データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対外経済対策に関する中曽根内閣総理大臣談話

[場所] 
[年月日] 1984年4月27日
[出典] 外交青書29号,394‐395頁.
[備考] 
[全文]

 世界経済は,現在,先進諸国を中心に,景気の回復過程にありますが,ヨーロッパ諸国を中心とする高水準の失業,世界的な金利の高止り,発展途上国の債務累積等の問題は解決をみておらず,保護主義的な傾向な衰えをみせておりません。

 このような情勢の下で,自由貿易体制を維持・強化し,自由な経済交流の確保を図ることにより,世界経済の調和のとれた発展の基盤を更に強固なものとしていくためには,世界各国が協調し,自由で開かれた経済社会の発展を図るべく全力を尽くすことが緊要であります。

 世界経済の重要な一翼を担う我が国としては,かかる観点から,その国際的地位にふさわしい積極的な貢献を行ってまいる覚悟であります。すなわち,内需中心の経済成長の達成を図るとともに,自由貿易体制の維持・強化,調和ある対外経済関係の形成及び世界経済活性化への貢献を図るべく積極的な努力を行っていくことは我が国の重要な責務であると考えております。我が国は,これまで数次にわたり決定した対外経済対策を確実に実施し,市場の開放,輸入の促進等に努めてまいりましたが,今般,国際経済社会において我が国が果たすべき役割にかんがみ,グローバルな観点から,対外的な懸案事項についての対策を決定いたしました。

 本対策に基づき,まず,関税率の引下げ,輸入制限の緩和,基準・認証制度の改善等を行い,市場の一層の開放を進めるとともに,現在増加基調にある製品輸入のより一層の促進を図ってまいります。また,製造たばこについては,専売制廃止,輸入の自由化を内容とする法案を国会に提出し,その成立を図ることとしております。

 次に,来るべき高度情報社会を支える鍵となる先端技術分野においては,自由な競争の下で民間の活力を発揮させることが重要と考え,通信衛星等の外国からの購入に途を開くとともに,電気通信分野に競争原理を導入し,特に第二種電気通信事業については外資系企業を含む民間企業の参入及び事業活動の自由化を内容とする法案を国会に提出し,その成立を図ることとしております。ソフトウェアの権利保護については,今国会への法案提出にこだわらず,より良い権利保護の在り方につき,国際的調和にも留意しつつ,更に調整を進めてまいります。

 さらに,金融及び資本取引の国際化の進展等に対応して,我が国金融・資本市場の自由化と円の国際化を自主的かつ積極的に推進してまいります。

 また,投資交流についても,その促進を図ってまいります。自由かつ活発な投資交流の促進は,貿易やサービス分野での交流ともあいまって,相互の経済活動の活性化と各国間の相互理解の増進にも資するものであります。この意味で,我が国は,対日直接投資を大いに歓迎するものであり,このため,情報提供及び苦情処理の体制の整備等投資促進のための環境の整備に今後とも努めてまいります。

 この度講じた措置は,国際経済社会への積極的貢献こそ「国際国家日本」の責務との大局的見地に立って,日本政府において,諸外国の要請をも踏まえ,鋭意検討を行った結果であり,現時点における最大限のものであります。

 もとより,これらの措置を真に実行あらしめるためには,官民挙げての努力が不可欠であり,国民各位の協力をお願いする次第であります。なお,製品輸入については,幾度も私がその促進を訴えてきたところであり,国民各位におかれましては,引き続き外国製品の輸入拡大に努力されるようお願いいたします。

 これまでの我が国の一連の努力及び今回の措置により,我が国の市場開放の程度は相当な水準に達しております。しかし現在のように相互依存関係が密接となっている国際経済社会において,一国のみで世界経済の直面する諸問題を解決しつつ,開放的な経済体制を世界的に維持・強化していくことは困難であり,国際的な協力が今ほど必要な時はないといえましょう。我が国が新多角的貿易交渉の準備促進を提唱しているのも,かかる観点に基づくものであります。諸外国におかれても,このような我が国の真摯な意図と努力を十分評価され,保護主義に対する巻き返しにより自由貿易体制の維持・強化を図るとともに,貿易,金融,投資等の分野での交流の拡大に努め,世界経済の調和ある発展のため最大限の努力を傾注されるよう強く希望いたします。