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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 成長のための日米経済パートナーシップ

[場所] ワシントン
[年月日] 2001年6月30日
[出典] 外交青書45号,292−294頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.日本国総理大臣と合衆国大統領は、日米両国の経済の相互依存の高まり、両国経済が直面する機会及び課題、並びに日米両国及び世界の繁栄を支えていく必要性を認識し、「成長のための日米経済パートナーシップ」(「パートナーシップ」)を以下のとおり設置することを発表する。

2.パートナーシップの目的は、健全なマクロ経済政策、構造改革及び規制改革、金融機関及び企業の改革、外国直接投資、開かれた市場等の問題を取り上げ、二国間の、地域的な及びグローバルな経済及び貿易問題に関する協力と取組みのための構造を提供することにより、両国とともに世界の持続可能な成長を促進することである。

 日米両国政府(「両政府」)は、民間部門からのインプットが、パートナーシップの目的の実現にとって有益でありうることを認識する。

 パートナーシップは、いずれか一方の政府が関心及び利益を有する問題を取り上げることを可能とするような、双方向の対話の原則を基礎とする。パートナーシップの下でいずれか一方の政府によってとられる措置は、政府による対応が可能で責任が及ぶ範囲の事項に限られ、また、最恵国待遇ベースで適用される。

3.両政府は、パートナーシップの目的を実現するために、フォーラムを以下のとおり設置する。両政府は、重要な問題に焦点を絞る必要性を認識し、複数のフォーラムでの議題の重複は、最大限避けることとする。

4.「日米次官級経済対話」(「次官級会合」)は、パートナーシップの方向性を定める。次官級会合は、非公式かつ柔軟な形式をとりつつ、二国間の、地域的な及び多数国間の問題全般を扱うため、少なくとも年一回開催される。次官級会合は、例えば、グローバルな及び地域的な問題について意見交換を行い、多数国間の及び地域的な枠組みにおける協力を強化し、マクロ経済問題、構造改革及び規制改革、金融機関及び企業の改革等の両国経済における動向をレビューし、並びに、両首脳の会合を念頭におき、他の二国間のフォーラムにおいてとり上げられる問題を必要に応じて議論することを含め、二国間経済関係を進展させることができる。

 次官級会合の参加者は、日米両国の主要経済関係省庁の次官級レベル及び議題に応じて適当な他の省庁を含む。次官級会合は、日本側は外務省、米側は国家安全保障会議及び国家経済会議が議長を務める。

5.「官民会議」(「会議」)は、両政府による経済に関する作業に、日米両国の民間部門をより十分な形で統合することを意図している。

 A.年次会合:

 会議は、両政府が事前に意見の一致をみた議題について議論するため、毎年、次官級会合の直前に会合する。会議の目的は、日米両国の民間部門の代表がそのような議題に関する専門知識、所見及び提言を含むインプットを行うことができるようにすることである。両政府は、パートナーシップの下で作業を実施するにあたり、この民間部門のインプットを真剣に考慮する。会議の参加者は、次官級会合に参加する政府の実務者、議題に応じて適当な他の省庁の実務者、及び両国のハイレベルの民間部門の代表を含む。各政府は、議題に応じて適当な各々の民間部門の代表団の構成を選定する。

 B.議題:

 両政府は、民間部門と緊密に協議の上、会議の年次会合の議題を設定する。

 C.レビュー:

 両政府は、第1回年次会合の終了後2ヶ月以内に、会議の構成及びその有効性を評価し、適当な場合には改善を行うため、会議についてのレビューを実施する。更なるレビューは、両政府の意見の一致に基づき行われる。

6.「規制改革及び競争政策イニシアティブ」(「改革イニシアティブ」)は、規制改革及び競争政策に関する分野別及び分野横断的な問題に焦点を絞ることにより、経済成長を促進することを意図している。改革イニシアティブは、1997年6月19日の日米両国の共同声明によって設置された現行の「規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブ」(「強化されたイニシアティブ」)に代わるものである。強化されたイニシアティブの下でとられた進展、特に規制の減少、競争の強化、及び市場アクセスの改善における進展を認識し、改革イニシアティブは、強化されたイニシアティブの下での作業を基礎とし、重要な改革が行われつつある主要な分野及び分野横断的な問題に焦点をあてる。

 A.上級会合:

 両政府は、上級会合を設置し、作業部会(下記参照)における作業をレビューし、前進させる。上級会合は、作業部会から出される懸案の解決に努める。上級会合は、日本側は外務審議官、米側は通商代表部次席代表が議長を務め、適当な場合、他の省庁からの参加者を含む。本会合は年一回、又は、両政府の意見の一致に基づき、より頻繁に開催される。

 B.年次報告:

 上級会合は、年一回、総理大臣及び大統領に対し、両政府がとる措置を含む、改革イニシアティブの下での進展を特定した文書による報告を提出する。この目的のため、各作業部会は、各々の作業の進展について、上級会合に報告する。適当な場合、この報告には、財務金融対話(下記参照)の下で達成される金融部門の自由化の進展が含まれる。

 C.作業部会:

 両政府は、規制改革及び競争政策を促進するための措置につき詳細に扱うため、4つの分野別作業部会と1つの分野横断的な問題に関する作業部会を設置する。両政府の意見の一致により、将来、追加的に作業部会が設置されることもあり得る。作業部会は、各政府から提出される提案を取り扱うため、年間を通じて会合を行う。各作業部会には、そこで議論される特定の議題に最も適当な両政府(独立行政機関を含む)の実務者が参加する。

 (1)分野別作業部会:

 両政府は、電気通信、情報技術、エネルギー及び医療機器・医薬品の4分野について、分野別作業部会を設置する。強化されたイニシアティブの下での住宅問題についての進展を踏まえ、両政府は、強化されたイニシアティブの下に設置された住宅専門家会合を廃止し、住宅に関連する問題については、他の二国間の場で取り扱うこととする。

 a.電気通信作業部会は、電気通信分野におけるより一層の技術革新、投資及び競争の促進に焦点をあてる。本作業部会は、日本側は外務省及び総務省、米側は通商代表部が議長を務める。

 b.情報技術作業部会は、電子商取引とインターネットの一層の活用につながるような、情報技術の分野における成長と投資のための環境整備に焦点をあてる。本作業部会は、日本側は外務省、米側は通商代表部及び商務省が議長を務める。

 c.エネルギー作業部会は、卸売及び小売のエネルギー分野における競争、効率性及び革新性の更なる促進に焦点をあてる。本作業部会は、日本側は外務省及び経済産業省、米側は通商代表部が議長を務める。

 d.医療機器・医薬品作業部会は、医療機器、医薬品及び栄養補助食品分野に関連する問題に焦点をあてる。本作業部会は、日本側は厚生労働省、米側は商務省が議長を務める。

 (2)分野横断的な問題に関する作業部会:

 両政府は、規制改革及び競争政策に関連するますます複雑化する分野横断的な問題により効果的に対処するため、競争政策、透明性、法制度改革、商法改正問題、流通、通関手続、ビジネスの円滑化及び分野別作業部会で直接的には取り上げられない、他の分野横断的な問題を含む、経済に広く影響を及ぼす諸問題に対処するため、本作業部会を設置する。これらの問題の幅広く複雑な性質を考慮し、両政府は、本作業部会が、これらの問題をあらゆる角度から取り扱い、踏み込んだ議論を行うため、十分な時間を取るよう確保する。本作業部会は、日本側は外務省、米側は通商代表部及び司法省が議長を務める。

 D.民間部門の構成要素:

 両政府は、改革イニシアティブの中で扱われた問題のうち、民間部門からのインプットが有益となりうるものを特定する。両政府は、これを基礎として、適当な場合、こうした問題に関する民間部門の専門知識、所見及び提言を含むインプットを提供してもらうために、政府間の作業部会に、アドホックに民間部門の代表者を招待する。両政府は、改革イニシアティブの下での作業を実施するにあたり、こうした民間部門の意見を真剣に考慮する。

7.「財務金融対話」は、日本側の財務省及び金融庁、米側の財務省が、双方にとって重要なマクロ、金融セクターなどの主要事項(銀行の不良債権を含む)について、情報交換や意見交換を行うためのフォーラムとなる。適当な場合には、対話の率直かつ忌憚のない性格を維持する限りにおいて、議長により、他の関係機関の出席が求められることもある。財務金融対話には以下が含まれる:

−金融セクターに関する事項に重点をおくこと。

−最近の金融・財政政策及びマクロ経済政策に影響を与えうる経済的な考慮についてのレビューを含む、両国の経済状況のレビュー。

 A.会合:

 財務金融対話の会合は、少なくとも年一回開催され、両国間の強固な財務金融関係を強調するために、両国財務省の次官級を議長とする。

 B.作業部会:

 金融サービスに関する作業部会は、次官級による金融セクターに関する会合の準備のため、また、次官級の実務者に対し、金融セクターに関する事項について説明するため、次官級会合の直前に開催される。作業部会は、競争的な金融市場の発展、銀行・証券セクターの強化、及び他の金融サービスに関する問題に焦点をあてる。作業部会は、両国財務金融当局の次官補代理・次長級が議長を務め、両国の他の金融監督当局の参加も含む。

 C.民間部門の構成要素:

 両政府は、財務金融対話の議題についての議事を進めるために、政府の外からの意見を取り入れることを目指す。

8.「投資イニシアティブ」は、両国における外国直接投資のための環境改善を意図する法令、政策及び他の措置を扱う。このイニシアティブにおいて扱われる問題は、企業の構成及び経営、企業ガバナンス、企業の透明性、破産、労働流動性、並びに土地市場の流動性を含む。

 A.会合:

 投資イニシアティブにおける複数省庁による投資グループは、半年に一回会合し、日本側は経済産業省、米側は国務省が議長を務める。次官級レベルで、毎年、進捗状況のレビューを行う。

 B.公共プログラム:

 両議長は、このイニシアティブの目的を更に推進することを意図した改革努力をレビューするとともに、日米両国民に対し、外国直接投資の相互の利益について説明するための公共プログラムを後援する。

 C.民間部門の構成要素:

 日米両国のビジネス界のリーダーは、上記の注目の高い公共プログラムに招待される。投資グループは、また、企業の改革及び外国直接投資に関連する問題についての技術的なプレゼンテーションを行うべく、民間部門の専門家を招待する。

 D.報告:

 投資グループは、毎年、同グループで議論された事項についての進展をとりまとめた報告を作成する。

9.「貿易フォーラム」(「フォーラム」)は、いずれかの政府により提起される貿易及び貿易関連の問題を扱う。両政府は、製造業、サービス及び農業部門に関連するものを含む、広範なかつ多岐にわたる各々の政府の関心と利益に関し、焦点を絞った、本質的な議論を行う重要性を認識する。フォーラムは、また、生起する貿易及び貿易関連の問題の迅速な解決を促す為の「早期警戒」メカニズムとしての役割を果たすことになる。両政府は、フォーラムが、現在継続中の多数国間交渉の反復とはならないことを認識し、パートナーシップの他のフォーラムを含む、他の二国間の場での問題との重複を最大限避ける。

 A.会合:

 フォーラムは、年一回、若しくは、必要であれば、より頻繁に会合する。フォーラムの会合は、日本側は外務省、米側は通商代表部が議長を務め、適当な場合、他の省庁からの参加を含む。両政府は、フォーラムの会合の議題を設定する。

 B.民間部門の構成要素:

 民間部門が両政府の意見の差を縮める助けとなりうることを認識し、両政府は、フォーラムの下での作業を進めるにあたり、如何に民間セクターの意見を最善の方法で検討できるかに関し、協議する。