データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 三木内閣総理大臣による米国独立二百年に際しての米国民への祝詞

[場所] 
[年月日] 1976年6月30日
[出典] 三木内閣総理大臣演説集,149−150頁.
[備考] 
[全文]

 アメリカは,民主主義の諸原則に基づいて,建国された最初の近代国家であります。このアメリカの実験成功がもたらしたインスピレーションこそを,米国の独立二百年にあたるこの年ほど世界が必要としている時はありません。

 今日,民主主義は,試練にされされているといわれ,その将来を危ぶむ声があります。

 すなわち,個人の自由,自由な意見の表明及び個人の創意尊重との諸原則の下において,高度に発達した工業化社会を「統治」しうるか否か疑問が投げかけられています。

 アメリカの経験及びアメリカと同じく成功をおさめることができた日本のより最近の経験をみれば,このような疑念は当をえたものではありません。

 アメリカは,世界の各地から集まってきた人々から成りたつ国として,偉大で力強い国家を築き上げながらも,試行と錯誤,実験と改良を通じ,市民の自由と平等を着実に拡大させてきました。

 そして,アメリカは,内政上及び外交上の最も深刻な試練に直面しながらも,自由な諸制度と民主主義社会の絶えざる自己革新に対する信念を決して失うことはありませんでした。

 日本では,自由な企業活動の根源は数世紀前に求められますが,その議会制民主主義は,太平洋戦争後,アメリカの激励とともに,力強く発展するに至ったのであります。

 戦後三十年にわたる精力的な努力を通じて,日本国民もまた次のことを確認するに至りました。

 すなわち,民主主義は,多様性の尊重により栄えるものであり,必ずしも整然としたものではなくとも,それは正に個人の創意と市民としての責任によって維持されているが故に,最も創造的,かつ実り多い政治制度であるということなのであります。

 アメリカの二百年にわたる歴史と,日本自身の経験がともに意味するところは,自由と平等はそれ自体目標であると同時に,人々がその願望を真に広範,かつ,豊かに成就するための方途でもあるということであります。

 米国が第三世紀を迎えるにあたり,日本国政府及び国民は,共通の価値観が織りなす日米両国の強じんな友情のきずなと営々として築き上げた相互信頼を再確認します。両国それぞれの自由の発展と,平和で開放された世界秩序の中の自由の堅持に対する両国共通の強い決意を再確認します。

 日本国民は,米国独立二百年に際し,尊敬と友愛と民主主義の将来に対する最大の確信とをもって,米国民にお祝いの言葉を申し述べるものであります。