データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 海部内閣総理大臣による初訪米に際しての記者会見

[場所] ワシントン
[年月日] 1989年9月1日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,273−275頁.
[備考] 
[全文]

ブッシュ大統領閣下,

大統領閣下の私共に対する心暖まるおもてなしとただいまのご発言に心よりお礼申し上げます。

総理として初めての訪米であり,大統領閣下とも初めてお会いしたわけですが,日米関係は,これまでの日米両国国民の営々たる努力の積み重ねの上に,確固とした基盤を有しており,私は,あたかも古くからの友人に再開したかの如く,大統領と会談することができました。

私は,大統領に対して,日米関係は我が国外交の基軸であり,今後ともそうあり続けるとの私の確信をお伝えしました。大統領と私は,両国関係の基盤である日米安保体制を堅持していくことを確認しました。日米安保体制の上に立った日米協力関係が我が国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠であるとの点で,大統領と私の認識は一致しております。他方,日米両国の緊密な関係のゆえに生じる種々の経済問題の解決には,日米双方の努力が必要であり,引き続き協力と共同作業により解決していくことが重要であります。私は大統領に対して,我が国が引き続き適切なマクロ経済政策と構造改革を進め,輸入拡大に努めていくとの考えを伝えました。私は,大統領の財政赤字の削減,貯蓄率の向上や競争力強化のための継続した努力に対する評価を表明いたしました。この関連でまもなく開始される日米構造問題協議が有意義な成果をもたらすことを期待しております。

日本と米国は,自由と民主主義という基本的価値を共有し,世界的な課題について大きな責任を分かちあう盟友であります。日米両国は,世界経済の運営,途上国の債務問題,飢餓の救済,ウルグアイ・ラウンドをはじめとする自由貿易体制強化のための努力,地域紛争の解決,人権の擁護,テロ防止のための国際協力,麻薬の撲滅といった世界の平和と繁栄にかかわる数多くの広範な問題について,共同で取り組んでいかなければなりません。大統領と私は,このような地球規模のパートナーシップの下で,日米両国の各々の能力に相応しい形でその責務を積極的に担っていくとの共通の決意を表明いたしました。この関連で,大統領と私は,地球環境保全のための国際協力を今後一層重視していくことにつき意見の一致を見ました。私はこのあとメキシコとカナダを訪問しますが,これらの両国の指導者との間でも地球環境問題について話し合う所存であります。

また,世界の貧困,飢餓救済等を含む開発問題に日米が協力し取り組むため,その象徴的事業として,私は,故リーランド下院議員の理念と業績を想起しつつ,「リーランド記念国際開発事業」の設立を大統領に提唱し,大統領の賛意を得ました。

私は,大統領に対し,私が政治において理想とするのは,より公正で人間性豊かな社会の実現であり,そのため私は,我が国の政治改革を進め,更には,消費者の視点も重視しつつ,国民の生活の質を高めるための改革を進めていくことが緊要と考えていることを伝えました。大統領がこれまでの米国の成功に安住せず,「よりやさしく,より思いやりのある社会」の実現に向けて現実的な諸改革を進めておられることに,私としては強い共感を覚えるものであります。日米両国は,そのめざす社会を実現する上で多くの共通の課題を抱えています。

例えば,明日の責任を担う世代を育てていくための教育の果たすべき役割は,日米両国にとり極めて重要であります。私は大統領に対して,教育問題を含む種々の課題について議論を深めていくことは,日米双方にとり有益であり,日米両国の真の相互理解の増進にもつながるとの考えを述べました。

このような私の考え方に対し大統領より強い賛同を得たものと考えております。私は,このような知的対話を広く促進することが両国関係に新たな重要な次元を加えるために正に必要なことであると確信する次第であります。

私は,戦争と革命の世紀と言われる二十世紀の最後の十年を,全ての人々にとり平和と繁栄に満ちた二十一世紀へ向けた基礎的作業にあてるべきであると考えております。そのために私は,日米の緊密な協力関係の上に,我が国として世界の中で果たすべき使命を全うする決意であります。