データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米共同ビジョン声明

[場所] 
[年月日] 2015年4月28日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

今日,日本と米国は,70年間にわたりグローバルな平和,安全及び繁栄に永続的に貢献してきたパートナーシップを誇っている。第二次世界大戦終戦から70年を迎える本年,我々二国間の関係は,かつての敵対国が不動の同盟国となり,アジア及び世界において共通の利益及び普遍的な価値を促進するために協働しているという意味において,和解の力を示す模範となっている。日米両国は,グローバルな問題及び我々の生き方の基礎となるルール,規範及び制度へのコミットメントに則り,ルールに基づく強固な国際秩序を構築することに共に寄与してきた。

この強固な同盟とグローバルなパートナーシップへの変革は必然ではなかった。数世代にわたるあらゆる立場の人々が,過去の経験は教えとすべきであるが,将来への可能性に制約を課すべきではないとの信念の下,我々両国間の関係を時間をかけて構築した。この努力が,日米両国を,今日における位置,すなわち,互恵的な経済的パートナーシップを通じ地域の繁栄を促進し,アジア太平洋地域の平和と安全の礎であるとともに,グローバルな協力の基盤たる揺らぐことのない同盟によって支えられた,世界の二つの主要経済大国へと導いた。我々両国がたどった道のりは,全ての関係者が達成のために献身的に尽力すれば和解が可能であることを示している。

過去70年間にわたり,日米関係は,国際システムの課題や大きな変化に順応する形で,成功裡に発展してきた。日米両国は,共に,冷戦に打ち勝つとともに,その余波に対応するのに寄与し,2001年9月11日の同時多発テロ以降のテロとの闘いにおいて協働し,世界金融危機後の国際金融構造の強化のために協力し,2011年3月11日の悲劇的な東日本大震災及び津波のような自然災害に対処し,北朝鮮の核及びミサイルの脅威並びに人権侵害及び拉致に立ち向かい,イランの核計画についての懸念に対処するために協働し,国境を越える複雑な課題に対処するために協力してきた。

本日の安倍総理とオバマ大統領との間の会談は,日米のパートナーシップの変革における歴史的な前進を画するものである。我々は,日本の国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の政策及び米国のアジア太平洋リバランス戦略を通じ,地域及び世界の平和で繁栄した将来を確かなものにするために緊密に連携している。我々は,21世紀における両国の安全及び繁栄は相互に絡み合い,切り離すことができず,国境のみによって定義されないものであることを認識する。日米両国の相互及び国際秩序に対する現在及び将来のコミットメントは,そのような現実を反映している。

日米両国は,地域の繁栄を追求する上で,透明性が高く,ルールに基づき,漸進的なアプローチにコミットしている。この地域における日米両国のリーダーシップは,環太平洋パートナーシップ(TPP)を通じた貿易及び投資,開発協力並びにインターネット・ガバナンスを含む。日米両国は,ダイナミックかつ急成長するアジア太平洋地域及び世界中において,貿易及び投資のルールを定めるための取組を主導している。日米両国は,TPPの二大経済大国として,これまでに交渉された貿易協定の中で最も高い水準の協定をまとめるために取り組んでいる。TPPは,より多くの雇用を後押しし,賃金を引き上げ,地域の平和及び安定の促進を含む広範な長期的な戦略目標における日米の共同の取組を強化することによって,日米両国及びアジア太平洋地域の全体にわたって経済成長及び繁栄を牽引する。日米両国は,二国間の交渉において大きな進展があったことを歓迎するとともに,より広い協定の迅速かつ成功裡の妥結を達成するために,共に取り組むとのコミットメントを再確認する。

新たな日米防衛協力のための指針は,同盟を変革し,抑止力を強化し,日米両国が新旧の安全保障上の課題に長期にわたり対応していくことを確実なものとする。新たな指針は,同盟内の各々の役割及び任務を更新するとともに,日本が地域の及びグローバルな安全への貢献を拡大することを可能にする。新たな指針は,この地域及びそれを越えた地域において,日米両国が海洋安全保障を含む事項についてより緊密な形で取り組み,我々が希求するところを共有する他の国々と連携することを可能にする。日米両国がグローバルな射程を有するようになった同盟を強化する中で,米国は,日本における安定的で長期的な米軍のプレゼンスを基礎として,日米安全保障条約に基づく自らのコミットメントの全てについて固い決意を持っており,揺らぐことはない。

日米両国は,グローバルな課題に対処するパートナーシップを構築している。我々のアジェンダは広範なものである。我々は,人類が直面する最大の脅威の一つである気候変動及び環境悪化が引き起こす脅威に対処するため,両国の経済を更に強化し,強固で,持続可能で,均衡のとれたグローバルな成長を促進するため,確実で,手頃で,持続可能でかつ安全なエネルギーを供給するよう取り組むため,貧困を撲滅し,持続可能な開発を達成するため,人間の安全保障を促進するため,暴力的過激主義に対抗するため,核兵器のない世界の平和及び安全を達成するために核兵器不拡散条約(NPT)体制を強化するため,グローバルな貿易及び投資を促進するため,伝染病及び国際保健に対する脅威と闘うため,宇宙科学研究を進展させるとともに宇宙における抗たん性を促進するため,情報の自由な流通に基づくサイバー空間の安全で安定した利用及び開かれたインターネットを確かなものとするため,防災を促進し,自然災害及び人道的緊急事態に苦しむ人々を救済するため,人権及び普遍的自由を促進するため,世界中の女児の教育の促進並びに女性及び女児のエンパワーメントのため,そして,国連平和維持活動を強化するために協働する。米国は,日本を常任理事国に含む形で国連安全保障理事会が改革されることを期待している。70年前には,このパートナーシップは想像できなかった。今日,このパートナーシップは,日米両国が共有する利益,能力及び価値を適切に反映している。

日米両国は,グローバルな協力を拡大すべく努める上で,次の共有された原則に従う。

・主権及び領土一体性の尊重

・紛争の平和的で強制によらない解決へのコミットメント

・民主主義,人権及び法の支配への支持

・開かれた市場,自由貿易,透明性のあるルール及び規制並びに高い労働及び環境基準を通じた経済的繁栄の拡大

・航行及び上空飛行の自由を含め,共有された領域における行動に関するグローバルに認められた,国際法に基づく規範の促進

・強固な地域・国際機関の促進

・志を同じくするパートナーとの三か国及び多国間協力への支持

今日,国際的な秩序は,暴力的過激主義からサイバー攻撃に及ぶ新たな課題に直面している。力や強制により一方的に現状変更を試みることにより主権及び領土一体性の尊重を損なう国家の行動は,国際的な秩序に対する挑戦となっている。そのような脅威は,日米両国が構築してきた多くのものを危険にさらす。日米両国は,他の同盟国及びパートナーと協調して,再び順応しなければならず,また,実際にそうするだろう。同時に,日米両国の前には,科学技術,エネルギー,インフラ,芸術及び文化といった分野で,日米両国の協力を新たな水準に高める胸躍るような機会も存在する。これら及び他の分野におけるイノベーション及び起業の精神は,官民協力の支えも得て,日米両国の経済成長及び繁栄の推進力であり続ける。これらの様々な分野での日米両国の取組による恩恵は,グローバルに行き渡るだろう。日米両国が前進するに当たり,特に若い世代の間で,両国関係の重要な柱として人的交流を積極的に推進する。日米両国は,70年間にわたる両国のパートナーシップの強さ及び強靱さが今後数十年間の成功を確かなものにするとの認識の下,これらの課題及び機会に取り組んでいく。