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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国のアンチ・ダンピング手続(ゼロイング)に関する履行確認パネル最終報告書について

[場所] ジュネーブ
[年月日] 2009年4月25日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.日本企業の輸出品に対する米国の「ゼロイング」方式に基づくアンチ・ダンピング課税については、WTOにおいて協定違反が既に確定しているところですが、日本は、米国が是正期限までに必要な措置を採らなかったと判断し、昨年4月、改めてWTOへの提訴を行いました(履行確認パネル)。

2.4月24日(金曜日)(現地時間)、ジュネーブにおいて、WTOパネルは、日本の主張を全面的に認め、米国が是正勧告を履行しておらず、また、履行のために採られた措置はWTO協定非整合であり、WTO協定に違反した状況が続いていると認定する最終報告書を発表しました。

3.日本はWTOパネルのこの発表を歓迎するものであり、当該報告書を受け、米国が誠実かつ速やかにWTO協定に違反する措置を是正すること、及びそれによってWTOにおける紛争解決手続の実効性が維持されることが望まれます。

(参考)

1.米国のアンチ・ダンピング手続におけるゼロイング

アンチ・ダンピング税は、輸出価格と輸出国の国内価格等の正常価格とを比較して、輸出価格が正常価格よりも低い場合に、これを不当な廉売として、その差額(ダンピング・マージン)について関税を課すものである。

米国は、従来より、1年間の平均のダンピング・マージンを計算する際に、輸出価格が国内価格よりも高い場合(=ダンピング・マージンがマイナス)の価格差を「マイナス」ではなく「ゼロ」とみなすことで税率を不当に高くする手法(ゼロイング)を用いている。

2.日本の主張

日本は、平成17年2月に、米国のゼロイング方式自体とその実際の適用がWTO協定(アンチ・ダンピング協定等)に違反するとして、WTOに申し立てた。日本は産品全体で判断すべきであり、「マイナス」の価格差を無視することはこれに反するとの立場から、定期見直し等におけるゼロイングもWTO協定違反であると主張。

平成19年1月にWTO協定違反が確定し、米国に対して是正勧告が行われた。米国は、勧告履行期限(平成19年12月24日)が到来しても、一部の措置を除いて履行しなかったので、日本は昨年4月に、米国が一部の措置を除いて勧告を履行していないこと、及び履行のために採られた措置がWTO協定非整合であることを主張して、履行確認パネルの設置を求めた。

3.パネルの判断

履行確認パネルは、米国が是正勧告を履行しておらず、また、履行のために採られた措置はWTO非整合であり、WTO協定に違反していることを認定した。

4.履行確認パネル

履行確認パネルとは、紛争解決手続了解第21条5に基づき、WTO勧告の実施状況について当事国間で見解の相違がある場合に、勧告実施の有無等について判断を行うために設置されるパネルである。

5.今後のWTOにおける手続

パネル報告書に不服がある当事国は、上級委員会への申立(上訴)をすることが可能。その場合、申立から原則60日以内(最長90日以内)に上級委員会報告書がWTO全加盟国に配布され、その後、加盟国配布・公表から30日以内に紛争解決機関によって同報告書が採択される。

上級委員会への申立が行われない場合には、パネル報告書の加盟国配布・公表後60日以内に、紛争解決機関の会合において採択される。

6.米国のゼロイングに関する先例

米国のゼロイングについては、EU、メキシコ等もWTOの場で争っており、上級委員会は、初回調査におけるゼロイング及びその後の定期見直しにおけるゼロイング方式それ自体とその実際の適用をWTO協定違反であると判断した。