データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米協会七十五周年記念晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1992年4月13日
[出典] 宮沢演説集,178−179頁.
[備考] 
[全文]

 天皇,皇后両陛下の御臨席の下,本記念晩餐会においてご挨拶をさせて頂くことは,私の光栄であり喜びとするところであります。

 この場をお借りしまして,日米両国民間の親善と相互理解の増進のために貴重な貢献をされてまいりました日米協会の会員各位,特に福田赳夫元総理に対し,深甚なる謝意を申し述べたいと思います。さらに,この重要な関係のさらなる発展のために抜きんでた活躍をされているアマコスト大使に対し,賛辞を送りたいと思います。

 我々は,今多くの課題を抱えた世界史の転換点に立っております。冷戦はその残骸とともに過去の歴史となりつつありますが,真の世界平和の秩序は,未だ造られておりません。また,民主主義と自由市場経済が徐々に受け入れられていく中にあって,我々は,冷戦同様に畏るべき諸課題に直面しております。即ち,環境,麻薬,貧富の差の拡大,大量破壊兵器の拡散,原子力の安全といった課題であります。

 日本国民とアメリ力国民が,これらの解決を求めて日々あらゆる分野のあらゆるレベルで,知識と経験と資源を持ち寄って緊密に協力することなしには,これらの課題は一つとして解決することはできません。しかし,私は,これらの諸課題の成功を確信しております。なぜなら,太平洋の両側で両国間の協力の決定的な重要性が益々認識されてきているからです。また私は,太平洋の両側で,グローバル・パートナーシップの基盤となるべき相互に対する善意の真の蓄積と尊敬の念が存在することを確信しています。このような認識と蓄積によって,実りのない相互非難に打ち克とうではありませんか。

 冷戦が過去のものとなり,我々は,新たな世紀を,いや二〇〇〇年代という新たな千年期を迎えようとしております。日米両国民は,異なる文化的伝統と歴史的経験を携えながら,自由,民主主義,開かれた市場経済という諸原則を堅持しつつ,共に手を携えて団結しております。これらの諸原則は,日米が共に行動する際に指針となり続けるものであります。日米がこのような協力を行うことにより,我々は,「ミレニアム(千年王国)」という言葉が約束するものを文字通り世界に実現することを助けることができましょう。

 ブッシュ大統領と私が,去る一月に「東京宣言」に合意したのも,このような考え方に基づくものであります。

 日米協力の有効性と活力を保つため,経済面や政治面の世界の福利に影響するすべての課題について,日米は可能な限り緊密な協議を行ってまいります。このようにして,諸々の課題に対する調整のとれた対処ができるようにするためであります。我々は,アジア・太平洋地域の平和と安定を支える主要な柱である安保の絆を維持してまいります。また,現在の諸困難の主要な原因の改善のため,これらの解決の模素にコミットしつつ,引き続き貿易問題に対処してまいります。

 先に述べた相互に対する善意の蓄積を一層豊かなものにするため,我々は,両国民の間で,人,資本,財,サービス,芸術,科学,アイデアの交流を一層拡充していかなければなりません。このような交流の拡充が,グローバル・パートナーシップの基盤となる相互信頼をさらに強めることになるのです。

 日米協会は,過去七十五年間,両国民の間の友好と親善と相互理解を増進するための機関として尽力してこられました。私は,福田会長のすぐれたご指導の下で,同協会が時代の要請に答え続けることを確信するものであります。同協会のさらなる発展と繁栄をお祈りして,私の挨拶を終わらせて頂きたいと思います。