データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ニューヨーク日本協会における安倍外務大臣講演

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1985年9月23日
[出典] 外交青書30号,390−396頁.
[備考] 
[全文]

ロックフェラー名誉会長,御列席の各位,

私は,かねてから,70年余にわたり着実に積み重ねられてきたニューヨーク日本協会の立派な業績に深い敬意を抱いて参りました。今夕,その日本協会において,日頃日本外交を進めるにあたって私の考えていることを皆様にお話しする機会を得ましたことを欣快に存じます。

私は,この木曜日に,当地においてシュルツ国務長官と会談することになっております。これは,実に,私と同長官との20回目の会談に当たります。日米両国の外交に責任を持つ閣僚同士がかくも頻繁に会談し,日米二国間のみならず世界の全地域に関わる諸問題に

ついて話し合いを重ねていることは,日米両国の間の幅広い協力関係が両国にとって極めて重要であることを象徴的に示していると思われます。ちなみに,これらの会談のうち1回はゴルフ・コースで行なわれ,また,会談の重要議題の一つに,ワシントン・レッドスキンズやニューヨーク・ジャイアンツの成績に関する意見交換があることを付け加えておきます。

 日本外交を語るに当たって,当面,その最大の課題が日米間の貿易不均衡の問題の解決にどのように貢献すべきかにあることは申すまでもありません。私自身,この問題をめぐる現在の状況を極めて深刻に受け止め,問題の解決に全ゆる努力を傾けてきました。シュルツ長官との会談でも,この問題は中心的な議題となりましょう。従って,今夕もこの問題について皆様に十分お話ししたいと考えますが,貿易関係も全般的な国際関係の一環として位置付けられるべきものでありますので,まず最近の我が国の外交活動と,それが米国にとって持つ意味について全般的にお話ししたいと考えます。

 戦後40年を振り返ってみた場合,どの時点においても,日本外交の基本的な政策目標として掲げられてきたいくつかの一貫したテーマがあります。その第1は,米国を中心とする自由民主主義諸国との緊密な協調,連帯をはかることであり,これは,戦後独立を回復するにあたって我が国が行った歴史的選択を出発点とするものであります。第2には,アジアの一国としての立場から国際的に行動することでありますが,これはが日本のおかれた地理的条件に起因するものであることは言うまでもありません。そして第3に,我が国の歴史的経験,地政学的環境を背景として,軍縮や軍備管理,各地域での緊張緩和,開発途上国への経済協力等を通じて平和を追求することであります。

 これらの政策目標は,40年間を通じて掲げられてきたという意味で一貫したものであり

ますが,同時に,これら一つ一つの持つ意味内容は,40年の間に大きく変化してきており

ます。我が国は,この40年の間に,恵まれた国際環境と自らの努力によって,自由世界第2位の経済規模をもち,それに伴う国際的責任を果すべき立場に立つに至りました。一般的に言えば,それに伴って,当初,受動的な,あるい地域的に限定された意味を持たされがちであった我が国外交の政策目標は,次第に,より積極的な,行動的な内容とグローバルな広がりを持つように変わってきたと申せましょう。私は,最近,日本国民に対し,未来に向かって「創造的外交」を進めるべきことを説いておりますが,その意味するところは,そのようにして,世界の平和と繁栄のために大きな責任をとる外交なのであります。米国のある新聞がこれを日本外交の新しい行動主義と評しておりますが,これは私の気持ちをよく表していると考えます。

 然らば,我が国の外交は最近いかなる行動をとり,また,今後いかなる行動をとろうとしているのでありましょうか。

 既に申し述べたとおり,自由民主主義諸国との協調,連帯,特に米国との同盟関係の維持,強化は,常に,我が国外交の中心的な目標であり続けてきました。過去においては,これが,経済,安全保障等の分野において我が国が,一方的に米国に依存することを意味した時がありました。然し,現在においては,我が国は,西側諸国の一員として,米国の信頼に足る同盟国として,自らの国際社会における責任を果すべく積極的に行動しているのであります。

 1979年ソ連のアフガニスタンへの軍事介入に対し,我が国は,武力による侵略は認めることができないとの立場から,米国と共に終始一貫徹底した対ソ措置をとったのであります。一昨年のウィリアムズバーグ・サミットにおいて,我が国は,サミット諸国の安全は不可分であるとの政治宣言の取りまとめに,米国と共に積極的に取り組みました。同じく一昨年,大韓航空機撃墜事件の際に,我が国が,事件の真相を示す決定的な証拠を国際社会に提供したことを記憶しておられる方も多いことでありましょう。これら我が国の行動は,自由世界のために,それがたとえ我が国にとって犠牲を伴うものであっても,それを避けてはならないとの考え方に立ってとられてきたものであり,今後も我が国は,同じ精神の下に行動していくでありましょう。特に,我が国は,最近頻発する各種の国際的テロリズムを強く避難するものであり,その旨を国際的に強く訴えてきましたし,また,これに対処するための国際的行動に積極的に参加していく考えであります。

防衛の分野において,我が国は,日米安全保障条約に基づく米国との防衛協力と,自らの自衛力の整備とをもって,その防衛政策の機軸としてきました。自衛力については,純粋に防衛的な性格ではありますが,効率よく,質の高い能力を整備すべく,着実に努力を重ねてきており,今般「防衛計画の大綱」の水準を達成することを目標として,1990年までの防衛力5ヵ年計画を策定したところであります。この5ヵ年計画を完全に実施していくためには,毎年,NATOが目標としている3%よりも高い 5.4%という実質伸び率で我が国の防衛費を延ばしていくことになります。同時に,米国との防衛協力についても,1978年に合意されたガイドラインに基づき,多くの分野で目に見える進展があります。

現在,日米安全保障条約に基づき,日本国内には施米国土にかかわらず120ヶ所以上の米軍施設が存在し,約45,000人の米軍が,これらの施設を日本の安全のみならず,より広く,極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するために,使用しております。これらの施設が,かくして,米国自身の安全にも寄与するものであることは自ら明らかでありましょう。日本政府は,かかる在日米軍の経費に対して,約年11億ドルの貢献を行っておりますが,これは,米軍人一人当り年2万ドル以上に当たり,NATO諸国の同種の負担に決して劣らないものであります。

 日米安保体制が我が国自身の安全に対して,根本的に重要な役割を果してきたことは,今や,世論調査によっても7割以上の日本国民が高く評価しているところであります。同時に,沖縄本島の20%近くを占める海兵隊基地,横須賀,佐世保の海軍施設,F16二個飛行隊群の配置されつつある三沢空軍基地等が,この地域における平和と安全のために果している役割は,正当に評価されて然るべきものと考えております。

自由民主主義諸国との協力と並んで,アジアの一国としての立場,さらには,緊張緩和を思考する政策が我が国外交の一貫したテーマとなってきたことは先に述べた通りであります。かつては,これらの立場や政策が地域的な視野からの行動や,消極的な外交姿勢を正当化するために唱えられたこともありましたが,現在では,これらの政策を追求するにあたって,我が国は,広く,グローバルな観点から,特に,世界の開発途上諸地域との関係で積極的な行動をとるに至っております。

このような観点から我が国が最も重点をおいている活動が開発途上国に対する政府開発援助の拡充であります。

西側先進諸国の援助供与額の伸びを比較した数字がありますが,それによると,10年1975年の額を100として,84年に日本は376を記録し,対で米国が 209,それ以外の国は全て米国よりも低い伸び率しか記録しておりません。このように,いわゆる「援助疲れ」の一般的な傾向の中で我が国が努力を積重ねてきた結果,我が国の援助供与額は,84年に43億ドルをこえ,米国に次いで世界第2位となりました。

 ここに至る過程で,我が国は,過去8年間の間に2回,援助供与額を倍増する目標を自らに課してきましたが,先般私が東京を発つ直前に来年からの第3次中期目標を決定致しました。この計画においては,我が国は,1992年までに総額400億ドル以上の援助を供与することを目指し,このため,1992年の実績を1985年の実績の倍とするよう努めることとしています。ちなみに7年倍増に必要な伸び率は10.4%であり,この目標が如何に意欲的なものであるかが御理解戴けると思います。

開発途上国との経済協力においても,かつての我が国の視野はアジア,就中東南アジアに限定されておりました。もとより,その結果,東南アジアが比較的安定し,繁栄した地域として成長するにあたって我が国として十分の貢献をしたと自負しておりますが,その後,援助対象国を拡げる努力を重ねた結果,現在では,世界全地域に及ぶ 130以上の国が我が国の政府開発援助を受けております。その中には,特に世界の平和と安定に重要な地域という観点から,タイを始めとするASEAN諸国,パキスタン,エジプト,ケニア,スーダン,ソマリア等の諸国があり,また,ホンジェラス,コスタリカ,ジャマイカ等の中米,カリブ諸国に対する援助も強化されています。更に,近年未曾有の経済困難に直面するサハラ以南アフリカ諸国に対する援助は,過去10年間で6.6倍の伸びを示しています。

我が国は,今後とも,開発途上諸国の経済社会開発,民生の安定,福祉の向上を目的として,援助活動を強化していく所存であります。経済援助については、国民の積極的支持があり,また,援助対象地域,分野等について,我が国と米国の貢献は相互補完的なものたり得ると考えております。

私は,今週ニューヨークにおいて,シュルツ国務長官のほかにも,多数の各国外務大臣と会談することとなります。その中にはソ連のシュヴァルナッゼ新外務大臣との会談もありますが,ほかに,イラクのアジズ外相との会談があり,双方の都合がつけば,イランのヴェラヤティ外相とも会いたいと考えております。我が国は,幸い,イラン,イラクの両国と対話のチャネルを持っております。私は,83年8月に自らイラン,イラク両国を訪問して以来,両国間の紛争の拡大を防止し,その早期解決を平和的にもたらすための環境を整えるべく全ゆる努力を尽くしてきております。もとより,我が国として,紛争の全面的解決が極めて困難であることについて,いささかの幻想も抱いておらず,また,その仲介を行うといった立場にはないわけではありますが,我が国の努力に対する関係国の反応も

あり,この紛争の行方が湾岸,さらには世界に及ぼす影響の大きさに鑑み,関係国と協力しつつ,この努力を続けていく考えであります。

 米国が中東和平のために払ってきた努力には,絶大なものがあります。私も先般ジョルダン,シリア,サウジ・アラビアを訪問し,これら各国首脳と中東和平問題につき極めて有意義な意見交換を行い,この問題についての理解を深めることが出来た次第であります。他方,イスラエルのシャミール外相が今月初め公式に日本を訪問しましたが,これは,イスラエル外相の訪日としては18年ぶり,イスラエル政府要人の公式訪問としては初めての訪日であり,率直な直接の対話は双方にとって有意義であったと考えております。

以上いくつかの具体例にみられる如く,最近の我が国外交はその立場を鮮明にし,また,その行動を積極的に展開し,よって世界の平和と発展に寄与することを旨としてきております。我が国がそのような形で外交を展開することが可能になったのは,もとより,国民の間にこれに対する支持があるからであります。私は,この夏日本の各地で国民と直接対話をする機会を数多く持ちましたが,日本を世界に開かれた社会としていくこと,世界に対して積極的な貢献をしていくことについては,今や国民の間に幅広い支持があることを強く感じた次第であります。

冒頭に申し述べた通り,現在日米経済関係が大変重要な岐路に差しかかっており,そのマネージメントが,我が国外交の最大の課題となっていることは,疑いを入れないところであります。私は,外務大臣として,この問題の処理に日夜腐心してきたと申して過言ではありませんが,かかる立場から,改めて,私のこの問題に関する基本的認識を明らかにしたいと考えます。

 第1に,我が国は,米国の巨大な貿易不均衡が,経済的,政治的に極めて深刻な問題となっていることを十分認識しております。かかる状況を背景として,現在,米国議会で多数の保護主義的法案が審議されるに至っておりますが,米国議会においてこのような保護主義的法案を提案せざるを得ない立場に至った関係議員の政治かとしての問題意識は,理解できないことではありません。また,このような動きの背景として,自由主義経済第2位の地位を占めるに至り,自由貿易体制から多大の恩恵を受けている日本の責任が問われていることも十分認識しております。さればこそ我が国は,一貫して我が国市場を開いていく努力を続けてきたものであり,アクション・プログラム或いは四分野における日米ハイレベル協議を通じる市場アクセス努力に我が国政府として最大のプライオリティを置い

て取り組んできたのであります。その結果,関税だけをとっても累次にわたる引下げ努力の結果,日本の関税水準は世界で最も低い水準となっておりますし,電気通信市場をみても日本は米国と並び最も開かれた市場となっていることは認められて然るべきであると考えます。さらに,世界経済を拡大均衡に導く上で,我が国の内需拡大が重要な意味を有していること,現実の輸入拡大が必要であること等についても,国内に強い問題意識が生じています。私は最近,日本国内「潮の流れ」は変わったと感じています。即ち,日本国内で内需を拡大輸入を拡大していくことは,日本自身にとっても利益であり,米国と共に自由貿易を守っていく日本の責任でもあるとの自覚が国民の間に広まってきていることが認められます。然しながら,もし,米国が自由貿易主義に基づく世界経済の担い手として

の立場から離れていくようなことがあれば,日本におけるこのような大きな潮の流れも挫折してしまうことなりましょうし,ひいては世界各地において経済的社会的混乱が生ずることを覚悟せざるを得ません。このような事態を招来しないためにも,我が国は,米国と協力して引き続き我が国としての責任に基づいた努力を続けていきたいと考えます。

 第2に,更に将来を見通した場合,日米貿易問題は,数字の上での不均衡の問題,或いは市場アクセスの問題という以上に,両国のマクロ経済政策を含む多角的な側面で捉え,また今後の中長期的な展望の中で捉えられるべき問題なのではないでしょうか。日米貿易関係は,戦後40年幾多の変遷を経て参りました。これらの貿易関係は,その時々の両国の産業構造,経済成長,為替相場等のマクロ経済的要素を大きく反映してきたことは言うまでもありません。例えば,現在の日米貿易不均衡の大きな要因として為替相場の問題があることは,日米両国において認められているところであります。従って,我々は,米国における財政不均衡削減,日本における金融資本市場の自由化等の努力を通じて為替相場に影響を与え,ひいては,貿易不均衡を根幹から改善するよう努力を努めるべきではないでしょうか。また,日本の米国内での投資は近年急速な伸びを見せておりますが,これらの投資による生産活動が本格化した場合には,米国において雇用創出の効果をもたらすと同時に,日米の貿易関係にも望ましい効果を及ぼすこととなるのではないでしょうか。更に,我が国において内需拡大のための諸施策を積極的に検討していることは御承知の通りでありますが,これが,日米貿易関係に対してもたらすべき効果については多言を要しません。この関連で,我が国としては,外国,特に米国から我が国への投資を大いに歓迎するものであります。確かに現在の日米貿易不均衡の数字自体には大きな懸念をもって取り組む必要がありますが,他方,私が述べたような投資交流の急速な活発化,内需拡大への動き等,日米経済関係をより好ましい方向に導く積極的展望が開けつつあることにも留意

すべきでありましょう。我々は,そのような中長期的展望に基づいた前向きの努力を両国で一層促進すべきであり,性急に保護主義に走るようなことは,それが,世界経済全体の帰趨に与えるべき影響から見ても,回避すべきであると信ずるのであります。

第3に,日米貿易問題は,信頼と友好を基本とする日米関係全体の枠組みの中で捉えられなければならないと考えます。私は,現在の貿易問題の議論が余りにも否定的な側面についてのみ行われていることに強い危惧の念を抱くものであります。米国内において「日本は不公平である」との議論が声を大にして行なわれ,他方,日本国内において「米国の要求は余りに一方的ではないか」と声を大にして語られるようなことになれば,両国のいずれにとっても,決して得るところはないのであります。このような観点から,私は,まず,日米両国がお互いの国に対するパーセプションを持つ努力を行うべきものと考えます。日本においては,自由貿易を維持するためには,米国が日本の責任分野を必要としていることについての正しい認識がより一層定着する必要がありましょうし,米国においては,日本市場は閉鎖的でとても参入していけないといったイメージは改める必要があろうと思います。現に我が国は,西欧の主要諸国以上に米国製品を輸入していますし,日本における米国人実業家の日本市場に対する認識も大きく変わりつつあります。我々は,お互いについての正しい認識にのっとって今後5年10年を見通した上で,例えば,新ラウンドの積極的推進を通ずる自由貿易体制の強化を含め,日米両国が貿易・経済面でどのような望ましい協力関係を構築すべきかという積極的側面を論ずるべきではないかと考えます。私は,このような時期においてこそ,レーガン大統領が日本の国会において語られた「日米が協力すれば出来ないことはない」という言葉の持つ意味を我々全てが噛みしめるべきであると思います。日米両国は,今や,将来に向かっての「共同の戦略」を共に考え,共に実行すべき時なのであります。

昨日の5ヶ国蔵相会議につきましては,これに出席した竹下大蔵大臣と種々話をしましたが,各国が対外不均衡是正のためにマクロ経済政策面での夫々の努力を協調して行うこと,及び為替レートが各国経済の基本的条件をこれまで以上に良く反映したものとなるよう各国がより密接に協力する用意があることが宣明されたことは,前述の我が国の考え方に合致するものであり,極めて有意義と考えます。

 更に本日,レーガン大統領は,自由で公正な貿易体制の維持強化に対する強いコミットメントを鮮明に打ち出し,このための米国の役割の重視,国際協力の必要性につき訴えました。我が国としてもかかる基本的考えを支持するものであります。

 日米の友好同盟関係は,戦後40年を経て,二国間関係としても大変な広がりと深さを持ち,マンスフィールド駐日大使がいつも言われるように,日米双方にとって世界の目標の下に,共同で,或いはお互いに補い合う形で行動することがますます多くなっております。私は,我々全てが,日本人であると米国人であるとを問わず,このような日米関係全体の持つ意味を常に心において,晴天の下においても,悪天候の下であっても,互いに協力しあっていくべきであり,また,それは可能であると確信するものであります。