データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国上(下)院における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] ワシントン
[年月日] 1981年5月7日
[出典] 鈴木演説集,193−195頁.
[備考] 
[全文]

 上(下)院の皆様,ただ今はご親切な歓迎の言葉をいただき,心から感謝いたしております。私が,米国の上(下)院に足を踏み入れるのは,生まれて始めての経験でありますが,いざ入ってみると前からよく知っている所のような気がしてなりません。というのは,私は,一九四七年,戦後新憲法のもとで行われた第一回総選挙に当選して以来,私のこれまでの生涯の丁度半分に当たる三十五年間,議会生活をつづけており,議会は私にとって,最も重要な人生の場であったからであります。

 しかしながら,日本の「選挙は水もの」という諺にある通り,選挙というものは,情勢がいかに有利であっても,開票結果をみるまでは油断ができないということは皆様も御承知の通りであります。連続十四回当選の私も,いまだに選挙を歓迎する気にはなれません。

 さて,国会議員には,二つの顔があります。一つの顔は,地元をみており,他の一つの顔は,大所高所から国全体の利益をみております。この二つの顔を誤たずいかに使い分けるか,その使い分けの難しさを,いやというほど味わわされてきたのが,私の三十五年の議員生活の経験でした。もし,その二つを見事に統一することができたら,それは政治家の理想といえるでありましょう。

 ところで,いま私は,日本の総理大臣として,長い政治生活のすべてをかけて,行政改革に取り組んでおります。パーキンソンの法則どおり,行政機構は,ややもすれば肥大化し,硬直化する通弊があります。これを簡素化し,小さくて効率のよい政府を実現し,行政の対応力を回復することは,自主的で旺盛な民間活力の展開を期する上で不可欠の仕事であります。本日午前,私はレーガン大統領閣下と会談いたしましたが,大統領閣下も,小さな政府を実現し,極力民間経済の自主性を尊重して,その活力の回復をはかることに,非常な熱意を持たれておりました。二人は全く意気投合したのであります。

 日米両国は,世界で最も自由で活力ある経済を営む国であります。両国の通商は,往復年間五百億ドル以上の巨額に達し,その規模は,増大の一途を辿っております。このように多様で広範な通商関係の中にあっては,時として問題の起こることは避けえません。しかし,日米両国は,最近においても,日本の電電公社の資材調達問題,或いは米国産タバコの日本への輸入問題について双方のねばり強い話し合いにより,これを解決して来た好ましい先例を有しております。また,ここで銘記していただきたいことは,一時のトラブルをおそれるあまり,われわれにとって,かけがえのない共通の価値である自由貿易体制そのものを損なってはならないということであります。日本国民は,自由を守るために,時として制約を受け入れることが必要であることを知っております。問題が起これば,すみやかで賢明な処置を取り,通商上の問題が両国の大切な友好関係にヒビを入れないようにすることこそ,政治家としての私達の責務でありましょう。このたび,自動車の対米輸出問題について日本側がとった規制措置もこのような精神にもとづくものであります。

 戦後,米国は長きにわたり,多大の犠牲を払って世界の平和維持と秩序ある発展に貢献してきました。私は,この点に関して,米国民並びに指動的立場にある皆様に深く謝意を表するものであります。御承知のように,現在の国際情勢は,平和,自由,民主主義を基本的価値観として共有する自由世界にとって,誠に憂慮すべき方向に進んでおります。今日,われわれが当面している諸困難は,われわれがよって立つ基盤を危うくするものであって,よく一国で対処しうるものではありません。その意味で,自由世界で一位と二位の経済力を有する日米両国が結束を強化し,緊密に連携して共通の基礎を守るために協力するならば,その意義は計り知れないほど大きなものがあるでありましょう。この点に関し,私は,ここにあらためてわが国民は,平和と自由を守るために国力にふさわしい責任を果たす用意のあることを皆様にお伝えしたいと存じます。

 今日,わが国民の間には,米国民との交流と,それを通じての親近感が育ちつつあります。国と国とが友好を深める上で,国民的相互理解とその上に立った信頼ほど確かなものはありません。国民と国民との交流の中で,両国民を代表する議会人同士の交流と相互理解の重要さは,改めて申すまでもありません。そして,特に,明日の日本を背負う若い世代の議員達が,米国議会人との交流に熱心でありますことは,将来の両国関係にとって誠に頼もしいことと考えます。私は,今後,日米議会人の交流の機会を出来るだけ増大するよう努力する決意であります。

 上(下)院の皆様,今回の訪米は,非常に実り多く,意義深いものでありました。私は,この訪米を通じ,日米両国間に新たな友好の絆が結ばれたことを心から喜ぶとともに,「世界の平和と活力を目指す,日米協力の新たな出発」の前途が洋々たるものであることを確信いたし,皆様のご活躍をお祈りして,私の御挨拶に代えさせていただきたいと存じます。