データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 橋本総理とクリントン大統領から日米両国民へのメッセージ(21世紀への挑戦)

[場所] 東京
[年月日] 1996年4月17日
[出典] 外交青書40号,234−237頁.
[備考] 
[全文]

 − 日米両国は,共通の価値観,共通の関心,共通の希望を持ちながら,同盟国そしてパートナーとして,21世紀に向かって進んでいます。日米関係は,日米両国,この地域,そして世界にとり重要な関係です。両国は,これまで長年にわたり,試練を乗り越え,経験を共有し,協力関係を発展させてきました。そして今,将来へのさまざまな挑戦に立ち向かっています。

 − 我々の同盟関係は,アジア太平洋地域の平和,安定及び繁栄にとり中心的な重要性を持っています。また,日米安全保障体制は,日米両国にとり極めて重要です。

 − 両国の経済活動により,両国国民の日常生活は強く結びついています。両国間の大きな貿易,投資,金融の流れは,両国自身の繁栄と世界経済の健全さのためにも,大変重要です。

 − 日米両国が外交問題で協力してきたことで,困難をかかえる地域に平和をもたらし,テロリズムと闘い,核の危険を減少し,国連の機能を強化し,そして世界中で民主主義と開発を進めてきました。

 − 我々は,アジア太平洋地域で協力を進め,コミュニティ精神を高めてきました。コモン・アジェンダの下で,環境保護といった,一国では解決できない深刻な地球的規模の問題に手を取りあって取り組んできております。

 − ひとりひとりの日本人とアメリカ人が友情と心の交流を育むことは,信頼感と理解を深め,両国をさらに近づけます。

 今日,私たち日米両国の首脳は,これまでの日米関係の発展を振り返り,世界の大きな変化と,前途にある挑戦について話し合い,また,より平和で繁栄した太平洋地域と世界を築くために,両国が積極的にかつ協力してどのような役割を果たすことができるかということについて,改めて語り合いました。そして,我々は,将来の我々の協力のために次のとおり宣言いたします。

1.日米両国政府は,過去一年余,変わりつつあるアジア太平洋地域の政治及び安全保障情勢並びに両国間の安全保障面の関係の様々な側面について集中的な検討を行ってきた。そしてこの結果を,「日米安全保障共同宣言 21世紀に向けての同盟」としてまとめた。

2.この検討の結果,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」を基盤とする両国間の安全保障面の関係が,共通の安全保障上の目標を達成するとともに,21世紀に向けてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることが再確認された。

3.両国政府は,これまで世界の平和,繁栄及び民主主義に貢献してきた外交問題に関する協議及び協力を,引き続き緊密に行う。特に,両国政府は,朝鮮半島の平和及び安定を推進するための大韓民国との間の三カ国による協力を確認する。また,両国政府は,中東において平和を建設するために緊密に協力する。両国政府は,それぞれの政府が旧ユーゴースラヴィアにおける人道支援及び復興に対し相当の貢献を行っていることに満足する。

4.両国政府は,また,すべての人々が自由及び効果的な法制度の利益を享受できるよう,民主主義の普及,法の支配,そして基本的人権の保障のために協力する。

5.両国政府は,国際連合をより実効的なものとするため,財政改革,経済社会及び開発プログラムの改革及び安保理改革を含む,国連システムの意味のある改革を実現するよう協力する。両国政府は,1996年秋までに改革の大枠が形成されるよう他の国連加盟国とともに努力する。この文脈において,米国は,日本を常任理事国として安全保障理事会に加えることを強く支持する。

6.両国政府は,全面核実験禁止条約(CTBT)の本年秋までの署名という目標に向け,同条約交渉の妥結を早期に実現するために協力する。両国政府は,CTBTの発効までの間,最大限の自制を行うとの昨年のNPT再検討・延長会議における核兵器国のコミットメントの重要性を再確認した。両国政府は,核不拡散条約への普遍的参加を引き続き求めるとともに,核兵器の廃絶という究極的な目標に向けた,世界的に核兵器を削減するための体系的かつ漸進的な努力を支援する。両国政府は,化学兵器を禁止し,化学兵器が戦争又はテロリズムの手段として使用される脅威を減少させるために,化学兵器禁止条約を可能な限り早期に発効させることの重要性を強調した。両国政府は,米国及びその他の同条約の署名国の早期批准の必要性について意見の一致をみた。

7.両国政府は,通常兵器並びに機微な汎用品及び技術の移転によりもたらされる危険に対処するための初めてのグローバルな体制であるワッセナー・アレンジメントの機能の早期開始が実現するよう協力する。両国政府は,特定通常兵器使用禁止・制限条約の地雷の使用に関する議定書を強化するための現在の努力を支持し,対人地雷の生産,貯蔵及び移転を管理するための更なる国際的な努力を奨励する。両国政府は,国連軍備登録制度にできるだけ多くの国が参加することを呼びかける。

8.両国政府は,化学的手段,生物的手段及び核の手段によるテロリズムの脅威に対抗するための多国間のメカニズムを強化するよう協力する。両国は,諸国間のより広範な法執行の協力を支援するよう努力する。両国は,すべての国が,テロリズム対策関連の国際的な条約及び協定を締結し,これらを遵守するよう努力することを奨励する。加えて,両国政府は,テロリストを抑制し,発見し,逮捕するための技術の研究及び開発を強化する。

9.世界の二大経済大国として,日米両国は,世界経済の効果的な運営及び多角的な自由貿易制度の強化に対する重要な責任を再確認する。両国政府は,本年12月にシンガポールにおいて開かれる第1回世界貿易機関(WTO)閣僚会議の成功に向け協力する。

10.両国政府は,世界貿易機関,世界銀行,国際通貨基金といった機関の実効性を確保することを含め,国際経済システムを強化するために進展している作業における協力を進める。

11.両国政府は,バランスのとれた相互の利益となる経済関係並びに新たな経済パートナーシップのための枠組み及びその目標を含む同枠組みの基本目的に対するコミットメントを再確認する。日米包括経済協議の目標とは,市場開放及びマクロ経済分野での措置を通じて競争力のある外国の製品及びサービスのアクセス及び販売を相当程度増大させ,投資を増加させ,国際的競争力を増進するとともに,日米二国間の経済面での協力を進めるため,構造的及び分野別問題を取り扱うことである。

12.両国政府は,過去2年余,日米包括経済協議を始めとする種々の協議を通じ,国際的に重要な経済・貿易問題を成功裡に,かつ,国際ルールと整合的に取り組んできた。これらの取極や措置は,十分に実施され,両国政府は,日米包括経済協議の残っている作業に優先的な注意を払い,生じ得るいかなる経済・貿易問題についても迅速に解決するために協力する。

13.両国政府は,米国における財政赤字削減及び日本の経常収支黒字の削減を含む,日米包括経済協議の下でマクロ経済分野でこれまでみられた進展を歓迎する。両国政府は,持続的な成長の基礎を強化するための努力を継続する必要性を認識し,このために引き続き協力する。

14.APECは,アジア太平洋地域において広範な経済協力を推進する上での中核である。昨年大阪で採択された「行動指針」は,1994年のボゴール宣言で発表されたアジア太平洋における自由で開かれた貿易及び投資並びに経済・技術協力の推進という目標の実現に向け,長期的かつ包括的な道筋を提供している。両国政府は,APECの目的を更に推進し,本年11月のフィリピン会合の成功を確実にするために緊密に協力する。

15.日米両国がアジア太平洋地域及び世界の将来を改善するために重大な地球的規模の課題に協力して取り組む上で,コモン・アジェンダは重要な例である。コモン・アジェンダの案件は,エイズの拡散の防止,麻薬の生産及び不法取引との闘い,人口増加の抑制,アジアにおけるポリオの根絶,女子教育機会の拡大,太平洋における珊瑚礁保全,技術協力の推進並びに人的資源の開発に寄与している。

16.コモン・アジェンダは,感染症対策,地球的な食料供給の改善,開発途上国及び新たに誕生しつつある国における市民社会の強化及び民主化の支援,自然災害の被害の軽減,教育における技術の使用の拡大並びにテロリズムとの闘いといった分野に新たに拡大される。また,両国政府は,21世紀における自然や環境と共生する経済・社会開発のあり方に関するコモン・アジェンダの下で新たな協力分野についての機会を探究する。両国政府は,民間政府がコモン・アジェンダを支援するよう促すとともに,第三国がコモン・アジェンダの計画に参加することを歓迎する。

17.両国政府は,両国の若者の間の相互の交流事業を更に推進する。この観点から,米国政府は,米国の高校生,大学生,学部卒業生,教職員,若手研究者,若手芸術家等を対象とした日本について学ぶ機会を提供するための日本国政府による包括的取組みを大いに評価する。また,両国政府は,日米文化教育交流会議(カルコン)が,日米間の幅広い交流に貢献し続けることを期待する。両国政府は,また,米国平和部隊と日本の青年海外協力隊の隊員との間の交流を推進させる。

 日米関係は,共通の価値と共通の関心,そして,ひとりひとりの日本人とアメリカ人が長年にわたり育んできた友好と信頼の上に成り立っております。この協力と友好の関係を大事にしながら,我々は,決意を新たに両国関係を一層深めていく所存です。

1996年4月17日

東京

        日本国内閣総理大臣  アメリカ合衆国大統領

        橋本龍太郎(署名)  ウィリアム・J・クリントン(署名)