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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 組閣後の記者会見(竹下内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1987年11月7日
[出典] 竹下内閣総理大臣演説集,64−86頁.
[備考] 
[全文]

基本姿勢

 問 それでは竹下総理大臣との記者会見を行います。

 総理は昨夜組閣が終わったばかりで、これが初めての公式会見ということですので、先ず最初に竹下政治の基本理念といいますか政治姿勢、抱負等についてご所見をお伺いしたいと思います。

 総理 今朝も申し上げておりましたけれども、結局、終局的には誠実な実行ということをモットーとしたいというふうに考えております。

 外交、内政それぞれございますが、私は従来ともコンセンサス主義ということを言われておりましたので、いつまでもやっぱり皆さん方の意見に耳を傾けると、こういう姿勢はこれからも貫いていきたいと思います。

 しかし、聞いてばっかりおって、結局なんにもしないんじゃないかということでは困りますので、その点見極めをつけたら私自身が決断をしなきゃならんという立場に置かれた訳でございますので、その決断したことに対しては、正に誠実な実行ということをもってこたえたいというふうに思っております。

 問 組閣の準備は極めて順調に進められたようにお見受けするんですけど、党、内閣の人事の面で特に心を砕かれたとか、あるいは総理の構想どおり進んだのかどうか、出来ばえなど伺いたいんですが。

 総理 出来ばえということは、これは自己採点というのはなかなか難しくて、皆さん方が客観的に評価をして頂くべきものでございましょう。終局的には実績を見た上での評価が一番正しかろうと思います。

 ただ、私は常日頃から申しておりますように、党のために汗をかく人と、結局そのことを続けていくならば、国民の皆さん方の為に汗をかく、ということにつながるわけでございますので、自分の時間を割いて党のためにいろいろご尽力を頂いた皆さん方に、それぞれの分野でご活躍をお願いしようということを基本において組閣に当たったわけであります。

 しかしながら、やはり、政策の継続性というものは、いつもいっておりますように大切なことでございますので、そういう極めて継続性の強い立場にある方の続投とでも申しましょうか、再任をお願いをしたということであります。総じて、経験者と党のために汗をかいた新人の方とが、融合調和された、いわば仕事師内閣ということを自分なりには思っております。

 問 基本姿勢の一部ということになりますけれども、総理は昨夜の初閣議で閣僚に対して、政治倫理と綱紀粛正ということを特に留意するようにという説示をされたようですが、総理が総裁候補であられた頃は政治倫理はあまり聞いたことがないと、この際政治倫理についてどのようにお考えでしょうか。

 総理 これこそ、政治家一人一人の心掛けというものが先ず第一でございます。国会でもいろいろ議論を致しまして、いわゆる行為規範というものにまで、この議論した、合意をしたものがございますが、要は、基本的にはこの政治家一人一人の心の持ち方ということではなかろうかと思っております。いわば自らの私生活について厳しくあるべきであるというふうにかねてから思っております。

政治資金規正法

 問 関連するわけですけれども政治と金のかかわり方という点ですね。政治資金についても非常に不透明だというふうにいつも問題になりますが、政治資金規正法の改正について、自民党が先日改正案の骨子を発表しましたのが、企業や労組の献金額の上限を一億円から二億円に倍増すると、それからパーティーが財界からも批判が出ているんですけれども、一回のパーティーで二十億円集めるとか、そういうパーティについても、出版などと同時に事業収入として法律に明記するというような内容が自民党の改正の骨子だと思われますけれども、今後、こういう形で金にまつわる不信感というのが消えるのであろうかという点、それからどういった手順で、この政治資金規正法の改正に取り組むのか、その基本的な心構えをお尋ねしたいと思います。

 総理 まず、政治資金規正法ができました当時から、いわば附則の何条であったか忘れましたが、見直し規定というものがございます。が、その見直し規定というものは、いわば可能な限り個人献金に近づけていこうという背景があるわけでございますが、現実の問題と致しましては、なかなかその事は、言うは易く行うは難しという感じが致しますので、先般西岡小委員長さんのもとで、まあ、一応たたき台として作られました改正案は現実的なものであるなぁと、それなりの評価を致しております。しかし、これはやはり国会全体で話し合うべき課題でございますので、当然国会の場でさらに協議が続けられることが好ましいんじゃないかなというふうに思っておる所であります。

 で、パーティーの問題もおそらく主催者という問題が任意団体になるのか、あるいは政治資金規正法の届出団体になるのかと、いうような判別の問題につきましては、まだ、議論もあろうかと思いますが、大筋として届出報告というようなことは、私は良く考えられたなぁというふうにこれを拝読させて頂いておるという段階でございます。

 問 さっきの八条にですね。五年経ったら、個人献金を一層強化する方途を検討するというふうに書かれている訳ですけれども、総理のご発言を聞いておりますと、やはり個人献金を強化するという方途を探るのは難しいというふうに受け取ってよろしい訳ですか。

 総理 個人献金そのものが、いわば純粋個人と、それから個人の名前でありましても、会社を代表する個人というような場合があり得ると思いますので、私自身がいわゆるこの一定額多数主義をとってきておりますが、そういうものの場合の純粋個人と法人を代表する個人という場合の選別、考え方の整理は少しく難しいなあという感じは私自身の体験上からもっております。

為替と株価

 問 それでは次に内政問題に移りたいと思います。

 まず為替相場の問題でございます。今朝のニューヨーク市場では一ドル=百三十五円台までやや戻したという事でありますけれども、円は戦後未曾有の最高値であることは間違いないと思います。で、今回のようなドルに対する不安ですけれども、これはその各国の政策協調裁定に対する疑問が出ているという見方もあります。それで日本の政府としては、今後、介入を強めていかれるのか、あるいは金利を引き下げられるのか、あるいは一層の内需拡大ということで望むのか、いずれにせよ、これを放置することは非常にやはり産業界に大きな犠牲を強いるものだと思うんですけれども、どういう対応をされるんでしょうか。

 総理 今大別して三つのご提案がございました。一つはやはり為替問題の基本には、やっぱりルーブル合意を忠実に履行すると、こういうことに尽きるのではないかなぁと思っております。そのことは、まあ協調介入等を、共同した行動をとるということを意味するものでございますけれども、このルーブル合意というものをやっぱり守ろうということも先日来、他の国の財政当局者からも言われておりますので、これを基本におくべきであるということでございます。ただ介入の金額などと言うのは、これは介入というものは、どれくらい、いつやるか判らない所に市場に対する影響があるわけでございますから、それは私が申し上げる範囲を超しておると思います。

 それから金利問題についてのご提言でございましたが、ポイントをおつきになったご質問だと思いますが、ただこれも金利問題というのは、なかんずく公定歩合ということを考えた場合には、まさに日本銀行の専権事項でありまして、政治がそれに介入するということは厳に戒めるべきことであると、いうふうに心得ております。

 それから三番目の内需拡大という問題でありますが、これはG7、あるいはサミットの経済宣言等でも双方が果たすべき役割というのを政策協調の中でうたいあっております。アメリカの財政赤字の削減、また日本、西ドイツ等の内需政策の拡大と、これは幸いにNTT株の売払収入等を活用することでありまして、いわば、環境ができておりますので、国会における補正予算というものだけで終わることなく、機能的な財政の出動というのは、正に今もまた来年度予算においても必要なことであると思っておりますし、その大筋はご案内のとおり八月末における概算要求の際には浮き彫りになっておるではなかろうかと、このように考えております。

 問 それから株価が世界的規模で暴落をしているわけですけれども、これについては一九二九年の大恐慌の再来ではないかというような見方をする人もおりますけれども、どういうふうにお考えですか。

 総理 株価の問題につきまして、ご提言のありました金利問題について若干触れたつもりでございましたが、いわゆる金利政策の調和とでも申しましょうか、これは権限は中央銀行にあるに致しましても、私共はそういう方向で調整されておることを期待しておるというふうに言い直しておきましょう。

 それから日本の経済の基礎的諸条件、すなわち、ファンダメンタルズから申しましても、私は投資家の個人、法人に限らず冷静な対応というものが今私は日本国内における株価の問題については調整局面のような形で、この冷静な対応というものが現実に現れておるんじゃないかというふうに見ております。世界中でいっぺんに株が下がったと、三〇パーセントの所もあれば、一〇数パーセントの所もあるに致しましても、この問題も私は一つにはいわば金利政策の調整、それから冷静な対応というようなことをお願いすると同時に、更なるアメリカの財政赤字の削減が両政府と国会のほうで今議論されておる最中でございますので、それが合意に達することも大きな要素として期待を持っておるということをお答えしておきます。

財政運営

 問 それでは財政運営についてお聞きをします。

 六十五年度を目指して赤字公債の脱却という目標をこれまで掲げておられるわけですが、これは大分最近の事情からいえば環境が良くなってきているという受けとめ方もあるようなんですが、首相としてはこの目標を堅持していかれるんでしょうか。

 総理 私長い間大蔵大臣をやっておりまして、国会でもとうてい不可能なものを依然として錦の御旗として掲げておるのは如何かと、こういう詰問を度々受けておりました。しかし今もご指摘のありましたように可能性というものは私はでてきたというふうに思っておる所でございます。

 従いまして、六十五年度赤字公債体質からの脱却ということにつきましては、努力目標として、やはりこれを掲げて、一つのこれは大きな財政というものに対する歯止めにもなっておりますだけに掲げてゆくべきものであるというふうに思っております。

 問 いまの財政再建ということと同時に、対外公約で内需拡大とか構造調整とかをやっていかなきゃならんというのが大きな流れになると思うんですが、それを最初に具体化されていく六十三年度の予算編成ですが、この重点をですね、いまの両点を睨みながら、どういう方針で望まれるんだろうかという重点をお聞かせ願います。

 総理 私はよく、やっばり{前2文字ママ}インフレは最大の増税であると、この考え方に徹してまいりました。したがって、財政インフレということは、やはり避けなければならない根本であると思っております。

 そうして、その範囲の中で機能的な財政の出動をもって内需拡大のための予算というものは概算要求の際にもその構図が浮き彫りになっておりますから、これは進めていきたいと思っております。ただ、いわゆる投資的経費でない、この経常部門につきましては、今日まで削減枠を設けてきたということが、私は財政の出動を可能にすることの要因の一つであったと思いますだけに、この辺で一遍に手を離してしまいますと、折角の坂の上へ押し上げた荷車がまた一遍に転がり落ちてしまうような結果になってはならんと、したがって、あくまでも物価安定という状熊の中で内需拡大のための財政経済運営をやっていくと同時に、やはり経常部門に対してはなお厳しく対応していくという姿勢で予算編成に当たるべきであろうというふうに思っております。

 ただ、ご案内のように八〇年代後半における展望と指針というものが経済審議会の議論を経て政府で発表しておりますが、まあ、これを若干この年限も過ぎたことでありますので、もちろん予算編成までに間に合わすという考え方はございませんけれども、あの経済審議会等で八〇年代後半における経済運営の問題についてはご審議をいただくべき時期ではなかろうかと、経済企画庁長官にも人を得ましたので、ご相談申し上げたいというふうに考えているところでございます。

  土地問題

 問 次に土地問題については伺いますが、総理は、今度また改めてですね、臨時国会を召集されて、この問題について審議なりですね、臨まれると思いますが、それまでどのようなお考えを表明されるのかという点とともにですね、この高値安定では、国民からみると困るわけで、土地の価格を下げるために具体的な政策として、どのようなものを早急に打ち出される考えなのかという点についてお願いいたします。

 総理 まず、この土地問題につきましては、昨夜の組閣におきまして、特に特命事項として奥野国土庁長官にお願いした土地対策担当と、まあ、この布陣でもって一つの姿勢を現わしたというふうに私なりに考えておるところであります。

 そこで具体的には奥野担当大臣の手腕にまつところが大きいわけですが、まず、先般、自由民主党また政府一体となって合意をしました具体的な問題がございます。ご承知のとおり、今の法制下ですぐできる問題、それから中期に検討する課題、そして長期の課題、まあこういうふうに三つに整理整頓された、この具体案があるわけでございます。

 従ってこれについては、まず、いわば、金融機関の窓口規制というようなことから、具体的な数字は正確に把握しておりませんが、影響が、沈静化への影響がでておるということが一つ言えると思うわけであります。

 それから、監視区域というものの設定と、いわば面積を、その地方地方で違いますけれども、このだんだん狭くしていったというような、都道府県知事さんのお執りになった措置、政府もいろいろご助言申し上げたりしてお執りになった措置というものの効果も私は出つつある、というふうに考えているところであります。

 従って、これから需給関係の問題等につきまして、いろいろな数字がございますが、それこそ、今度の担当大臣の方で、具体的な調整が行われるであろうと思っております。

 この土地担当の国務大臣をお願いしたということは、国土庁設置法であるいは調整機能というものは、読めないわけではないと思いますけれども、やはり、特に土地対策として明示することそのものが、単なる調整行為から実施行為にまで踏み込んでいただける気構えを作ったというふうにお考えいただきたいと思います。

 また、基本問題として、言葉としては必ずしも適切な表現とも思えませんが、日本列島に二つの地域がある。何か体制の違った二つの地域があるんじゃないか、すなわち、べらぼうに土地の上がる地域と、全く上がらない、下がり気味の地域と体制の違った二つの地域があると、こんな印象すら持ちますので、長期対策といたしましては、中曽根内閣のときに発表されました第四次全国総合開発計画、すなわち、一極集中から多極分散へという方向が更に推し進められていかなければ、抜本的な解決にはなり得ないというふうに考えております。

税制改革

 問 税制改革について、お伺いいたします。この問題も竹下政権の最重要課題であろうかと思いますけれども、今後どういう道筋で、どういうスケジュールで取り組み、進めていかれるお考えなのか。その際、衆議院の税制改革協議会との関係はどうなりましょうか。また税制改革のあり方、福祉目的税といったような構想もあるようですけれども、総理のご見解をお伺いいたします。

 総理 まず、税制改革につきましては、具体的手順ということになりますと、これから党ともよく相談して、大蔵省部内ですいぶん議論していただいて、それから、政府税調・党税調の意見も聞きながら党とよく相談していかなきゃならん課題だと思っております。

 ふと気が付きましたが、五十四年から私が大蔵大臣になりまして、そのあと二年間渡辺政調会長が大蔵大臣でありました。そのあと四年また私が大蔵大臣でありました。そのあと宮澤さんが引き続いてやっておられると、ちょうどこれは三人でやるという意味ではありませんけれども、そういう、いかにも原案作成時から、また、途中の審議経過から一緒にやった者がたえず顔を合わせるというような立場になったわけでございますので、それこそ党側とよく相談してやらなきゃならない問題だと思います。

 私が従来申し上げておりましたのは、まず、第一には皆さん方もご存知の方も多かろうと思いますが、昭和五十四年十二月に、国会で衆・参両院同じ文言で決議した財政再建に関する決議案というものがございます。

 全員が提案者になって全会一致で行った決議であります。その決議はいわゆる一般消費税が五十四年の選挙で不評判であった、その後を継いでの決議でございます。

 与野党相談を致しまして国民福祉充実のためには、安定した財源が必要であると、が、しかしいわゆる一般消費税はその仕組み、構造等について国民に理解されるに至らなかったと言って、その手法によらないで、これからはまず行政改革をやる、そして歳出の節減合理化をやる、更に税の抜本的改正を行ってこれに当たるべきであるという趣旨の決議でございます。

 従って、私は物の考え方、与野党一緒になって作ったものでございますだけに、原点はそこにあるんではないかというふうにかねて考えておったところであります。

 ところが今、その国民福祉充実のためには安定した財源が必要であるというくだりから、福祉目的税という、ご懸念などかあってのお尋ねであろうと思いますが、基本的に税というものは可能な限り色のつかないものを頂戴してそれを政策の優先順位に従って、この歳出面で計上していくのが本筋でありまして、目的税というのは、税の理論からいうと、まず目的税ありき、というべきものではないというふうに思っております。

 ただ、先般の政府与党の申し合わせでもやりましたように、五十四年十二月当時より更に高齢化社会というものを考えてきた場合に安定財源が必要であるという一般論はご認識いただけるに一番適切な言葉であろうというふうに今でも思っておることは事実でざいます{前5文字ママ}。

 更にこの問題については、国会の手順をどうするかと、こういうご質問かとも思うんでございますが、まず、いま税制協議会というものを、それこそ伊東総務会長が政調会長時代に汗をかいていただきまして、与野党でいろいろな議論をして、その議論が大体、この、不公平、俗に言う不公平税制の是正から新たに安定というような方向に入る入口くらいまでは、私は、大筋の潜在的合意くらいはあるんではないかというふうに見ております。

 従って税制協議会というものは、与野党が共通の土俵で話し合いすることでございますので、国民の皆さん方の意見の吸い上げにも、最も適切な場というふうにも位置づけできると思いますが、ただこれは国会で各党協議してもらうわけでございますので、一方的に私が税制協議会を作るべきだなどということを申し上げる立場にはございませんが、大変今まで実効を上げた協議機関だというふうに私は理解をしておるところでございます。

行政改革

 問 次いで、行政改革の問題をお伺いしたいんですが、竹下内閣は中曽根内閣の考え方を継承するということで、これも最大の問題だろうと思いますが、中曽根内閣でも積み残した中央省庁の統廃合問題を始め、いろいろな問題があろうと思いますけれども具体的にですね、どの辺から手を付けていかれるお考えなのか、あるいは手順をどうお考えなのか、お伺いしたい。

 総理 行政改革というのは、それこそ、先ほども申し上げました五十四年の財政改革に関する決議案の中の最初に行政改革、そう書いてあります。そのあと、五十五年大平元総理がお亡くなりになった後、鈴木内閣ができまして、中曽根前総理が行政管理庁長官となられ、この始まりました行政改革のスタートとでも申しましょうか、事実これは果実をすでに生んだものが出てまいりました。先ほど来、申しておりますNTT株の売り払い代金等による、この公共事業投資への運用とか、あるいは、それによりまして借金返し等にあてます国債整理基金に一般歳入繰り入れしなくてもいい状態になったとか、ここで一番気をつけなければなりませんのは、今もご指摘いただいたように、電電公社もやった、専売も日本たばこになった、国鉄もJR各社ができた。これですんだと、こういう気持ちになると、これこそ、押し上げた荷車が、また、急坂を滑り下りてくるんじゃないかということでございますので、今おっしゃった、本体の問題ももとよりございますが、行革審等で更に議論をいま詰めていただいております、デ・レギレーション、規制緩和等の中で、まだ行革の精神が生かされる問題は沢山あると…、だから、やれやれすんだという感じには、これは、絶対なってはならない、重大課題であるというふうに考えておるところです。

教育改革

 問 それから教育改革についてお伺いします。政府は、十月に、教育改革大綱を決定しまして、これに基づいて改革を実行に移すという段階にきておりますけども、当面の大きな課題としてはポスト臨教審をどういう形で発足させるのか、それが一番の興味だと思います。それからまたいわゆる答申を実行に移すに当たっては、財政的裏付けだとか、そういう大きな問題も横たわっておるんですけども、教育改革の手順についてどういうお考えなのか、お伺いします。

 総理 教育改革の問題でございますが、昨日、中島さんに文部大臣をお願いするに当たりまして、四役さんと私とも、相談をいたしておりました。お願いいたす際に、私から臨教審で立派な先生方に折角、答申、お答をいただいたと、これをどうして実行に移すか、いまおっしゃったポスト臨教審の問題でございますが、党側の専門家等ともよく話をして、これを適切に対処していただくように、ということを文部大臣をお引き受けいただく際に、私から特に申し上げておいたところでございます。

 確かに、この問題につきましては、政府一体となるということは、ご指摘のように、こりゃ当然のことでございますから、どういう進め工合が一番いいかということについては、中島文部大臣自身もそのことを非常によく理解していらっしゃいました。で、早速このことについては、与党の皆さん関係方面の意見も聴取して、自分で整理してまいりますと、こういう、強いご意志でありました。

 ただ、それに伴う財政問題について、ご懸念もあるようでございますが、一般論として申し上げますならば、別枠主義というのは、予算編成に当たって、この、王道としては、とるべき問題ではないというふうに考えています。

農政改革

 問 それから、もう一つの改革であります農政改革についてお伺いします。当面十二品目の農産物開放問題がございますけれども、この自由化問題についてどういうふうに対処されるのか、それから食管制度の見直しなどについても、どういうふうな姿勢でこれから臨まれていくのか、という農政改革について、お考えをお伺いいたします。

総理 基本的には、昨年の暮れでございましたが、党による説明を受けました農政審議会からの答申がございます。あの線を尊重していくべきだというふうに思っております。で、大いにそれについては私も期待をしておるところでありますが、当面のいま、十二品目の問題にもお触れにもなりました。

 これは、ガットに対してアメリ力側から提訴があって、それに対してガットが、調停案のようなものを出したり、裁判じゃございませんけれども、家庭裁判所の調停案とでも申しますか、そうした種類のことが出ますと、それを受けて二国間協議を更に進めるわけでございますので、今はその二国間協議の進み具合に非常に関心をもって見つめておるところでございます。

 が、気分として申し上げますと、自由貿易主義で一番利益を受けた国民は日本国民であります。自由貿易というものに支えられて今日の繁栄があったとも言えると思うわけであります。従って、いわゆる開放体制に移行していくというのは当然のことでありますので、専門家の方で話し合いをねばっこくやっていけば、私はある種のコンセンサス・合意というものは得られるんじゃないか、という期待をしております。

 それに伴う国内対策等もございますでしょう。これにつきましては、予算に直ちに影響するものもあるかどうか、私もまだ正確に承知しておるわけではございませんが、いわば農政グループであります佐藤農水大臣、その問題に早速取り組んでいただくようご指示を、昨日の組閣の際に私の口から本人にお願いをしておるところでございます。

国会の改革

 問 続きまして、国会の改革問題についてお伺いしたいと思います。衆議院の定数是正問題はですね、八増七減の是正後もですね、なお、違憲状態であるというような裁判所の判断も示されているわけですけれども、そういう意味で言えば、早急に取り組まなければいけない問題だと思いますけれど、これについてどのようなお考えを持っておられるのか、あわせまして参院で論議されております比例代表制の見直しの問題ですね、これについてご所見をお示しいただきたいと思います。

 総理 国会改革の中で定数問題と選挙だけにしぼってのご質問というふうに理解をしてお答えをさせて頂きます。

 定数是正問題はやっぱり基本にさかのぼれば坂田議長さんの時のあの国会決議であるというふうに私は思います。

 選挙は終わりましたものの、やれやれすんだと、まあこういう感じになることが一番いけない事でございますので、今後党の方で、この問題について、突っ込んだ議論をしていただくと同時に、これは国会のことですから、行政府の私が口出しする訳ではございませんけれども、公職選挙法等の特別委員会もございますので、あの辺へ我が党の方から働きかけをお願いしてみようというふうに思っておる所でございます。

 それから参議院の問題につきましては、いま議長さん等もずい分ご苦心頂いておるようでございますので、比例代表制を立案したときの選挙制度調査会長は私でございますけれども、いま立場を異にしておりますので、私は〃選挙学会〃の会員でもございますが、そういう専門的な立場を離れまして、国会での議論を更に進めていただこうというふうに思っておる所でございます。

 問 国会の話ですけれども、新政権発足に伴って野党との関係をどういうふうにされていくのか、当面その党首会談をやられる予定があるのかどうか、その点を伺います。

 総理 この問題になりますと、相手もあることでございますから、大体基本的には幹事長、国対委員長にお任せしようというふうに思っております。

 ただ、私自身の従来からの手法で申しますと、私の方から直ちに呼びかけるというようなノリを越したことは致しませんけれども、従来からも野党の領袖の皆さん方とは大変多く会っておる一人であると思いますので、その姿勢は今後も続けていきたいというふうに思っております。

憲法問題

 問 次に憲法問題について伺います。

 前政権は政権の中では憲法問題を当然に挙げないという姿勢できたわけですけれども、その後、靖国公式参拝問題、あるいは、その防衛分担行政といったような問題が、要素が、新たな要素がでてきまして、その憲法改正問題について、竹下内閣としてどういうふうな姿勢で臨まれるのですか。

 総理 憲法改正問題を政治日程にのせるという考え方は、まず、基本的に持っておりません。私が、平素申しておりますのは、昭和三十年の我が党の綱領のなかに、いわゆる、俗称、自主憲法という問題が書かれております。その時の背景を申し上げておるわけでございますが、よくその当時、私も若い青年でございました。が、翻訳憲法という感じを非常に強く持っておった一人でございます。

 従って、できることならば、同じ文言になっても自分の国の国語の社会から積み上げたものにしたいと、こんなことを考えておった当時もございます。

 そして、現実問題として、八十九条問題でございますとか、あるいは、予算が成立せざりし場合の暫定措置の問題ですとか、そういうような問題で、いくばくか、こういうことがあったらなぁと思ったことがないわけじゃございませんけれども、そういう勉強は大いに続けても結構だと思っております。現実問題として、この平和主義、民主主義、基本的人権、これらは正に国民の基本に関する問題でありますから、そういうことに触れる考えもございませんし、政治日程にのせるという考えは全く持っておりません。

防衛費の問題

 問 続いて、防衛費についてですけど、GNPに対する一パーセント枠というのが中曽根内閣の手で取り払われたわけですけど、これについては国民の中にも、それから近隣諸国からも反発があるんですけど、そのことについてどんなふうにお考えになりますか。

 総理 防衛費の問題については、昭和四十七年度予算を審議いたします前に、私は内閣官房長官でございました。いわゆる第四次防衛計画の先取りをしたというようなことで、国会で大変なこの立場でいろんなご鞭撻をいただいた尊い経験をもっております。そこで、その後からご承知のように防衛計画というものがなくなって、いわゆる中期業務見積というものになってまいりました。

 中期業務見積とは何ぞやと、こういって国会で質問がありますと、防衛庁が、予算要求する際の資料の一つであります、とまあこういう答弁をしておるわけであります。本来の総額明示方式というものがあって、そして、中身にそれぞれの装備というものが具体的に書き込まれて、専守防衛の域を越えるじゃないかとか、これは今はもう陳腐化しておるではないか、とかそういう議論をすることこそ、私は正に、シビリアン・コントロールそのものであるということをかねてから思っておりましたので、財政当局者でありました私の方から言い出して、合意を得ていわゆる防衛計画というものに帰ってきたというわけでございます。

 従って、始めに一パーセントありきというものの考え方、当時のGNPの今日までの推移の相違もございますが、というよりも、まず防衛計画ありきと。そこで一パーセントが五十一年の閣議決定以来、果たしてきた役割というものを十分承知の上で、しかも、オーソドックスにはあくまでも、まず計画ありきということで進むというのが私の財政担当時代からの基本的な考え方であったわけであります。

 従ってあくまでも、専守防衛というものに徹しておる限りにおいて、私は近隣諸国等の、いわば、そういう誤解と申しますか、誤解と申して非礼でありますならば、そういうご意見に対しては十分お話して説明をできる問題であると、あくまでも、まず、専守防衛というものに徹し、そうして、まず、防衛計画ありきというところから歩んで行くのが王道ではないかと、かねて考えておったことを申し上げたわけであります。

 問 その場合、防衛計画で一次防から四次防までやったと思うんですけど、その時倍々ゲームと言われるように、どんどん防衛費がふくらんできたと、それで、今度の新しい歯止めにでもですね、中期防衛計画で、総額明示してありますけど、それが終わった時点からは、今度、もう新たな歯止めというのがないわけですね。

 総理 いわゆるローリングシステムではなく、五年間を固定しているわけですね。だからその先をどうするかということは決まっていないといったほうが正確であろうかと思いますが、当然のこととして私のような考え方が、いわゆる計画というものはある方が好ましいという考え方が延長線上に置くとすれば、その第何次という言葉になるかどうか別といたしまして、そうしたこともあり得るだろうと思っております。ただ一次防から四次防の際の、いま倍々ゲームというお話でございましたが、一方、対GNP比では、逆にどんどん下がってきたという状態でありましたので、当時の、低い状態から出発した、高度経済成長期の、この予算の伸びとか、あるいはGNPの伸び、というものと、この比較連想することは、今のような安定成長の時には、ちょっと、誰がその衝にあっても難かしい事だと思っております。

靖国神社の参拝

 問 靖国神社の問題なんですが、中曽根内閣で、公式参拝に踏み切って以降、中国の反発などで、結果としては一切参拝できないという状態になっているわけなんですけど、総理は、皆で靖国神社に参拝する議員の会の会長もなされたこともあるわけですけれども、どのように打開するお考えでしょうか。

 総理 いまご指摘ありましたように、皆で、素直な気持ちで戦没者を追悼し、そして平和を祈念するという意味で、素直な気持ちで参拝するということがきわめて自然ではないかという考え方で、皆で参拝する会というものができまして、確か私が初代の会長を務めておりました。

 これも、皆で参拝する会でございますから、会長もできるだけ交替した方がいいと思っておったわけでございますが、従って、それを継続してきておることも事実でございます。そういう極めて素朴な国民感情というものが存在しておるということを、まず、基本に置くべき問題であろうと思います。で、憲法問題につきましては、これこそ憲法八十九条でございますが、これにつきましては、一応藤波官房長官時代に整理されておるわけでございますが、現実問題として起きてまいりました近隣諸国からの問題等につきましては、やはり我々が戦没者を追悼申し上げて、そうして、本当に平和を祈念する機会として捕えておるということを更に折に触れ、説明、理解を求めるというのが、この際、トラブルのようなものが起こらないですむような環境づくりに努めたいものだというふうに考えております。

誠実な外交

 問 それでは次に外交について伺いたいと思います。総理は外交分野での経験をあまりお持ちにならないという点が指摘されている訳ですけれども、それについてどうお考えになるかという点と、それから総理の政権構想の中、あるいは、昨日の首相談話の中でも誠実な外交ということを言われているんですが、具体的にこれがどういうことを意味するのか、お聞かせ願えればと思います。

 総理 まず、外交に弱いという問題は、それは皆さん方の方に批判して頂くことでございますが、厳然たる事実を一つ申し上げますならば外務大臣を経験したことがないと、これだけは厳然たる事実でございます。が、それはそれと致しまして、やっぱり外交問題についていま誠実な外交とは何ぞやということでございますが、いわば、この人類共通のふる里である地球というものを考えた時に、正に、平和というものが基本に置かれているというのは言うを待たない所であります。いま、現実の問題として起こっておりますのは、経済の摩擦を伴う、いわば経済摩擦等の範ちゅうに入る問題が大変に起こっている訳であります。

 これはまさに内政、外政一体となったうえで解決を図らなければならない問題であるというふうに思っております。私が体験してきましたいわゆる金融の国際化問題等につきましても、その内政、外交一体化という方針で今日まで望んでまいりましたので、いってみれば国民の皆さま方にもある種の意識転換をお願いしなきゃならんと、すなわち、こと今日に至った世界の、ある意味においては、一人当たりとなればこの最高の経済国家というものの立場に立った時に、自分だけですまない国際的役割というものが、外圧によってこれを行うのではなくして、それが国際社会への貢献の当たり前のことだという意識転換という点を折に触れてお願いしたいと思っております。

 従いまして、外交問題というのは約束したことは誠実に、Yesといったことは誠実にこれを実行に移さなければいかんということは、即ち外交問題を内政の場で解決する問題が沢山あるだけに、その問題を平行しながらことを進めていこうということが私の言っております内政、外交あるいは外政即ち内政というような問題意識で、私が一生懸命で果さなきゃならん役割であろうと、こういうふうに考えておることを申し上げておる所でございます。

日米関係

 問 次に、日米関係ですけれども、当面の経済摩擦に対する対処方針と、それから一月に訪米するというふうに聞いておりますけれども、その訪米で何を期待されるのかという二点についてお伺いします。

 総理 レーガン大統領から、その時はまだ総裁内定者でございましたけれども、ご連絡を頂きました時にできるだけ早い機会に会いたいという旨でありました。私も一月、できることならば、これは外交チャンネルで相談しなければなりませんが、この訪米したいと思っておる事は事実でございます。

 それまでにいま継続中の問題がございます。これらは具体的な問題として、一つ一つを解決していかなきゃならん問題であることは事実でございますが、精いっぱい両国間で、やっぱり両国の共に協調して責任を果さなきゃ、一方だけでできる問題でも必ずしもないと思いますだけに、両国間の話合いを基調にしながら、私は一つ一つの問題を誠意をもって対応すべきであるというふうに考えておる所であります。

 もう少し基本的に考えますと、やはり双方が別に約束しているという訳じゃございませんけれども、絶えず意見交換をしております所謂アメリカのこの財政赤字のグラム・ラズマン法に基づき話し合いの問題、あるいは、私どもの方のこのような形の内需中心予算ができたというようなことを基礎にして日米関係全体を話し合っていかなきゃならんじゃなかろうかというふうに思っておる所であります。

対ソ外交

 問 十二月の上旬にですね、米・ソの首脳会談が開かれる訳ですが、これは日・ソの関係にも大変良い影響を与えるとみなされておる訳ですが、対ソ外交全般に関してはどのような見通しをお持ちか、また、ゴルバチョフ訪日に関して具体的な見解をお聞かせ願いたいんですが。

 総理 先ず、この米ソ首脳会談が、潜在的合意が時にはあったが、決裂しつつもだんだん合意の線に達したと、まあ、よくデタントという言葉も使われますが、これは我が国とソ連との問題につきましても非常に良い環境を与えるものであるというふうに私も評価をしておる所であります。

 で、日本のそのものの対ソ外交、私も鳩山元総理が訪ソされた当時、あるいは田中元総理が訪ソされた当時、いろんな経緯をひもといていますが、やはりここで原則だけは、即ち領土問題でございますが、原則だけはこれを曲げるという訳にはまいらないと、そして他の問題につきましては、近隣諸国でございますから隣国であることは違いないんでございますから、なお一層のこと緊密な連絡がほしいと、その意味においてまさに今このゴルバチョフさんがこちらへきてもらう、まあ順番とでも申しましょうか、玉はあちらにあるとでも申しましょうか、そういう状態でありますので、そういう事を心から期待すると同時に、より一層その環境が成熟していくことを期待し、努力もしなければならんというふうに思っておる所であります。

アジア外交

 問 次に日中関係なんですが、総理ご自身のですね、日中外交に対する基本的なご所見と、あわせ靖国神社問題をきっかけにしまして懸案となっております光華寮問題にどう対処されていくのか、と同時に訪中への心積りをお聞かせ頂きたいと思います。

 総理 基本的に言いますならば、田中元総理の際の日中共同声明、それから今年十年を迎えます所のいわゆる平和条約、それからその後、鈴木総理の時ですか、向うにいらした三原則、それがその後四原則と、こういう基本の上に立って、これは従来以上の友好関係を構築すべきものであるというふうに基本的には考えておる所であります。で、いま申しましたように十年を迎える訳でございますから、私もそういう時に機会を得て訪中をしたいというふうに考えておる所でございます。

 また、私も最初の第一次借款の時からこれにたずさわっておりますので、経済問題等についての考え方、ない訳じゃございませんが、大筋から申しますと、そういうように考えておる所でございます。先方も新体制になりまして、私ともお互いが三十年も前の話ですけれども、青年団交流をした当時のお互い青年が、まあ元青年ですね、元青年がそれぞれの地位におつきになっておりますので、意見交換をすれば、更に密度の濃いものになっていくんじゃないかと、こういうふうに考えております。

 問 朝鮮半島ですが、来年ソウル・オリンピック、韓国については、大統領選挙、北との問題では、これは国交ないんですけども、第十八富士山丸の問題とかいろいろ、険しい問題があるんですが、朝鮮半島全体に対する対処方針は・・・。

 総理 これは、基本的には・・・、やっぱり、この南北対話というようなものの環境が熟することを、期待をしておることは当然のことでありますし、そして正に画期的な行事が、来年のオリンピックであるというふうに私は思います。これが成功することを、かつての東京オリンピック、一九六四年でございますか、当時のことを想起しながら、私は、そのことを心から願っておるということでございます。

 また、富士山丸の問題につきましては、私も、党におりますときから、これは、何にも替え難い人命の問題でございますだけに、野党の皆さん方にもお願いし、個人的な私どもの、関係にもお願いしておりますが、これが、その解決に至らないという事は大変に、残念に思っておりますし、特に、ご家族のことを考えたりしまして、私も更なる努力を続けていかなきゃならん課題であるというふうに思っております。

 問 最後になりますけれども、来月の初めの外国訪問につきまして、ASEANの首脳会議に臨まれるわけですが、今後のアジア外交のですね、基本姿勢と、それと、その日本が世界最大の債権国になっている中で、途上国とか累積債務諸国へのですね、資金援助などが求められているわけですが、今後の経済協力外交についてお聞きしたいと思います。

 総理 ASEANの首脳会議に私がじゃなくて、日本国総理大臣が招かれておると、これは、中曽根内閣からの続いた課題でありますが、私も訪問をしたいというふうに思っておりますことを、第一義的に申し上げておきます。

 それで、経済外交ということになりますと、これは個別問題としては、昨日でございましたか、対フィリピンの商品借款も含めた問題等がございましたが、こうした、あの具体的な問題につきましては、いわゆる大筋から言えば、一昨年からの九月十八日未明に決めました、我が国の、七年間のODA倍増計画、これを更に五年間でやるということになっております。

 こういう資金の効果的な拡張を図っていくと同時に、今、もひとつおっしゃいましたが、債権国となってのいわゆる資金還流問題でございますよね。この問題は南北両方から非常に日本が期待されておるわけですから、三百億ドルの中の約四割、概ねコミットしたと、こういうことになっておりますが、これらは具体的にはどのような形でそれがその国の経済繁栄、民生安定に役立つかということは、かなり相談しながら、私は、やっていかなきゃならん課題だと思っております。

 いわば、アジア全体に対して、アジアが世界の人口の五七・六パーセント、正に私共の責任の重大さを感じますと同時に、その中で果さなきゃならない経済的役割と、もう一つは留学生問題等を含む、いわゆる文化交流あるいは人材育成と、そういうことにも更に積極的に対応していきたいと思っておるところでございます。