データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米経済調和対話

[場所] 
[年月日] 2011年3月
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

日本側関心事項

1. 日米双方の経済政策に関する最新状況

両国の経済成長に向けた諸施策に関するアップデート:我が国の「新成長戦略」や規制改革等の取組の現状,米国の「国家輸出イニシアティブ」や「規制の改善と見直し」に関する大統領令等の下での取組の現状について意見交換。

2.日米二国間協力関係の更なる促進の方途

高速鉄道に関する協力*:高速鉄道整備による雇用創出,地域経済開発,地球環境面での寄与及びそれらを踏まえた高速鉄道整備の取組み及び協力に関する意見交換。

インターネットエコノミー*:クラウドコンピューティング技術,商業ネットワークのセキュリティの高度化,ネットワークの中立性及び通信の自由などインターネットエコノミーに関し日米の取組の状況に関する情報共有。

クリーンエネルギー技術協力*:クリーンエネルギー技術の開発と普及に向けた日米協力の推進状況に係る情報共有。

レアアース等稀少資源に関する日米協力*:レアアース等稀少資源に関する日米協力についての情報共有。

イノベーション・起業・雇用促進*:雇用と経済成長の源泉であるイノベーションや起業,国境を越えた投資に係る日米協力についての情報共有。

(*=その他の日米間の協議枠組みで進められている事項)

3.貿易円滑化

(1)安全かつ円滑な貿易の促進

24時間ルール・10+2ルール:相互に承認した認定事業者制度を考慮し,輸出手続の円滑化のための24時間ルール及び10+2ルールの緩和について議論。

米国向け全コンテナ貨物に対する船積み前スキャニング検査義務付け:WCO基準の枠組みに準じた貨物検査の導入を通じた円滑な物流の確保。

旅客便に搭載する貨物スクリーニング:ICAO等国際基準に協調する旅客便搭載貨物検査の実施を通じた航空保安対策の実施。

リチウム電池輸送規制:米国運輸省(DOT)及び連邦航空局(FAA)によるリチウム電池輸送にかかる安全規制強化案について議論し,関連の国際的勧告を踏まえて,流通の円滑化のための方途を検討。

(2)企業の負担軽減

再輸出規制の我が国輸入者(再輸出者)の適用除外:米国産品の再輸出に関し,日本が全ての国際輸出管理レジームに参加し,厳格な輸出管理を行っていることを踏まえ,日米間の更なる貿易円滑化のため,再輸出者の負担軽減に配慮した方途の探求。

クリーン・トラック・プログラム問題について:ロサンゼルス港における進入許可にかかる加州の制度の見直しの可能性について議論。

無線機器の米国輸出時における提出書類:税関書類(FCC様式740)について,無線機器の製造の実態を勘案し,最終検査を行った企業の記載で足りることとする。

輸出許可(E/L)の申請プロセス:防衛関連製品の輸出手続の円滑化と企業の負担軽減のための方途について議論。

不当に長期にわたるAD措置:日本企業の正当な輸出利益を確保し,輸入者やユーザーの過剰な負担を防止するために,不当に長期にわたるAD措置の撤廃。

モデル・マッチング:ダンピング・マージン計算方法を適正化する観点から,モデル・マッチン

グがより類似性の高い産品間で行われるよう確保。

NY州・加州における日本産焼酎の販売条件:ニューヨーク州及びカルフォルニア州における,韓国産ソジュと同条件での日本産焼酎の販売許可。

酒類容器の容量規制:酒類容器の容量規制の撤廃により,酒類市場の開放性を進め,外国企業の負担を軽減。

自動車ラベリング法(AALA):自動車ラベリング法の目的を念頭に,実用性と企業の負担軽減の観点から国産比率表示ラベル貼付の義務づけの見直しの可能性について議論。

4.ビジネス環境の整備

(1)参入機会の確保と予見可能性の向上

無線局免許に関する外資規制:電気通信業務を行うことを目的とする無線局免許に関する外資規制(直接20%まで,間接25%まで)について,外国電気通信事業者による柔軟なネットワーク構築等を確保すべく,撤廃。

端末機器における競争:多チャンネル・ビデオ番組配信事業者やIPTVのような次世代TVサービスプロバイダーからのサービスへアクセスするための端末機器市場について,「国家ブロードバンド計画」に基づき,競争と新規参入を確保。

ユニバーサルサービス:支援額が増大し財政状況が悪化しているユニバーサルサービス基金について,事業者の参入機会や予見可能性を確保すべく,「国家ブロードバンド計画」に基づく包括的な改革の着実な実施,及び拠出や支出の在り方を含む制度を改善。

基地建設優遇措置:米国による海外基地建設工事計画の入札に際して,開放性と日本企業対する対等な参入機会を確保。

RUSローンのローカル・コンテンツ条件:農務省地方公益サービス(RUS)の電気通信設備整備のためのローンについて,一部の国を除きローカル・コンテンツ条件が課されているため,公平性及び事業者の参入機会を確保すべく,廃止。

外国弁護士受入要件の緩和:日米の相互主義の観点から,米国の全州における外国弁護士のFLCとしての許可要件の見直しを検討(職務要件の短縮,申請直前要件の廃止,第三国における職務経験期間の算入)。

外国弁護士受入制度の全州への拡大:FLC制度の全州拡大とともに,受入制度の一元化の推進。

1920年商船法(ジョーンズ・アクト)の適用について:ジョーンズ・アクトの下での市場参入障壁の問題を解決することによる,造船市場の開放性を確保。

1920年商船法(ジョーンズ・アクト)に基づく制裁措置:米国政府に対し,今後,連邦海事委員会(FMC)が市場の実情を無視して日本を含む外国海運企業による商業的海運活動を一方的に規制することのないよう確保。

アラスカ原油輸出禁止解除法を含む各種貨物留保措置:1994年のWTO海運継続交渉に関する閣僚決定にかんがみ,商船貨物であるアラスカ原油の輸出に際しての,米国籍船使用の義務付けに代表される各種の貨物留保措置の撤廃。

新運航補助制度:国際海運市場における自由且つ公正な競争条件の確保のため,毎年1億ドルを超える運航補助を10年間にわたり実施する新航海補助制度(MSP)の廃止。

早期公開制度の例外規定廃止:重複投資の可能性を低下させ,事業損益の予測可能性を向上させるために,早期公開制度における例外規定廃止。

温州みかんの検疫条件の緩和:内外無差別の原則から,フロリダ州産かんきつに対する規制と同水準の規制となるよう,日本産温州みかんに適用している検疫条件を緩和。

有機農産物等の同等性:相互主義の観点から,日本が,有機農産物及び有機農産物加工食品の日本農林規格(JAS規格)と米国有機プログラムとの同等性を承認しているように,日本産有機農産物等に同等のアクセス機会を与えるため,日本を有機同等国として承認。

(2)審査基準の透明性向上

外国事業者等の米国市場参入に関する審査基準:事業者の参入機会や予見可能性を確保すべく,外国電気通信事業者等の米国市場への参入時の審査基準である「通商上の懸念」,「外交政策」,「競争に対する非常に高い危険」について,撤廃ないし明確化。

バイ・アメリカン(建設資材):バイ・アメリカン法及び連邦調達規則52.225等の規定の適用除外条項は,"ContractingOfficer"の決定を要するとの要求基準の明確化。

途上国からの輸入タイヤの米国安全基準合致性等サンプリング調査の実施の明確な提示:増加する途上国からの廉価なタイヤが米国安全基準をクリアしているか懸念があり,これらについて議論。

(3)企業の負担軽減

コンゴ産鉱物:金融改革・消費者保護法1502条により,米国証券取引法に基づき導入される予定である米証券取引委員会(SEC)へのコンゴ産紛争鉱物に係る開示・報告義務について,負担とサプライチェーンへの影響を現実的かつ必要最小限にする方途を検討。

医療保険制度改革法におけるメディカル・ロス・レシオ規制:「最低ロスレシオ規制」算出に際し,中小規模保険会社に配慮した措置を検討。

再保険引受けにおける担保要件:担保要件の撤廃により,大きなコストを負わされている外国保険会社の負担を軽減。完全撤廃に向けた一つのステップとして,再保険担保の減額制度を含む改善を実施。

信託財産の強制制度:機動的な資産運用の確保と口座管理にかかる事務負担軽減のための,信託財産の強制制度の撤廃。

米国特許施行規則の先行技術についての情報開示義務(IDS制度)の緩和:米国特許施行規則の下での出願人による特許発効までの米国特許商標庁に対する情報開示義務に関し,特に非英語の出願人について,事務負担軽減の観点から不必要な規則の合理化を検討。

エタノール混合燃料(E15燃料)の販売許可:E15燃料の販売許可に対する実質的な対応策について,製造者及び消費者の混乱や部品の劣化のリスク等も考慮して議論。

オゾン層破壊物質に係る物品税:内国歳入法4681条の規定遵守のため,企業にとって輸入製品が規定を遵守するものかどうかにつきサプライヤーを遡って調査することが困難であるということを念頭に,実行可能な対応を検討。

電子渡航認証システム(ESTA)有料化:日米間の人的交流及びそれに伴う経済関係の発展への影響に配慮し,ESTA有料化に懸念。

査証申請料の値上げ:「無料で非移民査証を発給する」との日米間の取極に則り,「査証申請料」の見直し及び改善。

ビザ更新手続きの効率化:米国経済における活発な日本企業の活動の維持発展のため,米国内でのすべてのビザ更新手続きの再開や,貿易・投資駐在員(E)ビザの第三国でのビザ更新手続きの開始。

ビザ発給及びビザ有効期間:米国の企業内転勤(L)ビザの有効期間を延長,及び短期就労(H)ビザの弾力的運用。

滞在許可証の有効期間の延長:相互主義の観点から,滞在許可証(I-94)の有効期間延長。

滞在許可証更新手続きの効率化:在米日本企業駐在員の負担軽減の観点から,Eビザの滞在許可証(I-94)の米国内での更新・変更手続きの開始。

オプショナル・プラクティカル・トレーニング(OPT)取得審査・発給の迅速化:日本人留学生の迅速な就労のため,審査・発給の効率化。

US-VISITExit(米国出国時の指紋採取):指紋等の生体認証情報採集の重い責任を航空会社及び船舶会社に転嫁することを避けるための,米国国土安全保障省による非米国人の米国出国時の指紋採取についての規則案の見直し。

対イラン制裁法:米国のイラン制裁法が,実際に発動されれば一般国際法上許容されない国内法の域外適用について問題となる可能性があることに留意。

ヘルムズ・バートン法(キューバ制裁法):ヘルムズ・バートン法(キューバ制裁法)の実施停止の継続。

(4)制度・規制の合理化,明確化

再審査請求の理由を,特許法112上の全ての要件不備に拡大:再審査請求の理由を,特許法112上の全ての要件不備に拡大することを通じ,瑕疵がある特許権を無効にするための機会を保障。

単一性要件の特許協力条約(PCT)基準との統一化:出願人・特許権者・監視者の負担軽減のため,単一性の判断基準の特許協力条約(PCT)基準に準じた緩和。

ヒルマ-ドクトリンの廃止及び後願排除効力の言語差別の撤廃:英語以外の言語により国際公開される出願に考慮したヒルマードクトリンの見直し。

秘匿特権の弁理士への拡張:弁理士への秘匿特権の承認の拡張を通じた,訴訟時の企業情報の保護。

社会保障番号(SSN)取得手続きの迅速化:在米駐在員が速やかに現地での生活を立ち上げられるよう,SSNの発給の迅速化。

駐在員配偶者・子女のSSN取得手続:駐在員配偶者へのSSN発給について,制度を社会保障事務所窓口に周知徹底させ,統一的な制度の運用・取扱いが実施されることを確保。

保険業界における州別規制:選択式連邦規制のような連邦規制の導入。また,その実現までの間,次善の策として,規制に関する州間相互承認制度や認可申請・届出の簡素化など,実効性のある対応策の導入。

バラスト水管理:バラスト水管理に関する規制を国際的基準に調和を通じた海運サービスの提供者に対する負担軽減及び円滑な貿易の確保。

環境規制等の州別規制の統一化:燃費規制・温室効果ガス規制,タイヤの低燃費化や修理に関する規制,会社登記の維持管理等,州毎に異なる規制の統一化を通じた環境保全等と産業界の負担の適正なバランスの確保。

電気通信にかかる接続料(アクセスチャージ):州際アクセスチャージ,州内市外アクセスチャージ,市内相互補償料金の3つが存在することについて,事業者の参入機会や予見可能性を確保すべく,「国家ブロードバンド計画」に基づく包括的な改革の着実な実施,及び,統一的な制度の確立。

スマートフォン・電子書籍端末等における著作権侵害への米国政府の対応:スマートフォン・電子書籍端末等における著作権侵害への米国政府の対応に関する情報共有。

外国弁護士の地位向上:米国における弁護士会における外国弁護士の地位や権利等の保障の有無,程度の明確化。各州の外国弁護士が取り扱える法の範囲について,特に第三国法の取扱いの可否や条件の明確化。

5.制度調和

各州免許取得期間の合理化・国際運転免許証の取扱いの改善:外国人居住者の実情に合わせた合理的な運転免許の期間・要件を定めるため,各州へ働きかけ。

運転免許有効期間延長:頻繁な運転免許更新による負担軽減のため,在米駐在員への運転免許の有効期間延長。

先発明主義とインターフェアレンス手続:先発明主義から国際標準である先願主義への移行,移行までの暫定措置としてのインターフェアレンスの手続の簡素化。

植物特許の新規性:植物特許の新規性要件を,植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)に従い,米国で販売されていない場合には販売から4年(樹木及びぶどうについては6年)以内に延長。

メートル法の併記と法制化:国際標準化機構(ISO)等における国際規格・基準の策定にあたっての基準単位として採用されているメートル法の米国における採用拡大の徹底と改善状況の確認。

6.その他の案件

バード修正条項に基づく分配の停止:バード修正条項に基づく経過措置によるAD税及び相殺関税収入の当該措置を提訴又は提訴を支持した米国内の生産者への分配を停止することを通じた,WTO勧告の履行を確保。

その他の企業の取扱い(allothersrateの算定方法):「その他の企業の取扱い」に関する米国のWTO勧告の履行を通じた,適正なダンピングマージン計算方法の確保。

ゼロイング:ゼロイングについて,これを禁止するWTO勧告の迅速かつ完全な履行を確保。

7.地域・グローバル課題への連携:地域・グローバルにおける経済面での更なる協力促進の方途

地域・グローバルにおける経済面の課題に関する協力:APEC,WTO等における連携・協力をはじめ,地域・グローバルにおける通商・ビジネス環境面等の課題に関する日米間の連携・協力。

WTOドーハ・ラウンド交渉に関する協力:妥結のための重要な「機会の窓」である本年に,DDAの早期妥結を実現するため,米国との間で必要な意見交換を行う。

(了)

{下線は省略}