データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 訪米に関する大平内閣総理大臣の国会報告

[場所] 
[年月日] 1979年5月22日
[出典] 大平内閣総理大臣演説集,276−278頁.
[備考] 
[全文]

 私は,四月三十日から五月七日まで,園田外務大臣とともに米国を訪問し,カーター大統領と前後二回の会談を行ったほか,ヴァンス国務長官ほか,関係閣僚,米国議会両院の指導者,米国財界人および日本関係者等と懇談いたしました。さらにナショナル・プレス・クラブにおいて,わが国の内外経済政策,外交姿勢,並びに日米関係の現状及び将来について演説を行いました。

 私の今回の訪米は,最近の国際情勢を踏まえ,世界経済のために日米が相協力して対処すべき諸問題,および当面の経済的懸案を含む二国間問題につき意見を交換し,その解決を促進するとともに,重要な国際政治全般につき相互理解を深めるためのものでありました。

 カーター大統領との会談は,相互の信頼と友好的な雰囲気の中で,日米経済関係,安全保障問題,国際情勢,世界経済問題等,幅広い分野にわたりました。会談の成果については,私とカーター大統領との間の共同声明に表明されておりますが,この際,特に次の諸点を指摘しておきたいと思います。

(1) 国際情勢については,アジアを中心に意見交換を行い,日米双方がそれぞれの国際的責任を自覚し,互いに協力しつつ応分の役割を果たしていくことが,世界の平和と安定のために重要であるとの点で意見の一致をみました。

(2) 日米安全保障関係については,現在,それが円滑に運営されているとの認識で一致をみました。

(3) 経済関係については,日本は,内需拡大や市場開放等を通じ,また,米国は,インフレ対策や石油輸入の抑制等を通じて,それぞれの国際収支不均衡の是正に努めるという中期的な展望をより明確にし,そのような展望の下で,世界経済の安定的発展のために,日米間の協力と話合いを進めていくことにつき,意見の一致をみました。

  また,エネルギー政策の協力的な推進のため,日米科学技術協力基本協定が成立したことは,ひとつの成果でありました。

  政府調達問題を中心とする日米間の当面の貿易経済問題については,できる限り早期に解決すべく,鋭意話合いを継続することを相互に確認いたしました。

(4) また,六月に開催予定の主要国首脳会議につきましても,これを有益かつ建設的なものとするため,日米両国政府が十分意思疎通を図りつつ,かつ他の国々とも協力して準備を進めていくことについて意見の一致をみました。

(5) さらに,カーター大統領ご夫妻を主要国首脳会議の直前に国賓として日本に迎えることとなっておりますが,同大統領ご夫妻の来日は,日米友好の見地からきわめて重要な意味をもつものと考えます。

 今回の訪米,特に米議会訪問等を通じて,あらためて日米貿易経済問題についての対日批判の根強さを感じました。私は,これらの批判に対し,日本の立場を説明し,議会指導者等の理解を求めてまいりましたが,今後とも,日米両国のためのみならず,世界経済全体のために,今般の会談を通じて,日米間において意見の一致をみたところにのっとり,引き続き精力的に努力する必要があると考えます。

 今回の訪米により,私とカーター大統領との間に,一層の理解と信頼が深まったと感じており,双方は今後とも緊密な接触を維持することに意見の一致をみました。さらに,日米が協力して世界の平和と安定のために,それぞれの役割を果たしていくべきことが再確認されたことは,日米関係を,一九八〇年代に向けて,実り豊かなパートナーシッブとして,築き上げていく上で,極めて重要な成果であったと考えます。政府としては,今後とも米国との協力・協調関係を基礎としつつ,わが国の国際社会に対する応分の責任を果たしてまいる所存であります。

 私は,また,五月九日より十一日まで,第五回国連貿易開発会議(UNCTAD)総会において,わが国の南北問題に対する姿勢を明らかにするとともに,日比関係および日・ASEAN関係の一層の強化を図るため,園田外務大臣とともにマニラを訪問いたしました。

 UNCTADの今次総会は,第三次国連開発戦略の策定を明年に控え,八〇年代の南北対話の方向づけ,そのための枠組作りを行い,二十一世紀に向かって,南北関係の展望を示す機会として重要な意義を有するものであります。