データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鈴木総理の内外共同記者会見

[場所] 
[年月日] 1982年9月28日
[出典] 日中関係基本資料集、610−612頁.
[備考] 
[全文]

問 総理の訪中成果、中国首脳との会談を通じての印象、成果、日中関係に対する総理の今後の考え方如何。(東京新聞)

総理 日中国交正常化十周年にあたり両国総理の相互訪問の一環として訪中した。国交正常化後十年の節目として、十年の両国の歩みをふりかえり、実績を踏まえ将来を話し合った。趙紫陽総理とは南北サミットでの会談、五月の東京会談を通じ、過去に二度会っているので、同総理とは旧知の間柄で率直に話し合えた。●{登におおざと/トウ}小平主任、胡耀邦総書記にもお目にかかり、日中発展のため協力関係を確認した次第である。

 教科書問題については、中国等から非難をあびたが、このことが日中間に影を落とすようなことがあってはならない。会談に臨んで十分説明し、理解を求めた。

 趙紫陽総理は、「一段落をみた」、また●{登におおざと/トウ}小平主任は「既に解決済である」旨述べられ、中国側に感謝している。

 今後政府としては宮沢官房長官談話に基づき是正して行く方針である。教科書の記述の問題に限定することなく、日中間の信頼と協力の確立ということについて、更に一層の努力をしたい。日中両国には長い歴史を通じて信頼の基礎が存在する。中国は天然資源に恵まれ、我が国は先端技術の分野で進んでいる。これを結びつければ、相互の利益になるばかりでなく、アジアの繁栄、世界経済の発展に貢献できる。一層の協力関係を増進したい。

問 今後、日中の友好往来に積極的に取り組みたいとのことだが、特に人的往来についての考えを伺いたい。(北京放送)

総理 今後の日中両国のいっそうの友好と信頼の増進の為には、たえざる対話、豊かな交流が必要である。ただ、政府間だけでなく民間の各界各層の人的往来、いろいろの対話と接触が必要であり、その中で相互の理解増進がのぞまれる。国交正常化当時には、日中間の人的往来は、年間九千人程度だったが、昨年のそれは十三万人と大変増えた。政府間についても、閣僚会議等、定期的に話し合いをする場も設けられ、局長クラスの交換、研修生の受け入れ、専門家の派遣も非常にふえてきた。わが国への中国人留学生の数も増えてきた。多方面にわたる人的交流が今後の日中間の相互理解といった友好関係に大きな貢献をするものである。留学生、文化団体施設の為の良き環境と便役を計るため、今、民間の間で日中会館の建設気運が高まっている。政府としても積極的に助長、協力しその実現を計りたい。この件に関しては、趙総理とも意見の一致を見ている。

 今日、胡耀邦総書記との会談の際、日本政府として、正式に胡耀邦総書記の訪日を招請した。両国の人的交流が活発になり、相互理解が進んでいるなか、中国の最高指導者の胡耀邦総書記に、日本においでいただき、日本を見ていただき、日本の各層、各界の指導者と話し合いをし、相互理解を深めていただきたいと、御招待申しあげた。

問 今回、教科書問題に関する中国、アジア各国からの批判の理由は、単に記述問題だけでなく、日本の一部の閣僚の中の不用意な発言が、アジアの国民の心を傷つけたことにもあるが、総理としては、戦前の日本の行為に関しどのよな認識をもっているか。(時事通信)

総理 過去において日本が戦争を通じ中国をはじめアジア諸国に対し重大な損害を与えたことについては深くその責任を痛感し反省している。このことは、日中国交正常化の際の共同声明の前文に於ても明らかにしており、先般教科書問題が起こった際の官房長官談話においても、この精神はいささかもかわるものではないと表明している。この精神を教科書の記述の上に適切に反映させることが当然であり、日本は、政府の責任において是正する。中国首脳に対してもよく説明をし、誠意をもって是正についての作業を進めていくということを重ねて約束した。

問 総理は訪中前、中国の四つの現代化の現状を見たいとの事だったが、会談を通じ、かなり情報を得たと思う。その印象と中日国交正常化十年に臨み、今後の中日友好関係の展望を伺いたい。(人民日報)

総理 中国は、今「四つの現代化」政策をかかげて二〇〇〇年までに、農業、工業の国民生産を四倍に増やす、壮大な開発計画を進めている。日中国交正常化後において、我が国は、中国の近代化政策にできるかぎりの積極的な協力を惜しまず、経済、技術協力、科学技術、経営管理の改善につき協力した。今回の訪中を通じ、「四つの現代化」政策に、政府も国民も一体になって取り組んでいる姿、実情を目のあたりに拝見したい。又中国の指導者から直接その政策の内容、今後の進め方、それに対する展望について詳細に話をうかがい、実情もみたい、その上に立って日本が今後、どういう協力ができるか、何をなしうるかということを検討する参考にしたいと思っている。中国の三首脳に直接お会いして、情熱と決意を感じた。

 この中国の近代化計画は、一時期調整の時期を迎え、見直しがなされたが、今回の首脳の話では、この計画は、再検討の上、現実的、具体的な計画として実行に移されているとのことである。我が国としてもできるだけの協力をしたい。十億の国民を近代化政策に結集し壮大な大事業を成し遂げようということなので、政府ベースの協力だけでは不十分であり、民間、経済界、産業界の積極的な提携、協力が必要と考える。民間の活力をフルに活用し、日本だけでなく、その他の国々にも門戸を開放し、その近代化政策を進めていかなければならない。その際、投資、合併、技術、協力等の民間活動を制約するような障害を取り除く、環境条件の整備が必要である。中国の指導者に、投資保護協定、租税条約の整備を早く行なうよう述べておいた。

問 最近の記事の中で中ソ関係が改善されるとのことで、実際、中ソの会談も予定されている中ソ関係が、改善された場合の日本との関係及び、アジアヘの影響如何。(AP)

総理 中ソ関係は、アジアの平和だけでなしに、世界の安全及び安定、平和にとっても大きな影響があり、世界各国から大きな関心をもたれている。ブレジネフ書記長は、中ソの関係改善を呼びかけ、又、先般の第十二回中国共産党大会においても胡総書記は、その政治報告の中でソ連が、中国の脅威になっている、諸問題を除去する具体的措置を講ずるのであれば、関係改善が期待されると述べている。この点について中国の首脳に説明を求めたが、中国は、平和五原則に基いてソ連が具体的措置をとれば、中ソの関係修復は可能と言っている。ソ連がその誠意を示すかどうかにかかっている。中国はソ連に対し言葉だけでなく行動で、どう具体的措置をとるかを求めている。覇権主義に対しては中国は、依然厳しい姿勢をくずしていない。今後は、ソ連が誠意ある行動を示すかどうかにあると思う。日本についてソ連が北方領土を不法に占拠し、軍事基地を増強しているが、これを容認することはできない。日ソの友好関係の改善を計ることは、重要であるが、ソ連が政経分離の形で求めてきても北方領土問題を解決して平和条約を結ぶというのが、日本の道であると考えている。