データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米首脳会議後のクリントン大統領・宮澤総理プレス・リマークス

[場所] ホワイト・ハウス
[年月日] 1993年4月16日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1237−1240頁.
[備考] 
[全文]

首脳会談後のクリントン大統領・宮沢総理大臣のプレス・リマークス

1993年4月16日

於: ホワイト・ハウス

クリントン大統領プレス・リマークス

 宮沢総理をワシントンそしてホワイト・ハウスにお迎えし,嬉しく思います。とりわけ,ロシア支援を話し合うG7外相・蔵相合同会合を東京で開かれたすぐ後に,この大変長い旅をされたことに感謝申し上げます。

 米国にとり,日本との同盟ほど重要な関係はありません。日米両国は世界最大の経済を有し,合わせて世界のGNPの40%を占めています。我々の安全保障関係はアジア・太平洋地域において平和の世代を育み,引き続き,この地域における安定と繁栄の継続に決定的に重要であります。

 90年代の安全保障上の主要課題を見る際−ロシアにおける改革の支援,中東和平プロセスの促進,ソマリアからカンボディアに至るまでの和解と平和維持に向けた努力−米国と日本の間に協力が維持されなければならないことは明白であります。これらの課題に対処し易くするため,私は我々の関係に変化が必要であるということを総理に強調しました。両国間の冷戦時代のパートナーシップは古くなりました。我々は長期のビジョン,就中,相互の尊敬と責任に基づいた新たなパートナーシップを必要としています。

 日本との関係には,常に,経済関係,安全保障同盟,世界的問題に関する協力的な取組みという,三つの要素があります。夫々が我々の関係にとって不可欠です。夫々が我々相互の利益に奉仕しなければなりません。

 しかし,冷戦中は,安全保障関係が,往々にしてその他の分野の考慮,特に経済的な関心の影を薄くしていました。今日の世界では,私がしばしば述べてきているように,米国は国内で強くなければ海外で強くなり得ません。そして国内での強さは,従来にも増して,主要貿易相手国との開かれた,かつ衡平な取り組みにかかっています。このため我々の関係の経済的側面に特別の関心を払うことが今や必要とされています。

 我々の安全保障上のパートナーシップは強固です。この関係は二世代にわたり太平洋の安定のための錨となってきました。この関係は我々両国の利益にとり基礎であり続けます。米国は引き続きアジアに全面的に関与し,日本との戦略的な同盟と政治的パートナーシップにコミットし続ける所存です。

 総理と私は,米国のPOW/MIAに関する出来るだけ詳細な説明をヴィエトナムから得る努力,我々を深く懸念させる北朝鮮の国際核査察及び基準遵守の拒否を始めとする,日米両国に関係する太平洋地域の幅広い安全保障問題について討議しました。我々の安全保障関係の重要性に鑑み,両国の防衛関係者の間で緊密な事務関係を今後とも維持します。そして,宮沢総理がアスピン国防長官と本日後刻お会いされることを嬉しく思います。

 我々は,両国が共に直面する多くの世界的課題についても検討しました。就中,我々は,ロシアの経済,民主改革に対する共通の支援を提供するため東京で開催されたばかりの特別なG7外相・蔵相合同会合について討議しました。私は,この会合開催に際する宮沢総理のリーダーシップに感謝します。我々は,これらの改革の成功が,世界の平和と繁栄にとり死活的に重要であることで一致しました。日米両国は事の重要性を理解し,エリツィン大統領を始めとするロシアの改革派とパートナーシップの下に協力していく用意があると信じています。我々は7月の東京サミットとロシアのG7プラス会合への参加を楽しみにしています。

 しかしながら,我々の意見交換の中心は経済でした。この新時代において,我々の関係をバランスのとれたものに再調整していくためには,我々の経済関係により多くの関心を払うことが必要であることを強調しました。このことは,夫々の国についての,そして互いの責任についての率直な評価から始めなければなりません。実際,私は,日本の経済的パフォーマンスに対して多いなる尊敬の念を抱いています。日本人は品質の高い製造業における先駆者です。日本の技術革新と繁栄の実績は,勤勉さと社会的協力の上に打ち立てられたものです。

しかし我々は−そして他の多くの国々も−懸念も有しています。私は総理に対して,拡大しつつある日本の対世界経常収支と貿易黒字について特に懸念していることを強調しました。私はまた,米国の企業,製品そして投資家に対する,日本の不十分な市場アクセスについて深く懸念しています。これらが複雑な問題であることは判っています。しかし,米国市場よりも日本市場で販売する方が難しいというのは事実です。米国は変化への挑戦を受け入れています。日本もそうしなければなりません。

 我々米国側においては,長期的な経済再生を最優先の課題とし,多くの貿易相手国から何年にもわたって求められてきた,国内経済を再建するために必要な困難な決定を今や下しつつあります。日本のような長き友人は,時にわたり,これを行うよう我々を慫慂して来られました。我々は,歳出カットと増税の組合せにより財政赤字を削減し,また,長期的投資にコミットすることにより,これを行おうとしています。

 世界経済の成長に向けて日本が先頭に立つことが重要です。総理が新たに表明された刺激策は,日本国内でより強く内需を拡大するための大変良い最初の一歩です。しかし,米国の場合と同様,それは今後も継続し,維持されていく努力の一環でなければなりません。日本の目標は,日本国内のみならず,世界中で雇用を創出させる成長のエンジンの一つとなることでなければなりません。更に,総理と私は,ウルグァイ・ラウンドを早期,成功裡終結に率いていくというコミットメントを再確認しました。我々は,APECをアジア・太平洋地域における貿易自由化のための場とすることにもコミットしています。私は,米国が今後シアトルにおける今年のAPEC閣僚会議を主催することを楽しみにしています。

 米国と日本における力強い経済成長は,全ての人の利益になります。かかる理由で,私は,日本がその経済成長を強化する措置を取り続けることを希望するのと同様に,米国議会が雇用拡大策及び予算案を通過させることを希望します。

 しかしながら,マクロ経済的措置のみでは充分ではありません。私はどれだけ販売するかだけでなく,何を販売するかについても懸念を持っています。高品質,高価格の製品を製造する米国の会社は世界で最も競争力のある企業の中に入ります。これらの会社の製品が日本への輸出のより多くの部分を占めるためには,そして,米国の労働者が貿易の恩恵の公平なシェアを占めるためには,日本市場がより開かれたものでなければなりません。米国企業には,高品質で価格競争力のある製品を提供する責任があります。しかし,米国企業は今日,ますますこの責任を果たすようになってきており,その時には,日本市場はそれらの製品を受け入れなければなりません。

 日米両国が独自に,そして共同でこれらの経済面での措置をとるとき,我々は世界の経済成長の最も強力な二つの推進者となるでしょう。このような成長は,我々自身の繁栄のためのみならず,世界の多くの新興民主主義諸国の成功にとっても枢要であります。

 これらの措置をとるためには,我々は,成長を増大させ,基幹産業における貿易と投資の流れを促進させるような我々の経済課題‐構造問題,及び,セクター別の問題−に,日米両国が具体的に対処するための新たな枠組みを構築していく必要もあります。この枠組みの下で我々はテクノロジーや環境問題といった,我々が協力できるその他の案件についても話し合うことができるでしょう。向こう3ヵ月以内に,総理と私は,具体的な交渉についての計画を得て,その後,これらの分野における交渉が速やかに行われることを期待します。

 また,総理と私は,毎年のG7サミットの機会を含めて,毎年2回会談することにも合意しました。我々の新たなパートナーシップが両政府の最高レベルから最優先とされるに値すると信じるからです。

 総理との本日の会談は,長く生産的な日米の友好関係において,新たな,そして互恵的な段階を始めるための,我々の努力における非常に前向きな第一歩であったと考えます。毎春ここ米国の首都に住む全ての人は日米間の友好関係を思い出す素晴らしいものに恵まれます。ここからわずか数ブロック先のタイダル・べースンでは,もともと日本国民からの贈り物である桜の木が,べ一スンの周りを花で飾りますが,これは,我々の希望の季節の始まりを定義づける気持ち昂ぶる光景であります。

 今日,日米間で構築しつつある新たなパートナーシップは,我々のためのみならず,世界にとっても希望の季節をもたらす助けとなり得ると信じます。その季節は,経済成長を回復する時であり,日米両国及びその他の場所において経済的機会を拡大する時であり,世界的な民主主義への機運に活力を与える時であり,そして次の世紀の平和と前進のための基礎固めを行う時であります。

 新たなパートナーシップを共に構築していくに際し,これからの月々,総理と協力していくことを楽しみにしています。

宮沢総理プレス・リマークス

クリントン大統領,

 ただ今の暖かいお言葉,そして心暖まる歓迎に感謝致します。

 私はこの重要な会談を心待ちにして来ました。大統領と個人的な相互信頼関係を築くことが出来たとの充実感を感じております。私は,日米間の新たなパートナーシップは新たな時代の要請に応えることが出来ると確信しております。

 両国間のパートナーシップは世界の一層の平和と繁栄にとり極めて重要です。従って,大統領と私は,サミットとは別に少なくとも年1回は会談することに合意しました。

 本日の会談の中で扱った4点につき簡単に申し述べたいと思います。

 まず第一に,我々は冷戦後の時代においても日米安全保障条約が引き続き重要である点を確認しました。

 第二に,経済分野があります。私は,大統領が指導力を発揮して,財政赤字問題に真正面から取り組んでいることを歓迎しております。日本の93年度予算は,内需拡大に配慮したものです。3日前には,内需を一層刺激するために,日本政府は1160億ドルにのぼる追加的景気拡大策を決定しました。これは必ず日本の経済成長を加速させるでしょう。私はまた,日本市場へのアクセスを増大する努力を引き続き行っていることを強調しました。更に私の方から,開発途上国に対する日本からの資金供給を円滑にするため,新たな「資金協力計画」に取り組むことを決定したことも大統領に説明しました。

 これらの日米両国のそれぞれの努力は,世界経済の成長を確実なものとするために極めて重要なものであります。これらの努力は,両国のパートナーシップの基盤を強化するためにも,極めて重要なものであります。

 日米二国間の貿易・経済関係の分野では,私は大統領に対し,日米両国の経済的繁栄は,深い経済的相互依存関係に基づいていることを強調しました。我々は,自由貿易の原則に基づいた協力の精神によって,この関係を慈しまなければなりません。これは管理貿易や一方的措置の脅しによっては実現できません。日米関係は,ゼロサムではなくプラスサムの関係でなければなりません。私が米国内のいくつかの最近の傾向に深い懸念を表明したのは,かかる文脈においてです。私は,日本市場へのアクセスを増大する努力を継続する日本政府の方針を説明しました。しかしこれは,米国が自由貿易体制の下で競争力を強化し輸出を促進する努力と相俟って行われる必要があります。

 ウルグァイ・ラウンド交渉については,これを失敗させる訳には行きません。7年を経た今,我々は更なる交渉を通じて現実的な合意を実現しなければなりません。

 両国の経済面での新たなパートナーシップを前進させることが重要であるとの認識の下,我々は,基幹産業における貿易と投資の流れを促進できるような両国の構造問題及びセクター別の問題に日米両国が対処するための,及び,環境,テクノロジー,人的資源の開発等の分野における我々の協力を拡大していくための新たな枠組みを構築していく必要があります。向こう3ヵ月以内に,大統領と私は,このような新たな枠組みが構築されることを期待致します。

 第三番目に,ロシアについて触れます。我が国は昨日東京で閉幕したG7外相・蔵相合同会合及びその後のロシアの閣僚との会合の議長国を務めました。私は,クリントン大統領と何度か電話で会談し,この会合の準備のために大統領と緊密に協力しました。

 私はこの閣僚合同会合がロシアの民主主義経済改革,「法と正義」に基づいた外交への改革を支持する強いメッセージを送ったと信じます。この会合の開会式において私はロシアに対する18.2億ドルの二国間支援策を発表しました。今日,大統領と私は,ロシアがデリケートな移行期間を経験するに際し,この会合の結果を踏まえこれを如何にフォローアップすべきかにつき意見交換を行いました。

 第四番目に,アジア・太平洋地域のダイナミックな成長は全世界にとり恩恵を約束するものであります。しかし我々は,この地域が危険と不安定を伴う変化を遂げつつあることも念頭に置いておかなければなりません。米国のプレゼンスと日米安全保障条約はこの地域にとって欠くことのできない安定要因であります。私は大統領に対し,日本が1993年には46億ドルに達する接受国支援を継続していくことを伝えました。日本としては,この地域における対話と協力を通じて地域の一体感と安心感を高める努力を米国と共に行う考えです。

 最後に,個人的な印象を述べたいと思います。過去半世紀にわたり,私は日米二国間関係に様々な形で携わってきました。世界が歴史的な変革を迎えている時に登場したこの偉大な国の若き新指導者と話をし,私は日米両国が新たなパートナーシップによって協力し,全ての人にとりより良き世界を築いて行く限りない可能性を持っていることにつき,明るい展望を持つことができました。

 ありがとうございました。