データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米国財界人との昼食会における鈴木内閣総理大臣の挨拶

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1981年5月6日
[出典] 鈴木演説集,189−190頁.
[備考] 
[全文]

 本日,米国の経済界の首脳の方々と親しく懇談する機会を得ましたことは,私の喜びとするところであります。

 私は,昨年七月内閣総理大臣に就任以来,出来るだけ早い機会に,日本にとって最も緊密な関係にある米国を訪問したいと希望しておりましたが,米国の大統領選挙,日本の政治日程など諸般の事情から今日まで機会を得られずにまいりました。本日,この会合の後,ワシントンに向かいますが,明日のレーガン大統領との首脳会談を楽しみにしているところであります。この機会に日米の関係を一層強固なものとすることができるよう,実りある会談となることを期待しております。

 アメリカ経済の活力の回復は,自由世界全体の安定と発展のために不可欠の要件でありますが,私は,レーガン大統領が就任早々思い切った経済再建計画を打ち出されたことに敬意を表しております。今後,経済再建計画に則して経済運営が成功し,米国経済が順調に再建軌道に乗って行くことを心から期待しております。

 わが国においては,昨年の選挙で自由民主党が絶対多数を確保し,政局は現在安定しております。経済の面では,目下,第二次石油危機の影響を克服する調整過程にありますが,今後,物価の安定とともに個人消費が回復し,内需を中心とした経済成長が達成できるものと考えております。

 本年一月,私はASEAN諸国を歴訪し,友好関係の強化に努めてまいりましたが,これら諸国は,過去数年間にわたり高い経済成長を続け,政治的にも安定していることを改めて認識し,心強く感じた次第であります。これら東南アジア諸国のみならず,南の開発途上国全体の安定と発展は,世界の平和と繁栄のためにも極めて重要であります。かかる観点からわが国としては,八〇年代前半の経済協力についても新たな目標を立て,経済面でのわが国の国際的役割を積極的に果たしてまいる考えであります。

 御承知のとおり,日米両国間には,巨大な経済交流があり,両国国民に多大の利益をもたらしております。このことを示すひとつの指標として,ニューヨーク市では多数の日本人ビジネスマンが活動しておりますが,東京にも一千名以上の米国人ビジネスマンが駐在して活躍しているのであります。

 大規模かつ多様な経済関係にある日米両国間には時として問題が生じることは避け得ないことではありますが,両国は緊密な話し合いと協力により,交流の縮小ではなく拡大の方向でその互恵的な解決に努めるべきであると考えます。特に,日米両国は自由社会で一位と二位の経済規模をもつ国であります。私達は,日米両国の間で生ずる問題は世界的な影響をもつということを絶えず念頭におかなければなりません。日米間の経済摩擦の処理に当たっては,自由経済の発展に資する方向で解決の道が探られなければなりません。

 本日お集まりの皆様には,日米経済関係について率直な助言を与えていただくよう期待しており,また皆様の日本に対する理解を深めていただければ,日米関係は益々緊密かつ友好的なものになると確信いたします。