えていくというお考えだということと受け取ってよろしいんでしょうか。

 総理 こういうふうに言ったらいいんじゃないでしょうか。

 専守防衛をしていたわけでもないんだけれども、何分にもあそこんとこから決まってこなきゃ、こちらがどういうふうに出ていくかということは実際分からないわけだから、まああんなに十か月もですね、長いこと、あそこんところで時間を潰されたことは実際、いくらか我々としては迷惑でもありますが、あの時間が非常に長かったために、各国とも、これは農業ばかりじゃないんですね、アクセスの問題でも、知的所有権の問題でも、サービスの問題でも、みんなあのECとアメリ力とのあれを見てるんで、いままでほとんど交渉は止まってるわけだし、我が国についてもコメばかりでない、いわばその他の農産物、あるいは農産加工品についてのオフアーも、日本だけじゃありませんが、遅れているわけで、ですからこっから、そういうものが一斉に始まろうとしている、その一つが今の日本の農業の問題である。こういうことですから、この局面に立って我々としては、さっきも申しましたような二つの条件を両方とも満たせるような対応をこれからしなきゃならない。

 実は、此の間、田名部さんが行っていただいて、「それではひとつ、そういう日本側の考えも事務当局同士でよく検討させましょう」と、いうことに一つの進展があって、そこで、アメリ力及びジュネーヴでしょうか、ジュネーヴが主になるかもしれないが、今、私の言ったようなことについての、どういうやり方があるだろいかという具体的な事務当局間の検討がこれから始まる。田名部さんが行かれたんでそれが始まる、このきっかけができたわけですが、そういう段階に今入ってきた。ですから、今あなたの言われますように、その二つの条件を満たすための方策いかんということの中には、いろんなものが入ってくると思いますね。

 その対応いかんによっていろんなものが入ってくるわけですが、目的はラウンドを壊さずに、日本の農業、コメ作りの人に本当に心配をかけない方策いかんということになりますから、そうなればいろんなことを考えなきゃならないことになるかもしれませんね。で、それは辞するところではありません。

 それは、例えば、今言われたことは非常な財政支出であるとか、その他、この根本策とかいろんなことを言われたかもしれません。それは、大事な問題ですから、できることはなんでも考えていくべきだと思いますね。

 記者 年頭の会見の日ではですね、確か食管法の改正は現実的には無理なので、無理なことは海外にも約束すべきでないというようなお考えをおっしゃったと思うんですが。その考えは、今でも変わらないんでしょうか。

 総理 そういう建前で、事務当局間の交渉が今始まるわけですね。で、お互いの間の意見交換をしながらですね、実質的にどういうことが可能なのか、さっき申しましたように、日本の農業、コメ作りというものを本当に安心してできるような条件をどのようにして作るかということを考えていかなきゃならないと思います。

 記者 その場合にコメの問題ですね、いろいろなことを考えるその方策の一つにはですね、コメの輸入関税、例えば七〇〇パーセントとか、ああいう高率関税によってですね、実質的に国内のコメ農家を保護していくと。

 そういう考え方もその方策の一つに入るんでしょうか。

 総理 これは、その文字通りこれからギリギリの折衝に入るわけですから、どういうことをというふうに言うわけにいきませんわね。

 先方としても、ウルグァイ・ラウンドが壊れては困るわけですからね。

 記者 総理に、防衛政策についてお尋ねいたします。

 ワシントンで行われていましたAWACSをめぐる日米合意ができたようですが、正直言って一機六百億円近くのですね、警戒機を持つことに、この冷戦後の、果たしてそういう高額なものが必要だろうかというのが、おそらくは庶民感情だと思うんですが。

 間もなく予算編成作業も始まりますけれども、それに絡みましてですね、中期防の見直しも含めて総理の当面の防衛政策についてお尋ねしたいと思います。

 総理 もともとですね、私は、あの何大臣の時だったのか、あそこの安全保障会議のメンバーを長くやりましたが、E2Cの時にAWACSはどうなんだろうかということを質問したことがあるんですが。やはり、あの時にはまだまだ、あのそういうものは一種の、その時の日本の立場から言えば、そこまでのものはまだ要りませんという答えであったと思うんですね。それは大分、前ですけれども。

 ですが、やっぱり専守防衛の国であれば、昔の坂田さんの言葉を使えば、耳の長いウサギのような、ああいう一種のその情報を収集する能力というのは文字通りディフェンシブなもんですから、必要なんだろうと。なににカネをかけるよりはああいうことにカネをかけるのは、やっぱり専守防衛というものの本質的な部分だろうと私はかねがね思ってきているんです。

 ここでいよいよ日本もAWACSが使える、使いこなせるようなところになって、急に値段が上がった。昔の値段を知ってる者にとってはですね、どうも高いじゃないかという感じが私もしてきてて、それで、まあ交渉に何度も行ってもらったわけですね。ある程度、話が詰づまりつつあるということです。

 で、私は、日本の経済、日本の力で買い切れないようなものを買えなんていう気持ちは全くないけれども、よく訳の分かった値段にまでなってくれば、やっぱり専守防衛の国にとっては、AWACSというのは、私は、あの持てるものなら持ちたいと実は思ってますが。

 まだ、あの最終的に防衛当局から話を聞いておりません。

 記者 中期防全体の見直しについては、いかがでございますか。

 総理 これは、あの宮下長官の時代に、とにかく見直しを前倒しでやってくれと言って、大変まじめに作業をしてくれて、かなり進んでいると思います。

 その後年度負担が多い予算の建前ですから、だからと言って、すぐ平成五年度に大きく減るんではありませんけれども、中期防全体としてはかなり大きな単位でやはり、この見直しをしてもらいたい。それは、かなり大きな単位での見直しが可能なのではないかと思っています。

 記者 アジア・太平洋外交ですけれども、総理は懇談会にも熱心に出席しておられるようですが。アジア・太平洋地域でのこれからの、冷戦後の日本の役割というものについて、どういうふうに考えておるんでしょうか。

 それから、これからのアジア・太平洋外交についての宮澤ドクトリンといったような、新たな政策の打ち出しも考えておられるのでしょうか。

 総理 経済の面で言えば、北米大陸にNAFTAができる、ヨーロッパでは統合が進んでいるという中で、世界で一番明るいスポットと言われるこの地域がどうなるかというのはみんなの注目を浴びていますが。私はあのこの地域はやはり多様性と開放性が本当の力だというふうに思ってきたし、幸いにしてこの考え方はASEANの国々がほぼ共通に持っていて、ああやって、これはAFTAと呼ぶんですかね、この地域の長期間の関税引下げの約束ができたりしていて、大体方向はいいと思うんですね。で、その中で日本もそういうこの我々の地域の開放された多様性を尊重した経済、そういう地域というものを日本としても協力をして育てていくべきだし、勿論、まあ日本の果たす役割は大きいでしょうね、通常の貿易投資関係でも大きいですけれども。この地域のそのインフラを作るということも、私は日本の務めかもしれないと思うんですよ。

 例えば、交通・通信にしてもですね。あるいは場合によっては、そのトレーニングですか、技術訓練とか、そういったような地域全体の利益のために日本が果たす役割もまた大きいだろうと思いますから、それが一つのアジアに対するこれからの我々の務めだと思いますね。

 もう一つの面は、その政治的にあるいは安全保障の面で、このアジア、この地域、仮にヨーロッパにCSCEがあるような、なにかそういう共通の傘を持てるかどうかという問題意識が、私がアジア懇談会でずっとお話を聴かせてもらってる一つの理由なんですね。

 具体的になにかを急に打ち立てるということは、多分、それだけの要素が十分には整っていない。しかし、先々やっぱりそういうものを持つことが、お互いのこの地域の安全と繁栄のために大事だろうという、そういう願いはあるというようなことが今の段階だと思いますから。日本がまた、その主導したりすることでないんですね、事の性質上、そういうとみんながいろんな話合いをしていって、やはりだんだんにそういうものが成熟してできていく。

 例えば、APECというようなものは、これは経済的なものですね。しかしASEANの拡大外相会議、なんと言うんですかポスト・ミニステリアル・コンセランス、ああいうものは多少政治的なものを含もうとしている。そういう少しずつ自然に動いてくる動きがありますので、それはやっぱり常に忘れずに育つようにしていくべきではないかと。どうも後の方の問題は無理をしてできる話ではないし、またそうすれば必ず成功しないと思いますから、絶えず問題を考えながら少しずつ、少しずつみんなで育てていくべき問題ではないかと。

 私は、一月にはいくつかの国を訪問したいということを思っているんですけれども、まだ日程が整っていませんで、一月に一週間ぐらい訪問して、自分でもう一度様子を見たり、まあ話を聞かせてもらったりしたいと思ってます。

 記者 今のアジアの問題と関連してお伺いしたいんですが。いわゆる朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮ですね、北朝鮮との日朝国交交渉が十一月の第八回でまあ決裂状態になった。今、総理がおっしゃったですね、アジアの問題を考えていく場合、韓国とロシア、あるいは中国と韓国との国交正常化もできている。だから、やはり日本と北朝鮮との国交正常化問題というのは非常に大きな問題になってくると思うのですが。現在、決裂状態になっているこの問題、交渉についてですね、どう打開されていくのか。あるいは日本がこの問題の解決のためにどういうイニシアティブを発揮していくのか。そこら辺のお考えをお伺いしたいのですが。

 総理 これは、ヨンビョンその周辺、まあもう少し一般的に言えば、朝鮮民主主義人民共和国のその核兵器の製造のための諸準備というようなことに、IAEAの査察とかいう、あるいは南北間の共同査察といいますか、そういう相互査察といいますか、そういうことが停頓してしまったもんですから、我が国との交渉が止まった。他にも事情はありましたけれども、ということですが。我が国として急にそこから支障が出るとは思いませんけれども、朝鮮民主主義人民共和国から言えば、やはり世界の状況の中でいつまでも、このこういう交渉が展開しないということは、おそらく困ることであって、日本あるいは韓国に対して、あるいはアメリカに対して遅かれ早かれなにかの動きになってくると考えるべきものではないでしょうか。

 我々は故意に交渉をサボタージュしているという状況ではありませんから、今のような問題についての展開がありますと、また進んでいける問題だろうと、こう思っているんですけどもね。

 現実に、その朝鮮民主主義人民共和国にそういう核兵器のようなものがあり、またミサイルのようなものがありますと、これは我が国にとっても現実の脅威になりますから、これは他人事ではないので、我々としてはやっばり真剣にこのことは主張せざるを得ないんですね。

 記者 話は全然変わりますけれども。政治改革のですね、選挙制度改革の問題ですけれども、単純小選挙区制を中心とした選挙制度改革の案が自民党でまとまったわけですけれども。これから政治改革協議会に出して議論するということになりますけれども、非常に野党との接点は難しいと思うんですけれども、これがうまくいかなかった場合に、国会への法案の提出というのを、例えば自民党なり政府なりで単独でやるとか、その辺の手順みたいなものはいかがですか。

 総理 その手順は確かにまだ議論されておりません。

 政治改革本部としては随分、この今度の基本方針については、随分長く一生懸命議論をしたわけですけれども、やはり小選挙区制にして、そして公費助成というような、これは資金の方にも当然関係のある問題ですから、どうもそれしかないなというのが、これを検討された皆さんの結局、意見で答申になって出てきたわけです。

 これだけ一生懸命にやりましたから、これは、まあそれを中心に党の立場というものを進めていくことになるであろうと思うんですが、それに対して野党が、まあ、今までそういうことは賛成でないということを言っておられる党があることを聞いてますけど、現実にどういうふうに反応されるのか。まだまだこれから時間もあることでよく分かりません。したがって、今のご質問について、そこまでを想定してどう対応するかということをまだ決めていませんので、やっぱり我々の中のまず立場を固めて詰めていって、それから後のことでしょうね、今のことは。ちょっと、お答えをする時機ではまだなさそうです。

 記者 総理は、今、単純小選挙区制について党の政治改革本部の方が一生懸命検討されたことだとおっしゃいましたが、総理自身はその単純小選挙区制というのは、どうお考えでしょうか。

 総理 私が今そういう表現をしたのはです、政治改革の基本方針というものが一昨日私に答申をされたわけですね。で、私自身も実はこの討議には参画をしたりしたもんですから、内容についてはかなりよく自分なりに理解もしておりますし、私自身がこの作業に自分もかかわったという意識を持ってる方なんです。ただ、さっきのような表現を使いましたのは、党としての正式の決定というものではまだないわけで、私の諮問機関としての党別に基づく機関が私に対して答申をしたものですから、これを今度党全体の意見にどうやって移していくかという問題があるわけですね。それがありますから、今のような表現をしたわけです。

 記者 総理は、去年は確か小選挙区制をかなり厳しく批判されてたと思うんですけども・・・・・・。

 総理 それは違いますね。今度の案のようなものは、出てきたことはないです。

 記者 比例代表を加味したものは・・・・・・。

 総理 それは違う案のことです。

 記者 その違いがあるから、今回は、総理のご意見も変わったということですか。

 総理 前回の案と今回の案は随分違うのですから、一緒には論ずることはできないと思いますね。

 記者 総理、税収のことでちょっとお尋ねしたいのですが。先ほど直間比率の見直しというようなことをちょっとおっしゃいましたけれども、消費税の税率のアップをお考えになっておられるんですか。

 総理 いいえ、考えていません。

 記者 昨年、総理がご就任になさった時の記者会見で、国民の理解がない限りは税率アップを考えないとおっしゃったと思うのですが。それまでの歴代の竹下内閣以来の内閣は、「私の内閣では上げない」と、こうおっしゃってたと思うんです。ちょっと、総理のニュアンスと違う印象を受けまして、先ほど、直間比率の見直しということをおっしゃいましたものですからね。

 総理 いや、それはあの私の内閣が何十年続くかですね、分からないものですから。私の内閣では云々という表現は、私はしたことがないんですよ。ただ、おっしゃいますように、これは国民的な、ほぼ支援がないと、これは法律事項ですから。できないことなんで、それを単純に言っているだけなんです。私は、ですから今そういうことを考えていない。

 記者 そうすると、揚げ足を取るわけではありませんが、国民の理解、支持を得られる場合は税率のアップをお考えになることもあり得ると。

 総理 それにお答えしない方がいいぐらいな問題で、国民がみんな上げろ、上げろということになって、私は断じて一人ででも反対しますというようなことを言うつもりはないんですけれども、ただ、そこはなかなか、国民がそんなことをおっしゃるはずはないので、おっしゃるとすればなにかやっばり、そういうときにはこういうことを考えるということがあるに違いないですね。ですから、仮想のご質問としておきましょう。

 記者 総理、政治姿勢全般についてちょっと最後にお聞きしておきたいのですが、政治不信がかつてなく高まっているということで、総理自身もおっしゃっているんですが、これが一つは内閣支持率の急激な低下にもなっているし、一方で、いままでおっしゃっていたような政策遂行にもかなり支障をきたしているんじゃないかと思うんですが、今度の改造内閣を機に総理の要するに国民へのもう少し率直な大胆な訴えとかが必要だと思うんですが、その辺はなにか心境の変化はありますか。

 総理 私は、ひとつ結果を見てくださいませんかと。政治改革というのはお約束した通り、総裁就任前にお約束した通り、緊急分はできたし、抜本分は一年で答申が出ましたと。国際平和協力については、法律が通って現にそれを移しつつありますと。残念なことに景気の回復は遅れているが、これはまだ実現したとは申せませんけれどもと。生活大国の方は五か年計画ができましたと。

 ですから、結果としてはお約束したことはかなりちゃんとできているという気持ちを私は持っていますけれども、それでもしかしこういう大きな変革の時代であることと、もう一つはやはり佐川急便のようなものは、これは、それは国民はいらいらされますわね。なかなかこの政府も国会も誰もみんな対応しない、はかばかしくないではないかという、このいらいらというのはやっぱり私がそれに対して一生懸命やっています、それでないと、なかなか国民は納得してくれないだろうと、そういう時代だと思います。

 先ほども申しましたが、今度の内閣というのは、ひとつ仕事のできる実力者に集まってもらって、その「変革と実行」というものをスローガンにしてやろうではないかと、私もその先頭に立ちますと。こういう気持ちでおります。

 記者 貿易不均衡・・・・・・、訪米のときの課題をちょっとお伺いしたいのですけれども。

 総理 訪米はまだ急なことではないもんですから、そのときにまたそのときの課題というものは出てくると思いますね。しかし、いずれにしても、今、おっしゃりかけた貿易不均衡というのは、そのときまでにはなかなか直りませんから、やっぱり一つの大事な課題になると思います。

 記者 それでは時間ですのでこれで終わります。ありがとうございました。