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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 訪米の際の内外記者会見における細川内閣総理大臣の冒頭発言

[場所] ワシントン
[年月日] 1994年2月12日
[出典] 細川内閣総理大臣演説集,65ー66頁.
[備考] 
[全文]

【先程まで私は,クリントン大統領のお招きでホワイト・ハウスで朝食をともにしてまいりました。昨日は,真剣勝負をして,今朝は,リラックスして語り合う……今日の日米関係を象徴しているような二日間でした。】

一,今回は厳しい冬の,しかも雪の中のワシントン訪問でした。丁度訪問時期がいわゆる日米包括経済協議の一つの区切りに当たったため,,首脳会談直前まで昼夜を問わず両国間で交渉が重ねられているという緊迫した状況下での,首脳会談直前まで昼夜を問わず両国間で交渉が重ねられているという緊迫した状況下での訪米でした。

ニ,昨日は,私とクリントン大統領との問で二時間以上にわたって会談を行いました。その結果は,会談後の共同記者会見でも明らかに致しましたが,今日の日米関係の深まりを反映して,二国間の経済問題から国際情勢,グローバルな協力まで幅広い分野にわたり話し合いを行うことができました。率直に申し上げて,良い会談であったと思います。

三,今回の訪米の性格を一口で言えば,成熟した大人の日米関係をお互いが認識し合ったということかと思います。

 御承知のとおり,包括経済協議については,保険や自動車の問題の取り扱いについて今回は合意が得られずしばらく冷却期間を置くことになりましたが,環境や人口,エイズなど,日米が取り組むべきグローバルな課題は,両国が協力していくことを確認しました。

四,前者のいわゆるセクター別の問題では,輸入や国内市場への参入の度合いを示すいわゆる数値目標の問題をめぐり,会談直前までギリギリの交渉が行われ,私から大統領に対して,それが如何に私の進めている「変革」努力と相入れないものであるかについて意を尽くして説明しました。クリントン大統領も会談の中で厳しく自分の立場を主張されましたが,お互いの判断は信頼し尊重しようとの認識を私と大統領との間でわかち合うことが出来ました。

 また,私とクリントン大統領との間では,このことをもってあまりにも重要な日米関係全体を損なうことがあってはならないとの認識で一致しました。両国関係が極めて幅広いものとなり,また,日米関係全体が国際社会におい大きな影響を及ぼす重要な地位を占めているからこのような認識の一致に至ったのであり,それだけに我が方としては,今回の結果を踏まえ,保険や政府調達の国内手続きの一層の透明化や自動車についての日米間の産業協力等,我が国として自主的に成し得ることは率先して取り進めていくことが重要と考えております。

五,首脳会談の他,昨日はジョージタウン大学で,自分の外交姿勢を政策演説という形で米国の若者に語りかける機会を得ました。また,議会の指導者を始め,米国の各界各層の方々と話し合う機会を得,自分の目指す「変革」について語りかけました。

六,今回の訪米は,従来になく厳しい状況の中で行われましたが,その結果,新しい,成熟した関係の幕開けという一時代を画するものとなりました。今回の訪米を契機に,今後,日米間の意思疎通はこれまで以上に,より率直で忌憚のないものになると期待しております。