データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宮澤内閣総理大臣とクリントン米国大統領との共同記者会見

[場所] 
[年月日] 1993年7月6日
[出典] 宮沢演説集,170−173頁.
[備考] 
[全文]

 〈冒頭宮沢総理より以下の通り発言した〉

 (1) クリントン大統領の訪日を歓迎する。大統領としての最初の外国訪問に際してアジア地域を選ばれたことは、有意義なものと考える。韓国を訪問され、スハルト大統領とも会われる等米国としてアジア・太平洋地域に関心を示されていることを高く評価したい。

 (2) 日米関係は、安保関係、グローバルな協力、経済関係の三本柱があるが、経済関係では、協議のフレームワークを設立することを四月にワシントンで約束した。その後、事務当局が長い時間をかけてこれまで努力してきたが、日が迫ってきたこともあり、先だって私から手紙を送り、本日返事を受け取って、さらに事務当局でできるだけ早く詰めていくこととした。二人とも、この際なんとかしてフレームワークを作らなければならないとの認識で一致した。

 (3) また、日米が協力してサミットを成功させようということを話し合った。

 〈これに対し、クリントン大統領より以下の通り述べた〉

 (1) 四月にホワイトハウスでお会いしたのに続き、サミットを前にして宮沢総理に再びお会いできて欣快である。

 (2) 米国にとって日本との関係よりも重要なものはない。我々は戦略上の同盟国であり、お互いの未来が係っている。最も重要な貿易関係であり、また、地域的・グローバルな同盟関係である。日米関係は今日変化しつつあるが、他方で、不変であるべき部分もある。

 (3) 総理とは、ウルグァイ{ママ}・ラウンドの成功裡終結につきG7で合意することの必要性、世界経済成長のための政策調整等多岐にわたる課題につき話し合った。

 総理からお話のあった協議の枠組みについては自分からも敷衍したいが、その前に我々の安全保障関係について述べたい。というのも、ややもすればこの関係が見過ごされがちであるからだ。米国は、日本、韓国における米軍の前方展開を維持するし、同地城との安保体制を継続する所存である。

 また、力ンボディア和平、ソマリア等への国連による支援、G7によるロシアの民主化・市場経済への改革支援等に対する日本の多いなる貢献を評価し、支持する。

 (4) 日米関係の主要な関心は、経済関係の強化であった。緊張関係からより利益を共有する関係へと変化しつつあることを希望している。日本を犠牲にするのでなく、双方にとって利益となることが重要である。

 四月に話し合ったように、今日もこの問題につき話しあい、協議のフレームワークを構築し、貿易関係での原則を確立する必要性を確認した。この問題で、重要な合意に達することができると信じている。話合いには困難もあるが、正直に言って、重要な進展が見られた。ここ数日、日米間の話合いをより集中して継続することとした。適切なフレームワークを通じ、貿易の拡大、より開放的な経済、経済成長、雇用創出等が実現可能となる。

 〈質疑応答〉

 〈問1〉フレームワークに関する合意に至らなかったということは日米間の対立が際立っていたということか。貿易黒字をめぐる数値目標や、個別分野でのクライテリアにつき歩み寄りが見られたのか。

 〈宮沢総理〉

 合意に至らなかったと聞いたならばそれは間違いである。ここ数日間で書簡の往復があり、事務当局においてサミットを目標としてまとめることとなり、今作業が進められているところである。

 〈クリントン大統領〉

 総理の言われたことに同意する。先週末に、日米間の立場の相違を克服すべく総理自身がイニシアティヴをとられ大変思慮深い書簡を出され、私もこれに返事を出し、双方は話合いのテーブルに戻ることとした。立場の違いは残っているが、作業は進展しており、この重要な時においては話合いを続けていくべきと信じている。過大な期待感(false hope)を与える積りはないが、交渉の見通しに希望を持っている。

 〈問2〉日本の政権交代の可能性に鑑み、このサミット時にフレームワークに合意することがどれほど重要なのか。また、合意の見通し如何。

 〈クリントン大統領〉

 合意が得られるとすれば、早ければ早いほど良い。総理自身がここ数日このための話合いに傾注されたエネルギーと取組み、合意達成のための日本政府及び総理の強い意欲に大変印象づけられている。

 合意があったとしても、我々の間にはなお課題は残る。しかし、我々の目的は、大幅な貿易不均衡是正に取組み、我々の経済関係を統合することにより双方がより大きな利益を受けられるようにすることである。現在のような政治状況においては、通常ではかかる合意は不可能のように思われるが、総理はそれを克服しようとしている。合意が得られるかどうかは分からないが、少なくとも合意を得ようと努力しており、私は総理を信じている。

 〈問3〉数値目標のなにが困難なのか。

 〈宮沢総理〉

 両国とも市場経済なので、政府が意図したとしても実現できる訳ではない。日本の経常黒字は大き過ぎ、これを削減しようと努力してはいるが、GDPのどれぐらいかとの議論となると、GDP自体がコントロールできないし、また自由貿易の中で輸出と輸入がどれぐらいになるか決定することもできない。即ち、分子も分母も政府のコントロールできないものであるとの単純な理由である。

 〈問4〉クリントン大統領は、ワシントンにおける記者会見の際、日本の政治に期待する旨述べられたが、これは日本の現政権の交代を期待するとの意味も含むのか。

 〈クリントン大統領〉

 ご質問に答える前に、先の質問(数値目標)については、我々の間に若干の意見の相違があることを申し上げたい。

 米国は日本国内の選挙の動向につき介入する立場にない。私が言いたいのは、選挙の結果がどうであれ、日本は変化の時であるということである。日本の方々が、これを脅威ではなく、希望をもって捉えられることを期待する。

 〈問4〉貴大統領は、先週のインタビューでアジアの安全保障にかかる最も恐ろしい悪夢は、核武装した北朝鮮であり、その次に恐ろしい悪夢はアジアにおける軍拡であるとして、日本の核武装の可能性について言及したが、こうした事態はどのように生じるのか。宮沢総理にも伺いたい。

 〈クリントン大統領〉

 ご指摘の問題は、相互に関連する問題であり、北朝鮮の核武装と米国のコミットメントの削減がなければ、こうした事態は起こらないと考える。米国には、日本、韓国、太平洋地域との安全保障上の結び付きを弱める意図は、現在も将来的にもまったくない。

 北朝鮮がNPTに留まることを強く期待する。それは北朝鮮の利益であると考える。もし北朝鮮がそうしなかった場合、多くの問題と懸念を日本において引き起こすだろう。北朝鮮がなにをしようと、米国は核問題・安全保障問題につきこの地域での同盟・友好国へのコミットメントを維持する。

 〈宮沢総理〉

 北朝鮮が核の開発及び運搬能力を有することは、日本と北朝鮮がこれだけの距離であることから、直接的な脅威である。日本が核を開発する意図は全くないがゆえ、かかる脅威にさらされることには非常な関心を有している。