データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
機密文書研究会 東京大学・法学部・北岡伸一研究室

[文書名] 安保条約問題(総理発言案)

[場所] 
[年月日] 1974年12月3日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する調査結果報告対象文書(1.1960年1月の安保条約改定時の核持込みに関する「密約」問題関連),文書1-12
[備考] いわゆる「密約」問題に関する調査報告の際に公開された文書。公開されたものは手書きによる文書。漢字、送りがなの用法、誤記と思われるものも含めてできるだけ忠実にテキスト化した。欄外の書き込みの記録は本文前に記載しオリジナルの記載箇所を<>内に記した。
[全文]

<1ページ目 欄外上>

木村{前2文字手書き}大臣※{※は花押}

事務次官※{※は花押}

官房長※{※は花押}

条約局長

条約課長{前2行「別途閲覧」の書き込みあり}

1-1米局長

1-1-1米保長

1-1-2条約局

<1ページ目 欄外左>

三木総理御読了済み(50.1.17)比村秘書官を通じ

昭和49.12.3

山崎アメリカ局長※{※は花押}

フォード大統領訪日の際核問題に関して行われた会談詳録を別添のとおり回覧します。取扱いには十分御注意ください。

別添1.昭和49年11月19日の田中総理とフォード大統領第1回会談における核問題詳録

別添2.昭和49年11月20日の木村外務大臣キシンジャー国務長官会談における核問題詳録

<2ページ目 欄外上>

別添1

昭和49年11月19日の田中総理フォード大統領第1回会談における核問題詳録

昭和49.12.3

田中総理:最後に核兵器の問題について一言したい。日米安保条約は、日本とアジアの平和に必要且つ重要な柱である。この条約は日本への核兵器の持込みを事前協議の対象としているが、当時は主として戦略核兵器を頭に置いていたものと思う。その後戦術核兵器が非常に発達してきた。核兵器による抑止力という米国や欧州での考え方は自分としては理解できるが、日本では核兵器に関して過去の経験に基づく特殊な感情がある。また、かゝる感情を政治的に利用しようとする人々がいる。核兵器の持ち込みの疑惑がわが国でやかましく言われるようになつたのは、ミッドウエーの母港化等を契機とするものである。米国の核の傘の下で、日本の安全が保障されているのは事実であるから、この核の疑惑に対する日本国民の質問に米側としては答えにくいであらうが、かかる日本国民の核兵器に対する敏感な感情ないし特殊な考え方があるのも事実である。この点は理解していただきたい。野党等から提起される問題は不毛の議論或いは議論のための議論ともきこえるかも知れないが、日本政府としては、この政治的課題に答えなければならぬ立場にある。これはラロック証言以来特に然りである。ついては本件につき米側の理解と協力を得たい。

フォード大統領:日本国民の核兵器に対する特殊感情については自分も十分承知している。また、日米安保条約でこの問題がいかに取り扱われているかということもよく知つている(familiar with the terms and language of the Treaty)。また、この問題が日本において大きな政治的問題であることも十分承知している。自分はこの問題の解決につき、できるだけ協力したいと思う。日米両国政府が協力すれば、必ずや解決策は見出されるもの(positive something can be worked out)と信ずる。詳しいことはキツシンジヤー長官と木村大臣とで話しあつてもらいたい。何れにしても、この問題のために日米の特別な友好関係を害するようなことがあつてはならないと思う。

<7ページ目 欄外上>

別添2

アメリカ局長{前6文字抹消}

極秘 無期限 1部の内1号{前13文字スタンプ}

昭和49年11月20日の木村外務大臣・キツシンジヤー国務長官会談における核問題{前3文字下線あり}詳録

昭49.12.3

(大臣より、食糧、エネルギー問題との関連で、日本の安全保障は単に軍事面に限らずかかる経済問題にもかかわる広範な側面を有していると指摘されつつ、ラロツク発言に端を発する核持ち込み問題は、日米間の協力関係のcredibilityに問題を投げかけていることは事実である、と述べたのに対し、)

キツシンジヤー{前7文字下線あり}:私の持論の一つだが、軍の中で大佐級には優秀な人はたくさんいるが、将官となると優秀なのは少い。ここにいるスコウクロフト補佐官代理は頭がぼけないうちに最近中将に昇進したので、彼の頭脳は大佐並みである。(笑声)

ラロツクなどと言う提督は、いない方が良かったと思う。(La Rocque, we could have done without.)

大臣{前2文字下線あり}:ラロツク発言に関連して、現実に問題が起きており、この問題はわが国国内政治上最高レベルの政治的決定を要する問題であるが、今日この場で詳細に触れることは適当でないと考える。今後日米の政府間で話合って行きたい。

キツシンジヤー{前7文字下線あり}:核についての日本国民の特殊な感情(special sensitivities)は理解する。率直に言って、作戦上最少限必要とするいくつかの条件(certain minimum operational necessities)があり、これが充(ミタ){前2文字充の上に記載}されなければ西部太平洋地域の安全が脅やかされることとなる。また、ひとつの国との関係で一旦先例を作ってしまうと、それがパターンとなって波及し、収拾がつかなくなる(unmanageable)という問題もある。しかしながら、米国としては、日本国民の特殊な感情を最大限考慮に入れるべく努力する所存である。{前32文字下線(波線)あり}(We will go to the absolute limit of taking your special sensibility into account)

今日この会談が詳細にわたり話し合う最良の機会ではないとの貴大臣の発言には同感であり、今後日本側よりワシントンに誰かを派遣するか、あるいは米国側より誰かが東京に来て話合うこととしては如何かと思う。

大臣{前2文字下線あり}:日本国民の特殊な感情を理解していただいている点はappreciateする。今日この席ではこれ以上お話することは避けたく、両政府間で話合うことについての貴長官の示唆は多とする。ただ、本問題はわが国の国内政治上最高の政治的決定を要する問題であることを繰り返し申し上げておく。

キツシンジヤー{前7文字下線あり}:今迄本問題を日本政府が立派に(in a statesman-like fashion)処理して来たを{前1文字ママ}appreciateする。

(会談の終りにあたり、対プレス説明ぶりを打合せた際、木村大臣より、核持ち込み問題については、当方より日本国民の特殊な感情を説明した旨を述べ今後この問題を特に両政府間でとり上げて話し合いが行われる点は一切公け{前1文字ママ}にせず、ただ安保条約の運用については今后も両政府間で話し合いは行われようとのラインでブリーフすることとしたい、と述べたのに対し、「キ」長官より、異存はない。本問題について米側同行記者団は余り突っ込んで来ないだろうが、在京米人記者はかなりしつっこく聞いて来るかも知れないと述べた。)