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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宮澤内閣総理大臣による年頭記者会見

[場所] 
[年月日] 1992年1月1日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,618−636頁.
[備考] 
[全文]

 記者 総理、明けましておめでとうございます。

 総理 おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 記者 宮澤政権、昨年十一月に発足いたしまして、二か月ということなんですが、まず、昨年の回顧、そして今年一体、どんな年になるか、しようとされているのか。その辺についてのご心境をお伺いしたいと思います。

 総理 昨年、就任早々、所信表明で、今、新しい世界平和秩序の構築が始まるということを申しましたが、その捉え方は、わずかにまだ二か月余りですけれども、間違っていないと思うんですね。したがって、そのような構築に向けて我々はそれを推進していかなければならないし、それに貢献をしていくというのが大きな流れで見た今年の課題だというふうに考えるわけです。

 それから、もう一つの問題は、予算編成を終わって私はかねて「生活大国」ということを一生懸命言ってるわけですが、非常に難しい財政事情だったけれども、公共事業中心にいい予算ができたと思っています。これを今年上手に実施をして、そして景気の動向というのについても非常に国民の関心が強いわけですから、このやや、停滞しがちな景気を予算その他の措置を併せて、明るいものにしていきたいと、こういうふうに考えています。

 記者 いろいろお伺いしたいことありますが、順番にいきたいと思います。

 まず、内政・政治課題ということなんですが、これは政府・自民党にとって、ここにきてずっと最重要課題と言われております問題に政治改革というのがございます。政治改革につきましては、総理は就任前の段階から一年をメドに結論を出されるということを、期待されるということですが、政治改革本部長の人事、昨年十二月にようやく決まりました。

 そして、今、前々、その前の臨時国会で廃案となった政治改革三法案、小選挙区比例代表並立制というものから、一旦、全体を白紙に戻してという形で協議が進むということのようなんですが、例えば、その三法案のうちの政治資金規正法の部分ですとか、そういうものを分離処理されるとか、どういうふうな基本的に進み方を考えておられるのか、ということについてお伺いしたいと思います。

 総理 長谷川さんが本部長にご就任をしていただいて、この方は政治改革には非常にご熱心な方ですから、大変に心強く思っております。

 それで今、ご指摘のように協議会が行われました。協議会では、各党からいろいろご意見があって、その廃案になった三つをタタキ台にして、これだけでやろうというのは、それは無理だよというお話がありました。それは、協議会ですから、皆さんが一番いい方法で合意を得なきゃなりませんから、私共なにもそれだけに固執するわけではない。ただ、一票の重みということについても、それは選挙区制度にも無関係ではないよ、というご議論もありました。その辺のところは、政治資金の問題等も併せて、各党がご協議にスムーズに入っていけるような、そういう雰囲気をまず作ることが大事ではないかと思っています。

 この間、党首会談を予算の関連でいたしました時にも、それについて各党首からいろんなご意見がありました。それは、いずれも政治改革に関心がないということではなくて、関心があるのであるから、ひとつ協議が順調に進むような対応をしてもらいたいんだということで、それはごもっともなことでありますから、基本の方針はひとつ協議が進んでいくように、皆さん方の全体の流れとしてのご同意および成案を得ようではないかと、そういうふうな運営をしていただきたいと思っています。

 記者 公明党委員長が現行の中選挙区制でも、格差二倍以内というような定数是正であるならば、そういう話に検対してもいいというようなことを言われ始めているようですけれども、その考え方についてはどういうお考えですか。

 総理 今朝私も、それを報道で知りましたが、私の受け取り方は、ともかく各党が政治改革というものは要りようなんだと。だから、この相談を積極的に進めようじゃないかという姿勢になっていただくことが一番有難い。一番大事なことで、それならどうするかというご相談が始まるわけですから、公明党の委員長の言われたこともそういう基本的な姿勢を示されたということで、私は評価したいと思うんです。

 記者 それでは、PKO、これも前の内閣からの懸案ではありましたですけども、昨年の臨時国会で継続審議ということになったわけで、通常国会の場合には参議院選挙も控えておりますし、廃案になるんじゃないかという見方も一部出ておりますし、さらに民社党が求めています国会承認問題もございますけれども、そういう意味で再修正、こういうことを前提としてやっていくことがあるのかどうか、この点も含めましてお伺いしたいと思います。

 総理 PKOが成立せずに参議院で継続審議になったということの経緯については、私自身も不慣れがあって自分自身で残念だったというふうに思っております。

 ただ、かなり長い期間、衆議院は勿論でしたが、参議院でも審議をさしていただくことができて、そして継続ということで議決をしてもらった。で、その審議の中で、野党の案も出ましたし、それから、いろいろなご意見を聞いていて、私も大変に得るところがあった。

 そういうことを考えてみますと、継続にしていただいたのは大変に有難いことであって、なんとかこの上に立って、通常国会ではこれを成立さしていただきたい。そのために全力を尽したいと思っています。

 これは、だんだん世の中の方にもなにも戦争する話じゃないんだなと、いわば、ノーベル平和賞をもらったような難しい仕事ではあるんだけれども、武器を使ったり撃ち合ったりするのが本来の目的ではないんだということが、だんだん国民の間にも分かっていただけ始めておりますから、そういう背景の下に通常国会でさらにご審議をお願いしたい。そして成立をさせていただきたいと思っております。

 そこで、今回の両院のご審議を通じて、なるほどこの問題にはいろんな考え方がある。政府は政府の提案を最善のものとして国会に提出したわけですけれども、衆議院においてもああいう修正があった。これは立法府が立法府として意見を持たれることは、本来当然のことであって、三権分立ということはそういうことですから、そういう立法府のご意思に対しては、もとより我々、謙虚でなければならない。それを尊重しなけりゃならんのは当たり前のことです。

 そこで、参議院のご審議のこれからの過程で、さらにそういう問題が起こるかもしれない。その場合には、よくそういうご主張を伺いながら、ともかく私共の本旨とするところは、ああいう国連の平和維持活動に我が国もやはり人的な貢献をしたい。それが大切なことだというそういう考え方でありますので、その本旨が実現するようなことであれば、それは立法府がこうあるべしとお考えになることは、それについては十分に謙虚にそれを伺わなければならない。そういう気持ちです。

 記者 その法案を上げるためにも、国会運営ということでですね。これまでは自公民ということでやって来たわけですけれども、PKOを通じまして、いわゆる自公民路線に亀裂が生じたわけですね。そういう中で、今後どういう形で対野党と言いますか、この関係をやっていこうとしておられるのか、その点についてはどういうふうにお考えでしょうか。

 総理 この間も党首会談で、各党首がこの問題に触れられました。そして、各党首ともなんにもしなくていいんだというお立場ではないわけです。おっしゃるように、三党合意のようなとこから出発をいたしましたが、いろいろな曲折の中で、ちょっと、この問題のいくつかの点が大変に鋭く焦点になって、緊迫した空気もあったわけですが、考えてみると、ここで継続審議になったということは、一息入れてもう一度、我々はなにをすべきなのか、ということを各党とご一緒に考えてみる、そういう時期とも申せるので、公民は勿論ですけど社会党もこれは一つの自分の案を出されたわけです。ですから、各党ともみんな世界の問題について、あるいは国民に対して公党として重い責任を現実に感じていらっしゃるし、また、遂行しておられるわけだから、そういう中で、いろんなあらゆるお話し合いをしてみたいし、また、そうしなければならないと思っています。

 記者 国際貢献なんですが、予算編成の前にいわゆる国際貢献税という構想が急浮上したんですが、結局事実上挫折するという形になりました。今後、日本として国際貢献をどのような形で進めていらっしゃるおつもりなのか、そのスキーム作りみたいなことについてのお考えを・・・。

 総理 このことについては、こう考えているんです。臨時国会の所信表明で、いわゆる新しい世界平和秩序の構築ということから、そこからのその平和の配当云々ということを実は申しました。それは各国にも配当があるべきだが南北問題にもあるべきなんだということを申したんですが、そこから進んで南北問題と言えば、難民だとか、病気だとか、いろいろのことをお互いが、飢餓であるとか知っておりますけれども、それ以外にも地球的な規模とか、あるいは宇宙の問題というのが、技術的にも科学的にも医学的にもいろいろ問題があって、そして新しい平和秩序ということになれば当然、人類の眼はそっちの方に向いていくと思うんです。国際貢献というのは私はそういうものを含んでいると考えております。

 そこで、我が国が経済大国となり、世界的に見てそういう意味での資金と資源を供給し得る数少ない国であるという期待を受けている。我々はその期待にやっぱり応えるべく心構えをすべきだろうと思うんです。私は基本的には、国際貢献税という考え、決して間違ってないと思うんですが、その前に日本経済というものをそういうふうに運営すべきだと思うんです。

 つまり、日本経済は日本自身の国内の二ーズを賄うためであると同時に、そういう国際的な責任を遂行するというそういう意識を持って、私は運営されるべきだと思うんです。今まででもその点は部分的には理解されていて、例えば、ODAなどもそういうものとして理解されている。しかし、日本が資金を、ことに累積債務国なんかに大きくリサイクルしてることは、まだまだ、そう国民に理解されてるわけではない。

 しかし、そういうことは現にやっているわけですから、そういうことからさらに進んで、そういう地球規模というか、あるいは宇宙の問題、そういうものについて日本は大きな貢献を期待されている国であるということ。したがって、そのように、まず経済が運営されなければならないんだと、私は思うんです。

 記者 次に、経済、財政運営について、お伺いします。今回編成をされました、平成四年度の予算案、総理としては、この中でなにに特に重点を置いておられるのか。この予算を含めまして大変景気対策を重視していると言われておりますけれども、具体的にどのように景気対策に取り組まれるのかお伺いしたいと思います。

 総理 大蔵大臣はじめ、皆さん大変ご苦労されました。私は非常に良くできたと思っているんです。こういう税収が減額補正をしなきゃならない時に、おっしゃるような景気の現状の中で、予算は非常にいいものができたと思います。第一に言わなきゃならないのは、やはり、これは国民生活との関係、景気対策もありますけれども、公共事業をきちっと確保したということだと思います。

 一般会計の伸びは五・三ですが、あと、公共事業関係の金融機関等々に対する財投、これが一〇・八だったと思いますが、それから地方の単独事業に至っては一一・五ですから。これらを合わせるとかなり大きな仕事になる。で、ここは始まってみると分かると思うんですが、これは、非常に私は心強い支援になると思います。

 それから、先ほどの国際的な立場から言って、ODAというのはやっぱり公約もありますから、確保しなけりゃならないし、これは結局七・八でしたか、できましたし、それから、高齢者、保健・福祉の推進、いわゆるゴールデン・プラン。十か年計画、これもマンバワーやなんか、看護婦さんの確保とかいうことはかなり良くできていると思います。

 それからもう一つ、私が、実は気になっていて、予算委員会でも時々申し上げていたことは、シーリングを長く続けていて、一番、教育、学術研究のところへ文部省やなんかのところへ一番しわが寄って、これは放っておけないなあという気がしてましたけど、今度、国立学校特別整備資金みたいなものを思い切って作りました。この問題についての新しい方策が作られたと思うんですね。防衛費については、こういう国際的な大きな流れの中で、防衛庁にも良く理解をしてもらって、結局三・七八ですが、その中ではやはり自衛隊の諸君にもう少し世間並みの生活をしてもらわなければならないんで、後方の方に重点を置いて、正面を査定をして、後方を少し査定増するというようなことをしてもらったつもりです。査定増というのはいけません。プラスにしたという意味です。

 記者 今回の予算案を通じて景気対策はだいたい十分と考えていますか。それとも別途で追加的な手段も必要だとお考えでいらっしゃいますか。

 総理 この間、いわゆる総量規制というものを撤廃をすることにしましたことも、住宅対策なんかには、役に立つと思いますし、金融もここにきてまた長プラが下がるあるいは短プラも日銀は低め誘導をしているというようなことを併せまして、私はこれでだいたい景気対策はできると思います。

 記者 景気対策に関連しますけれども、金利ですがもう一回再度値下げするというお考えは今のところございますか。

 総理 日銀は今も申しましたように長プラは下がるし、短プラも低め誘導をずっとしてきておられますから、これは、日銀総裁のお決めになることですが、事態の認識は、私は一緒であると、別に基本的な事態の認識に相違があるとは思ってませんから、総裁のお考えにこれはお任せしておいていいことだと思ってます。

 記者 これも景気対策に関連すると思いますけれども、総理は一貫して生活大国の実現というふうなことをおっしゃってきたわけですけれども、これについては具体的な施策はお考えなんでしょうか。

 総理 これは、さっき申しましたように公共投資を一番大切にするということ、そして生活関連のシェアをいくらかでも上げていくということが大事であるのと、もう一つはさっき申しました高齢者、保健・福祉のそういうゴールデン・プランのようなものを、このマンパワーの面でもきちんと確保していくということが、お年寄りにとってもやはり豊かな生活というものを、経験をしていただけることになるんだと思うんです。

 記者 いよいよ七日の日に、ブッシュ大統領が来日されますけれども、今回、総理、ブッシュ大統領とも、今後の日米関係を占う意味で非常に重要な首脳会談になるのではないかという認識だと思うんですが、今回の日米首脳会談に臨まれる基本的スタンスをお伺いしたいんですが。

 総理 私は、ブッシュさんが真珠湾の演説をされたのを伺って、もうなんにも自分は過去のことを恨みに思っていない、こうやって両国が手を握って、世界の平和と繁栄のためにやってることを考えれば、亡くなった人も無駄に死んだとは思わないでしょう。ということをああやって、軍艦が沈んでいる景色を背景に、生存者、ベテラン達にああいう演説することはなかなかの決断だと思いました。こういうことは大事にしなければならない。アメリカの経済というのは、確かになかなか難しいところへきていて、我々としてもそれに対してできることは一生懸命やることが、アメリカのためというよりは世界全体の平和と繁栄のために大事だと思っているんです。

 もとより、大統領の訪日ということはちょうど、真珠湾から五十年の時でもあるので、日米がこれから世界に向かって、お互いに協力して、民主主義と自由と繁栄のためになにをしていくか。こういうことをしようではないか。という将来に向かってのいわば誓いをする、そういうことが大統領がおいでになるのを待つ我々の一番基本的な問題意識なんですね。そのことは、むろん、大統領も知っておられるんですから、そういう意味での東京宣言を出したいと思うと同時に、今、現にアメリ力が持っている経済の問題、あるいは我が国が持っている非常に大きな貿易黒字の問題、それについて我々としては、できることをできるだけやる、こういう機会にしたいと思っています。

 記者 東京宣言のお話が出ましたけれども、東京宣言に盛り込まれる今後の日米の中・長期的なビジョンというものは、今、お話しされたことに尽きる。個別の問題は別にして・・・・・・

 総理 一言で申せば、今、申したことに尽きると思います。

 記者 今回、取り分け米国の方は、自動車問題の解決に力点を置いて解決を迫ってくる。日本側の協力を求めて来ると言われておりますけれども、かねて、総理はこの自動車問題の解決にも、日本側として全力を挙げたいというお立場だと思うんですけれども、具体的にこの問題をどう解決されようとしているのか。

 総理 この間、暮れにGMが大きな工場閉鎖と人員整理の計画を出して、米国人目身が非常に驚いて我々も驚きました。やっぱり、GMというのは、アメリ力人にとっては星条旗みたいなものですから。それも、昨日や今日じゃない。一九OO年の初めの頃からもう家庭に入った言葉ですから。日本のためということばかりじゃないけれども、日本の車にやられちゃってということは、アメリカ人にとってはかなりのショックなんですね。

 ですから、ちょっと普通の問題と違うんで、私は日本の自動車産業の方々、あるいはその部品に関連してらっしゃる方々に、この方々は幸いにして、アメリカのことをよく知っておられるし、世界情勢も知っておられるから、ひとつ、いろいろご苦労あるだろうが、このところアメリ力の車もできるだけ売れるように助けてやりたいし、アメリカの自動車の部品も急に今ある物を使えと言っても無理かもしれません。一、二年、もとから共同開発すれば使える物ができるわけですから、そういう努力を、ひとつ、この際もう一度、新たにしていただけませんかと。今までもそういう努力はしておられることは、私は知ってるんですけれども、こういうアメリカのGMの縮小に象徴されるような事態をお互いにひとつ真剣に同情を持って考えようじゃありませんかと、こういうお願いをしているところです。

 記者 ブッシュ大統領の来日の際には、アメリ力のSSCへの協力ということも、先方は求めてくると思うんですが、来年度予算での資金協力は見送られたわけです。中・長期的にどういった協力をされていくお考えか。当面は、その作業グループの設置というようなことも言われておりますが、いかがでございましょうか。

 総理 このことは、先ほど私が平和の配当云々との関係で、宇宙とか地球とかいう、やっぱり研究、技術等々にも、日本は積極的に入っていかなけりゃならんということを申し上げた一つの問題だと思うんです。ですから、日本としてやれることがあれば協力を致したいわけですけれども、それならば、アメリ力として、実はこういう計画を持っているので、それについて、ひとつ最初の段階から、日本も相談に入ってくれよとそういうことで、一緒に日米だけじゃないかもしれないが、この計画を作業してみてはくれませんかと。その上で、日本がなるほどこういうところで人的に協力できるとか、技術的に協力できるとか、あるいは、財政的に、資金的に協力できるとか、そういう共同研究をして答えを出していきましょうやということを、私は基本のアプローチにしたいと思ってました。そういうことでお話が進むのならば、そういう共同研究からまず始めてはどうかなと、こう思っているんです。向こうからどういつ返事があるのか分かりませんが、私はそういうふうに進めてみたらどうかと思っています。

 記者 ということは当面、その作業グループみたいなものができればというようなお考えでしょうか。

 総理 私としては、それが本当に協力というもんなら、最初からそういう共同研究でスタートすべきではないかと思っています。

 記者 総理。今年の一番大きなやっかいな問題の一つとしてコメ問題があると思うんですが、当然ブッシュ大統領との会談の中でも取り上げられるんじゃないかと思うんですが、改めて市場開放要求された場合、どのように対応されるのか。

 総理 前にも申し上げているように、国会でもお答えしてるんですけれども、今の我が国の衆・参両院の現状というのは、食管法というものを基本的に変えてしまうという、そういうことは政治的に可能ではないのです。私の基本的な判断は、そこのところから出ない。出ざるを得ない。ですから、現実にお約束をしてそれが実現しないような約束を私はしてはならない。その点は、基本なわけですね。であるが、そういうことの中でウルグァイ・ラウンドは失敗させてはいけないわけです。そんならなにができるのか。しばらく前には、年末までにそれをもう答えを出さなければならないかなあと思っていましたけれども、この間、ドンケルの紙を見ても一月十日過ぎからもう一度議論に入るんでしょうから、ヨーロッパやアメリカの出方も見ていて、その中で日本としてこういうことなら貢献になるということを考えなければならないと思っていました。ブッシュさんにはお尋ねがあればその通り申し上げようと。これは、もともと日米間の協議の問題ではなくて、多国間の協議の問題ですから。基本的にはガットの問題ですけれども、お尋ねがあれば、日本の態度はそのように申し上げようと思ってます。

 記者 今、お話のウルグァイ・ラウンドでは、例外なき関税化が盛られてるわけですね。ドンケル・ペーパーでこれは我が国の農業政策の基本転換を迫るわけなんですが、そういう意味で、総理は、日本の従来の今言われた主張を貫き通せるのかどうか、その辺はどうですか。

 総理 その関税化というのは、ガットの専門家たちが長いこと、いわば、悲願にしていたような問題ですから、それが出てくることに不思議はないし、非関税障壁を取り払った後の関税化というのは一つの合理的な考え方だと思うんですけれども、しかし、我が国の場合、これは我が国だけではなく、他にもそういう国があるでしょうけれども。現実的に、今やっている食管法というものを直せるか、根本的に変えられるか、と言えば変えられる政治情勢ではない。このことは、もう事実だから事実として、前提にせざるを得ない。その中で、ウルグァイ・ラウンドを失敗させないために、日本としてどういうことができるかということを、やっぱりぎりぎり考えなければいけないと思います。

 記者 社会党の田辺委員長なども柔軟な考え方をチラ、チラ出されてますね。ですから、国内の政治状況だけではなくて、貿易立国、日本の抱える最大の懸案なわけですから、場合によっては、与野党で話し合うとか、総理が自ら先頭に立って、この問題に取り組むという舞台、場面はまだ早いということでしょうか。

 総理 いや、取り組みつつあるんですね。表に出てませんけども。それで、こういう問題については両面がありますから。新聞の社説もあるし、政党も現実に考えなけりゃいかんということも、当然お考えになりますよ。自民党の中にでもそうですよ。ただ、その許容される範囲というもの。さっき申したようなことがありますからそういうことの中で、ガットとどういう話し合いをしていくか。今までのようになにもすることがありませんと。というようなわけにはいかないことは、国民も段々に知っておられるんだと思います。が、それにはそれなりの限度があるということだと思いますね。

 記者 そうなりますと、十三日が各国が回答することになっておるわけですね。

 総理 十三日がなにかということは十分に、今、分かっていないんですけれども、少なくとも、ECはこの間関係大臣会議を開いており、全体として、このままECとしてはこれでいくわけにはいかないと。ECの中のいろんな国の中の意見の違いもあるでしょうが、そういうことでありますから、我々としてもこれをこのままお引き受けします、というような状況が一月十三日に展開するとは思っていないんです。我々の考えというものをこの上で申し述べる。そこから、どれだけかかるんでしょうか。また、いろんなご相談なり、議論なりが始まっていくと思いますね。ECの場合もそうでしょう。

 記者 基本的にそうすると、日本政府がある種の政治決断をするという場面は、アメリカ、ECの対応を見てからということですか。

 総理 いや、そういうことより皆がお互いに、毎日、毎日のことになるでしょうから、同時進行でいろんなことがおこっていくと思いますね。

 記者 十三日以後ということですか。

 総理 以後でしょう。

 記者 そうすると十三日以前にそういう場面はないと。

 総理 だろうと私は思っているし、そう聞いています。

 記者 先ほどのですが、政治情勢というか、基本判断の部分なんですが、コメについての当面のウルグァイ・ラウンドにどう対応するかという問題が確かにあるんでしょうが、政治情勢はそうではないと。今、食管法を変えられるような状況ではないと。しかし、中・長期的には例えば、社会党なんかが考えてるように、むしろ先のことを考えると、ただ単にノーと言っているわけにはいかない。というような話が具体的になっている。先の話として、ということになると政治情勢も変わる可能性があるわけで、そういうところまで見通した上で、今、現在、ある程度の具体的な先の計画みたいなことを考えておられるんですか。

 総理 それは、これだけ問題を国民的に議論をし、いろんな方からいろいろご意見が出てくる。現実的に対応したいろいろ出てくるということは、問題についての国民の理解がそれだけ少しずつでも進んでいることだと思います。思いますが、私としては、やっぱり、ある先の時点のことをなにか言うとすればはっきりした見通しがなければ、いい加減なことは言えない。そういうふうに、世論が成熟し、柔軟になっていくことは、ガットの立場から言って好ましいことでありましょうけれども。しかし、いつそれがどういうふうに展開するかってことを、かってに私が推量したりなんかするわけにはいかないと思いますね。

 記者 次に韓国訪問について伺いたいと思います。総理就任後、最初の外国訪問として一月十六日から韓国を訪れますけれども。今回の訪問で、位置付けそれから日韓の首脳会談でどんな点を中心に話し合われたいか。それともう一つ関連しまして、北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の核査察の受入れ問題について、どのような対応をお考えになっているのか伺いたいと思います。

 総理 二〇一〇年とか二〇二〇年位を展望すると、日本を含めたASEAN十か国と言いましょうか、のGNPというのは恐らく世界で一番大きくなる、世界で一番というのは、ちょっと、表現が曖昧でしたが、ECとEFTAを含めたよりも、あるいはアメリ力とカナダ、メキシコを合わせたよりも、大きくなる位な成長をしつつある、非常に心強いことで、先般の所信表明でも日本という国は外交の一番の基盤をアジアと対米関係ですと申したのはそういう意味です。

 ですから、私は、もし、自分が首相になることがあって、そして外国訪問をするという段取になったら、最初にアジアの国に行きたいということを思っていました。

 自分が官房長官になった時に、鈴木総理にも確かそういうふうにしていただいたと思うんですけれども。

 それは、やはり、日本のそれこそアイデンティティーというのでしょうか。大切にしなければいけないと思うし、ことに韓国の場合にはその中でも指折り数えられる非常に力強い成長している国ですからね。で、日本にとっては長い意識のある隣国であると。この国と日本が仲良くできないようでは、それはアジアのことを日本は言う資格はないんですから。そういう意味で韓国を選びました。

 たまたま、盧泰愚大統領も一昨年来られて非常に立派な演説もされたし、結果を残して帰られましたから。直接にお目に掛かって、いろいろ、話をしたい。まず、一番近い国から始めたいと、こう思ったわけです。

 で、今、朝鮮半島にとっても、韓国にとってもそうであるわけですが、一番関心が持たれているのは、おっしゃいましたその朝鮮民主主義人民共和国の核兵器開発能力の問題であるわけです。

 これは、このような世界の新しい平和秩序が構築されつつあって、独立国家共同体、旧ソ連ですな、そこでも、そういう核兵器の廃絶がどんどんおこりつつある中で、もし、その核兵器の拡散が新しくあるということになると、それは我が国にとっては極めて近い所に起こることですから、重大な関心を持たざるを得ないし、いや、地球的規模でも、それは大きな問題になる。

 それですから、是非、それは核拡散防止条約の規定によって、朝鮮民主主義人民共和国もここは善処を願わないといかんということが韓国側のかなり思い切った対応であるわけですね。それは、韓国ばかりでなく、在韓米軍を含めて非常に思い切った対応をしたわけです。

 ですから、この次の動きは朝鮮民主主義人民共和国の側にある。ボールはそっちのコートに行ったということはもう明らかなんですね。

 で、たまたま、我が国は朝鮮民主主義人民共和国と、ああいう交渉を続けていますが。その交渉を続けるに当たって、この問題については、最も重大な関心を持たざるを得ないことを表明してきましたし、これからもそうでなきゃならんと思っていますので。当然、この問題はそういう立場から私も盧泰愚大統領とお話をしたいと思っています。

 記者 次に、今おっしゃった旧ソ連の問題をお伺いしたいんです。昨年のソ連邦の崩壊に伴って、いわゆる対ソ外交がどういうふうに変わっていくのかということが国民の大きな関心事になっていると思うんですが。

 総理としては、今年、どういう形で、その対ソ外交をおやりになるつもりなのか、それをまずお伺いします。

 総理 まず、昨日もロシア連邦のエリツィン大統領に私の書簡を差し上げました通り、いわゆる今までのソ連というものの主たる継承はロシア連邦によって行われたと、こう考えておりますから。したがって、いろいろの条約関係であるとか、あるいは国連の安保理事会の問題だとか、そういう原理、原則で考えていけばいいということは、我々の従来、対ソ外交といわれたものは主として、まず、ロシア連邦との間で継続して行われるとこう考えていいと思います。また、それが中心になるでしょう。

 勿論、そのウクライナとか、バイロロシアとか、カザフスタンとか有力な国が出てきましたから、そういう国に対しても、それなりの接触なり配慮をしなければならないことは、これはもとよりですけれども。中心はロシア連邦であろうと。

 で、たまたま、昨年ゴルバチョフ大統領が来られた時に、海部総理との間で領土問題が話し合われた。そのことを我々は昨年の秋の段階で当時のロシア共和国のクナーゼ外務次官と外務省の審議官との間で小委員会を設けて、ここでやるという仕組みを作っておきましたから、領土問題についてのこれからの接触というものは、そういう実は仕組みができている、そこを中心にやっていけばいいと思っています。

 記者 そこで、領土問題の展望でございますけれども、新しく、そういうソ連の体制が変わったことで、その領土交渉についての変化は出てくるのかどうか、この辺りの見通しを知りたいと思います。それと、併せてお伺いしますが、エリツィン大統領との首脳会談のご予定をもう既にお持ちでございましょうか。それから、経済支援の形がどういうふうになっているのか、お聞きしたい。

 総理 まず、領土問題はそういうことでそういう仕組みを作ってありますので、当方から先方に対して、その小委員会の協議をなるべく早く進めてもらいたいということは申し入れてあります。

 まあ無理もないんですが、先方はそのなかなか大変なことになっている訳だから、できるだけ急ぐけど、ちょっと待ってくれよというような話はそりゃ無理もないでしょうが。しかし、先方としては、考え方はエリツイン大統領にも分かってもらえていると思うということを言っておるようでありますから。

 そういう仕組みでできておりますので、それをできるだけ早く、そこで取り上げてもらうということにしたいと思います。

 で、私としてはこの問題はできるだけ早く、促進をしなくてはならないと思いますね。

 そのためには、これは非常に言い方を間違えると無礼なことになるので丁寧に言わなきゃなりませんけれども。いわゆる、この四島におられる、現に住んでおられる人達にとって、この返還という問題は、非常に実は明るい話題なんだと。決して、生活環境というものが悪くなるわけでもないし、全体地域の、いわば繁栄につながっていくのですと。我々は、そういうふうにしたいと思いますということをいろいろな意味で分かってほしい、政府が言えることには、これは限界がございます。自分の国でないんですから。が、いろんな、段々、あのビザなしの渡航もできたりするようになりますから、そういうことも見たり聞いたりして知っておいていただきたい。なにしろ、現地の人達の気持ちが一番大事なことですからね。そう思っています。

 それから、エリツィン大統領にはお目に掛かる機会があれば、なるべく早くお目にかかりたいとは思っておりますけれども、先方も、それはこういう国家の大きな変革の時期ですから、向こうのご都合もあるであろう、今、どうということを定かに申し上げることができません。

 援助の話は、いわゆる人道的な食糧であるとか、薬であるとかいうことは、これは文字通り人道的な問題であるから、なにものにも求められれば優先しなくてはならないと思っています。

 そういう意味で二十五億ドルの枠というものは、そのまま、ちゃんと現在でも有効であって、なるべく早く先方が有効に使われることを期待をしています。あの中には、多少の技術協力に関するものもあって、例えば、漁業であるとか、森林であるとか、資源であるとか、そういうものは多少利用され始めているようで、その辺のところまでは、あの二十五億ドルでコミットしていると思っております。

 金融支援ということになると、これは、バンコックでありましたIMFの協議の後、モスクワでいわゆるG7とシラーエフ委員会との会談でありましたように、全体として整ってこない訳ですね。まだ。つまり、どういう段階でどういう金が要るのか、それを誰が、どう使われるのか、その前に既往の債務はどうすんのかというところから始まった訳ですから。金融支援というものは、いずれ大きくなるであろうし、必要であると考えながら具体的な緒についていない。そういうのが現状と思います。

 記者 今年、前半の外遊についてですけれども、三月の連休、五月のゴールデンウィークと、いくつかの外遊のチャンスが考えられると思いますが。総理ご自身としては、どこへ、どういうふうに、その外遊計画を使っていくというふうにお考えになっているでしょうか。

 総理 サミットがミュンヘンでありますねえ。七月に。で、選挙もあります。ということで、今、具体的になにも考えてません。

 記者 決まっているものとしては、ミュンヘン・サミットの話がありましたけれども、この席で初めての総理としての出席ですが、日本としてどういったことをこの場で主張していこうというふうにお考えになっておられますか。

 総理 世の中が本当にこんなに早く変わっていくと、今から七月の話をするのは容易でないのですが。

 しかし、大きな新しい世界平和への流れですね。そして、中心の話題はやはりソ連ではない、その独立国家共同体あるいは東欧の動き等は、恐らく間違いなく中心課題であろうし、サミットというのは、本来、経済的な色彩が強くなきゃならんと言われてますけれども、その辺は不可分になりますね。それと、世界経済も多分動向位でしょうか。

 記者 それから、もう一つ、カンボジア和平ですけれども、東京会議といったような考え方もあるようですが、総理ご自身どんなふうに思っておられるのか。

 また、和平が実現していく過程で、PKO法案がどうなるかという問題もありましょうけれども、このカンボジア和平にどういう協力をすべきとお考えか、この二点をお伺いします。

 総理 昨年、いや一昨年か、東京でシアヌークさんや皆様来てもらって会議をやったことがあります。これはタイと一緒に相談しながらやったことでしたが、その時、成果は直接にはありませんでしたけれども、我が国のこの問題についての関心はよく関係国は皆知っていて、幸いにして、戦争している各派の間で、これでクネルージュもプノンペンに来て、SNCというのが動き始めれば、国連の活動が本格的になっていくのでしょうが、それは、いわば国連のUNTACの仕事であって、それはそれとして、力ンボジア自身の復興の問題があると思うんですね。

 つまり、我が国が言ってみれば、他の諸国と協力しながら基本的にはバイラテラルでカンボジアの復興になにができるのか、なにをしなければならないかという問題があります。

 ですから、そういう意味でカンボジアの復興化にどう呼びますか、そういうものを東京でやるということは、私は大変に意味のあることだと思いますが、そのためには、勿論、カンボジアを始め周辺各国の同意と合意が必要ですね。この間、タイのアナンさん、首相がみえた時、アナンさん自身はそういう考え、非常に賛成だと言っておられましたから、反対ということはないんだろうと思いますけれども、しかし、みんなで力を合わせてやることだから、よく関係の国々とのお話もした上で私はやりたいし、やるべきだと思いますね。

 それから、国連の平和維持活動との関連は、これはどういうことが起こつてくるかは未だ分からないし、PKOの問題もありますので、ちょっと明確に今申し上げにくい。

 記者 それでは、最後に政局のことについてお伺いします。

 本格政権、我々のつけた言葉かもしれませんが、非常に支持率が高かったのが、やはり、昨年末に支持率が大分落ちたということで、党内体制の引き締めというようなことが大きな課題になると思いますが。

 金丸元副総理を副総裁に就任していただきたいということなんですが、その辺の手応え、いかがなもんでしょうか。

 総理 私の不慣れもあって、十分でありませんでしたが、金丸先生には私、就任当時から一つ誠に恐縮だが、副総裁としてお助けをいただけないかというお願いをしていました。暮にもお目にかかってお願いを申し上げ、その後、電話なんかでも申し上げておるわけです。

 たまたま、そのご不幸に遭われたもんですから、こっちの都合ばっかり何度も何度も申し上げることも恐縮なことだと思いながら、暮押し詰まるまでお願いを申し上げてありまして、いろいろ考えていてくださるように思っております。

 まあ、一月の党大会がありますので、その時までには実現をしたいなあということで、また、年が変わりましたからお願いを申し上げたいとこう思っております。

 記者 それから、今年の夏、七月と思われますが、参院選があるわけです。前回は自民党大敗ということで政局混乱が下地になったわけですけれども。

 総理として、自民党総裁という立場で、今度の参院選にやはりどのくらいの目標を掲げておられますか。

 総理 七十六では足りないわけですよね。この前のあれが三十九でしたから。八十七なければいけないわけです。で、それを目指しますね。

 記者 これは正に政治日程の話ですが、参院選、さらにそこに衆議院解散をぶつけて、それの方が自民党にとって有利ではないかということでそういう説をなす方もいらっしゃるようですが。その点についてはどうお考えですか。

 総理 私は考えたことはありません。

 記者 それでは時間もきました。どうも有り難うございました。